権力者系悪役令嬢ムーブ!
学園の授業って退屈なのよねぇ。大体初等部で習うことって入学前に全部覚えちゃうから、授業中は完全に復習ばかり。しかも国語、算数、歴史の三つを主軸として、生活、音楽、体育がまばらに散らばっている感じだ。基本的に机に向かっているだけなので眠くなっちゃうのも仕方がないわよね。
けど最近眠気覚ましなんて商品が出てきたから助かってるわ。トウガラシを使った刺激で目を覚ますみたいだけど、ちゃんとハーブなんかも配合してあって舐めやすくなってるし。クラスの子たちも今じゃ大半が使ってるのよね。その分手に入りにくくなっちゃってたみたいだけど、あれってもしかして私のせい?
まあいいわ。それよりも気になるのが、眠気覚ましなんて商品ゲームの中には出てこなかったことよ。それにあのビーレスト君も私は知らない。
バタフライエフェクトっていうんだったっけ? この世界がゲームを前提にしていたとしても、私みたいにゲームとは関係ない動きをしている人間がいるぐらいだし、いろいろなことが変わってきていてもおかしくないんだけど、ちょっと今回の眠気覚ましは異質というか、私の行動が一切絡まない場所での出来事だったから驚いたわ。
しかも今回、そのビーレスト君から接触を図ってくるなんて。なにか事件があったという話は聞いてるけど、それ絡みかしら?
食堂の片隅で、私はビーレスト君と向き合う。できれば二人で話したいということだったので、いつもの皆にはちょっと席を外してもらっていた。
「それで、私に相談ってどうしたの?」
「カトレアさんは、うちが最近事件に巻き込まれたという話は知っていますか?」
「ええ、うちのものが眠気覚ましの利権絡みじゃないかって言ってたけど」
「実は、僕が養子として引き取られる前にいた孤児院の家族が誘拐されていたんです」
そんなことがあったの!? それにしてはビーレスト君学園だと普通に生活してたよね!? もしかしてあれ全部演技だった!? だとしたらすごい才能だよ!?
「自分も最初は利権絡みだと思ってたのですが、監禁されていた場所で火事が発生した後、リユールさんから接触がありまして……」
え、そこでリユールが出てくるの? あの子ガチガチの純血主義だから元平民とか元孤児とかには絶対に近づかないと思ってたのに。
ん、ちょっと待って。今その話が出てくるってことは……
「実はリユールさんが今回の誘拐事件の主犯格だったようなんです。僕が眠気覚ましの販売で有名になるのが気に食わなかったみたいで。火事の後、誘拐された二人は無事だったんですが、それを秘匿して落ち込んだフリをしていたら話しかけてきまして、これに懲りたら元孤児らしく大人しくしておけと」
ええ……あの子そんなことまでしたの――純血主義の仲間以外にはあたりが強い子だとは思ってたけど、そこまでいくとちょっとやりすぎよねぇ。
で、このタイミングで私にその話をするということは、レヴァリエ家に後ろ盾になってほしいってことかしら? 私としては眠気覚ましに助けてもらってるし、構わないとは思うけど。全部私の想像だけで話を進めるのもあれだし、とりあえずビーレスト君の要望を聞こうかしらね。
「ビーレスト君はどうしたいの? リユールの言う通り大人しくしておくのも手だとは思うけど。あの子基本的には目立たなければ攻撃の目標にはしないと思うわよ?」
というか今あの子の攻撃目標になってるのって私なのよねぇ。
ヴァイス王子との婚約の噂が広まっているせいで、あの子から無駄に敵意を買っちゃってるし。
実際はヴァイスと婚約なんてする気もないんだけどね。ヴァイスにはふさわしい相手との出会いが高等部で約束されてるんだから。
「それも考えましたが、根本的な原因を取り除かないと八つ当たり的にまたこちがが標的になる可能性もあると思うと心配で。こっちは孤児院の子供が対象になるので、十分な守りを付けることもできませんし」
「あー、あの子ならやりそうかも」
彼の意見に納得してしまった。ヴァイスがリユールに一切興味を示していない現状、そのままが続けば何かしら鬱憤を晴らすための対象を探す可能性もある。その上今回の火事、実は全員生き残ってるんでしょ? それを知れば確実に狙われるわね。
「つまりレヴァリエ家の後ろ盾が欲しいと?」
「それもありますが眠気覚ましの生産権利を買い取ってほしいんです」
「権利の買取!?」
大きく出たわねぇ。まあそれぐらいやらないと不安なのかしら。不安なんだろうなぁ。家族同然の子たちが殺されそうになったぐらいだし。
「買い取りとなると値段にもよるわよ? さすがに高すぎたら買えないし」
「価格に関しては五百万ゴールドを想定しています」
「あら、意外と安いのね」
「今でこそ独占市場なので利益は高いですが、そろそろ模造品も出始めると考えているので」
まあそうよねぇ。手に入りにくい材料を使っているわけでもないし、他の貴族たちだってお抱え商人に同じものを作る様に依頼すれば今より安く入手できるようになる。自然と売り上げは下がるだろうし、今後は下がるばかりの商品かぁ。
「まあそれぐらいなら買い取るわ。付加価値を付ければまだまだ売れそうだしね」
「さすがは最高の花。すでに付加価値を付ける方法を見つけているようですね」
「まあね」
だって眠気覚ましなんて前世じゃタブレット状なのが当たり前だったし。
圧縮機を使って今の粉を錠剤の形に成形できれば、持ち運びも楽になるしね。ポケットの中で粉をぶちまける心配はなくなるのよ。ひいてはメイドたちに怒られる心配がなくなるの!
「ありがとうございます。では明日にでも商人との契約書をお持ちします。基本的には商人たちとの契約は期間中は継続していただきたいのですが」
「構わないわよ。無駄に商人との軋轢を増やしていいこともないしね」
「ではそのように彼らにも伝えておきます」
ビーレスト君は一礼すると、少し軽くなった足取りで教室へと戻っていった。
にしても本当に謎よねぇ、このイベント。ゲームにはこんなものなかったし、裏設定としても必要とも思えない。けど今話した感じだと、彼も頭はいいけど転生者とも思えない。
ビーレスト君のバックに転生者が隠れているのかしら? でも隠れている意味はないわよね。転生者であればこの世界ならすぐに頭角を現すだろうし、嫌でも耳に入ってくるはず。
偶然? とも思えないけど。一応調べてもらおうかしら。
少し冷めてしまった紅茶を飲み干し、私も教室へと戻ることにした。
教室に戻ると、すぐにシュヴァルツ君とセラちゃんが近づいてくる。
「カトレアさん、お疲れ様」
「どんな話だったのか、気になっちゃいますね。告白ですか?」
「そんなんじゃないわよ。権力絡みのお金の話」
「学生っぽさゼロですね……」
「貴族なんてそんなものよ。特に私や彼はもういろいろと個人で動いているしね。というかセラは自分ののろけ話したいだけでしょ?」
ゲームのシナリオではすでに亡くなってしまっているはずのセラは、私が誘拐を未遂に防いだことでシュヴァルツとラブラブの許嫁系幼馴染生活を謳歌している。しているのはいいのだが、多少のろけが過ぎるので私としては常に口の中が甘ったるいぐらいだ。時々眠くもないのに例の眠気覚ましを舐めたくなるぐらいに。
「えへへ、今度の休みに二人で出かけようって約束してるんです」
まあ二人とは言っても、立場が立場だけにその周辺には使用人や護衛がわんさかいるんだけどね。幼いころからそれが当たり前になると、数としてカウントしなくなるのよねぇ。
「今度はどこに行くの?」
「海に行こうかと」
シュヴァルツに尋ねると、少し恥ずかしそうにしながらそう答えた。まだ季節的に海水浴は寒いし、港町でショッピングと観光でしょうね。貿易で入ってきた珍しい工芸品でも見に行くつもりでしょう。
「あんまりセラを疲れさせちゃだめよ?」
「分かっています」
セラは生まれつき体が弱い。大人になって体力がつけば自然と気にならなくなる程度のものだが、子供の今はあまり疲れを貯めると熱などが出てしまう。
「もう、二人とも気にしすぎですよ」
セラとしては過保護なのかもしれないが、ゲームで誘拐事件後に体調を崩して死んでしまったのもそれが原因だし、慎重になるのはしかたがない。
「念のためよ。病気で結婚できないなんていやでしょ?」
「それは嫌です。大人しくしています!」
「はい、よろしい」
シュヴァルツとの結婚をちらつかせれば素直になるのは、扱いやすいのか問題なのか――
学園での授業を終えて帰ってきた私は、さっそく専属メイドの一人セネラに仕事を言い渡す。
「ビーレスト・ルヴ・ハシュマの素性を詳しく調べてほしいの」
「恋ですか? あまり重いものは嫌われますよ?」
「なんでそうなるのよ!? 今日学園で眠気覚ましの生産権利をこっちに売りたいって言ってきたの。一通りの事情は聞いたし納得もできる者だったけど、洗い直しは必要でしょ?」
「ではそういうことにしておきます」
「はいはい、それとビーレストは元孤児よ。そっちの周辺も洗っておいて」
「養子縁組される前の孤児院ですか?」
「ええ。かなり優秀な人物が裏に隠れていそうな雰囲気があるわ。いくら優秀であっても孤児から一躍貴族の注目株になるなんてことは早々ありえない。こちらに引き込めるなら引き込みたいわ」
場合によっては裏に転生者の存在がある可能性も私は考えている。
転生者が私以外にもいるというのであれば、できることならば協力したい。特に私、ゲームの世界だと死刑一直線だし、何としてもシナリオをぶち壊さないといけないんだから。
その見返りはレヴァリエ家という後ろ盾。そしてまとまった資金。孤児院に絡んでいるのなら、平民に転生している可能性が高い。何かをするにしてもまとまった資金は欲しいはずだ。
後は願わくば、転生チートでハーレムエンドを目指す横暴系勇者じゃないことを願うばかりね。たまに小説だとそんなのと対峙しないといけないものとかあるし。
私は日常系技術改革ルートで進みたいのよ。
「承知しました。周辺の洗い出しを行います」
「お願いね」
さて、どんな結果が待っているのかしら。楽しみに待つとしましょう。




