タイムリミット 2
やがて、ロボットがパネルを取り付け終わった。
<これより試験運転に入ります。試験運転が終わるまでは人は乗らないでください。最悪、0.0000001%亜空間に放出されたまま戻れなくなる可能性があります。>
だがデイヴィは、それを無視してポッドの中に乗り込んだ。
<人は乗らないでくだ・・・・>
デイヴィがロボットの強制終了ボタンを押した。
<業務を強制終了します。ビウウゥゥゥゥ・・・>
ロボットは変形を繰り返し、元の箱型ケースに戻った。デイヴィはキャスター付きのそれを、足でポッドの外に蹴り出す。
「融通のきかない骨董品め。このポッドが亜空間に消えたら、空いた転送トンネルに『イツミ』の基地から新しいポッドを呼び寄せられるじゃないか。万一の時はあとを頼むぞ、サラ。」
それだけ言うと、生体認証パネルに手をかざす。
「ちょっ!・・・長官! 待ってください。私が・・・!」
サラの目の前でポッドの扉が閉まり、書棚がスライドした。
「長官! 戻ってくださいよ! 必ず、戻って・・・!」
サラは声に出して言うだけでなく、自分の脆弱なテレパシー能力を使って必死に転送プロセスに入ったポッドに呼びかけた。
もちろん、届くはずはない。何重にもシールドされているのだ。
デイヴィは、若いサラを亜空間リスクから守ろうとしたのだろう。それはサラにも分かったが、だからこそ、なおさらに感情が乱れた。
「長官・・・。組織としては、長官が残るべきではないですか。わたしは・・・、わたしは命惜しみするような軍人ではありません・・・・。」
ベルンでは、緊張した時間が流れていた。
軍の選り抜きのエスパーがそれぞれの役割に応じて所定の位置につき、テレパスは子どもたちに話しかけ続けていた。
(いいぞ、いいぞ。そのままの膝の位置をキープして。 合図を送るまで、犯人に気づかれないでね。合図を送ったら、胸を反らせて爆弾をバリア面の外に出すんだ。
大丈夫! 軍のエスパーは優秀なんだぜ。)
13人の子どもたちは、概ね指示された位置に上手く並んでいた。
その様子を透視能力者が細部にわたるまで透視し、選ばれた13人のテレパスに脳内を開放して「中継」している。
こういう連携プレーは、さすがに軍のエスパー部隊と言うべきであった。
長官室のデスクの特別通信パネルが光り、デイヴィが設定していたらしいマスコットアバターがデスクの上に、ひょい、と立ち上がった。
「無事着いたぞ。 なんだ? サラ、泣いてるのか?」
「あは・・・、長官!」
サラは笑顔になったが、目に涙がたまっている。
「だって・・・、このキャラ、長官ですか? かわい過ぎですよ。」
マスコットアバターは、にっと笑って親指を下に向けると、そのまま消えた。
通信終了。
デイヴィは服を脱いで、変換ポッドに入る。
あと35分!
いくら軍のエスパー部隊の連携がいいと言っても、実際に犯人の目の前で命を賭けて「行動」するのはロースクールの子どもたちなのだ。
あと15分!
ついに1人が緊張に耐えかねて、意識を失って前のめりに倒れた。
まずい!
このままでバリアが張られたら、この子は身体が真っ二つになる。
(起きろ! 起きるんだ! 起きろ——!!)
担当のテレパスが必死で呼びかけるが、子どもはピクリともしない。
(どうしましょう、司令官 !? )
バリアチームのテレパスが、狼狽えを隠せずにノックス司令官にテレパシーを送ってきた。
「そのまま計画通りやれ! 13人とも道連れにするか、1人を犠牲にするかだ! 軍人だろう、お前たちは !? 」
ノックス司令官は、巌のような顔で言い切った。
倒れた子の担当テレパスは、全生命エネルギーを注ぎ込むような強力なテレパシーを倒れた子どもにぶつけた。
ほとんど言語にすらなっていないナマな精神波だったが、あえて言葉にするなら、こんな意味だったかもしれない。
生きるぞ! 生きるんだ、オレたちは——!!
この衝撃波で、子どもは意識を取り戻した。
(いいぞ。慌てなくていい。オレを信じろ。絶対に助けるから! ゆっくり起き上がって——。さあ、まず膝の位置から直そう。)
変換ポッドが開いてイツミが現れた。厳しい表情をしている。
あと5分! 服など着ている暇はない。
イツミはワードローブからフード付きマントだけを手にとると、それを肩から羽織っただけでテレポートした。