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キマイラ伯の真相


06


 …………


  はっ! ここは、どこ?

  目にしたのは見たこともない天井。 周りは薄暗い無機質な壁。 そして奥から物音が聞こえる。


   『申し訳ございません、ウェルテクス様。 あの地下室のこと、ばれてしまいました』

   『謝るなサニー、俺の警戒不足だった』


  体が向いている方向に、ウェルテクス伯とサニーがいるらしい。


   『さて、奥様はどういたしましょうか』

   『そうだな、四肢を切ってしまおうか』


  えっ、伯爵? 何を言ってるの? 私の手足を切る!?


   『そうしたら、無駄に動くこともなく静かにしているだろう』

   『そうですね。 これ以上あの部屋のこと、知られたくありませんし』


  目の前に現れた二人の手には、光り輝くのこぎりが!

  に、逃げなきゃ! と思っても、両手足が拘束されて動けない!


   『動かれると面倒だからね。 手足は縛らせてもらったよ。

    大丈夫、すぐに終わるさ』


  青く光る眼を見せ、不気味に口元をゆがませながら、伯爵がゆっくりと迫ってくる!


   『安心してください、私と同じになるだけですよ』


  さ、サニー! う、腕が取れるのを同じになるだけ、なんて言わないで!


   『さぁ、切除を始める』

   『はい、ボス』


  や、やめて、私の腕を、切らないでぇぇ!


 …………


 「いやぁーー!!」

 

 ……あれ? さっきの二人は? 拘束は?


 周囲を見渡すと、日が差し込む大きな窓と絵画などが飾られている壁、そして寝ていたのはふかふかのベット。 もちろん、私の体は縛られていない。


 ……つまり、さっきのは、夢?


 そうよね。 急にサニーの腕が取れるなんて、ありえないことよね。 変な夢見ちゃったから、もうひと眠り


 「あっ、おはようございます、奥様!」

 「キャーー!」


 サニー、あ、あなた、う、腕! 左腕がないわ! どうしてあなたは平気なの?


 「だから言っただろう、サニー。 急に外すと驚かれると」

 「でも、実際に見せるほうが早いかなぁ、と思いまして」

 「気絶したら意味ないんだが」


 左腕のない彼女のそばには、ジョンもいた。 けど、その手に持ってるのは、腕!?


 「ジョ、ジョン! その腕、何なの! まさか、伯爵に頼まれてコレクションしてるんじゃ!」

 「違う、聞いてくれ! これは魔導義手まどうぎしゅだ。 彼女の左腕の代わりなんだ」


 ま、マドウギシュ? いったいどういうことなの?


 「私からも説明しますね」


 **********


 そうして二人から聞いたのは、ウェルテクス伯の噂の真相だった。

 彼は魔道具の研究を行っているらしく、今は魔力によって動かす代わりの手足、魔導義肢ぎしの研究をしているそうだ。

 屋敷の地下で手足を切り刻んでいて、コレクションしている、という噂は、彼の部屋の窓から義手や義足が見えたことで、勘違いされていたようだ。

 奴隷商人のお得意様で、幼い子供の奴隷を買っているというのは本当のようだが、後ろめたい理由ではなく、治療や義肢の試作・改良のため。 特に手足を失った子に対しては、その子に合う義肢を作り、再び手足が使えるようにしたいという。


 「私も、ご主人様の義手のおかげで、こうしてメイドとして働けています。 だから、感謝の気持ちも込めて、これからもずっとお仕えしようと思ってるんです」


 サニーがメイドなのに苦手な仕事があったのは、左腕が義手だったからと考えれば、むしろよく頑張ったと褒めたくなってきた。

 

 「あ、ほめてもいいですよぉ~ 私、スゴイメイドなので」

 「じゃぁ、いっぱい褒めちゃう! ヨシヨシヨシ……」

 「ンヘヘェ」


 私が彼女の頭を撫でていると、ジョンが義手を持ってこちらに近づいてきた。


 「サニー、メンテナンスが終わった。 肩をこっちに向けてくれ」

 「はぁーい」


 彼が持っていた腕の付け根を、サニーの左肩に取り付けると、まるで意思を取り戻したかのように、くっついた左腕が動き出した。


 「問題はないかな?」

 「はい、大丈夫です、ご、ジョン様!」

 「わかった。 また、無茶はするんじゃないぞ」

 「わかりました!」


 動いているところをみると、本当に義手だとわからないくらい、精巧にできているわね。

 と感心していると、サニーが「あっ」、と思い出したように言ってきた。


 「そういえば昨日の子たち、奥様のこと、心配してましたよ。

  会いに行かれたらどうでしょうか」

 

 確かにそうね。 子供たちに会って、すぐに倒れてしまったもの。 


 「私も気になってたわ。 ねぇ、子供たちのところに行きたいのだけど」

 「やめてくれ、余計なお世話だ」


 しかし、子供たちの元へ行くことを引き止めたのは、ジョンだった。


 「どうして? 会いに行くだけよ?」

 「子供たちは治療を済ませたら、孤児院に預けるつもりだ。 情が移っても困るだろ」

 「ですが」


 奴隷よりかはましかもしれないけど、まだ悪い環境なのはわかる。 そんなところに居続けさせてもよくないと思う。

 何とかして、せめて屋敷の中だけでも過ごせるようにしたら……

 と思っていたら、


 「でも、私だけだと、子供たちのお世話が大変だなぁ…… チラッ

  ほかの仕事もやりながら、面倒を見るのつらいなぁ…… チラチラッ」


 と、彼に目配せしながら、サニーがジョンにすり寄ってきた。

 それを見た彼は、溜息をついて、


 「はぁ、好きにしてください。 何してもいい、って言ってましたから」

 「やったね、ミーナさん!」

 「ありがとう、ジョン。 あなた、意外と優しいところあるわね」


 「……俺は、そんなにできた人間じゃない」


 「えっ?」


 小声で聞き取りにくかったけど、彼は何を言ってたのかしら。


 「いや、気にしないでください。 ミーナさんのお好きなように」

 「ありがとう、ジョン」

 「さっそく会いに行きましょう、ミーナさん!」

 「えぇ!」


 少し引っかかることもありつつ、私はサニーとともに、子供たちのところへと向かっていった。


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