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打ち上げと言えば――肉!

「集計を行います。残っている騎馬の方たちは集まってくださーい」


 運営の指示に従って集計の場所へと集まる。

 優勝候補だったロッソはカトレアに敗れ、そのカトレアもヴァイスによって撃破された。

 突出してハチマキを確保していた二人が敗れたことで、勝負の行方は分からなくなっている。観客たちも、誰が勝ったのか予想がつかないようだ。

 ヴァイス王子たちは、ヘイト管理のために一騎にハチマキを集めなかった。他のチームも生き残っているものは逃げることを優先していたため、ほとんどの騎士の手にはハチマキが見当たらない。


「作戦通りだな」

「行けそうなのか?」

「予想が正しければ」

「けど俺たちも全然倒せてなかったろ?」

「これだけあれば十分だ」


 騎馬を崩して集計係にハチマキの本数を告げる。

 しばらくして集計が終わると、グラウンドの中央に整列し結果発表を待つ。


「集計が完了しました! では結果を発表します。まずは三位から! と言いたいところなのですが、今回は獲得本数が同じチームが三騎いたため、四位のチームに一ポイントが与えられます! 獲得本数は二本! 撃破不可能と思われていた優勝候補を下し、一騎も脱落することなく、見事三騎そろってランクインした一組の三チームが同率四位となります!」


 歓声に応え、一組のチームが観客たちへと手を振っている。ヴァイス王子は騎馬役のメンバーに胴上げされていた。

 そしてこの時点で俺は心の中で小さくガッツポーズを作った。ウルバ達も笑みをこらえきれないようだ。


「そしてこの乱戦の中を生き残り、見事一位を勝ち取ったのは――――四組! ノクト選手のチームです! 獲得本数は三本! 適格な状況判断と勝負をあきらめない立ち回りがこのチームを優勝へと導きました。戦技指導の先生方もノクトチームとヴァイス王子のチームの立ち回りには称賛を送っていることからも、この四騎の勝利は運だけなのではない確かなものだったと言えるでしょう!」


 おお、実況がかなり必死に俺たちのサポートをしてくれている。

 正直最初は逃げて多少奪いつつの戦い方って批判されかねない戦い方だったんだが、その批判をさせないための解説は素直にありがたい。

 これでうちのクラスにも一気にポイントが入ったし、チーム対抗もなかなかいい順位まで行けるんじゃないだろうか。

 そして運営はそのまま他の生徒たちもグラウンドに集まる様に指示を出した。どうやらこのまま閉会式を行うようだ。

 すると堰を切ったかのように一組と四組の生徒たちが待機場所から飛び出し、俺たちの元へ駆け寄ってくる。

 一組はカトレアに勝ったヴァイス王子たちの元に、そして四組は優勝した俺たちの元へと集まってくる。そのまま人の波へと飲み込まれ、俺たちは手荒い祝福を受けることとなるのだった。


   ◇


 閉会式も終わり、片づけもすべて終わらせて実行委員の仕事はすべて終了となる。

 生徒たちのいなくなったグラウンドで解散式を行い、各々が帰宅していく中で俺はカトレアに呼び止められた。

 カトレアの後ろにはいつものメンバー。ヴァイス王子やセラ、そしてシュヴァルツの姿もある。


「この後打ち上げ行くつもりなんだけど、ノクト君もどうかしら?」

「いや、貴族の打ち上げとか普通に怖いんだけど」


 こちとら一般市民だぞ。貴族、まして王族の混じった打ち上げに気軽に誘うんじゃねぇよ。


「大丈夫よ。そんなパーティーとかじゃないから。それに、ちょっとしたプレオープンも兼ねてるの。例のお店よ」

「例の……もうできたのか」

「一応貴族向けほどでもないけど、高所得者向けの店として一店舗開店準備ができたのよ。ここでノウハウを蓄積して、平民層と貴族層に分けて店舗を展開していくつもりなの。そのテストなんだけど、来てくれない?」

「ふむ――」


 打ち上げに焼き肉屋。行きたくないと言えば嘘になるが、こっちもエーリアとかが解散式が終わるのを待ってくれている。あいつらに断りを入れて焼肉に行くってのもなぁ。


「こっちも何人か誘っていいか?」

「もちろんよ。プレオープンだけど、他の人はハオラ商会の人しか誘ってないから、人数は気にしないで大丈夫よ」

「なら参加させてもらうよ。ハオラだとディアスも来るだろうし、ビーレストとかも呼んでみるか」

「そうね、ならそっちは私から誘っておくわ」

「分かった。ならエーリア達を呼んでくる」

「平民区画側の校門で待ってるわね」

「あいよ」


 いったんカトレアたちと別れ、エーリア達の元へと向かう。


「悪い。待たせたか?」

「ううん、イーレンちゃんに学園のいろんなところ案内してもらってたから」

「そうか。イーレンありがとよ」

「問題ない」

「ノクトも仕事は終わったんだよね? じゃあ帰ろっか」

「あ、ちょっと待ってくれ」


 俺は帰ろうとする二人を止めて、打ち上げに行かないかという話を説明する。


「私無関係なんだけどいいのかな?」

「俺の婚約者だからな。問題ないさ。向こうも了承してるし」

「焼肉。興味深い。ぜひ行くべき」


 エーリアは遠慮しているようだが、俺とイーレンが行きたいという意思を示したことで、同意してくれた。ビーレストも誘ってい来ることと、婚約者として連れていくっていうのももしかしたら効いたかな?


「んじゃ行くか」

「やきにくー!」

「お、おー」


 エーリア。無理にイーレンのノリに乗らなくていいんだぞ? こいつも絶対によくわかってないし。


   ◇


 肉の脂が炭へと落ち、ジュっと音を立てて煙を上げる。

 ゴクリと誰かが唾を飲む音がした。


 案内された焼肉屋は、富裕層の住む区画の近くに軒を構えていた。

 見た目は現代の高級焼き肉店のような印象で、黒塗りの看板に始まりあまり主張をしない店構えだ。

 だが店先では炭が焼かれて準備されており、暖簾にはこちらの文字で炭火焼肉と書かれていた。

 店内は個室タイプになっているが、上はつながっている半個室であり、壁をどけることで大きなテーブルに変えることができるようにもなっている。

 俺たちも今回は少し人数が多くなったので、壁を取っ払って三つの部屋をつなげていた。

 あらかじめ連絡を入れていたからか、すぐにテーブルへと案内され、料理が運ばれてくる。料理といっても、切った生肉だ。最初貴族組は驚いていたが、カトレアが自分で焼くのだと説明されて一応は納得していた。

 そしてプレオープンも兼ねるということで、店員からの説明を聞き後はご自由にという感じで店員が部屋を後にする。

 俺たちは言われたままに生肉を並べて、今に至るという訳だ。


「そろそろよさそうね」

「ああ」

「これが焼肉。なんて魅力的な料理なんだ」

「食欲を刺激する香りですね」

「ただお肉を焼いているだけのはずなのに不思議ですね」

「さて、一枚目はホストである私がいただきましょう」

「まあ待て。ここは一応位のことも考えて俺が食べよう」

「いやいや、王子やホストに危険があってはいけないからね。治療院に努めている僕が一枚目は食べさせてもらうよ」

「そんな! 毒見は女の仕事ですわ。婚約者である私が」

「なら一番年下の私がいいと思います!」

「それなら平民の俺のほうがよくないか?」

「平民の女なら私だよね?」

「美味しければ問題ない。いただきます」


 熾烈な舌戦が繰り広げられる中、スッと伸びてきたフォークが網の上から一枚の肉を攫い、流れるようにタレを付けて口の中へと運ばれる。その動きに対応できるものはいなかった。

 もぐもぐと頬張るイーレンは、美味しそうに表情をとろけさせた。


「美味」

「おまえ!?」

「焼きすぎは味を損なう」

「そうだけど! そうだけどそうじゃなくてぇ!」

「もういい! とにかく焼いて食うぞ! 腹が減った!」

「これは貴族も平民も関係なくなりそうだね」


 もはや誰が誰だか分からない。

 テーブルに埋め込まれたコンロへと肉が並べられ、各々に狙いを付けた一枚を育てていく。

 そして改めて全員が一枚ずつ食べたところで、ようやく落ち着いてきた。


「これはなかなか面白い仕組みだな。自分で焼きたてを食べるというのは斬新だ」

「素人が焼いて食べるっていうのは、治療院としては少し心配かな」

「一応衛生面は気を付けているけど、平民区画側は不安よねぇ。貴族側ならむしろシェフに目の前で焼いてもらうのもありかも」

「手軽なキッチンショーか。それもありだな」


 貴族側からするとこの仕組みはなかなか斬新なようだ。まだ子供だからか、このシステムにもあまり忌避感は感じられない。

 これが歴史ある貴族だったり、貴意にこだわる人だったりすると拒否反応を起こすだろうな。そのあたりはカトレアが言う通りキッチンショー形式にしてしまうのがありだろう。

 やはり焼肉は大衆文化。平民の娯楽である。


「このタレ美味しい。どんな材料使ってるんだろう」

「果物と醤油らしいぞ。わざわざ醤油は取り寄せたんだと」

「へー、再現は難しいかなぁ」


 この世界、普通に醤油が存在するが海外からの輸入品という扱いだ。おかげで、貴族以外はなかなか手に入れるのが難しい。


「まあレモンとか塩で食べるのもありだと思うけどな」

「私はネギ塩が好き」


 エーリアは牛タンを気に入ったようだ。ネギ塩ダレを牛タンでクルっと巻いて幸せそうに食べている。


「お兄様、次は何を焼きましょうか?」

「お肉ばかりじゃなくて、野菜も焼こうか。玉ねぎとかは炙るだけでもすごくおいしくなるからね」

「そうなのですね! わかりましたわ!」


 ルクリアはビーレストの隣にくっつき、トングで玉ねぎを並べていく。

 相変わらずべったりだな。そろそろ外堀も埋められているんじゃないだろうか。気づいたらそれ以外の道がなくなっているからな。女とは恐ろしいものだぞビーレストよ。

 エーリアへと視線を向けると、二人の姿を見ながら楽しそうに笑っていた。


「ビーレストは相変わらず野菜好きだね。お肉も食わないと大きくなれないよ?」

「ノクトは僕よりひ弱だけどね」

「体と技術は別問題だ……」


 ただ才能がないだけだし……


「ノクトの栄養管理は私がばっちり把握してるから大丈夫です」

「完全に籠の鳥だね」

「首輪はついてるが、放し飼いだから楽なもんだ」


 特に束縛とかされないしな。むしろ待っていてくれるってのは実際嬉しいものだ。

 上座の方では、カトレアが王子の育てていた肉を奪って喧嘩しており、その横ではセラがシュヴァルツと楽しそうに話している。

 焼肉店の展開、想定以上にうまくいくかもしれないな。


 肉を食べる勢いも収まってきたところで、俺は外の空気を吸いに店先へと出た。その後をカトレアが追ってくる。


「いい感じの店じゃないか」

「そうでしょ。記憶を頼りになるべくいいお店を再現したんだもの。セラやシュヴァルツの反応からしてもそこまでひどい感じではなかったし、バリエーションによる店舗展開はありね」

「その場合は店の名前は変えたほうがいいだろうな。下町のあの店と同じ名前ってのは貴族的にはプライドを刺激されかねないだろ」

「あ、それもそうね。高級感を謳ったいい感じの名前に変えておくわ。というかノクト君、もう自分が転生者だってこと隠す気ないわよね? 騎馬戦まで持ち出しちゃって、どういう気持ちの変化よ」

「王子から相談されてな。お前に勝つにはどうすればいいかって。俺としてもお前の悔しがる顔が見たかったから協力したが、ちょっと期待外れだったな。やり切った顔しやがって」


 騎馬から降りた時のカトレアは、負けたことにも喜んでいる雰囲気だった。純粋にいい勝負ができたことが嬉しかったのだろうが、俺としては少し期待外れである。


「それにお前も俺のスタンスはもう分かったはずだろ? 俺は物語にかかわるつもりはない。破滅エンドの回避は自分で頑張ってくれ。多少の手助けはしてもいいが、それは利益ありきだ」

「やっぱりそんな感じかぁ。じゃあ意見だけ聞かせてよ。今私は破滅に向かっているかしら?」


 不安なのだろう。物語を変えている自身はあっても、それが破滅から遠ざかっているかを判断はできないのだ。修正能力と言えばいいのだろうか。物語は時に強制的にそのストーリーに従わせようとするときもあるからな。そんな作品はいくらでもあるし。


「こんだけかき回しておいて破滅とかありえるのかねぇ」

「不安はやっぱり拭えないわ。だから私は徹底的に物語をかき回す。ゲーム通りのストーリーなんて一つも起こさせてやらないんだから」

「ま、応援はしておくよ」

「ノクト、ここにいたか」

「ヴァイス王子」

「じゃあ私は戻るわ。男二人でごゆっくり」

「変な言い方すんじゃねぇ!」


 カトレアはニヤニヤと笑みを浮かべながら店の中へと戻っていった。

 それを見送った後王子が突然頭を下げた。


「ノクト、ありがとう。君のおかげで、俺はカトレアに勝つことができた」

「頭を上げてください。ここは表ですよ?」


 まあ裏でも王子から頭を下げられるなんて面倒ごとの臭いしかしない。


「それに作戦を考えたのは王子です。計画したのも王子だ。俺はただ提案しただけ。実際のところ、ほとんどは王子がやったんだから、立派な王子の功績ですよ」

「そう言ってくれるとありがたいが、ノクトの提案がなければ俺は動こうともしなかっただろう。あいつに勝てるという自信がなかった。だから挑むことを辞めてしまっていた。お前という存在がなければ、俺はずっと負けたままだったと思う。だからありがとう」

「分かりました。王子の感謝は受け取ります。俺としても、騎馬戦は面白かったですからね。十分楽しませてもらいました。けど来年は大変ですよ? 今年の優勝者としてカトレアと勝負しなければならないんですから」


 あいつ、絶対にリベンジに燃えてかかってくるぞ。


「そうだな。今のうちから練習でもしておくか?」

「いいかもしれませんね」

「ノクト、これを受け取ってくれ」


 そういって王子はポケットから六角形の木板を取り出す。一見絵馬にも見える木板には、見慣れた王国の紋章が彫り込まれていた。そしてその裏面にはヴァイス王子個人の紋章。

 王家の人間には、全員が個人の紋章を持っている。その紋章が彫られた紋章を渡す意味は――


「いいんですか?」

「ああ。これは俺が今できる最大限の感謝だ」


 ヴァイス王子の後ろ盾を得たということだ。ただの平民、まして孤児に与えられるようなものではない。

 これを利用すれば、貴族街への門をくぐることも許されるし、なんなら王子のツケで買い物をすることも可能なのだ。


「分かりました。ありがたく受け取らせていただきます」

「うむ。お前はカトレアと近い場所にいる。色々と巻き込まれることも多いだろうからな。これがあれば雑事程度ならば回避できるだろう」

「巻き込まれるつもりはないんですが――」

「俺も昔はそう思っていたさ。けど気づいたら常に振り回される毎日だ。きっとあいつはそういう存在なのだろう」

「怖いこと言わないでくださいよ」

「フッ、まあこれからはよろしくということだ。じゃあ俺も戻らせてもらうよ。あまり席を開けると、肉を食われつくされかねんからな」

「結構焼肉を楽しんでますね」

「自分で焼くというのはなかなか新鮮で楽しい。それに味付けは単純だが奥深くて飽きが来ない。何度かは来てもいいと思っている。その時は誘うか?」

「平民なんで勘弁してください」

「ククッ、では身内だけの時にしておくとしよう」


 そういって王子は戻っていった。

 王子の身内って王族じゃねぇか。もっとお断りだわ。

 ちょっと親密になりすぎたかもしれない。そんなことを思いながら、俺も店の中へと戻るのだった。


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