秘密裏に危機は動き出す
アシュタロス平原の片隅、廃神殿……今、まさに恐るべき陰謀が動き出そうとしていた。
「偉大なる破壊神ヴラドベイン様から今、神託が下された……ハジーマ村を焼き……カシオペアの継承者を攫ってこい」
禍々しき声色で破壊神官オズヴォルドは配下に血も涙もない指令を出した。
「あのカシオペアの後継者だと!? ついに我らヴラドベイン教団の前に姿を現したか……グフフ、腕が鳴るぜ」
ヴラドベイン教団一の武闘派として鳴らしている恐ろしきオーク、ガルドはカシオペアの後継者の出現に興奮を隠せない。
「ガルド、お前が一番槍か……お前の力ならあの憎きカシオペアの後継者に我が偉大なるヴラドベインの威光を見せつけ、ひれ伏させるのは容易だろう……期待しているぞ」
オズヴォルドは闘争心溢れるガルドに心からの期待を込めた言葉を贈った。
「今からハージマ村を焼きに行くぞ! お前らついてこい!」
ガルドの言葉に配下のゴブリンたちは恐ろしい声を上げる。そしてガルドは配下を引き連れ廃神殿を出ていった。
「ガルド、あなたにヴラドベインの祝福があらんことを」
オズヴォルドは立ち去るガルドに向けて静かに武運を祈った。そこに突然、神殿の柱の影から黒ずくめ騎士甲冑の男が出現する。
「オズヴォルド……ガルドを出撃させて良かったのか?」
黒騎士はオズヴォルドに怪訝な視線を向ける。
「あなたは黒騎士カースウェッジ卿……なぜこちらの神殿に?」
「私はヴラドベイン様から自由行動の認可を得ている……カシオペアの継承者が出現したという情報を聞けばどこにでも現れるのさ」
「なるほど……カースウェッジ卿も今回の神託に参加したいということですか……」
オズヴォルドは少し思案し、口を開いた。
「仕方がありませんね……カースウェッジ卿ほどの実力者が同行したいというのならそれを認めざるを得ませんな」
そのオズヴォルドの口調には苦渋の決断を匂わせるものがあった。
「オズヴォルドが話が分かる神官で良かったよ……次に会うときには吉報が出ることを祈っているよ」
そうつぶやくと黒騎士は姿を消した。
「カースウェッジ卿、あなたは一体何を考えているのか……」
オズヴォルドは虚空に向かって静かにつぶやいた。それは黒騎士に対する何らかの感情の発露なのかそれとも違う何かなのかもわからなかった。