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自由にしていいと言ったから

04


 「戻りま ……何をしてるんですか、あなたは」

 「掃除よ。 見てわからないかしら?」


 メイドの仕事を始めて3日後。

 ジョンが屋敷に帰ってきたとき、私はホールの階段の掃除をしていた。


 「どうしてあなたが掃除をしてるんですか。 それこそ、メイドに任せればいいでしょう。 あなたがメイドみたいな恰好して、どうするんですか」


 今の私は、メイド長のアマリアから渡されたメイド服を着ている。 普通の人が見たら、私が貴族だとは思えない格好だった。

 でも、私は気にしてないわ。


 「別にいいじゃない。 自由にしていい、と言ったのはあなたでしょ?」

 「確かに言いましたが……

  普通、貴族の女性なら裁縫とか、読書とかでしょう。 従者みたいに掃除をする必要なんて、ありませんよ」

 「家では本なんて読む間がなかったし、裁縫は衣服の修繕のためにすることでしょ? 掃除するほうが、私にとって『自由』なのよ」

 「自由、ですか……」


 私の言葉を聞いて、少し考え始めるジョン。 そこに、アマリアの声が届いた。


 「まぁ、私はいいと思ってますけどね」

 「アマリア」

 「掃除も丁寧にしてくれるし、なにより、サニーのお目付け役としてぴったりだと思いますよ」

 「……そうか、確かにな」


 彼女の言葉を聞いて、ジョンも納得した様子だった。

 ……あれ? でもホールにサニーの姿がないわ。


 「キャー!」


 と思ったそばから、玄関のほうから女性の悲鳴が。


 「まったく、サニーは!」


 慌ててジョンが、悲鳴のした方へと走っていった。


 「ごめんなさい、少し目を離してたら、いなくなっちゃってたみたい」

 「奥さまが気にする必要はございません。 彼女は、少しでも伯爵のためになろうと、無理をしちゃうんです」

 「伯爵の、ため?」


 『キマイラ伯』の噂がある伯爵のために、働く人なんているのかしら?

 疑問を浮かべていると、アマリアはほくそ笑んで続けた。


 「まぁ、奥様が急いで知る必要はありませんので。 ゆっくり、知っていけばいいんです」

 「……ありがとう、アマリア」


 そうね。 伯爵のこと、何も知らずに嫁いできたのだから、ゆっくり学んでいけばいいのよね。


 「けれど、サニーのお目付け役を果たせていないことは、謝罪してください」

 「ごめんなさい」


05


 そうして、一緒にメイドの仕事をやるにつれて、サニーやアマリア、ほかのメイドとの関係を深めていった。

 特にサニーとは、お互いに名前で呼び合うほどにまでなった。

 けれど、彼女に関して一つだけ気になることがある。 それは彼女がどこかに行っている時があるということ。 勝手に持ち場を離れようとしている時もあるけど、それとは別に、規則的な時間に離れていることがあった。 

 アマリアやほかのメイドにも聞いたけど、「詳しくは知らない」「気にする必要はない」と言われてしまった。


 「ミーナさん、先に食べてて下さい。 すぐに行きますから」

 「え、えぇ」


 この日も昼食前に、彼女はどこかに行ってしまった。 長い時間外すわけではないのだが、どうにも気になってしまう。

 だから今夜、彼女が行っている場所を突き止めようと決心した。 幸い、ジョンはまた、一日屋敷に戻らないらしい。 今日は調査に絶好の日だった。


 「ミーナさん、先にお風呂に入っててください。 私、ちょっと用事があるので」

 「えぇ、わかったわ、サニー」


 サニーが食堂から出たのを見て、私はこっそり行き先を見てみた。 どうやら屋敷の奥側に行ったらしい。

 食堂からほかの従者達の姿も見えなくなったころ、私も気づかれないように、屋敷の奥へ向かっていった。


 少し進むと、明るい茶髪でメイド服の女性が、ワゴンを押して奥へ進むのが見えた。 間違いない、サニーだろう。

 そして彼女はある場所で止まり、その中に入っていく。 ヘッドトレスが下がっていったように見えたから、あそこは地下室?

 彼女はワゴンの前に戻り、そこから何かをとって再び降りていく。 少しして、奥から声が聞こえてきた。


 「みん・・・・せぇ、ご・・・・・んだよ」

 「・・た ・・・だ」

 「・・・はなん・・・」


 聞き取りにくいわね。 もう少し近づいてみようかしら。

 そうしてワゴンの近くまで来ると、やはり、先ほど彼女が入ったのは地下室だと分かった。そしてその奥から声が聞こえる。


 「すっごくおいしい! ありがとう、おねぇちゃん!」

 「フフッ、感謝するなら、コックさんに言ってね」

 「お料理を作ってくださり、ありがとうございます」

 「おっ、君はちゃんと言えて、えらいねぇ」


 子供たちと、サニーの声。 どうしてこの部屋から?


 …………


  はっ、そういえば伯爵には、『幼い子供の奴隷を買っては、屋敷の地下で手足を切り刻んでいて、その手足をコレクションしている』噂があったわ。

  まさか懸念したように、この地下室では本当にそのようなことが?

  そしてサニーはウェルテクス伯とグルで、子供たちを太らせた後、伯爵が手足を切るのでは!?


  『ボス、今の子供たちも、十分肉がついてきましたよ』

  『あぁ、そうだな。 そろそろ狩り時か。 サニー、切り取りの準備を』

  『はい、ボス』


  あぁ、彼女はきっと、伯爵とこんなことを話していたに違いないわ!

  そう考えると、ほかのメイドがこの仕事を知らないのも分かるわ。 暗い仕事なのだから、話すわけがない。 サニーが伯爵のために働いているのも、この秘密を知ってる数少ない人物だからよ。

  だったら、今地下室に囚われている子供たちが危ないわ! 入るな、と言われてるけど、子供たちが危機にさらされているのに、止めないわけにはいかないわ!!


 ……………


 私は意を決して、地下室の中に飛び込んだ!


 「大丈夫、皆! ひどいことされてない!?」


 そこで私が見たのは、席について食事を取っている男女二人の子供と、左足の一部が欠けた・・・・・・・・・少女の姿だった。

 「えっ?」

 まさか、もう手遅れだったの? 一人はもう伯爵の餌食に?

 そう思った私の肩を、何かがトントン、と触れた。 振り向くとそこには……


 宙に浮いた左腕(・・・・・・・)を、笑顔で掲げるサニーの姿があった。


 「あっ、あ…………」


 理解できない事に体の震えが止まらなくなり、そして、


 私の意識は地に落ちていった。


 「だ・・・・ぶ」

 「・・かり・・ ・・ぇさん」


 最後に聞いた子供達の声は、やけに悲しそうだった。

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