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失敗から学びそして対策を

 エーリアを落ち着かせようとしていたら、泣き疲れたのかそのまま眠ってしまった。

 仕方なくそのままベッドへと寝かせ、俺も横に並ぶ。ん? 同衾? 俺らまだ推定十歳だぞ。誰もそんなこと気にしねぇよ。エーリアの認識も家族判定みたいだしな!

 そして翌朝、俺が目覚めるころにはすでにベッドの中にエーリアの姿はなく、窓から庭を見てみればいつも通りに畑仕事をする二人の姿があった。

 軽く挨拶を交わして少し苦戦しながら服を着替える。食堂へと降りると、調理場にシスターの背中が見えた。シークとエフクルスはまだ起きてきていないようだ。


「シスター、おはよう」

「おはようございます、ノクト君。エーリアさんはいつも通りに戻ったみたいですね」

「まあ、なんとか」

「あまり心配をかけてはいけませんよ」

「うっす」


 シスターも気づいていたのか。もしかして気づいていなかったの俺だけ?

 もう少しちゃんとみんなと会話するかなぁ。計画のためにみんなを誘導するような会話を心掛けていたせいで、どこかゲームの選択をするような気分だったのかもしれない。

 俺もこの世界で生きているのだ。ちゃんと人と会話することを心がけよう。


 朝食を終えた後、俺はいったん部屋へと戻り、昨日の夜に書く予定だったハシュマ家へのお礼状とビーレストへの指示を書き、いつもより少し遅い時間に収穫した野菜の一部と皿や工芸品をもって露天へと向かう。


「おばちゃん、おはよう」

「ノクトちゃん、おはよう! 聞いたよ、なんだか大変だったみたいねぇ。怪我はもう大丈夫なのかい?」

「ちょっと痛むけどまあ平気かな」


 包帯の巻かれた手のひらを見せつつ、さほど気にするほどでもないとアピールする。実際のところは結構痛かったりするのだが、わざわざ心配させる必要もない。

 それよりも今日の交渉だ。


「今日は玉ねぎ持ってきたよ。見てよ、いいサイズだろ?」


 季節的には五月下旬。ようやくうちで採れた玉ねぎを出荷できるタイミングになったのだ。

 この世界に来てから初めて知ったのだが、玉ねぎってのは収穫したものをすぐに販売しているわけではないのだ。一か月ほど倉庫で乾燥させ日持ちを良くしてから出荷しているという。玉ねぎの皮がカラッカラなのはしっかりと乾燥させた証拠なのだとか。

 ちなみに新玉ねぎは収穫時期も一か月ほど早い上に乾燥もさせていないもののことを言うらしい。少しだけ収穫して玉ねぎサラダとか作って食べたが、辛味のないサラっとした甘さはなかなかおいしかった。できることならカツオと一緒に食べたいものだ。この世界に来てからまだ魚って食べてないんだよなぁ。

 王都の立地的には海にも比較的近いらしいが、やはり保存や移動の問題で王都の魚は干物であっても高級品である。生の新鮮な魚はまだまだ港町の特権だ。悪役令嬢、鉄道とか作ってくれないかな?

 っと、話がそれてしまったが、大切なのは玉ねぎの値段だ。

 そこんとこ、どうよ。


「ほんとおっきい玉ねぎだねぇ。これなら一個売りもできそうだよ。じゃあ一つ十ゴールドで買い取るよ」

「太っ腹だねぇ。大丈夫なの?」


 大体普通サイズの玉ねぎの買取が一個三から五ゴールドだ。それに対して十ゴールドとはずいぶんと破格である。


「今年は一部の領地で病気が出ちまったらしくてね。少し値段が上がってんのよ」

「ありゃ、初耳だ」

「二倍まではいかないけど、三割から五割は値上がりしてるよ。もし倉庫に残ってるなら、もう少し寝かせとけばもっと値上がりするかもね」


 そんなことになっていたのか。なら今日売りに来たのは失敗だったな。やはり情報を制する者が市場を制する。ビーレストかディアス当たりと連携して情報網の構築を急がないと。

 にしてもそれを教えてくれるおばちゃん、エンジェルかよ。


「まだ乾燥途中のものもあるから、次はもう少し遅らせてみるよ。もし在庫が足りないようだったら言って。うちから出せる分は持ってくるから」

「やっぱノクトちゃんは分かってるねぇ」


 まあそういうことだよね。情報教えたんだからこっちにも便宜を図れと。

 こっちとしても高値で買い取ってくれるなら問題ないし、win-winの関係で行こう。

 今日売れた玉ねぎは合計で約十キロ、五十個。五百ゴールドの売り上げである。家の倉庫にはまだ百キロ近くあるし、今後の値上がりを考えればまあまあの売り上げになるだろう。ただ、今回の値上がりがないとやはり孤児院の畑程度の面積だと利益率が低いなぁ。家で使う分もあるが、ジャガイモほど主食としては使わないし、生産量は少し相談だな。


「まいど。じゃあ入荷が危なくなったら頼んだよ」

「任せとけ。んじゃまたね」


 金を受け取り、俺は露天ではなく大通りへと進む。露天を出す前に、ハオラ商会にお礼状を渡しに行くのだ。ついでにビーレストへの手紙をお願いしないといけないし。

 貴族となったビーレストへの手紙は、孤児院から直接出すのは難しい。というか普通にお金もかかってしまうので頻繁なやり取りができない。けどハオラ商会は定期的にビーレストとやり取りをしているので、そのついでに持って行ってもらっているのだ。

 今回に限って言えば、契約先が変更になる可能性のことも伝えておかないといけないし。

 中央通りに店を構えるハオラ商会は、商会としては中規模のものになる。だが最近は眠気覚ましの特需によって資金を確保し、それを運用してさらに規模を拡大しているという話だ。比較的貴族相手の取引も増えてきたそうで、近いうちに規模としては大規模商会に名を連ねるのではないかといわれるほどだ。

 そんな商会の店構えは意外とこじんまりとしている。

 木造三階建ての建物の正面には大きくハオラ商会と書かれた看板が掲げられており、常に開かれた入口には幾人もの人が出入りをしている。

 俺は軽く身だしなみを整え、商会の中へと入った。

 客たちがあまりふさわしくない格好の俺に注目する。それを気にすることなく、総合受付へと顔を出した。


「すみません、ディアスは今大丈夫ですか? それとできれば会頭のお時間を少しだけいただきたいのですが」

「ノクト君久しぶりね。無事でよかったわ。ディアス君なら大丈夫だと思うけど、今日は会頭もなの?」

「ありがとうございます。その節はお世話になりました。導師から指示を受けまして、眠気覚ましの契約で少し変更する必要があるかもしれないと言われました」

「確かにそれは会頭が出張らないといけないわねぇ。ちょっと待ってね。あ、203号室で待っていて。ディアス君はすぐに行くと思うから」

「分かりました」


 総合受付の受付嬢とはすでに顔見知りだ。軽く挨拶を交わして、指示された番号の部屋へと向かう。

 二階は商談用の小部屋に分かれており、その一室で二人が来るのを待つ。

 すぐにやってきたのはディアスだ。ついでにお茶を持ってきてくれた。


「もう外出て大丈夫なのか?」

「ああ。変にぶつけたりしなければ傷口も開かないだろうしな。少し痛むが、まあそれが注意喚起になるぐらいだし」

「そっか。んで、契約の変更って?」

「会頭が来てから詳しく話すつもりだけど、ビーレストの家から生産契約の権利を別の家に移そうと思ってる。要はビーレストよりも強い家に権利を渡す代わりに俺たちの家を守ってくれってことだな」

「なるほど、例の家に対抗するためか」


 ディアスも商会に勤めて二年近いだけあってその手の話は意外と分かってきている。

 まだ俺もディアスも約十歳なんだけどな。こんな会話する子供とか普通に考えたら気持ち悪すぎるわ。けど、そのバックボーンに導師という謎のブレインがいるからこそ、商会でも受け入れてもらえている。

 紅茶で口を潤していると、扉がノックされ会頭が入ってきた。俺は立ち上がって軽く頭を下げる。


「ご無沙汰しております。その節はいろいろとお力添えいただきありがとうございました」

「いやいや、ディアスにはいろいろと儲けさせてもらっているからね。それに今回のことは私たちの商売に君たちを巻き込んでしまったようなものだ。気にする必要はないさ」

「ありがとうございます」

「それで、契約に関して君たちの導師が何か言ってきたという話だが」


 会頭が座りながら話を切り出す。その顔はすでに商人のものだ。


「今回の事件を知った導師から、ビーレストに対して眠気覚ましの生産権利を別の家に売ってしまうようにと指示が出ています。こちらがビーレストへの指示書になります。それに関して、現在生産権利の委託を受けて眠気覚ましの販売をしているハオラ商会はそちらと新たに契約を結ぶ必要がある可能性があると言っていました」

「なるほど、後ろ盾に権利を売るのか。確かに今回の事件はハシュマ家の家としての弱さが現れた結果でもある。導師の判断は適切なものかもしれないね」

「なるべく契約はそのままに権利のみを譲渡するようにと指示されているようですが、相手側がその後何かハオラ商会に対して変更を求めてくる可能性もゼロではありません」

「そうだね。まあそれに関してはこちらで対処するべき問題だろう。現状契約は独占状態だが、近いうちに類似品も現れ始めるだろうしね」

「ありがとうございます」

「しかし即座にその判断ができる導師という人物、ますます会ってみたいねぇ」

「すみません、導師は極度の人見知りなもので」

「うん、それはディアスからも聞いてるよ。自分たちの前にもなかなか顔を出してくれないと愚痴っていたぐらいだからね」


 ディアスもなかなか嘘が上手くなったようだ。


「ええ、今回のこともビーレストへはすべて手紙で指示すると言っていました」

「分かった。ではその手紙はこちらで預かりハシュマ家へお渡ししよう」

「それとこちらもお願いできますか?」


 俺はお礼状を指示書の隣に並べる。


「ハシュマ家にはハオラ商会同様いろいろと便宜を働いていただいたようなので、そのお礼状です」

「なるほど、お渡ししよう」

「ありがとうございます」


 その後、軽く怪我の状態やイーレンの様子などを聞いた後、会頭はディアスと共に仕事に戻っていった。

 俺は商会を後にすると、今度こそ露天を広げるべく市場の片隅へと向かうのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] カトレナと主人公の邂逅、早く見たい! カトレナもかなり主人公のやってる事に興味を持つでしょうから
2020/02/13 21:10 退会済み
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