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トラブルメイドのサニー

03


 結婚式から2日後。 私は部屋で一人、静かに過ごしていた。


 「……何かないかしら」


 ジョンから、自由にしていいとは言われているものの、まだ何をしたらいいのか決まらない。

 できるなら、ほかの人のためになることをしてみたいのだけど。


 というか、伯爵もどうして私の実家リードけに行かれたのかしら。

 考えられるのは、父の借金の返済のため。 だけど……


 …………


  はっ、まさか、私もあの噂のように、手足を切り刻まれてしまうのかしら。

  父も借金のあてと言ってたし、私の目当てだと考えてもおかしくない。

  今頃あの悪魔と父が、契約を交わしているに違いないわ!


  『旦那様、此度の借金の件ですが、これぐらいあれば、十分に返済が可能かと』

  『あぁ、感謝するよウェルテクス伯爵。 ミーナも、きっと家のためになったと感謝しているだろう』

  『『はははははは…………』』


「おく・・、・・れい・・・」


  そして屋敷に戻られたら、私の手足を切り刻むつもりなのよ!

  無理やり私を地下室に押し込めて、手足を縛りつけて…… 


  『何をするんですか、ウェルテクス様!』

  『安心したまえ。 君は僕の芸術の一部となるのさ』

  『嫌です! やめてください!』

  『感謝するよ、ミーナ。 いいもの・・を持ってきてくれて。

  君の手足は、最高のオブジェになるだろう……』

 

  そして彼は、強引に私の体を……!!


 …………


 「あの、大丈夫ですか? 奥様」

 「へっ、あ、ごめんなさい!」

 

 突然、誰かに呼びかけられて驚いてしまった。 気づかないうちに、部屋に入ってたのね。

 

 「え、と。 あなたは……」

 「サニー、とお呼びください、奥様」


 明るめの茶髪で、ノースリーブのメイド服を着こんだ彼女は、そう明るい声で伝え、一礼した。

 政略結婚とはいえ、確かに奥様ではあるんだろうけど、そう呼ばれるのは少し恥ずかしいわね。


 「ところで、先ほど奥様は何を?」

 「い、いえ、何でもないわ!」


 さっき妄想してるとこ、見られちゃったのかしら……

 顔が赤く火照ってきてる、って2日前にもあったわね。 気をつけなくちゃ。


 「そ、そうですか……

  では、部屋の掃除をしますね」


 幸い、私の様子を気にすることなく、サニーは掃除を始めてくれた。

 彼女ははたきで部屋の埃を落としていき、次いでほうきで床を丁寧に掃いていく。 やはり本職のメイドだからか、その動作に迷いは感じられない。

 そしてモップを取り出して床を拭いて…… あら?


 「あなた、ちゃんと水を絞ってるの? 水が垂れてるわ」

 「も、申し訳ございません! 水を絞るのが苦手で……」


 メイドなのに、絞るのが苦手なんて、変わった子ね。


 「うぅ、申し訳ございません、なんとお詫びすればよいか……」


 サニーは目を滲ませて、私の沙汰を待っている。

 でも、こんな子にきつく当たるつもりはない。 むしろ……


 「そのモップ、私に貸してくれない?」

 「えっ!?」

 「私も、暇を持て余していたのよね。

 ちょうどいい仕事になるから、私にも手伝わせてくれない?」

 「でも奥様、服が汚れてしまいます」

 「これぐらい平気よ。 私は貧乏令嬢だったから、家事も一通りできるし、汚れなんて気にしてこなかったわ」


 実際、小さい頃から家事を叩き込まれてきたから、自分の部屋を自分で掃除するのは、朝飯前のことだった。

 それを聞いて、彼女は少し戸惑う様子を見せたけど、


 「え、と、じゃぁ、どうぞ」


 おどおどと体を震わせながら、サニーはモップを渡してくれた。


 「ありがと。 じゃぁ、私が床を拭いておくわ」

 「あの、本当にいいんですか?」

 「いいわよ。 あなたも無理はしないで、出来ることをすればいいのよ」


 この言葉を聞いた彼女は、少し顔をほころばせた。


 「ふふっ、どっちがメイドなのかわかりませんね。

  ありがとうございます、奥様。 じゃあ、ソファをずらしておきますね」


 そう言って、サニーは壁の近くのソファに寄って行った。

 でも、ずらすってどうやって……


 「よい、っしょっと」


 ……見るからに重そうなソファが、簡単に引っ張られてしまった……


 「あなた、意外と力があるのね……」

 「フフン、スゴイメイドですから!」


**********


 その後、二人で協力して掃除をしたことで、私の部屋はピカピカの綺麗な部屋になった。

 

 「ふぅ、何とか掃除できたわね」

 「ありがとうございます奥様。 おかげできれいに掃除できました」

 「その、奥様って呼ばれるの恥ずかしいから……」


 と言いかけたところで、扉から女性の声がした。


 「サニー、あなたまた一人で…… あら?」

 「あっ、リーダー、お疲れ様です」

 「リーダー?」


 入ってきたのは、赤いメイド服を着た女性だった。 確かに、初日の屋敷の案内の際、先頭に立って案内してくれた覚えがある。 彼女がサニーたちメイドの長なのだろう。


 「改めまして、わたくし、メイド長のアマリアと申します。 お見知りおきを。

  ところで奥様、サニーが何か粗相そそうをしませんでしたか?」

 「いえ、気にするほどではないわ」

 「あら、お召し物が汚れて……」


 彼女は私の服と、手に持ってるモップを見たあと、表情を険しくしてサニーに迫った。


 「まさかサニー、あなた、奥様に掃除させたんじゃないでしょうね」

 「えっ、ええと」

 「違うわ! 私がしたいと言ったの!」

 「奥様が?」

 「えぇ」


 アマリアは少し首をかしげて、私の表情を見た後、サニーのほうを振り向いて続けた。


 「サニー、本当ですね?」

 「は、はい! 本当です!」

 「……にわかには信じがたいけど、サニーは良くも悪くも嘘はつけないから、本当なのね」

 「はい、正直者です!」


 サニーは自信たっぷりに、眉を上げ、声を大きくして伝えた。

 ……そんな顔をして言う事じゃないと思うけど……

 まぁ、いいわ。 ちょうどメイド長がいるなら、私がやりたいことを、伝えなきゃ。


 「あの、アマリアさん。 私も、一緒に仕事をさせてください」

 「奥様が?」

 「はい。 私、体を動かさないとむずむずして。 掃除、洗濯、炊事、一通りこなせます。 迷惑はかけないようにするから、お願いできないかしら」

 「ふーん……」


 考え込むアマリア。 やっぱり、『奥様』を働かせるわけにはいかないのだろうか。

 そこに、サニーが割って入り、言葉を続けた。


 「私からもお願いします、リーダー。 奥様、すごく丁寧に掃除してくれましたから」

 「そう、なのね」


 アマリアはさらに考え込み、しばらくたった後、ついに答えを伝えてくれた。


 「分かりました。 奥様も、一緒に仕事いたしましょう。

  しばらくは、サニーが『先輩』として仕事を教えて」

 「せ、先輩……!」


 その言葉を聞いて、すごく嬉しそうな表情をするサニー。 後輩ができるのがうれしいのね。

 と思ってると、アマリアが私に近づいて、こっそりと告げた。


 「サニーは見ての通り、少々問題を抱えています。

  奥様が一緒に仕事をしながら様子を見張ってくれれば、私共の負担も減りますので」


 なるほど。 だから私が『後輩』なのね。 サニーが何かしようとしても、すぐに止めるために。


 「分かったわ。 アマリアさんも、一緒に頑張りましょう」

 「えぇ」


 こうして、私はサニーの後輩として、メイドの仕事をするようになった。


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