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げんしけん……?

 ホームルームの後、簡単なガイダンスを受け、選択授業をどれにするかというのを決めてその日の予定は終了した。

 当然俺はカトレアが選択するだろう四科目、政治、経済、芸術、宗教を選択した。芸術以外は貴族しか必要としないような授業なのでクラスでは浮いてしまうかもしれない。けど、カトレアの目に留まるのなら、俺の目的としては成功なのだから問題ないだろう。

 そして学園としてのガイダンスが終わることで始まるのは、新入生を求める壮絶な部活の勧誘活動である。

 それは外部生だけにとどまらず、進級組の中でも熾烈な奪い合いが発生していた。どこの部活に誰々が入部した。それが有名人であれば自然と人も集まってくる。部費確保のチャンスだ。

 校舎から正門に続く通路には多くの長机が並べられ、それぞれの部活が喉が潰れるのではないかと思うほどの声量で勧誘を行っていた。

 平民側の門でこの賑わいなのだ。きっと貴族側の門ではさらに激しい勧誘合戦が行われていることだろう。向こうの一人は入手できる部費の桁も変わってくるからな。

 特に栄華世代(ローズライン)やカトレア、リユールなどの高位貴族の勧誘に成功すれば、その部活の安泰は六年間約束されたようなものである。熾烈になるのも当然か。

 ちなみに、カトレア視点で書かれていた部活の勧誘風景だと、昇降口から校門までの通路に赤絨毯が敷き詰められ、セットされた丸テーブルの上には一流の料理人が腕を振るった料理が並び、校舎を出たところでグラスワインを渡されたと書かれていた。完全に立食パーティーである。

 ある意味貴族らしい勧誘と言えるかもしれない。そっちもちょっと見てみたかった気もする。ビーレストに感想を聞くのもいいかもしれないな。


 そんな在校生たちからの勧誘を受けて、新入生はこれから一週間の間に部活の見学などを行い、中等部と高等部で所属する部活を決めることになる。

 俺はすでに入部する部活を決めているのであまり興味はないのだが、ロリコン君が一緒に見て回ろうと誘ってくれたので付いていくことにした。全く興味がなかったというわけでもないしな。


「んで、どこか目当てはあるのか?」


 俺が尋ねると、ウルバはコクリと一つ頷く。


「可愛い幼女がいる場所がいい」

「残念だがここは中等部だ」


 俺たちが一番年下なんだよなぁ!


「俺は実年齢などにとらわれない。大切なのは見た目が幼女であるという事実のみ」

「それ顔と体が一番大事って言ってるようなもんだからな? 人前で言うなよ?」


 ただでさえロリコンとして嫌悪の対象になってんのに、体しか見ないとか絶対大声で言うなよ? そんなことされたら俺は素直にお前と絶縁せねばならんくなる。


「お、あそこに俺のストライクゾーン高めの美少女が」


 視線の先にいたのは、周りと比べて一回りほど小柄な少女。制服の腕にあるラインの色から一つ上の先輩だとわかる。

 あれで高めなのか。

 ウルバはするすると人込みの間を抜けて少女の前に立つと、さっそく部活の詳細を口実に少女と話し始めた。

 俺が少し遅れて到着するころには、すでに「今からでも見学できますよ」なんてところまで話が進んでいる。


「ウルバ」

「お、やっと来たか。こいつ、さっき話してた俺のダチです」

「初めまして。私は現代視覚文化研究部所属中等部二年のホジュンよ」


 げんしけん……そういえば小説にもネタ程度にそんな名前の部活があるなんて言ってたか。カトレアが興味持ってたはずだ。


「現代……なんです? というかどんな部活なんですか?」

「簡単に言っちゃえば文芸兼美術かしらね。小説の重要な一場面に絵を入れることで、読者にその場面をより明確に、そして鮮烈に印象深く刻み込むための手法! ここはそんな文化的な進化を研究している部活よ!」


 ようはラノベか。


「で、ウルバは見学するのか?」

「そのつもり」

「君はどうする?」

「あー、じゃあ一応」


 げんしけん。カトレアならば興味を持つだろうし、ここまでの経験上小説内に登場していなかった場面でも、時間的な余剰があれば何かしらのイベントのようなものが発生する可能性はある。

 カトレアが興味を持っているならば、この部活にも何か接触を図る可能性はあるだろうし、部員の顔を把握しておくのは悪くないだろう。


「じゃあ今から案内するね。あ、こっちの子、ビーナもげんしけんのメンバーだよ。ビーナ、後よろしくね」


 ホジュン先輩の後ろでじっと座っていた眼鏡の少女がこくりとうなずく。

 そして俺たちは先輩に連れられて部活棟へと向かった。


 部活棟は中等部高等部からグラウンドを挟んだ反対側にある。

 今日はどの部活も勧誘に必死でここにはゲットできた見学者しかいないため比較的静かだが、いつもは多くの部活生が集まり賑わっているらしい。

 多くの扉が並ぶ通路を進み、現代視覚文化研究部と書かれたプレートの扉を開く。

 中は現代の部室棟とあまり変わらない様子だ。まあ、元がゲームという設定だし、イメージさせやすいように現代の間取りに似せているのだろうな。


「あれ、誰もいないんすか」

「残りの部員は向こう側行ってるからね。さ、入って入って」

「失礼しま―す」「失礼します」


 文芸と絵の研究部だというだけあって、部室の壁には大きな本棚が備え付けられ、その中にはびっしりと書籍が詰まっている。紙の流通はあるとはいえ、印刷技術のまだまだ未熟なこの世界、これだけの本を集められるのは相当なパトロンが必要である。ここもかつてはどこかの貴族が作った部活なのだろう。


「今この部活には五人の生徒が所属しててね、うち三人は貴族で私とビーナちゃんが平民出身なの。だから残りの三人は貴族側の勧誘に行ってもらってるんだ」

「結構貴族がいるんですね」

「まあね。もともと貴族が作った部活ってこともあるけど、平民だとそもそも本に興味を示すこともないから」


 それもそうだ。平民からすれば本は宝飾に並ぶ高級品。それをわざわざ研究しようなんて奴はなかなかいない。

 ホジュンさんとビーナさんは、それぞれ絵と文章に興味があって一緒に入部したそうだ。

 その後、二人で作った小説だというものを見せてもらったり、体験として簡単な絵を描いたり、小説を作ったりしたが、その間に貴族側の部員たちが戻ってくることはなかった。

 そんなことをしている間に、窓から西日が射し込み始める。まあ、そんだけの時間を体験に使ったので、ホジュン先輩とは割と親しい関係になれたとは思うけど。


「さて、そろそろ時間だね。どうかな? 興味持ってもらえたかな?」

「もちろんです! 先輩、俺ここ今んところ第一候補ですよ!」

「そっかそっか。私も頑張った甲斐があったってもんだね」


 まあウルバからすれば、今日の時間は楽しかっただろうな。なんせホジュン先輩、スキンシップがなかなか激しいのだ。簡単に肩や背中を触ってくるし、こちらが集中して机に向かってくると、肩口からのぞき込んだりしてくる。その時に制服の隙間からいろいろと見えそうになってたし。


「ノクト君はどうだった?」

「まあまあ楽しかったですよ。三題噺の発表とか結構笑いましたし」

「あれは慣れないとめちゃくちゃなストーリーが出来上がるからね。私やビーナも最初は爆笑の作品がたっぷりできたもんさ」

「あ、そういえば少し気になったことがあるんですけど」

「ん? なにかな?」


 せっかくいい感じに楽しませてもらったので、ラノベの発展を願って少しばかり知識の援助をしておこうかな? もしかしたらカトレアが興味を持つかもしれない部活だし、しっかり存続してもらいたいからな。


「文芸視覚書でしたっけ。絵と文章が混じってる小説ですけど、どうせなら表紙に登場人物を描いたり、最初の二ページぐらいで登場人物の紹介をしてもいいと思いまして」


 読ませてもらったラノベは、この世界では一般的な無地の装丁でいきなり文章が始まっていた。そして差し込まれていた絵も、一番目立つ場面のみ。せっかく絵を入れるのだから、情報の共有を最初に行うというのも大切になるはずだ。ラノベの売り上げは表紙なんて言われることもあるぐらいだからな。

 多くの無地な装丁が並ぶ中に絵付きの表紙があれば、きっと目立つし話題にもなるはず。


「おお、それは革新的! 確かに最初に登場人物の顔を描いておけば、文章で書く以上の細かい印象を共有できる。それにイケメンや美少女なら目を引くかも」

「俺が思ったのはそれぐらいですね」

「いいね! 是非とも二人にはここに入ってほしいけど、まあ強要はできないね。勧誘期間はまだ一週間あるし、いろいろと回って自分に合った場所を見つけてね。なにせ六年も通う部活だし」

「はい!」

「ありがとうございます」


 部室棟を後にし、俺たちは改めて校門への道を進む。

 夕方になり、大方の部活の勧誘時間が終わったのか、昼に出てきた時よりも人の数は少ない。


「あぁぁぁぁぁぁ。ホジュン先輩、いいなぁ」

「はいはい、そりゃよかったね」

「なんだ、反応薄いなぁ。あの制服の隙間から見える下着、そして傾斜を判断するのが難しいほどのなだらかな胸。あの素晴らしさをお前も堪能したはずだろう!?」

「お前と一緒にすんな……」


 確かに少しドキッとしたけど……


「んで、ウルバはあそこ入るのか?」

「どうだろうな。もっといいロリがどこかにいるかもしれないんだ。一週間はぎりぎりまで探させてもらう!」

「そうか。まあ頑張れよ」

「ノクトはどうするんだ? なんかいい感じのアドバイスしてたみたいだけど」

「俺は見学したい部活があるんだ。明日そっちに行って、たぶんそのまま入部って感じだろうな」

「そんな部活があったのか。明日俺もそっちに付いて行っていいか?」

「別にいいが、そんな面白い部活じゃないと思うぞ。お前が望むロリもいないはずだし」

「構わん」


 まあ構わんなら構わんが。

 そんな訳で明日の部活見学は、俺の希望する部活へと行くことになったのだった。


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