表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
野球唄  作者: 菊池 一心
1/2

あるキャプテンの独白

 暑い夏の日だった。

 最高気温32度、湿度52パーセント。多分マウンドの上はもっと暑かったはずだ。

 午前九時に始まったその試合は、気が付けば正午を回ろうとしていた。

 ライトから見るこの景色はいつも通りでありながら、目新しかった。

 背番号1が揺れる。

 大きく肩で息をしながら投げ続ける小さなエースの姿をずっとここから見続けてきた。グローブをはめた左腕を胸元まで、見下ろすように打者に相対するその姿を何千回と見てきた。

 セットポジションから打者のタイミングを狂わせるクイックモーション。大きく踏み込まれる足。パッと大きく開かれる背中。身長に見合わない、だけど彼にだけ似合う躍動感あるフォーム。

 重く響く音が遅れてキャッチャーミットから放たれる。



 たったの1,2秒なのに永遠に思えるような時間を経て、審判がストライクとコールする。スリーストライク。バッターアウト。ワンアウト。

 「ほんと最高だよ。お前は」

 聞こえないであろう独り言をぼそりとつぶやいた。

 ボールを受け取ったエースが帽子を被り直して声を上げる。

 「さあ、ワンナウト」

 声も枯れ枯れな彼はそれでも味方を鼓舞するために吠える。ここで負けてたまるかと、まだまだ終わってないぞと自身を叱咤するように。

 「おっしゃー、来い!」

 その声に合わせるようにファーストがミットを叩き、セカンドが人差し指を天に突き立てる。

 ワンアウトのジェスチャー。

 声の波紋は広がるようにして、外野まで伝わる。センターが腕組みをしながら笑う。その一方でレフトはあくまで仏頂面を崩さない。


 「さあ、一つ一つアウト取っていくぞ」

 気を引き締めるように、それでも笑顔で俺はそう言う。

 伝播していくように、それにナインが答えていく。

 夏空に広がった俺たちの声はすぐに相手チームの応援団に掻き消される。それでも、このチームで負けるつもりはない。

 「そうだろ?」

 誰に向かって言ったつもりはなかった。だけど、マウンドの上の小さな、俺らのエースはそれに小さく頷いたように見えた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ