突如異世界転移した上に仲間と離れ離れになってしまったヒーロー
「ここは……どこだ?」
一之江カケルは気が付いたら見知らぬ土地にいることに気づいた。ついさっきまでカケルは基地で仲間たちと談笑していたはずなのだが、突然、基地内の電源が落ちた。
何者かのハッキングかと思ったのも束の間、異常なほど薄暗いことに気づき、カケルたち警戒態勢に入った。だが何者かが侵入してきた気配もない。訝しんでいると急に明るくなって現在に至るわけである。
「みんな無事か?」
しかし仲間の声は誰も聞こえなかった。カケルは一瞬で独りぼっちになってしまったと直感した。周囲を見渡すと一面が草原であり、隅っこに街道らしき道が伸びていた。
「こうなったら街道沿いを歩いていくしかほかはないのか」
カケルは道を辿って歩いて行った。
数時間後!カケルは幾度も幾度も道を歩いたが村落どころか通行人すら見当たらない。
「どこまで歩いても延々と道は続いている……いったいどうなっているんだ!?」
カケルは村落が見つからないことを嘆いた。こうなってくると流石にカケルも精神的疲労を隠せない。ついにカケルは座り込んでしまった。なぜこうなったのかもわからなく太陽が西に沈む姿をただ見つめるしかなかった。もうこのまま終わってしまうのだろうかと思った時、道の後ろの方から馬車がゆっくり近づいてきた。カケルは必死に手を振り馬車に存在をアピールする。そしてそのアピールが功を奏したのか馬車はカケルの目の前に停車した。
「おーい! 助けてくれ! オレを街まで連れて行ってくれ!」
カケルは馬車に向かって声をかけた。馬車の扉が開き、中からオレンジ色の髪を短めのツインテールでまとめたの可愛らしい少女が出て来てカケルを手招きしてきた。どうやら中に入ってもいいらしい。
「ありがとう! 助かるぜ!」
カケルは感謝の言葉を馬車の御者に言いながら馬車に乗り込んだ。
「この辺では見かけない顔だけど、どうしてアシュタロス平原で一人で立っていたの? この辺は一人で行動するとても危険なんだけど……ひょっとして命知らずなの?」
オレンジ髪の少女はカケルに当然の疑問を訴えた。カケルは苦笑いした。
「実はオレにもよくわかってないんだ……気が付いたら草原に立っていたんだ」
カケルは素直にここに出現した理由がわからないということを説明した。
「ふーん、要するに迷子というわけね……それじゃあ、ウチの楽団に来なよ。楽器の演奏が無理でも雑用係ぐらいならできるでしょ?」
オレンジ髪の少女は軽い調子でカケルの身柄を彼女の属する楽団が預かることを提案した。カケルはここで会ったのも何かの縁だと思った。
「街で寝床を確保するのも大変そうだしな……あんたの団長の機嫌しだいだがオレはその提案に乗るぜ」
その言葉を聞くとオレンジ髪の少女は笑顔になった。
「きっと大丈夫だよ、団長は寛大な人だからね……あたしはレミィ、リトルプラム楽団の一員なんだ……自己紹介をしたし今度はあんたの名前を聞かせてよ」
「オレの名前は一之江カケル、ここに来る前は東京で……警備員をやっていた」
カケルは必要最低限の自己紹介を済ましたが、レミィは目をぱちくりさせた。
「トウキョウ、知らない地名だ……まぁ、細かいことを気にしてもしょうがないよ!明日は明日の風が吹く!」
レミィにカケルは励まされた。カケルは正直言って不安だったが、考えてもしょうがないなと思った。しかしなんでこんな世界に飛ばされたのか全く見当がつかない。いったい何が起きているのだろう。カケルたちは大変な事件に巻き込まれていることにうすうす感づいていた。