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第2話 帰還

 突然あらわれる光の世界。


 ワシは、その時、異世界を越えるための長い暗がりを抜けて、その世界に現れたのじゃ。


 つまり、もといた世界。


 現代の世界に降り立った。というわけじゃ。


 おおよそ、100年ぶりに聞く喧騒は、たった今までいたファーグルという世界が、いかに静かだったかを思い知らされるほどうるさく、けたたましく、やかましい。


 この世界の人間は、よくこんな騒音の中で暮らしていけるものだと感心すらする。


 そして、そんな音に混じって、今度はこの耳を突き破るほどの音が鳴り響いた。


 なんと、まあ、やかましい事か。


 この音を聞いたら、あの多少のことではびくともしない『岩竜』驚き目をさますじゃろうて、と思うものの、この音は、基本、誰かに危険を知らせることを目的としているのだから、どんな状態にあろうとけたたましく響くのは当たり前なことだ。


 自動車のクラクションじゃからな。


 今のワシのように、横断歩道でもない車道に飛び出れば、当然、車は走ってるわけで、そこに人が飛び出たんじゃからな、そりゃあ、車の方も驚いていて、この音が鳴り響くのは当たり前じゃろう。


 あと、クラクションの音と同時に、甲高いブレーキの音。


 そして、この音を聞いてワシはおもいだしたのじゃよ。


 ああ、ここでワシ、死んで、あの世界に転生したのじゃなあ……。なんて、つまりは自分のかつての死を、最後の時を思い出して、感慨深い感情が湧き上がっておった。


 確かに、ファーガルドで過ごした100年あまり。


 すっかり、自分がそっちの世界の人間で、この現世のことなどちっとも考えてなかった大賢者としての生涯を思えば、ここの10数年あまりの元いた世界の記憶など、夢か霞か幻のような、そんなあやふやな、もう、思い出してもうっすらとしか思い出せないと、そう思い、考え、いや、きっと帰れないと思い込んでいた、かついていたこの世界のことなど、あまり考えないようにしていたのかもしれない。


 しかし、いまこうして、再び、現世。だから、かつていた、この世界に戻り、一瞬の喧騒。そして、この強い日差しに、当時の夏を思い出して、さらに、焼けたアスファルトから立ち上る匂いと街の喧騒。


 まるで、その世界。環境を浴びることによって、ワシは、今、違えて忘れていたと思い込んでいた世界を瞬時に体感し、これを現実と受け止め、消えていたと思った記憶の端端すら思い出そうとしていた。


 まあ、それよりも早く、ワシには今にも、この道路の上でトラックに撥ねられそうになっているんじゃが。


 いや、むしろ、そっちの方が早い。


 ほら、大型トラックのバンパーが体に触れた。


 いやいや、アルカー様。


 なんで、よりにもよってここに転移させたのじゃ?


 これ、交通事故不回避じゃん。


 もう、絶対、跳ね飛ばされて、死ぬじゃん。ワシ。


 


 


 

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