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寂しがりやの吐露

「俺からのプレゼントはこれだ。眠気覚ましを作ってみた。エーリアに頼んで味の調整もしてある」


 瓶に入った粉をビーレストへと渡す。


「眠気覚まし? なるほど、勉強に使えってことだね」

「それもあるがそれはまだ試作品だ。使用感を聞いて改良品を一年以内に渡したいと思っている。ビーレストには学園でそれを生徒たちに広めてもらいたい」

「有用なら自然と広まると思うけど、大丈夫なの? 生産とかうちだけじゃ間に合わないでしょ?」

「そこでディアスの働いている商会を使う。あそこで生産を頼んで、俺たちはアイディア料だけをもらうって寸法だ」


 夢の不労所得、その第一歩がこれとなるわけだ。しかもビーレスト経由の依頼だから自然と入社することになるだろうディアスの立場も向上する。こっちの計画としてもありがたい話だ。


「なるほど、商会は貴族相手に商売ができるし、僕たちは待っているだけでお金が手に入るようになるわけか」

「今後はビーレスト分の収入が減るからな。代わりはしっかりと用意しておかないとな。それにこれを広めたのがビーレストとなれば自然と名声も上がるはずだ」

「なるほど、なら明日からでも勉強中に使わせてもらうね」

「寝てるイーレンが飛び起きる代物だ。使うときは少しずつな」

「それは……ちょっと怖いな」

「指先に付けて舐める程度でいい。味も濃さとかは調整できるはずだから」

「分かった。要望があればすぐに伝えるよ」


 全員のプレゼントが並ぶ。それを見て、ビーレストは袖で目元をぬぐった。


「改めてみんなありがとう。僕は養子としてこの孤児院を出ていくことになっちゃったけど、ここは僕の実家だし、みんなは僕の家族だと思ってる。それは養子になっても変わることはないよ」


 ビーレストの言葉に、シスターは静かに目元をぬぐい、女子二人は声を上げてビーレストへと抱き着く。男子たちも強がりながらもその瞳には光るものが見えていた。


 俺? シスターとおんなじだよ。言わせんな恥ずかしい。


   ◇


 パーティーも終わり、みんなが寝静まった夜。コンコンと部屋の扉がノックされた。


「どうぞ」

「約束通りきた」

「やっほー」


 部屋に入ってきたのはイーレンとエーリアだ。二人とも寝間着姿にボードゲームを持ってきている。

 まあ、夕方に眠くなるまで付き合うって約束したからな。


「なに持ってきたんだ?」

「四塔並べ」「私は壁張り」

「また頭を使うものを」


 孤児院にはいくつかのボードゲームが置かれている。どれも既存のゲームとして販売されているものをマネてエフクルスが作ったものだ。普通に買おうとすると高いからな。

 四塔並べは〇×ゲームのように4×4のマス目にコマを一列に並べるもの。まあ並べるコマにも四種類あって、その上置くコマは相手が決めるなどいろいろとルールがあるが。

 壁張りは10×10のマス目の自分側にコマを一つ置き、それを相手側の端まで進めるゲーム。壁張りの名の通り、プレイヤーはコマを進めるか妨害のための壁を作るかを選択できるゲームだ。

 どっちのゲームも複数種類の正解があり、かなり頭を使う。まあ疲れさせるにはちょうどいいかもしれないゲームだな。

 けどお前ら、それ二つとも二人用じゃねぇか。せめて三人でできるもん持って来いよ。


「誰からやるんだ」

「私が先」

「私は後ね」


 そのあたりは来る前に決めていたらしい。俺がテーブルに着くと、正面にイーレンが、ベッドにはエーリアが座る。そして静かにプレイを開始した。

 コツ、コツとコマを置く音が部屋に響く中、エーリアがふと口を開く。


「ねぇ、みんないなくなっちゃうのかな」

「そうなるほうがいいだろ」

「けど寂しいよ」


 うすうすはわかっていたことだが、ビーレストが孤児院からいなくなることが確かなものになったことで、全員が直視することとなった現実だ。

 このままずっとここで暮らしていくことはできないということ。孤児院なのだから独立すれば出ていくのは当然のことだ。だが、誰もがこのままずっと一緒に楽しくとは考えてしまうものだろう。


「近いうちにディアスもいなくなるんでしょ?」

「たぶんな。この機会を商人が逃すとは思えない」

「シークはどうするんだろう」

「まだわからない。けど、いずれあいつも自分の道を見つけるはずだ」


 肉の加工場であるシークの働き先ではあまり貴族との関係を重視することはないだろう。だが、シークが生き物の体に興味を持っていることは確かだ。俺としてはそれを利用して教会の医療部門に入れられないだろうかと考えていた。

 この世界、まだ外科手術は発展していない。だが、禁忌として触れていないわけでもない。教会が医療機関として人の体の研究は行っている。シークをそこに入れることができれば、将来的に悪役令嬢がもってくる問題に対処しやすいと考えていた。


「イーレンはどうするつもりなの?」

「分からない。けど、ノクトが教えてくれる化学は好き。土のこと、火のこと、水のこと、もっと知りたいとは思う」

「ならノクトみたいに学園の志望?」

「かも。エーリアは? やっぱり畑?」

「畑は好き。けどここの小さな畑じゃ生きていけるほどには稼げない。エフクルスも自分の作ったものでしっかりと稼ぎをだしてるし、私も別の仕事を探さないといけないかなって思ってる」

「別に無理にほかの仕事を探す必要はないぞ」


 そんなことを考えていたのか。けどその心配はないんじゃないかと考えている。

 俺はコマを置く。


「改良型の芋の生産が始まれば、もっと高値で売れるようになるし、エーリアが植物関連の実験を行うなら、その畑の管理者が必要になってくるはずだ。今後はほかの野菜にも手を伸ばしていくつもりだし、場合によっては隣の土地を購入する予定もシスターと相談している」

「そ、そんなことまでしてたの!?」

「まあな」


 そもそも今後は品種改良なども含めた味や量の増加を目的とした実験は続けていく予定だ。イーレンにもその知識を与えるつもりでいる。

 扱う野菜が増えれば自然と畑も多く必要になるし、幸いにも隣の土地は廃墟が建っているだけ。貧民街だけに土地も比較的安く、国に申請すればすぐに購入は可能だろう。


「だから好きなことを続けろよ。道は俺が示してやる」

「ノクト――ありがとう!」

「あっ、ちょっ、あぶなっ」


 エーリアが抱き着いてくると同時に、イーレンがコマを置く。


「タワー。ノクト、私の勝ち」

「んなっ」


 並べられたコマは、確かにイーレンの勝ちを示していた。

 イーレンはこの手のボードゲームが非常に強いのだ。きっと地頭がいいのだろう。

 満足気な表情のイーレンがエーリアと席を交代する。


「じゃあ次は私と壁張りで勝負!」


 そして元気を取り戻したエーリアと、次のゲームを開始するのだった。

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