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初デート

「エーリア、そろそろ行くぞ」

「はーい」


 日曜日である。この世界、基本的には週休二日制だ。曜日は世界観のためには微妙に捻っているが、面倒くさいのでまあ土日休みと言ってしまおう。

 昨日はハオラ商会との契約やなんやで忙しかったが、今日は丸一日フリー。というより、エーリアとの約束のために一日開けておいた形だ。

 うん、デートなんだ。

 約束したからな。一緒に遊びに行くって。

 しかも契約成立で俺の懐は温かくなることが確定している。心のゆとりもある中で遊ぶのは、健康と長生きの秘訣だ。まだ十四だけど。

 そんなわけで時間になったので玄関で待っていると、エーリアが部屋から出てきた。


「どうかな?」

「よく似合ってる。可愛いじゃん」


 今日のエーリアは気合が入っている。今年の流行色である黄緑を使ったシャツに春をイメージした乳白色のカーディガン。桜色のロングスカートと裾先から見えるブーツ。最後につば広の白い帽子とハンドバッグで決めている。髪の毛も両サイドを三つ編みにするなどこだわりが見えた。

 いつものエーリアはよれよれのシャツにズボンで首からタオルだからな。ギャップにときめいちゃうわ。ちなみに、あのジャージも正しい使い方で使ってくれているぞ。

 俺が素直に褒めると、エーリアは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「えへへ、今日のために奮発しちゃった。ノクトの服もかっこいいね」

「せっかくのデートだからな」


 俺もいつもの簡単仕様から変えて、ばっちりと決めている。といっても十四歳仕様なので、子供っぽさは残っているが。

 逆に大人っぽい服装しても、むしろ浮くからこれぐらいがちょうどいいさ。


「じゃあ行くか」

「うん」


 腕を絡める……はちょっと恥ずかしいので、エーリアの手を取って俺たちは孤児院から出発した。


 さて、今回のデートコースなのだが、簡単に言ってしまえば王都名所巡りである。

 なにせ生まれてこのかた十四年。まともに貧民街から出たことなどなかったし、遊びまわるようなお金もなかった。当然噂になるようなお店なんて行ったことがないし、そんなんだから穴場のおすすめスポットなんてものも知らない。

 デートコースの指南書なんてものも当然存在しないので、ここはスタンダードに楽しもうということになったのだ。


「午前中に絶対に行きたいのは自由の広場の演劇だっけ? 時間的にはだいぶ余裕があるよな」

「うん。それまで色々見て回ろ。広場の近くのお店って入ったことないし」

「そうだな」


 自由の広場は平民区画の中でも比較的裕福な人たちがクラス地域にある広場で、そこには演劇用の舞台が設置されている。毎週午前一回、午後二回の公演が行われるので、それを見に行く予定なのだ。それまでの間に、俺たちは周辺の店を散策することにする。

 広場周辺の店は、富裕層の地域ということもあってか露天なのではなくすべてしっかりと店舗を構えている。ブティックや化粧品店、洋服店などが軒を連ねている。

 基本的には女性向けの商品が多いが、たまに男性向けの店舗なんかもあるようだ。

 エーリアは店先に飾られている小物や服に目を引かれ、気の向くままに店内を歩き回っては時々俺に感想なんかを求めてくる。

 エーリアのセンスは飛びぬけていいというわけではないが、おかしなところもない。選んだ服はどれもエーリアに似合っていて、俺の褒めるボキャブラリーが枯渇気味である。


「こっちのはどうかな?」

「いいね、さっき持ってた服と合いそうだ」

「悩むなぁ。できれば今持ってるのと着合わせられるのがいいんだよね」

「なら前の店のやつじゃない?」

「よし、なら次の店行こ!」


 そんな感じで次々に店を回っていく。どこの店に行ったのか分からなくなるぐらい適当に店へと入っていくから、俺の頭が混乱を始めているよ。

 女性の買い物が長いのは、商品を選ぶ時間もあるけど、動線が定まっていないことも原因なんだろうな、なんて思いながら俺も店内のアクセサリーを眺めていると、再びエーリアからお呼びがかかる。


「ノクト、これどうかな?」

「お」


 一瞬言葉に詰まってしまった。

 エーリアは可愛らしい模様の入った平ヒモで髪を結んでいた。しっかりと結んでいるわけではなくて、試しに何度か巻き付けているだけだが、水色の髪にアクセントとしてよく似合っている。

 はっきり言ってかなりツボだ。


「すごいいいな」

「そうかな?」

「結構ツボだわ」

「えへへ、じゃあこれにしよ。すみませーん!」


 エーリアは即断で購入すると、そのままこの場でリボンを店員さんにつけてもらっていた。店員も今のやり取りを聞いていたのか、微笑ましそうにリボンを結んでくれていた。


「お待たせ」

「よく似合ってるぞ」

「ありがと。そろそろいい時間だよね?」

「そうだな。広場に向かうか。なにか食べ物買っていく?」

「飲み物は欲しいかも。ちょっとのど渇いちゃった」


 ということなので、俺たちは広場にある露天によって飲み物を購入。チケットを買って会場に入った。

 頻繁に公演を行っていることもあって、人の数は混雑するほどではない。前の方の席も空いていたので、そこを確保することができた。

 そしてしばらくすると司会が開始を告げて、ナレーションから始まる演劇がスタートした。

 物語は平民たちの恋愛もの。将来を誓い合っていたが、男が開業した商売が上手くいかず借金の代わりに女性が豪商に奪われそうになるという話。

 なかなか悲劇的な設定ではあるが、最後は貴族が男の商店を助け借金を返すことで彼女を助け結婚するという流れだ。

 さりげなく貴族上げしている辺り、貴族制の国だよなぁ。俺は男の行動が少々バカでなんでそこでそんな選択をなんて考えてしまうせいで没入するほどは楽しめなかったが、エーリアは満足できたようだ。最後の場面で豪商の家に彼女を取り返すために乗り込むシーンで興奮しまくっていたし、そういうヒーロー・ヒロイン像にあこがれるのは乙女として当然のことなのかもしれない。

 俺はいろいろ擦れちゃってるからなぁ。カトレアだったら同じ感想になったのかも。


「はぁ、面白かった。女優さん綺麗だったなぁ」

「将来的にはスターになるかもな。ここはそういう人たちが練習する場でもあるし」


 演劇広場ということで、料金が安い代わりにそういった女優の卵や役者志望の若い連中なんかが出演しているのがこの舞台だ。ここで技術を磨き、貴族街にある演劇ホールで役を務めることが彼らの夢なのだろう。


「応援したくなっちゃう」

「なら時々見に来るか」

「そうだね。また来よう。毎月演劇の項目は変わるみたいだし」

「なら月一の楽しみだな」


 同時に月一でデートする約束が決まったようなものだ。


「じゃあそろそろ昼飯行くか」

「うん。興奮してお腹すいちゃった」


 向かったのは、広場の近くにある人気のお店。

 これはエーリア経由の奥様達情報である。少し値段はするらしいが、相応の味と接客で満足度が高かったと話していたらしい。

 それで行ってみたかったのだとか。

 店構えはこじゃれたカフェのようで、オープンテラスでは奥様達が優雅にランチを楽しんでいた。

 ちょうど時間的にも昼時ということで、店の前には短いが列ができ始めている。俺たちはその横を抜けて列を整理している店員へと声をかける。


「すみません、予約していたノクトですが」

「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


 まあ普通に予約するよね。行く日にちや時間は分かっていたし、人気店で行列もできるっていうなら。

 店の中に案内されたので店内の席かと思ったら、そのまま中を抜けてオープンテラスへと案内されてしまった。行列からは目隠しがされているため落ち着いて食事することができる。まあ通行人からは見えてしまうが、人通りはそこまで多くないので気にならない。


「どれにしようかな」

「おすすめは店名のついたランチコースだって」

「じゃあそれかなぁ。お母さんたちもそれがいいって言ってた。お茶とデザートも選べるみたいだよ」


 コーヒー紅茶ハーブティーなどもあるし、ケーキも三種類から選ぶようだ。

 奥様方が魅了されるのも理解できるな。

 俺たちはランチコースを注文し、それぞれ違うケーキを頼む。

 演劇の感想などを話していると、スープが運ばれてきた。マナーなどあまり知らない俺たちではあるが、食器も使うものを順番に用意されるので気にせずに食べることができる。

 コースはサラダ、肉、パスタと進み、最後にケーキが運ばれてきた。

 俺のはチーズケーキ、エーリアはシフォンケーキだ。


「わぁ、チーズケーキもおいしそう」

「半分ずつにするか。俺もシフォンケーキは気になる」

「うん!」


 フォークでカットした半分をエーリアへと渡し、代わりにシフォンケーキの半分をもらう。

 チーズケーキはしっとりとした固めのベイクドケーキで、シフォンケーキはその柔らかさと添えられたクリームの甘さが特徴的だ。

 両方ともコーヒーと合っていて、ホッとする。


「美味かったな。噂になるだけはある」

「うん、お野菜もおいしかった。どこのお野菜使ってるのかな?」

「意外とうちのだったり?」

「あはは、さすがにそれはないよ。それに、もしうちの畑のだったら、私の腕がまだまだってことになっちゃうじゃん」

「プロに勝つつもりなのかよ」

「ノクトには美味しいものを食べてもらいたいからね」


 ふいにそんなことを言われると照れてしまう。

 あの日、エーリアのことを意識するようになってから、こんなアピールがダイレクトに心に届くのだ。昔の俺は、こんなアピールをよくスルー出来たものだと感心するわ。


「ありがと」

「ふふ、どういたしまして」

「それで、午後はどこに行くんだっけ?」


 気恥ずかしくなり話題を変える。


「町の外にある牧場だよ。体験会があるし、しぼりたての牛乳やチーズが美味いらしいの。お土産にも人気なんだってさ」

「牧場のチーズか。たしかに美味そうだ」

「ピザやグラタンにチーズフォンデュやチーズオムレツ、美味しいチーズならシスターのワインに合わせてもいいかも」

「楽しみだな。じゃあそろそろ行くか」

「うん」


 支払いは当然俺が済ませ、俺たちは食後の運動もかねてのんびりと町の中を歩きながら牧場へと向かうのだった。

四月より更新が週一ぐらいになると思います。

理由として、就職するので新しい職場に慣れるまではしばらくバタバタすると思うので。

更新を止めるつもりはないので、ゆっくり待っていただけると幸いです

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