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あらたな仲間たち

 運命ってのはすごく残酷だ。

 それはまるで、俺たちこそが小説の中の存在なのだと思わせるほどにストーリーを強要してくる。


 誘拐事件から半年。孤児院はようやく落ち着きを取り戻す――どころか騒がしくなっていた。

 喜ばしいこと――いや、残念なことだな。残念なことに孤児院に新たな家族が二人ほど増えたからだ。

 ジーンとエイチェ。七歳と五歳になる兄妹である。

 二人を孤児院に連れてきたのはイーレンだ。森に薬草やキノコを採りに行っている最中に、森の中で置き去りにされているのを見つけたらしい。

 二人に事情を聴いても詳しいことは分からず、おそらく養えなくなったか子供の存在が邪魔になったかのどっちかだろうと想像できる。

 悲しいことではあるが、この貧民街じゃ珍しいことじゃない。捨てられた子供は大半が人間不信となりストリートチルドレンでチームを組んで生活している。それでも人を信じている子供や誰かに助けられた子供は、そのまま引き取られるか孤児院に連れてこられるのだ。

 最悪は一人でいるところを人攫いに捕まるパターンだな。攫われた子供は奴隷として売られ、一生が決まってしまう。この二人はその中ではある意味幸運な方だったのだろう。潤沢な資金を有する孤児院に、捨てられた直後に拾われることで人間不信にならずに連れてこられたのだから。

 最初こそ緊張からこちらの様子を窺いながらだったが、一月もする頃には孤児院の一員として立派に仕事をしてくれている。

 

 朝、窓を開ければエーリアと一緒に二人は畑仕事をしていた。


「エーリア姉ちゃん! 水やり終わった!」

「お姉ちゃん! 私も!」

「お疲れさまー。じゃあ片づけてご飯にしようか。冷えちゃったし、しっかり暖まらないとね」

「「やったー!」」


 姉ちゃんと呼ばれるエーリアもなかなか満足気だ。これまでは同年代で姉というよりも手のかかる友人って感じだったからな。純粋に頼られるのが嬉しいのだろう。


「あ、ノクトおはよう」

「おう、おはよう。二人もおはよう」

「「おはよう!」」


 兄妹だけあって息ぴったりだな。

 二人は駆け足で畑の片隅にある倉庫へと道具を片付け、そのまま戻ってくるとエーリアの周りを子犬のように走り回りながら三人揃って食堂へと入っていく。

 俺も着替えをして部屋から出ると、ちょうどシークが起きてくるところに出くわした。


「シーク、おはようさん」

「ノクト、おはよう」

「いつもより早いな」


 いつもならばもう少し遅くなるのだが、今日は身だしなみまですでに整えられている。


「あの二人の声で目が覚めちゃったよ」

「ハハ、確かに朝から元気だからな」


 まあそれでも目を覚まさないのがエフクルスなのだが。

 あいつの場合は作業がはかどり始めると時間を忘れる習性があるからな。芸術家ってのはそんなのばっかりなのかね?

 二人で食堂へと入ると、シスターとイーレンを含めた五人が準備を進めていた。

 もうほとんど準備は完了しており、あとは料理を並べるだけといった様子だ。


「エフクルス呼んでくる?」


 シスターに尋ねると、首を横に振った。


「昨日は遅かったみたいですから、寝かせておいてあげてください」

「了解」


 そして料理が並び、全員が席に着く。シスターの祈りの後で騒がしい食事が始まる。

 俺は蒸かし芋を齧りながら、二人について考える。これまでは同年代六人をどのように振り分けるかと考えていたが、ここにきて新たな人員が増えたわけだ。この二人をただ無駄に消費する理由はない。

 けど、もう六人で割と手は回っているんだよなぁ。となると手が足りなくなるだろうエーリアの畑に配属するように勧めるのが一番なのだが、この子たちにその適正があるだろうか。

 今のところは問題ないような気もする。二人は早朝に起きるのも問題なさそうだし、楽しそうにエーリアの手伝いをしている。

 それがエーリアになついているからなのか、それとも働くことが楽しいのか。どちらだろうか。

 前者であれば、エーリアとは別の場所で農業をさせるのは危険だろう。途端にやる気を失ってしまう可能性もある。後者ならば、いっそのことこの町から出すのも手かもしれない。親に捨てられたという事実は二人には残っている。そこをついて王都を出させ、農村で本格的な農地拡大を狙うのもいいかもしれない。

 なにせ品種改良には数の試行が必要になる。望む結果の個体が生まれるまで厳選しなければならないのだ。そして厳選した作物も、しっかりと量産できるような体制でなければならない。

 今の畑だと品種改良も量産もちょっと物足りないんだよなぁ。ただエーリアはみんなと暮らしたいという気持ちが強いからここから出すというのは悪手だ。その変わりにはなれるかもしれない。

 とりあえず十歳ぐらいになるまでは様子見しておこうか。そこまでくれば二人にも明確な目標や憧れができるかもしれないし。

 今の二人は仕事というものが楽しくてしょうがない印象だ。

 現に今も――


「シーク兄ちゃん、今日は俺たち解体所の見学に行ってもいいんだよな!?」

「シークお兄ちゃんの働いているところ見てみたい!」


 といった感じで、俺たちの職場を見学したいと言ってくるのだ。

 ちなみに俺はすでに露店の営業を任せてみたが、超暇だったという感想をもらっている。まあそうだよな。今俺もほとんど露店じゃ仕事してないもん。

 エフクルスの工芸品のレベルがあがったので、正式に商会へと売り込みに行っているのだ。ハオラ商会のような貴族や富裕層相手だと陶器になっちまうから、平民層狙いの実店舗にだが。

 いくつかの店舗で置かせてもらっているが、売り上げはなかなかいい。最近ハマっているらしい鉛筆で描かれた絵画も商会の通路や商談部屋の飾りなどで使えるレベルの代物らしく、そちらもいい感じに売れている。

 俺たちの行動範囲である地区では、孤児院のエフクルス作というのは意外と有名になってきているらしい。あいつの感性は化け物かよ。俺が教えること何もねぇじゃん。

 話がそれたが、ジーンとエイチェは以前からシークの仕事場の見学を希望していた。それが今日ようやく許可が下りたのだ。


「おやっさんから許可はもらってるよ。けど仕事で大きな刃物を扱う場所だから、僕たちの言うことは絶対に聞くようにね」

「「はーい!」」

「よく許可とれたよな」

「案外希望って多いらしいよ? 精肉関連だとおこぼれがもらえるかもって魂胆もあるみたいだけど、子供が見学希望に来て、一目見て気持ち悪くなって帰るらしい」

「あー、生き物さばくのって慣れが必要だしな」


 肉のブロックを切ることは何とも思わないが、鶏やウサギの首を落とすのはなかなかクルものがある。俺も苦手で、いまだに必要がない限りシークの職場には近づかないし。


「そんな子供たち用の説明プランもしっかり用意してあったから、見せてみることにしたんだ」

「こいつらが耐えられるか楽しみだな」

「今晩のおかず賭ける? 俺は無理な方に賭けるけど」

「そりゃ賭けにならねぇな」


 俺たちの会話を正面で聞いていた二人は、たっぷりとホホを膨らませて大丈夫だもんとむくれていた。


「俺たち大丈夫だし!」

「解体だってへっちゃらだもん!」

「そりゃ楽しみだ。おやっさんもそろそろ手伝いを増やしたいって言ってたしな」


 むくれる二人を適当におだてながら朝食を終え、俺たちはそれぞれの仕事場へと向かう。

 俺はいつも通りに朝どれの野菜たちを籠に詰め込んで露店へ。いつものおばちゃんがいる露店へと顔を出すと、知らないオッサンがいた。


「あれ、おばちゃんは?」

「お、あんたがノクトか。おばさんなら今日は休みだ。なんでも息子さんが風邪ひいたとかで看病しているらしいぜ」

「ありゃりゃ、そりゃ大変だ。お大事にって伝えといて」


 風邪か。まあ最近は冬も本番になって乾燥もひどくなってきたし、俺たちも気を付けないと。


「じゃあおじちゃんが買い取ってくれるの?」

「ああ。おばさんからそうするように聞いてるよ。適正で買い取れって釘まで刺されちまった」

「そりゃ安心だ。今日はこれね」


 俺が背負っていた籠を下ろし中身を見せる。そこに入っているのは、ぎっしりに詰まったネギだ。

 もちろん朝の内に味見はしてあるが、パンパンに張ったネギはあぶるだけですごい甘みがあふれ出す。やはりどんな改良よりも旬が一番だと言わせるような出来だった。


「いいネギじゃねぇか。白も多いし太ってやがる。これが街中でか。そりゃ噂にもなるわなぁ」

「どんな噂?」

「孤児院の野菜は美味いって主婦の間じゃ評判なんだよ。あえてこの店で買っていく料理人もいるぐらいだ」

「そんなことになってんの!?」


 まあ朝採れという利点に加えて、イーレンの実験によって証明された栄養土と栽培方法をベースにしているため、他よりも味がいいのは確かだろうが、そこまで噂になっているとは。おばちゃんもちゃんと教えてくれればいいのに人が悪い――いや、こっちが値上げするのを警戒して言わなかったな。息子さんが治ったら値上げ交渉だ。

 断固とした決意を固め、今日はおじさんに定価での販売をするのだった。

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