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タイムリミット 1

 ベルンのロースクールの教室では、ジグ・ダハマが結跏趺坐の姿勢で、眠ったような細い半眼を自身のすぐ前の床に落として何やらブツブツと呟いている。

 呪文のようなものらしい。胸には、子どもたちと同じように爆弾がくくり付けられている。

 椅子や端末テーブルなど、備品は教室の隅に押しやられ、子どもたちは怯えた表情で犯人から距離を取るように床に座っていた。


 子どもたちがパニックにならないのは、軍のエスパーが1人ずつついて、その子にだけ聞こえるようにテレパシーを送り続けているからだ。

 テレパス能力のないジグ・ダハマはこのことに気づかない。

 そのことが唯一、軍が犯人に対して先手を取ることのできる部分だった。


 だが、もし作戦が失敗して子どもの誰かが犠牲になるような事態になれば、一対一で直接つながった彼らエスパーは、その子の「死」に巻き込まれることになる。おそらく精神的に無事では済むまい。

 テレパスにとっては、きわめて危険な任務であった。


 ノックス司令官の作戦はこうだ。

 まず低学年15人を選び、彼らにくくり付けられた爆弾は爆発寸前にエネルギー吸収バリアで包んで無力化する。

 残りの年齢の高い上級生13人はテレパシーで誘導して、対物・対エネルギーバリア面ができる予定のラインに並ばせる。そして胸を突き出して予定バリア面の外に爆弾だけを出す姿勢をとってもらう。

 爆発寸前に強力な対物・対エネルギーバリアを正確に張ることで爆弾を切断し、爆発部分をバリアの外に置いて子どもたちを爆風から守る。

 ———というものだが・・・・懸念材料は、いくつもある。

 

 まず、3人のエスパーのバリア面を完全に一致させて、強力なバリア面を作ることができるかどうか。

 わずかでも揺らぎが出れば効果は薄れてしまうし、そもそもバリア面で物質を切断できるのかどうか。守備型エスパーのバリアは、地面や建物の構造を無意識に避けて作られる傾向があるものだからだ。

 しかも切断できるのは、ESPシールドされた爆弾本体と子どもたちの胸に巻かれたベルトとの取り付け部分という2センチほどの厚みの部分でなければならない。もし爆弾本体のシールドに重なってしまえば、そこだけバリアが無化されてしまう。

 この点については、担当チームが1度訓練を兼ねた実験で成功させてはいる。しかし、何度もやってエネルギーを消耗しては本末転倒なので、あとはぶっつけ本番になる。


「いっそのこと、バリア面で起爆装置を持つ犯人の腕を切断しては?」という意見も出たが、これは「自分の身体のどこかが傷つけば、自動的に起爆装置が作動する」と言うジグ・ダハマの主張を無視するわけにはいかなかった。

 狙撃ができないのには、この理由もある。


 要するに、綱渡りであった。


 ノックス司令官は、13人の医師と13人のテレポーターそして13人の治癒能力者ヒーラーも待機させていた。バリアが失敗した場合に備えて、爆発直後に現場にテレポートさせて子どもたちの治療に当たらせるためだ。


「やつはいったい、何を考えてるんですかね?」

 スタッフの1人が、誰に言うともなく言葉にした。

「狂信者の考えることなど、わからんよ。エスパーとしてのレベルは高くないが、頭を覗こうにも、テレパスをシールドするくらいはできているようだしな——。」

 ノックス司令官は、苦々しい表情ながらもそのスタッフに会話を返した。

「いずれにしろ、子どもたちを巻き添えに自殺する気だってことは間違いない。ベルン時間で、きっかり真夜中の0時というのも、28人という人数にも、ヤツには何か意味があるんだろう。クラスには35人いたのに、残りは最初に解放してしまっている。」

「ラルーナ政府は、なんだってこんな危険なエスパーを野放しにしておいたんですかね?」

「そんなことは今考えることでも、我々が考えることでもない。今は、目の前の事態に集中しておけ。もっとも・・・」

司令官は苦虫を噛み潰したような顔のまま、言葉を続けた。

「打てる手は打ち尽くしてしまった今、我々管理職にやれることは何もないがね。」





 転送ポッドの故障箇所は、認識パネルから動作指示を行う部分の基盤の1つだと判明した。

<一般的な電子基板ですので、備品倉庫に在庫があるはずです。ただいまより、取り寄せ手続きを行います。>

「待て! ここに人を入れるわけには・・・」

<中央司令室の端末から依頼を行い、中央司令室のデリ・シューターで人を介さず自動で行います。>

 メンテナンスロボットは、足のローラーを使って滑るように長官室を出てゆく。長官室の扉のところを通るときに、

<受け取りましたら扉の前で声をかけますので、中から扉を開けてください。>

と言った。

「いや、ここで扉を開けたまま待つ。」

 デイヴィは入り口に体を寄りかからせて、ロボットの行動を見守った。


 どうやら、このMR2には『イツミ』システムの機密保持のためのプログラムが、初めから組み込まれているらしい。

 長官室の端末やデリ・シューターを使わないのは、長官室からという履歴を残さないためなのだろう。

 デイヴィはロボットが部品の到着を待っている間に、1つの疑問をロボットに投げかけた。

「おまえが壊れた場合はどうなる?」

<備品倉庫にもう1台あります。稼働可能MR2が1台だけになった場合、自動的にコピー製造され、自動的に倉庫に補充されます。MR2の初期プログラムの改変はできません。>


 なるほど、初期システムはよく考えてある——とデイヴィは思った。問題は運用する人間の方にあったか。

(これは、マニュアルにちゃんと書き込んだ方がいいな。)

 おそらく歴代長官のどこかの段階で、口頭伝達が途切れてしまったのだろう。


 部品の受け取りに10分ほどかかった。爆発時刻まで、あと57分。

<修理を開始します。>

 ロボットはポッドの操作パネルを外した。

「どれくらいの時間がかかる?」

<修理に20分。その後、試験運転に15分。そこまでは人は乗らないでください。>

「それでは間に合わ・・・」とサラが言いかけたのを、デイヴィは片手を上げて制した。


 ロボットは黙々と修理を続けている。

 時間だけが、無情に過ぎてゆく。



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