死刑になりたい自分
手が引けない。
腕にカッターナイフを当て軽く引くだけだ。それだけで、願いが叶う。これまでの悪夢が終わる。
それが分かっていても手を引くことが出来ない。
覚悟が足りなかった訳では無い、そんなものはとっくに終わらせていると思っていた。だが腕を切ることは出来ない。
生物的な本能だろうか、それとも死への恐怖だろうか、どれだけ傷を付けようと思っても手が振るえるだけだ。
そんな状態が何時間つづいただろう。
「ダメだわ」
今日は諦める。しょうがないんだ手が動かないんだから、それに仕事もある。
まとめてある荷物をもって電車に乗り都会の中心の方に行く。今日は休日なので周りには学生やキラキラした陽キャが沢山うろついている。
楽しそうだな、俺もあんな生活を送りたいな。見ているだけで、胸を締め付けてめまいが起こりそうになる。
だが、いつもの事だ。我慢しながら、ゆっくりになっていた足に力を入れて人波に入っていく。
仕事はいつも通り提示までには終わらせて、帰る事が出来る状態だ。だが、周りの同僚や先輩、そして後輩は全員残っていて、帰りたくない状況だ。
帰っても特に予定はないので、上司に仕事が無いか聞いたり後輩の仕事を手伝ったりして何となく時間をつぶす。
2時間くらいたった頃だろうか、このオフィスからは人が減っていく。今だと思いながら切りが良い所まで終わった仕事をしまい、帰る事にした。
この時間だと周りの学生の集団や、カップルたちが多くいるが、その様子にきずきたく何ので、気をそらすためのイヤフォンを肩耳に入れて家まで帰る。
いつもは音楽を聞いているが、何となくニュースを聞いている。それはありふれたものばかりで、イノシシが出たとか、殺人が起きたとか、死刑判決が出たとか。
その時何となく、「いいな」と思ってしまった。
殺人、死刑に対して『いいな』。
それは自殺する勇気が無いヘタレの俺が何となく、死刑と言う勇気がいらない死に方、そして最後に一花咲かせたい。そこに良さを見出してしまった。
それからはタンタンと進んでいった。何となく爆発しやすい物を買ったり、トラックを買ったり、そして自分と言う花が散る時が来たのだ。
自殺する勇気が無い人は沢山いると思う。自分は社会の歯車、使い捨ての駒、どこまでも平凡。毎日につかれて、そしてその日常に飽きてくる。
どこか疲れてきて、自分が分からなくなって、生きている意味が分からなくなって、何となく刃物を握る。手は震えて、そして今までの人生が灰色に見える。
いつまでも、灰色だ。何か変わりたい。
【最後と思えるようなことをしたい】
一度だけでいい。歯車から抜け出して。駒を踏みにじって。特別な存在になって。ただそれだけなのだ。
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