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ゴミ溜めの王  作者: 如月陣
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セレナ②

セレナ編は心が痛くなるかもしれません。セレナにあまり感情移入しないことをおすすめします。

 

 セレナが貴族の男の愛人になって半年が経った。


 セレナは平民街にある大きな屋敷に住んでいた。


 今日は愛人となった貴族の男と密会する予定もないので1人寛ぎながら考え事をしている。


 「ふふ、まさか私がまたこんな暮らしをできるなんてね。でもまだよまだあの商会を取り返していない。旦那様も私が本来の継承者だと知ったら動いてくれるはず。でもまだだめ、もっと確実に取り返せる方法があるから。それまではこのことは誰にも言わないでおきましょう」


 そう言ってセレナはお腹を触りながら感慨深げに思い出に浸っていった。


 私は元々裕福な家庭に生まれた。父は貴族でも名を知るような商店を経営しており、母は領一番の踊り子だった。


 父と母はとても仲が良く、私も一人っ子だったためかとても愛情に恵まれながらくらしていた。この時は、これから先も家族3人で仲睦まじく暮らしていくんだと私は思っていた。


 しかし私が16歳の頃、両親が事故で死んだ。憲兵が言うには馬車の操縦を誤っての転落事故とのことだった。


 両親が死んだと聞いた時、私は絶望した。なにせ私にとって一番大事な存在がたったの一日で全て失ってしまったのだから。


 そんな私が落ち込んでいる時だった。


 私の叔父と名乗る人が商会へやって来たのだ。


「こんばんは、セレナちゃん。僕は君のお父さんの弟、つまり君にとっての叔父さんだよ。今日からこの商店は僕が経営することにしたよ。なにせ君はまだ子供だからね。君が立派な大人になるまで安心して僕に任せるといいよ」


 私は最初こそ突然現れた叔父さんを疑っていたが、私に対して優しく接してくれるうちに叔父さんになら商会を任せても大丈夫という思いを持つようになっていった。


 そしてなにより両親を亡くして傷ついた心を癒すためにゆっくり休む時間が欲しかった。


 だから私は叔父を信じて一時的に商会の会長職を叔父に譲ることにしたのだった。


 それが最悪な結果になるとも知らずに。


 叔父が商会の会長になった後、最初の方は大人しく真面目に働いていたようだ。その結果、最初は疑っていた商会の職員たちも徐々に信頼するようになっていったのだ。


 しかし、周りから信頼され始めた叔父は徐々に本性を見せ始めることになる。自分にとって煩わしい部下たちを少しずつ解雇し、自分にとって都合のいい人間を昇格させていったのだ。


 そうやって叔父は商会を徐々に自分のものとしてていったのだ。

 

 それでもまだ私は安心しきっていた。なぜなら商会の役員たちは父と仲のいい人達で私もよく知っている人たちだったからだ。


 しかし、私の想像以上に叔父は非道な人間だった。


 時には役員の子供を誘拐し、時には帳簿を捏造し犯罪者として商会から追い出していったのだ。


 そして役員全員を追い出すことに成功した叔父は外部から連れてきた自分にとって都合のいい人間を役員にしたのだ。


 私はこの時になって自分の過ちに気付きなんとかして商会を取り返そうとした。


 しかし叔父の動きは余りにも早かった。叔父は役員会議を開き私への商会会長職の返却を役員会議で反対させたのだ。


 これにより叔父が商会の正式な会長だと決まってしまった。


 困った私は貴族に泣きついた。父が生存している時にはよく取り引きもしていたため、乗っ取られたことを伝えれば助けてくれるだろうと思ったからだ。


 しかし帰ってきた返事は


「悪いが、商会のことに関与するつもりがない」という余りにも期待外れな返事だった。


 どうやら叔父はその貴族に莫大な賄賂を支払っていたのだ。


 そして貴族も社会経験もなく真面目な小娘に商会を任せるくらいなら、賄賂もくれて実績のある叔父を商会の正式な後継者にする方が都合が良いと考えたようだ。


 これにより私は完全に手詰まりとなってしまった。


 私が手詰まりになっている間も叔父の動きはさらに加速していった。

 

「セレナちゃんには悪いけど今日からこの商会は完全に僕のものになった。セレナちゃんがいつまでもここに住んでいてはまた後継者争いが起きるかもしれない。だからこの商会から出て行ってもらえるかい?両親が残した大事な商会を潰したくないだろ?」


 この言葉を聞いた時、私は違和感を覚えた。


 叔父はあまりにも用意周到すぎではないだろうか?貴族にあらかじめ賄賂を渡していることといい、私と出会った時も叔父は不自然なほど私に会いに来るのが早かった。それこそ最初からこうなることがわかっていたのではないかと思うほどに。


 それに叔父は自分の目的ならどんな非道な手段も取る。それこそ商会の元役員たちにとった行動のように。


 どうしても心の中に生じてしまった疑問。これを残しては今後の人生に心残りができてしまう。


 そう思った私は叔父に聞いた。


「出て行く前に最後に質問だけさして。もしかして、叔父さんは始めからお父さんとお母さんが死ぬことを知っていたの?」


「ああ、当然知っていたとも。何せ私が殺すことを命じたのだからなあ。お前はそれを知らずに両親の仇である俺に頼ったんだ。あまりにも滑稽で笑えたぞクク。これでいいだろさっさと出ていくんだ。二度と戻ってくるなよ!」


 私は今にでも叔父を殺したい欲求に駆られた。だが、ただの小娘に今や権力者の叔父は殺せない。叔父は常に隣にボディーガードがつけているし、たとえ運良く殺せたとしても私は死刑になってしまう。そうなればあの金に汚い貴族のことだ、私と叔父が死んだら絶好の機会とばかりに商会を乗っ取るだろう。


 そんなことは絶対に許されない。


「だから今は諦める。今だけは」


 そう言って屈辱を感じながらも私はいつか両親の仇をとることを夢見て商会を去ることにしたのだった。


 あれから一週間後

 

 私はあのゴミ共と同じ領地に過ごしているのでさえ嫌だったので隣の領地へと移動してきた。


「とりあえずこれであのゴミ供の顔を見ることはないだろう。気分が良くなったところでこれから何をしたいかを考えよう」


 しばらく考えてやりたいことが決まった。


「とりあえず目先の目標は、あの商会を取り戻してあのクソジジイに復讐をすることね。その為にはお金を稼ぐ必要がある。手っ取り早くお金を稼ぐ方法はやっぱりあれよね」


 自分の容姿とマナーに自信があった私は娼館でなら大金を稼ぐ自信があったため、あまり迷うことなく娼館で働くことを決めた。


 だが、どの娼館にしたらいいのか娼館の知識なんてないセレナにはわからなかった。


 どの娼館にするか迷いながら娼館の情報を集めていたらある人物が接近してきた。


「お嬢ちゃん娼館に興味があるさね?」


「え、ええ、興味があるわ。でもどこの娼館にしたらいいのかわからないの」


「何か条件はないのさね?」


「条件は給料が良くて、機密性が高いところ」


「それならうちがいいさね」


「うち?」


「ああ、うちとは灰猫娼館のことさね。私は灰猫娼館のマリーさね。うちなら給料もいいし、お客様に嬢の情報を教えることもなければ、お客様が嬢について広めることも禁止にしてるさね。あなたの条件にぴったりさね。」


「灰猫娼館?聞いたことはあるわ。なんでも一度行けばもう行くのはやめられないほどすごい娼館だって」


「そうさね。でもまだまださね。まだ圧倒的なNo.1がいないかね。どうさねあんたがNo.1になるさね?」


「No.1になったら何かいいことあるの?」


「当然さね。No.1はお店の顔さね。つまり他の嬢とも待遇が違うさね。他の店はもう圧倒的なNo.1がいるさね。今、名が知れ渡っている娼館の中でNo.1がいないのはうちだけさね」


「魅力的だけどどうしてNo.1がいないの?」


「やめたさね。貴族に身請けされたさね」


「貴族に身請けもされるの?」


「身請けといっても愛人さね。まあ普通の人よりかは遥かにいい暮らしができるさね」


「決めた。私を灰猫娼館で働かせてください」


「いい決断力さね!じゃあ行くさね」


「はい!」


 そうして、セレナは灰猫娼館へと辿り着いたのだった。


「まさか、あれからたったの二年でここまで来れるとは思ってなかったわ。マリーには感謝しないとね」


 セレナはこれからの希望に満ちた日々を思い浮かべながら静かに笑っていた。






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