こうして俺たちは家を出た。
2005年 12月11日
A 俺は、
B 俺は、
A 遂に、
B やっと、
A 引き篭もってしまった……。
B 引き篭もることに成功した!
――この日を堺に、2人は学校に行かなくなった。
――引き籠りになったのだ。
A 俺は母さんに期待されていた。だから期待に応える為に努力した。期待に応える為の勉強しかして来なかった。
遊ぶことが許されず。友達を選べと言われた結果のひとりぼっち。いや、それどころか軽くだがイジメられていた。
それでも俺は頑張った。毎日勉強をし、遊ぶことを徹底的に避けた。避けたを頑張り続けた。
……でも、頑張って取った学年五位の称号は、母さんの怒鳴り声に消えた。一位を取れと。無理だ。あそこは地元じゃ有名な進学校だぞ。
そして、疲れたのだ。煩い母さんの声に、ウンザリしたのだ。だから俺は、初めて学校をサボった。仮病を使った。
鍵をかけて、完全に引き篭もった。
……引き篭もってしまった。明日こそは行こう。
B 俺はひたすらに遊んだ。遊び呆けていた。
地元の馬鹿校で馬鹿みたいな奴らと馬鹿みたいに遊び回ってた。
学校サボってゲーセンで遊ぶ毎日。でもそーすると母さんが煩ぇんだ。ま、どうでもいいけど。
そんな俺は今日、ゲーセンには行かずに引き篭もった。
するとどうだ!虚を疲れたのか、口煩かったアイツが遂に何も言わなくなった。やったぜ!あー、これから何しよっかなぁ。
あ、そうだ。勝手に入って来られるのもダルい。鍵をかけておこう。
俺は引き篭もってやった。基本は家にいるとして、隙をついてこれからは日中からゲーセンやら何やらに入り浸ってやろう。
A サボったものの、何をしていいのか分からない。とりあえず、去年発売されて流行ってるらしいニンテンドーDSを戸棚から出した。
学校の奴らも使ってたけど、俺はねだって買って貰っただけ。使ったことはない。使いたくても母さんからは一度たりとも許して貰えなかったからだ。
カセットは「おいでよど●ぶつの森」
……楽しい。
一瞬で夜になった。
B 家ですることなんてない。ゲーセン行こうと思ったが、なんとなく気分が乗らねェ。とりあえず、遊びに来たダチにテキトーなゲームを買ってくるように指示をした。
今までは基本ゲーセンだったから、ゲーム機なんて持ってねェもん。
そして買って来たのはDS。カセットは「おいでよど●ぶつの森」。金は出かけてる母さんの財布から抜いてダチに返した。
ダチが何故学校に来ないのかと聞くから、俺は面倒だからサボったと答えた。
なーに、気が向いたら学校にだって行くさ。
そのままダチを追い返して、俺はゲームを起動した。
やってみる。案外面白い。
すぐに夜になった。
〜翌日〜
2005年 12月12日
A 次の日、外に出ようとドアノブに触る。けど、捻る気にならなかった。
母さんにはまだ体調が悪いと伝え、サボった。
DSを手に取って遊んだ。一日中遊んだ。楽しかった。
……でも、罪悪感が凄かった。
B 今日も遊ぼうと思った矢先、母さんが出てこいと扉を叩いた。
うるせェと叩き返すと、すぐに母さんは引っ込んだ。
今日は一日母さんが居るから外には出づらい。
よって今日もまたDSで遊ぶこととした。
DSで遊んだ。楽しかった。
〜翌日〜
2005年 12月13日
A 流石に三日目ともなると、異変を感じたのか扉を叩いて呼びかけられた。
風邪だ風邪だと言っても一向に引いてくれない。
仮病だと図星を突かれ、アンタの為だなんだと騒ぐ母さんに俺はイラっときてしまった。
俺は衝動的に今までの鬱憤をぶちまけた。とんでもないことをしてしまった気分だ。
そう思ったのも束の間、母さんは罵詈雑言を俺に浴びせかけた。これまで育ててやった恩を…こんなことしたら将来が…うんたらかんたら。
俺は無視して布団に潜る。暫くして、言葉が止んだ。
俺はゲームをする気にならず、昔使ってたテレビを取り出してテレビを見た。
今まで溜まっていた録画のビデオとか、ひたすらに見まくった。
普段見れない昼間のテレビは面白かった。
夜の少しエッチなテレビも楽しみだ。
……罪悪感が、薄れるのを願いながら、俺はボーっとテレビを見ていた。
B DSやべぇ。超たのしい。思わず徹夜しちまったぐれぇだ。
っと、朝ごはんを……あら?
いつもは扉の前にご飯が置いてあるのに、今日はない。
どうやら食事抜きという強硬手段に出たらしい。
だがまあどーでもいい。俺は冷蔵庫を漁ってテキトーなものを食った。
暫くはこのまま遊びまくってやろう。
〜翌日〜
2005年 12月14日
A 夜になると、お父さんが俺を無理矢理外へと出しに来た。
扉を壊して中へと入ったのだ。
そして、俺が何を言っても拳で俺を殴りまくる。
出ろと。それはお前の為にならないと。ひたすらに俺を殴った。
ぼろぼろになって、父さんから解放されると、俺は決めた。
もう絶対に外へと出ないことを。
父さん母さんに徹底的に迷惑をかけてやることを。
そう決心すると……罪悪感が、少し減った。
B 母さんは父さんと相談し、俺を暫く放置することに決めたらしい。
まあ、サボることはしょっちゅうだったし、いずれ出ることを期待してるんだろ。
俺も、暫く楽しんだら出る気だし、それまでは遊び呆けるぜ!
とりま久しぶりに明日はゲーセンに行くか!
〜3ヶ月後〜
2006年 3月24日
A この日、高校二年生が終わった。今日は終業式だったのだ。
俺は終業式には出なかった。今更何を思って外に出るんだ。
というかここまで引き篭もって外に出る奴はただの馬鹿だと思う。
俺はもう、絶対に外に出ない。
いくつかのゲームカセットを買い漁り、この3ヶ月間遊びまくった。楽しかった。……でも、
――一時は薄まった罪悪感。
――どうしてこの罪悪感は消えてくれないんだろう。
悪いのはお母さんだ。お父さんだ。学校の奴らだ。
なのに、何でだろう?……こんなに辛いのは、どうしてだろう?
B ひっさしぶりに学校に行った!なんてったって明日は終業式だからな!関係ないか!ただ気が向いただけか!
いや〜、ダチとつるむのも久しぶりだった。
本当、この三ヶ月で童貞卒業する奴とか、彼女作ってる奴とかがいっぱいいて………
……なんか、凄い置いてけぼりを食らった感覚がしたんだよな。
話についていけないわ、皆よそよそしいわで……なんっか、気分良くなかった。
明日は終業式だし、折角だ。明日も登校してやろう。
〜翌日〜
2006年 3月25日
A 先生からの連絡で、どうやら俺は進級は出来るらしい。
成績は問題ないし、出席日数もギリギリ大丈夫だそうだ。
と、いうことを母さんから聞いた。
……要は学校に来いということか。
俺は行かない。絶対に、もう外には出ない。
B 終業式にて、俺は通知表で…出席日数不足での留年が決まった。
皆が哀れんだ目で俺を見る。予想してなかった訳じゃないが、こうしっかりと形にされると、ショックだ。
俺は、来年もう一度高校二年生をしないとらしい。
ダチも皆進級する中で、俺だけがもう一度……。
俺は家に帰って決めた。もう学校なんていうクソみたいな場所には行かねぇ!
もう一度なんて真っ平だ!
俺は決めた。もう二度と外には出ないことを。
〜〜〜〜
〜〜
来る日も来る日も2人は引き籠り続けた。
1人は資格の勉強や高校の内容の勉強をして。
1人は毎日怠惰の限りを尽くして。
そして……、
〜一年後〜
2007年 3月1日
A 今日は卒業式。
俺は結局一年間、一度も外に出ることはなかった。
そして……正式に、俺の自主退学が決まった。
俺は外に出なかったから、両親と先生で決めたことだけど。
ああ、そう。偶に先生が俺を外に出そうと呼びかけたことがあったな。ま、無視したけど。
そうだ、顔を見せてと母さんに泣きつかれたこともあったな。ま、これも無視したけど。
……罪悪感が辛い。誤魔化す為に勉強はして来た。……けど辛い。
まともに動かず、ガリガリになったこの姿を見せたくない。
ヨレヨレのシャツを来て、昼夜逆転して、クマだらけのこの姿を見せたくない。
トイレに行くことすらサボって、ペットボトルを使う。
風呂にも入らず、寝転がる。
窓を開けたら見られるから、窓を閉めた。
……辛い。苦しい。もういっそ世界とか滅んで欲しい。早くこの時間よ終わってくれ。もう嫌だ。面倒だ。全てが面倒だ。さあ早く早く早く早く早く早く!!
一日が早く終わることを乞い願う生活。
俺は、18歳だ。18歳になって、引き籠りの学生から、引き籠りクソニートへとジョブチェンジした。
B 本来なら卒業式。けど、留年した俺には関係ねェ。
それどころか学校に行ってない俺には関係ねェ。
この一年、ボーっと遊んでた。
定期的にゲーセンに行き。DSでゲームをし、父さんからパクったパソコンでちょっと前にできたニコ動とかいうので動画を見まくる毎日。
プレ●テ3やW●iなんかの新しいゲーム機で盛り上がってた。
いやー、最っ高!!ほんっと頑張って勉強やら就活やらをやってる皆さんごめんなさいねぇほんとに。
あ、そうそう。三、四回ダチ達が遊びに誘ってくれたんだよ。
俺もう意気揚々と外出たんだけどさぁ。
……何?外に出て学校来いって。
俺はもうお前らとは同じ学年じゃねぇんだぜ?行ったってつまんねぇだけじゃんかよ。
俺はそっけなくアイツらを追い払った。
次アイツらが俺を誘うことは、もうなかった。
……失敗したかもなぁって思う。
ま、やってしまったもんは仕方ねぇよな!
そして、俺は18歳になったしぃ?遂に、酒が飲めるのですよ!タバコを吸えるのですよ!
と、いう訳で父さんのビールを冷蔵庫から掻っ攫って飲んでみた。
……あんまり美味しくなかった。
父さんのタバコを掻っ攫って吸ってみた。
……けむい。咳がすげぇ。
これが、俺の18歳か。
……こんな間にもダチ共は楽しく遊んでるのか。
俺を置いて……
クソがッ。
〜二年後〜
2009年 1月9日
A俺は20歳になった。そして……、
両親が、離婚した。
原因は俺。この家は母のものとなり、父は家を出て行った。
母は俺を養う為に働きに出て、俺は家に1人となった。
久しぶりにリビングに出た。経年劣化し、物なんかも変わったそこだが、確かに俺の家だった。
よくお父さんに測って貰った身長の傷跡が残ってた。
よくお母さんに果物を切ってもらったキッチンもそのまんまだった。
冷蔵庫にはお酒が入っていた。俺は20歳。今年からお酒が飲める歳。
父さんから一緒に飲もうと言われたのを思い出した。
……でも、俺は1人になった。
ふと引き出しに目を向けると、そこから紙が一枚出っ張って出ていた。
俺はそれを取った。瞬間、後悔した。
今日は1月9日。そうか、そりゃああるよな。
それは、年賀はがきだった。
どこどこで誰々が結婚。誰々がどこどこに就職。誰々がどこどこに入学。誰々が子供を作った。どこどこで誰々は合格。誰々がどこどこでどこどこが誰々で誰々がどこどこでどこどこでどこどこでどこどこでどこどこでどこどこでどこどこでどこどこでどこどこでどこどこで………
俺は洗面所で吐いた。
すぐに自室に戻り、鍵をかけ、布団に寝転んだ。
今までで一番の……罪悪感に襲われた。
今日は1月9日。成人の日。
俺は、何もしないまま、成人となった。
B 今日はなんの日か?知らん!もう時間感覚も何もねぇし。
そんな俺は、現在2chという書き込みサイトにべったりだ!
いや〜、今までパソコンで何かを書き込むことなんてほっとんどなかったから、ずっと犬猿してたんだよなぁ。
だってよ?もうニコ動見てるだけで一日終わるんだぜ?
DSでゲームしながらうごメモの動画見るのを何回繰り返したか!
ただ、さっすがに2年も経てば飽きてきた。
だから俺ぁ2chに手を出したんだが、いや〜良いね〜。
見てるだけで俺の中の焦燥感が洗われるんだわ。俺以下の人間見てるとなぁ。
……けど、俺以上の人間を見ていると、どんどん焦燥感が激しくなってくる。
何かしないとという気持ちが強くなっていく。
俺は何もしていない。何もせずに、毎日を生きてる。
楽しいんだぜ?この生活。この何もしない時間。
ほんっとに、楽しい筈なんだ。
ただ、ふとダチと遊んでた頃を思い出すと、妙に苦しくなった。
……ほんと、なんでだろ。
そんな日の中、俺はある書き込みを見た。
スレタイとは関係ない……半ば雑談みたいな会話で盛り上がっている最中。
……俺の同級生と思わしき人が、俺のことを書き込んでいる分を。
228: シンデレラは死んでレーラ:2009/01/9(日) 23:01:08.44 ID:NWpt1pg42
不登校エピならワイもあるで。
ワイの地元のはっちゃけた不良がさ、ある日突然不登校になったんだよ。
ソイツは定期的に学校サボる奴でさ、今日もそうかなーって思ったらそれから三ヶ月サボりまくって。
そんで終業式に来たと思ったら出席日数不足で留年www。
そん時のアイツの顔は→(゜Д゜)
マジヤバかったわwww
しかもそれからずっと家に引き籠もりになったらしいわwww
けれど、その書き込みを見て俺は、怒るでもなく暴れるでもなく、ただひたすらに心が沈んだ。
今まで直視してなかった俺の評価を、外から見られた俺の姿を晒されただけだから。
……アイツらの言うことを、素直に聞いておけば。
俺は今更ながらに、そう思った。
……そして最後の書き込みで、俺は今日が何の日かを知った。
232: 名も無き死に損ない774号+:2009/01/9(日) 22:43:58.79 ID:Gpj42Jeic
>>228
あ、ってーか今日か。其奴が成人したのは。
233: 名も無きゴング:2009/01/9(日) 22:51:47.77 ID:APjwm117G
あー、1月9日。成人の日か今日。
234: シンデレラは死んでレーラ:2009/01/9(日) 23:01:08.44 ID:NWpt1pg42
>>232 確かにwww
成人の日。俺は最悪な気分で、二十歳となっていた。
来る日も来る日も、彼らは未だに引き籠り続ける。
2人はこのままじゃダメだと、挑戦した。
手芸、運動、プログラミング、絵描き、小説家、漫画家、フィギュア制作、動画クリエイター、ゲーム実況者、料理等……
片方は、どれもうまく出来ず、勉強だけが彼を見てくれた。
……引き籠りへと誘った元凶である、勉強だけが。
片方は全てを簡単に投げ捨てた。上には上が居たから。
そんな日々の中……厄災はやって来た。
〜二年後〜
2011年 3月11日
後に3.11と表されるそれは、唐突に、彼らの停滞した日常にやって来た。
A その年その日その時間、俺は久しぶりにDSに触れていた。
何度やり直したか分からないDSの「おいでよど●ぶつの森」
パソコンも漫画もないこの部屋で出来ることは、勉強かこのDSの数少ないゲームだけ。
だからこの日も、息抜きで遊ぼうとしていた。
……しかし、それは唐突に来た。
揺れだ。小さな揺れは、段々と大きくなっていく。
タンスが倒れた。下で食器が割れる音がする。立つのも厳しいこの揺れは、俺の精神を混乱に落とす。
体感では物凄く長かった。されど、実際は数十秒であったその揺れの脅威を、俺は分からなかった。
大丈夫?と呼びかける母さんの声。俺は大丈夫とだけ答えた。
脅威を、絶望を知ったのは――次の日だった。
B 揺れた!
〜翌日〜
2011年 3月12日
A 俺は、離婚した父さんと連絡がつかないことを、母さんから聞いた。
そして……、
B 俺は母方の爺ちゃん婆ちゃんと連絡がつかないことを、父さんから聞いた。
〜一ヶ月後〜
2011年 4月12日
A 父さんの遺体は見つからないらしい。しかし、葬式は執り行った。
……でも、俺は行かなかった。
その日俺は、ただただ布団の上で震えてた。ただただ何もしなかった。
今更ながらに、こんな事実を確認したのだ。
外に出るのが怖いという…そんな事実を。
ああ、本当に外に出るのが怖かった。こんな長期間家に閉じこもった俺が外に出るのが!
父さんとの思い出がとめどなく頭から吹き出す。最後の別れが一方的に打たれたこと、なんて最低すぎる。
どんな親不孝者だよ。
その日の罪悪感は、絶望は、今までの比じゃなかった。
今まで忘れかけていた罪悪感を、一気に俺は思い出した。
またいつものように、一日が終わるのを…時が過ぎるのを願った。
そして、時間は俺の感情を流していった。
B 爺ちゃんと婆ちゃんの遺体は見つからなかったそうだ。
行方不明者。この震災ではそういう人も数多く居るらしい。
俺は葬式には行こうと思った。大事にしてくれた爺ちゃん婆ちゃんだ。幼い頃の思い出は結構鮮明に覚えてる。
爺ちゃんとした虫取りは楽しかった。
婆ちゃんとしたお手玉は楽しかった。
……そんな中、俺は思い出す。思い出してしまった。とある言葉を。
――「ねぇ、B。あなたは、どんな大人になるんだろうねぇ」
今はもう居ない、婆ちゃんの優しく問いかけるその言葉を。
それを見てニコニコしている、爺ちゃんの笑顔を。
…途端、俺は自分が恥ずかしくなった。やりたいようにしてきてるのに、何故か俺は俺をダメな大人だと言った。
……クズ。ニート。穀潰し。引き籠もり。親泣かせ。
ネット上に転がるそんな単語が、今になって棘となって俺に刺さる。
俺は、葬式に行くのを辞めた。合わせる顔がないと、そう思ってしまった。
〜2年後〜
2013年 2月17日
A あの日以来、母さんは優しくなった。
俺が唯一の家族と……、そうなったからだろうか。
スマホをくれた。ゲームをくれた。俺は、それを使ってひたすらに現実から逃避した。
今までも、ぼんやりと考えたこの状況が……詰んだと錯覚させるこの状況が、あれからどうしても鮮烈になってしまった。
……けれど、遊ぶだけだと、父さんの叱咤が頭に木霊した。
だから、俺は勉強をした。大学の分野までも専攻して、勉強した。
何を思って渡されたのかは分からない。けど、ある日母から渡されたスマホは、便利だった。
You●ubeで色々見れて、アプリで色んなことが遊べて。
後、俺はあれから外に出ようと思った。
あの時に外に出る恐怖を確認し、外に出たいと思った。
だから挑戦してみた。このガリガリの身体を動かして、扉の前へと向かった。
そして、扉を開けた瞬間に足が止まった。
恐怖が、全身を包んだ。
その日から、挑戦する日数はどんどん減っていった。
今じゃ二ヶ月に一回あるかないか。……つくづく俺はゴミだと思う。
……でも、それで良くなったんだ。
俺を蝕んでた罪悪感は、段々と忘れていった。これが日常だと、そう思うようになった。
俺は、引き籠りのクズニートであることに甘んじた。
B スマホを貰って、俺はただひたすらに課金ゲーにハマった!
金はマジでねェから母さんや父さんの講座を勝手に使ってひたっすらに大好きなキャラに貢いだ!
いや〜、心がめちゃくちゃに潤うんだよなぁ、これ。
前は色んなことにチャレンジしたけど、でもそれで認められることなんてなかったしぃ?
逆に課金すればその分だけ強くなるんだぜ?皆が俺を必要とする。最っ高じゃんかよぉ!
定期的に番号変えられたり、ぶん殴られたりするけどノープロブレム!
もう焦燥感とかねぇわ!良いだろ?この生活!最高だわ!
今なら爺ちゃん婆ちゃんにもしっかり顔向け出来るぜぇ?ヒャッフー!
そして……、
〜一年後〜
2014年 1月18日
A 初めまして、Aと申します。
B うーい、俺ぁBだ。
2人は知り合った。
キッカケは、お互いにFPSゲームでVCを出来る相方を探していたこと。
A それにしてもこんな時間からログインってことは……
B ん?ああ、俺ぁ引き籠もりのクソニートだからな。
A わーお、俺もなんですよ。
B マジぃ?歳とか近いのかな?
A 今年で25です。
B お、マジじゃん。俺もぉ。
そして、2人は来る日も来る日もゲームをした。
片方は現実から目を逸らす為。片方は……うん、アイツぁ何も考えてねぇ。
A 今日はどこ降りる?
B まー、激戦区で。
A Bぃ、昨日それで何回死んだんだっけ?
B 覚えてません!
A あー、もうダメだ。
来る日も来る日も。
B え?お前ってあの高校入ってたのかよ。エグい頭良いんだろ?
A まあね。中退したけど。
B うーわ、勿体ね〜。
A 何か教えて欲しいなら遠慮なくどうぞー。
B じゃ、足し算から。
A …………
B じ、冗談だって!流石の俺でも足し算は出来るからね?
え?なんで無言なの?確かに俺ぁ勉強を投げたけど流石に出来るぜ?え?な――
そして、月日は流れた。
〜十年後〜
2024年 2月29日
A 俺は、この……十年?間。ただずっと、腐っていった。
朝起きてXを開き、ログボを受け取って、ネトモとゲームして、ちょっと勉強して、寝る。
数年前に世間じゃコロナなんてものが流行って、その間外出する人が殆どいなくて……殆ど感じなくなった罪悪感が更に空いた。
ワクチン接種は面倒だったけど。
ゲームもやっぱり人口が増えて、なんだか俺には良いことずくめの生活だ。
ああそう、ゲームで1人…やけに話が会う奴が居たんだ。
そのネトモの名前はBっていう。俺はA。もうその時点で面白いシンパシーを感じた。
ま、完全にタイプは違うし、俺もクズだがアイツはドクズってレベルでのクソ野郎だ。
親の金使って自信満々に課金を自慢するんだぜ?頭沸いてんだろ。
足し算すら危うい奴だ。きっと昔のあのまま進学してたら、関わることはなかった類の奴だ。
でも……再三言うが、妙に話があった。
と、まあそんなこんなで……俺はそいつと共にそんなゴミのような生活を繰り返した。
今日が何の日かなんて知らんし、今日特別に何がしようとも思わない。
このまま、俺は腐っていくんだと思った。老けた母とこの家とともに、いずれ朽ち果てると思った。
だってもう三十路だ。もう外に出ようとも、人生やり直そうとも、そんな気力は殊更なくなった。
……もう、何もする気はない。
ピコンっとスマホが鳴った。ディスコだ。
いつも通りゲームの誘いか?と思いながら、俺はスマホを手に取り、連絡内容を見る。
-------
B
俺に勉強を教えてくれぇ!
-------
一言そう書かれていた。
……何だろう。足し算かな?
いや、ここは掛け算か?
そんなことを思いながらも、奥底で俺は気付いた。
きっとBは、先に進もうとしてる。
色々と考えながら、俺は画面をスワイプする。
B ゲームをする。遊ぶ。寝る。その繰り返し。
コロナとかいう流行りで、全人類ヒキニート化したのは笑ったが、その他には何も変わらない毎日があった。
俺は、決断力のある男だと思う。
こうして引き篭もっているのも、サボるという決断をしたから。
ワクチン接種に駆り出されたのも、接種するという決断を渋々ながらしたから。
課金する為に親の銀行から金を勝手に引き出したのもまた重大な決断であって……まあいい。
単刀直入に言おう。俺は、この十年で……引き籠りに飽きたのだ!
もうね、限界。俺ぁ外に出る。
コロナがなんだ?知ったこっちゃねぇ!!
あ、そうそう。外に出るとすれば、いっそのこと社会復帰すると俺は決めた。
っと、まあそんな決心をしても、身体はついてこない訳で……。
約20年もの間引き篭もって、怠惰の限りを尽くした俺の身体はぶよぶよの贅肉だらけとなっている。
また再び単刀直入に言おう。俺、まともに歩けんのだ。
そして、俺は中学ですらまともに勉強してこなかった不良。
だが、今の時代大学卒業してないとまともに働けない時代。
俺は大卒どころか高卒もしてない。最終学歴中卒の俺だ。まあ、無理なんよな。
と、そういう訳でぇ…俺は身体を鍛えると共に頭を鍛えないとだ。
そして、俺のネトモに頭の良いAっていう奴がいる。
そいつもまた引き籠りだし、きっと暇だろ。
早速ディスコで頼んだ。
-------
B
俺に勉強を教えてくれぇ!
A
良いよ
B
よし、んじゃ明日から通話繋げて勉強だ!
A
分かった
-------
俺は良しっ!と拳を握り締め、立ち上がった。
まずは軽い運動から。
俺は、部屋を片付け始める。このゴミ屋敷を片せば、少しは運動になると思うし。
……俺はふとカレンダーを見つける。一応今年のだ。4月から少しも動いてないけど。
俺はパラパラと捲り、今日が何の日か知った。
2024年2月29日。四年に一度しかない、特別な日。
良いじゃん。俺の復帰日にピッタリ。
さあ〜、社会復帰てどんぐらいかかるんだろう?一ヶ月とかで正社員になれるのか?ま、頑張るぜ!
〜翌日〜
2024年 3月1日
A 俺は今日、Bに勉強を教える。
通話を繋ぎ、画面を繋ぐ。
部屋を見られるのは久しぶりだ。
一応礼儀として部屋は掃除したけど……大丈夫だろうか。
そして、通話が繋がった。
A どう?聞こえる?
B おう、聞こえるぜ!
A とりあえず何が目標なの?
B なんか社会復帰する為に高卒認定試験はあった他に方がいいって聞いたし、ならまあそれとって大卒を目指すのも悪くないかなってね。
A 社会復帰か。俺はもう諦めたけど、頑張れよ。
B おう!
A で、どこからやる?
B うーん……とりあえず数学から。
A えっと……高校の範囲からで良い?それなら多分すぐ終わるけど。
B いや、中学も心配だから中学からで。
A え?中学?……じゃあ文字式から?
B おう、そこから頼む。
…………
……
…
A え?分数が分からない?
B うーん、これどういうこと?
A もうこれ小学校からやり直さないとじゃん。
B あ、マジで?……もしかして、俺が高卒認定試験受かるまで結構かかるん?
A うーん……俺からの教えだけでだと、多分合格までに一年以上かかるよ。
B マジか……一ヶ月位で出来ると思ったんだけどなぁ。
A 一ヶ月!?不可能だろ。
B んじゃ、中卒のままバイトとか……。
A うーん。社会復帰するだけならそれで良いと思うよ。ただ、フリーターのままズルズル行くのはおすすめしないね。
B そっかぁ。んじゃあ、バイトしながら高卒認定試験に受かるのを目標って感じでいっかな?
A ああ。それにプラスすると、もう俺じゃなくて深夜学校とか通信教室とかに通った方が良いと思うよ。
B 分かったぁ。
〜三ヶ月後〜
2024年 6月6日
A 俺は夜間学校に通うBに、分からない所を教えながら……俺は依然として引き籠もり生活を続けていた。
挫けそうなBを叱咤して、ひたすらに社会復帰を望む彼の手助けをする。
……一向に先に進むことができない俺のこの現状を、誤魔化すように。
俺は彼を手助けした。
高卒認定試験は全11科目。その内の最低8科目で合格点を取れば試験は合格となる。
……きっと、時間はかかるだろうが、彼は合格出来るだろう。俺を置いて、先に行ってしまうのだろう。
でも、それでもういい。俺は、もうここから動く気にはならない。
B あれから三ヶ月が経過した。
引き籠もりを止めて外に出ると、父さんと母さんは暖かく迎えてくれた。
久しぶりで老けてたが、間違いなく俺の父さんと母さんだ。
そして、バイトしながら高卒認定試験にチャレンジすることを話すと、お金を出してくれた。
無理をせず、夜間学校で高卒認定試験に受かることを目標にするだけで良いと。俺は自分に甘いので、その口車に遠慮なく乗った。
それにしても課金する為に口座から金を盗んだ時とは偉い違いだ。まあ、当然だが。
俺はその金で遊ぶことも考えた。……が、Aのことが頭によぎって思い止まった。
俺偉い!素晴らしい!
と、言うことで……俺は今、夜間学校に通い、昼間はAに勉強を教えて貰ってる。
勉強は今まで全然してこなかった分他の人よりかなり時間を食っている。
だが、Aの教えもあって順調に勉強出来ているのも事実。
うん、俺偉い!俺凄い!
そんな俺だが、一つ悩みがある。
こんなにも俺を手伝ってくれるAを、なんとか外に出せないかという悩みだ。
俺は引き篭もっている時、感じたのは焦りだ。このまま何もせずにいて良いのかっていう焦り。
ま、暫くして忘れたから別に良い。俺はこの引き籠り生活を楽しめたから別にね。
だが、Aによると、Aは罪悪感があったらしい。
母の期待を裏切った。父の期待を裏切った。2人を破滅に追い込んだ。そしてそれによって父が死んでしまった罪悪感。
ん〜、重い!!んで、そんな罪悪感とかがあっても外に出れなかったんだから、並大抵のことじゃあ出せないんだよなぁ。
でも、それでいて同時に出れないことにも苦心している、と。
全く理解出来ねェ考えだ。苦しいならとっとと出てしまえばいいのに。
ま、第一俺とアイツじゃタイプが違い過ぎるから、その罪悪感も理解出来ねェのも仕方ねぇか。
うーん。俺の人生だ、誰かが苦しもうが関係ねぇ!じゃダメなのかねェ。ダメなんだろうなぁ。
と、いうことで俺は悩んでいる。
どうやって、奴を外に出そうか。
〜一年後〜
2025年 4月3日
A アイツは無事に、過去問を解いて合格するレベルに達した。
この一年、頑張っただけのことはある。
8月の試験まではまだ時間はあるが、きっとアイツなら大丈夫だろう。
ピコン
ディスコからメッセージが来た。最近はもっぱらBからのメッセージしか来ない。
内容は……え?
-------
B
ちょっ、高卒認定試験受けんの怖くなって来たんだけど!?
@A!一緒に受けて来てくんねぇか?
-------
ディスコには、そう書いてあった。
……アイツは、Bは俺に外に出ろと。そう言って…ソウイッテルノカ?
え、ヤダ。もう俺はここで朽ち果てるよ。
外は怖い。近所がどう変わったのか。皆の俺を見る目は?仮に出てどうなる?俺は何か出来るのか?嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!
第一俺は……母さんに、どう顔を向けろってんだよ。
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B
ちょっ、高卒認定試験受けんの怖くなって来たんだけど!?
@A!一緒に受けて来てくんねぇか?
A
ヤダ
B
そこを頼むよ!俺の為と思ってさぁ!
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俺の為……Bの為……。嫌な言い方をする。
助けてと。俺に、助けてと……
期待、されてるのか?
……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。
俺に期待するな!もう何も望むな!失望した顔を見せるな!
俺は……俺は……、
もう、期待を裏切りたくない。
俺はOK、と返事を出した。
……最悪の、気分だった。
俺は扉を開く。意を決して進もうとし……倒れ込んだ。
当然か。まともに歩くのは何年ぶりだろう。
そして……起き上がろうとすると、目の前には母さんがいた。
B しつこく誘ったら遂にオーケーの返事をゲットしたぜ!
これで一回外に出すことには成功だ。
後はもうズルズルとお天道様の元に引き摺り出して……、
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A
母さんにボコボコにされた。
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……へ?
A まあ、当然だ。長年引き篭もって、家庭崩壊まで招いた息子だ。
俺はもうこの十数年で恨み辛みはもうないけど、向こうはそうじゃなかった。それだけだと……思ったのに。
なんでボコボコにした後に、泣いて謝るんだ!なんで俺も泣いたんだ!なんで、なんでこんなに……スッキリした気分になってるんだ!罪悪感がなくなってるんだ!
扉を叩いて口汚く罵る母さんはどこ行ったんだ!俺に徹底的に勉強を押し付けた母さんはどこに行ったんだ!
なんで……なんで!
とめどなく涙が溢れる。
母は、後悔していた。
俺も、後悔していた。この引き籠もり生活は、誰にとってもマイナスにしか働いてなかった。
でも、こうして引き篭もっていなければ、母さんは俺に涙を流すことはなかっただろう。俺も母さんの勉強の押し付けから逃げることはできなかっただろう。
……俺は、決めた。
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A
母さんにボコボコにされた。
B
そっか。
A
俺、お前と一緒に社会復帰するわ。
B
???
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あっさりとしたものだ。十年間意地でも出なかった俺が、一回外に出て…それでころっと意見を変えるなんてね。
でも、そんなものか。俺が引き籠もり始めた時だって、俺はサボりたいって考えてただけだし。
俺は長い間しまっていた高校の教科書を取り出した。
……さ、勉強するか。
〜四ヶ月後〜
2025年 8月4日
2人は、同じ会場に来ていた。
遠く離れた県じゃなく、2人共同じく千葉県出身だった。
そして、2人は一緒に高卒認定試験を受けた。
通話で顔や名前は知ってたけど、実際に会うと2人は上手く話せていなかった。
それでも……久しぶりに、目的のある外出をして、2人は気分が高揚していた。
……何かが変わると、2人は思っていた。
結果発表は約一ヶ月後。
2025年 8月30日
そして、運命の結果は……、
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A
受かった。
B
落ちた。
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Aは受かった。だが、Bは落ちた。これが、結果だ。
A どうやらBは、過去問で合格点以上を取り、安心して勉強を疎かにしたそうだ。
その結果がこれ……弁明のしようもない。
そして……、
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B
すまん。俺、社会復帰諦めるわ。
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結果が送られて来たその日に、Bはそう俺に連絡した。
Bは、社会復帰を諦めた。
一回の失敗で投げ出した。
そういう奴だ。ネトゲでも散々そうだった。
でも、俺は……
B 落ちた。まあ、いつも通りだな。頑張って、良いところまでいって、油断する。
そして一回失敗したら諦める。そう、いつもと同じだ。
もう面倒だ。また11月の試験?惜しかった?知るか!もうやる気が起きねぇんだよ。
ま、また気が向いたら社会復帰は目指すよ。次はいつか分かんねェけどな。
とりま、今日は最近ずっと放置してた放置少……
そして、俺はまた怠惰な生活へも戻った。
Aだけが救われる。それでもう終わ――
――ピンポーンと、ドアベルが鳴った音がした。
扉を開く、音がした。
ダダダダダっと走る、音がした。
ガンガンガンッと俺の部屋を破壊する、音が――って!
「何してんじゃゴラァ」
「お、出て来た」
俺が叫んで飛び出すと、目の前にはAがいた。
俺はポカーンと口を開けて、動きを止める。
「お前が諦めるっていうから急いで来たよ」
そう言う奴に、俺は一言返した。
「……なんで?」
と。すると、Aは俺を見て言った。
「だって、俺は決めたんだ」
「お前と一緒に社会復帰するってさ」
その言葉に、かつてのディスコ上で交わした約束を思い出した。
……え〜、ダル。
「住所は?」
「試験会場で見た」
「交通は?」
「電車で片道2時間。いやー、遠いねぇ」
俺は一回ため息を吐いて、Aに言い放つ。
「え〜、俺もうメンドイから勉強しないぜ?」
と。だがAは、
「大丈夫、家の人に許可取って、11月の試験まで泊まり込みで教えるから」
とよく分からない弁明を行う。
つい、「……何が大丈夫なん?」と口走ったのは仕方がないと思う。
そして、そのままAは俺の部屋に押し入ってくる。
……その後、何日か必死の抵抗を試みたが、効果なし。
外に行けばついてくる。パソコンとスマホは隠された。昔の母ちゃんみてぇなこたしてんじゃねぇよ!
その後幾度かの格闘を試み……、十日後。9月9日。
「分ぁったよ。しっかたねぇなぁ」
俺は、承諾させられた。
こうして、俺の試験に向けての勉強が始まった。
A ここはこれで……
B なるほどなるほど……ってここ範囲じゃなくね?
A あ、やべ。
B オイオイ、勘弁してくれよ。
A まあまあまあ、きっと君の為にはなるよ。
B ……そーだといいなぁ。
勉強をして、
〜
A へぇー、お前中学の頃はモテたのかよ。
B まあなぁ。やっぱ不良ってモテやすいからよう。
A うーん、俺も浮ついた話。そういえば、昔よく遊んだ子から手紙を……。
B え、それラブレターじゃね?
A いや、書いてたのは128√e980って文字だけで
B ……I love youじゃん
時には昔のことを思い出して、
〜〜
A あーあ、また英単語の点数が酷く……
B だってもう覚えなくてもいけるくね?良いじゃん別に。
A それで落ちたのはどなたでしたっけ?
B …………
また勉強して。
そして……、
そして、二年後。
2027年 4月5日。門出の日となった。
Bは、高卒認定試験に無事受かった。
これで晴れて俺たちも社会人になれる。そう思って……、
ハロワで紹介された仕事に、さんざん落ちまくった。
もう俺たちは39歳。空白の、何もしていない期間が20年近くある。そう簡単に、俺たちは普通の人に追いつける訳がなかった。
2人はアドバイザーやNPO法人の力を借りながら、少しずつ内定を貰うための努力をしていった。
比較的勉強をしていたAは、定期的に受かることはあった。
……ただ、それらがどこもヤバそうな会社だったが。
意気揚々と入社しようとするAは、よくBに止められていた。
対するBは、本当に何もしておらず……中々受かることはなかった。
……何社受けたか分からなくなるほど、色々な会社を受けた。
その間、バイトも並列してやった。AとBは同じ店で働くことはなかったが、お互いに励まし合った。
フリーターから正社員へとなることを、ちょーっとばかし夢見ながら。
昔のダチに会いに行くと、Bは言った。
父さんのお墓参りに行くと、Aは言った。
2人は、先に進もうと努力した。
二年の月日が流れて……2人は、仕事を手に入れた。
改めて言おう。今日は2027年 4月5日。
約20年間引き籠もった、元無職のクソ野郎である39歳の中年男性たちの、門出の日だ。
A 俺は中学の塾講師として雇って貰えた。
B 俺は引越し業者として雇って貰えた。
A 場所は遠くだ。だから、家を出ないといけない。
B 泊まり込みだ。だから、家を出ないといけない。
A すなわち、俺は…
B …一人暮らしをしないとという訳だ。
A さ、それじゃあ行こう。
B よし、それじゃ行くか。
目の前には、涙を浮かべる親の顔があった。
……次戻る時は、立派になって戻りたいと、そうAだけは思っていた。
そして、俺たちは扉を開けた。
定期的に外に出ていたとはいえ、朝日が眩しい。
……それじゃ、
「「行ってきます」」
家族に挨拶をして、外へと足を伸ばす。
こうして俺たちは家を出た。