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EDEN's LOST  作者: EMM
1/3

Log1

.

 私にとって、世界はこの島だけだった。


 生まれたときから、この島で暮らしてきた。


 生まれたときから、生き方を決めてきた。


 それは変わることなんてないし、変える必要もないと思っていた。



 世界は、誰かが変えてくれると……そう思っていた。







挿絵(By みてみん)


 Side.E


 海中に潜ると、色とりどりの魚達が波と気泡を避けて逃げていく。

 その様子を眺めながら、青く透けた海中の世界を胎児のような格好で潜っていく。

 回転する極彩色の景色のなか、お気に入りの場所を見つけた。

 海を蹴って深く、深く、潜っていく。

──見つけたっ。──

 慎重に、慎重に、腰に下げた海中用ナイフホルダーの蓋を開ける。

 珊瑚礁にはりついた特異な形の貝の底面を、ナイフで剥がしていく。

 島の特産である岩戸部(いはとべ)牡蠣を網に次々と入れていくと、満足げに光輝く宝石の海のような海面へと昇っていく。


「ぷっは!」


 海面を突き抜けて、息を大きく吸い込む。


「見て、あれじゃない?」


「ああ、あれだあれだ。」


 こっちを見て、磯から物珍しそうにこっちにカメラを向ける人達がいる。

 少し気恥ずかしい気もするけど、それに応えて網を持ち上げて見せる。


 沖縄県 岩戸部(いはとべ)(しま)

 大きな山と自然に囲まれた美しい観光地だ。

 私、箕輪(みのわ) れいなはこの島で中学生をしながら海女をしている。


 これが、私の日常。

 ずっと続くと思っていた日常。

 でも、違う──続いてくれなければ、困るものだった。 


「──ぷはぁっ!?」


「ぷっは……あ、あれ!?」


「ふえ?」


 小豆色の髪をした小さな女の子と、金色の髪をした綺麗な女の子が

海から突然現れたその日のうちに──




 世界の終わりと共に、私はそれを知ることになる。





Side.G


「ほら、こっちの道は安全だよ。進もう皆。」


 山中を歩き続けてもう三日になった……

 みんな制服はボロボロで、私に至ってはもう制服の体をなさない有り様だ。

 しかしそれ以上にみんなもう限界と言った有り様だ。


 あぁ、何でこんなことになったんだっけ……


「もうやだぁ、疲れた足痛いむーりー!」


 紅い髪の女の子──さいかが悲鳴に近い叫びをあげながらその場に座り込んだ。

 それを嗜めるように、黒い髪の小さな子──はじめちゃんがその手を引きながら言う。


「情けないぞさいか、たかだか3日歩いただけじゃないか。

これでもまじるのお陰で誰も怪我をしていないし昨日だって水にもありつけているんだ。贅沢言うな。」


「3日も歩き続けるなんて普通の女の子がすることじゃないわよぉ、もう!まつりは、この脳筋組と同じようなことは言わないわよねぇ!」


 そんなに脳筋かなぁ……

 まぁ、こんなの東京の入り組んだ獣道に比べればまだましな方だとは思うけどさ。

 ふくれるさいかは、立ち止まった金髪の女の子──まつりに同意を求める。


「あはは、確かにもう私も足が痛いですよはじめちゃん……」


「くっ……まぁ、お嬢様に無理はさせられないか」


 申し訳なさそうに言うまつりに対して態度を一変するはじめに、さいかは余計頬を膨らませる。

 私は、苦笑いをしながら同じように岩に腰を下ろした。

 使えそうな薪を道中拾っては鞄にいれていたからその場に並べてっと。


「あはは、じゃあ取り敢えず今日も野宿にしようか。」


「まったくもう……だいたいどう言うことなのかしら、この状況」


 さいかのぼやきに、まつりは腕を組んで唸りはじめた。

 そう、そこが一番の問題だった。



 私達は、まつりの家で仮想空間を使った『訓練』を行っていたた。

 いつ敵が攻めてきても良いように『リリー戦闘機』と接続した状態で、それでも踊壺(ようこ)さんはちょっとした訓練と言ってた筈なんだけど

 また綾乃(あやの)さんか千尋(ちひろ)博士の実験に巻き込まれたとかなのかなぁ……学校とかどうすんだろ。



「訓練用のVR空間に、こんな広い山なんて入ってなかったはずです

それにいくら体感時間加速(メレクトランス)を使っていても三日も閉じ込めっぱなしなんて無茶は綾乃さんもしないでしょうし」


「だいたい、水を飲んだり野性動物に襲われたりするなんてその時点で何かがおかしい

何かしらの異常事態に巻き込まれたことは確かだ」


 まつりとはじめちゃんが議論を交わしている、こうなると田舎者の私はもうついていけないから食材でもさがしに行こうと鼻を効かせたら……

 あ、これって……


「まじる、どうしたの?」


 私は注意深く鼻から息を吸うと、小さく呟いた。


「シチューの香りがする」


「「「………………?」」」


 首をかしげる三人だけど、その事にまず気付いたのははじめちゃんだった。


「……そうか!料理、ということは!!」


「やっと、やっと人里なのね⁉やっほーいお風呂に入れるぅー!!」


 続いて気付いたのはさいかだ、彼女は感極まるとさっきまで疲れたといっていたとは思えない程元気に山を駆け降りていく。

 やばい、これ遭難起こすパターンだ。


「さいか!?」


「あのポンコツっ」


 止めようと皆立ち上がる、けどまつりは疲れていたのか同時に立ち上がろうとしたところ膝の力が入らずに転びそうになった。


「ま、まってくださ……きゃっ」


「まつり!」


 私はとっさにまつりを抱えて抱き寄せた。


「大丈夫?」


「うう、足いたいです……」


 涙目で訴えるまつり、このままさいかをほっとくわけにもいかないしはじめちゃんを一人でいかせるのも危険だ。

 しょうがない、なっと!


「まっ……まままじるさん!?」


「よっいしょっと、さぁ行こっか!はじめちゃんも!」


 まつりを所謂お姫様抱っこの体制で抱き抱えると、私はさいかを追って走りはじめた。


「……!そ、そうだな。」


 ほんの少しその様子を呆然と見ていたはじめちゃんは、慌てて走りはじめる。

 流石というか、山道を走り慣れてる私も大概だけど……はじめちゃんの身のこなしも鮮やかだ。

 私達はあっという間にさいかに追い付いた。


「あっ、ずるい!」


「はわわ、はわわわ……しあわせかも」


 はっ、そういえば。

 気がつけば抱えたまつりが真っ赤にした顔を両手で隠していた。

 というか二人ともそんなこと言うと私まで恥ずかしくなってくるんだけど。

 その様子を見ていたはじめちゃんは、ほほを膨らましてそっぽを向く。


「……ふんっ」


 そしてその勢いのまま走り続けていた私達は、いつの間にか森を抜けていた。

 目の前に広がるのはコンクリートで舗装された道路と当たり前のような町並み。

 最近はほとんど見なくなった筈の、歴史を感じさせる海辺の街並みだった。


「ま、町だぁーーー!!」


「やったぁー!」


「暖かい布団で寝れるぅ!」


「よ、良かったぁ」


 私達は四者四様にそれぞれ喜びの声を上げて、人里にたどり着いた喜びを分かち合った。

 でも、ふとまつりが冷静に戻って辺りを見回した。


「この建物って、本土の形式ですよね。山といい町といい……私たちって、いったい何処に居るんでしょうか……」


「んなもん今はどうだっていいのよ、お風呂を借りられる場所さえあれば……」


 そこまで言ったところで、さいかは空を見上げた。


「ちょ、ちょっと……これも訓練な訳!?」


「「「……!!」」」


 さいかが、悲鳴を上げて見上げた空を指差した。

 遅れて見上げた私達もまた、空を見て息を飲んだ。


 空が、赤くなっていたのだ。


 それは敵が現れることの合図、敵意が満ちて出来上がる赤い空に見下ろされた私達は皆同じ予感を感じていた。


「赤い空……まさか、此処に『怪獣』が出るってこと!?」


『qqqqqPMMMMMMMM!!!!』


挿絵(By みてみん)


 私の言葉を肯定するように、赤い空の下に赤い霧が発生する。

 そして赤い霧は全うな生物が鳴らさないような奇妙な唸り声をあげながら凝縮するように全長数十メートルもの巨影を形作りはじめた。


「ちょっとちょっと!!シミュレーションにしてもやばくないのこれ!?」


「リリー戦闘機もなしに、怪獣なんて!!」


 仮想空間での訓練中の異常事態、人里の上に表れた物体。

 それは私達が『怪獣(ジオイドノイド)』と呼ぶ、その名のとおりの存在。

 世界の悪意が遣わした、生命根絶を行うための……破壊と殺戮の化身だ。


 浮遊する怪獣の足元からは、突然現れた巨影に驚き逃げ惑う人々の声が此処からでも確かにきこえてきた。


「私たちがいるこの街が、もし……本物の街なんだとしたら……!!」


 巨大な天秤のお化けのような怪獣の中央に備えられた単眼がギョロリと地上を見下ろした。


「ちょっとこれは、冗談じゃないわよ!!」


 見るからにこの街は、怪獣を迎えるために整えられた『私達の戦場』ではない。

 見るからにこの街は、人々の避難する安全な場所が整っていない。

 天秤として当然にある、その『腕』を振り上げた怪獣は……地上に見えた人々の姿に向けてそれを振り下ろし……


「や、やめろおーーー!!」


 『今は』戦う力を持たない私は、そう叫ぶことしか出来なかった。


 その時、あり得ない速度で空を飛び怪獣に近づいていく真っ黒な人影が私には見えた。

 それは腕を振りかぶると、その手にまばゆい光を称えて怪獣に伸ばした。




「邪魔にゃ」




 ガ ヅ ン ! !


 と、凄まじい音と共に怪獣が私達の頭上を飛び越えまじる達が通り抜けた宇渡山の中腹に叩きつけられた。

 一瞬遅れて、凄まじい土埃が周囲を埋め尽くした。


「きゃっ!?な、なんですか!?」


「けほっ、怪獣が……吹き飛ばされた!?何に……」


 はじめちゃんの言葉に、すべて見えていた(・・・・・・・・)私は見たままの事実を答えた。



「お、女の子だった」



「は?」


 


「空飛ぶ女の子が、なんか魔法みたいな光を叩きつけて怪獣を吹き飛ばしたぁ!!」


 ……うぁぁ、みんな私を『こいつもう駄目かも』って目で見ないでよぉ!





Side.M


 私の相棒、腰に下げた銀の儀礼長剣(カーテナ)──メタトロンが言う。


『ジュリア、せめて顔は見られないようにしておかないか?』


「わかってるよ、メタトロン」


 変なのを殴り飛ばした私は、『魔法』の光を両手に纏うと右の手を目の前に宛がった。

 右手の威光はイメージした白いオペラマスクに変わり、左手はそのまま山に倒れ伏す変なのに向ける。

 んーとこの手合いにはあれだ、巨人殺しの巨剣だな。


『GRRRRR……』


ガァン!!


 唸りながら立ち上がろうとした変なのはそのまま、威光で編み出した翡翠の巨剣(イガリマ)に叩き伏せられた。

 んー、なんだろ?

 さっきから微妙に攻撃が通ってる感じがしないんだよねぇ?

 ひょっとして旧神(エルダー)……いや、それにしては弱っちいし害神(オールド)かな?


「固いなぁ、しかも再生なんかしてるし。」


 威光を最大限に放出し、それで編み上げるのは怪獣のサイズを大きく越えた巨大な雷雲。


「咄嗟で手を出したから手間がかかりそうだし、マルコもエトナも探さなきゃいけないのにこ・ん・なでっかいの相手にするなんて……こっちはねぇ」


 雷雲は私の苛立ちを代弁するかのように大きく、そして激しい火花を瞬かせていく……


「急いでるんだけど!!」


 私の雷雲から、人知を越えた閃光が瞬いた。

 雷は神鳴り、神の怒り。

 轟音と共に放たれた一撃の持つ圧倒的な熱と衝撃による破壊は変なのの腕を容赦なく蒸発させた。


『GRAAAAAA!!?』


 怪獣はガラスを引っ掻くような悲鳴を上げて、その全体を『ぶれ』させ始める。

 この世界と別の世界を繋げることで今現在を改編しようとしているようだ。


「やっぱ神性を持ってるか、うーん面倒だなぁ……よっし」


 両手に威光を集め、私は『魔術』の術式を構築する。


「──術式構築(ゲット・セット) 天は天、地は地、神は神人は人、境の軛は穿たれた。我等地の威を以て死と生の軛を貫かん。堕天よ嗤え、神々よ畏れよ、その死は絶対の槍なり」


 両手に点る光はやがてダイヤモンドの球体と化して体積を成長するように増していく。

 やがてその周りを一点を除いて白亜の膜が包みルビーの瞳が嵌め込まれた。

 それは、巨大な宝玉の目玉。

 その目玉に先の光とはまた違う、光の数式と紋様が複雑に掘り刻まれていき──神話にある巨人の眼を再現する。


「巨人の瞳よ、我が幻実を媒介にこの威を顕せ!!

解放(ロール・アウト)! バロールの魔眼!!」


 それはかつて神々を葬ったとされる死の巨人の魔眼。

 魔法で創造し、魔術でそこに意味を付与する。

 それこそが私、威光(ケテル)の魔法使いたるジュリア・フリードリヒ・ヘンデルの戦いかただ。


『……!!…………!?』


 動けなくなった変なのに、私は止めで更に大きな雷雲を編んで照準を合わせる。


「これで……終わりだぁ!!」


 雷雲から引き抜いた雷のエネルギーを槍に変えて、打ち出そうとしたその時だった。



「やめてええええぇぇぇぇぇ!!」



「!!」


 地上から、私を止める声がした。

 その瞬間、造り出したバロールの魔眼と雷槍が砕け散った。

 その隙に、変なのは霧散するようにその場からかき消えた。


『ジュリ、目撃者だ。七時の方向、下方57度、距離……』


「やっちゃったにゃぁ……」


 まいっか、思いっきりぶっぱなしてストレス発散できたし……あの変なのを知ってる人なら、この島についてもなにか聞き出せるかもしれない。

 私は翼をはためかせて声のもとに降りていった。

 その先にいたのは、同じ学校とおぼしき──何故かボロボロの──制服を纏った四人組の女の子だった。


「はぁっ、はぁっ、聞こえたかな?」


「こっち降りてきますよ?」


 降りてくる私を見て、茶髪の女の子は赤毛の子に訪ねる。


「あの子は話の通じる人間……なんだよね?」


「うーん人にも依るから話が通じるかは解らないんだけどね……あれは、多分信じられないけど」


 ビンゴかもしれない、少なくとも赤毛の子は……


「『魔法使い』……だと思う。」


 こっち側の、人間だ。






SideX


 異常性エラー。

 モノリスに魔術による数秘学・星宸学的干渉を検知。

 未知の量子による数学的干渉を検知。


 結論、予測される対象の異常性分類3。


 試行楽園分類00302258:ケースパターン【岩戸部島】。

 第5569887~5569889試験へのアクセスを確認。

試行楽園分類00302258:ケースパターン【岩戸部島】。

 第5569887~5569889試験へのアクセスを確認。

試行楽園分類00302258:ケースパターン【岩戸部島】。

 第5569887~5569889試験へのアクセスを確認。


 上書きによる潜伏の痕跡を確認、潜伏先検索試行……失敗。

 検索試行……失敗。

 検索試行……失敗。

 検索試行……失敗。

 検索試行……失敗。

 検索試行……失敗。


 対処方法をB2レベルプロトコルへと更新。


 異常性元世界分枝の逆算……成功。

 捕獲プロトコルに従い各異常性元世界分枝より【守護者】4名を選出。

 異常性元【魔術】……完了。

 異常性元【地球魔法】……完了。

 異常性元【未知】……選出完了。出力範囲外存在の干渉により転送にエラー。








 臨時試験プロトコル【守護者】を提案。

 緊急議会招集……議論開始。

 賛成667 却下333

 投了、議論可決。


 試行楽園分類00302258:ケースパターン【岩戸部島】。

 第5569887~5569889試験リソース変換。

 異常性アクセスの誘導に成功。


 臨時試験プロトコル


 【守護者】


 試験を開始します。




次回予告


明「さて初っぱなからフルスロットルで始まりました今回の企画!」


マルコ「え、待って?此処の予告トーク形式なの!?

聞いてないよメイさん!?」ガタッ


明「聞かれなかったからさ!只でさえタイトルも適当でパット見内容が解りにくいんだから助けると思って、ね?」


マルコ「助けるとつけても流石に私でも今更無理があるよ!

というかこのコーナーも最早予告として機能しない気がするよ!?」バンバン


明「というわけで、此処ではキャラの解説と設定画の解説をするわよん♪」


マルコ「あぁ……副題からも解ってたけどなんていう自己満足企画……っ」汗


挿絵(By みてみん)


明「さて今回のオリジナルヒロイン箕輪 れいなちゃん、けっこう発育のイイ野生の元気っ娘ねぇ♪」じゅるり


マルコ「と……なにこれ、とまりさんとまじるさんと私?」


明「exactly!!相関図で御座います!」


マルコ「だいたいれいなさんが引いてるね」


明「主人公なんて強烈な自我の塊だもんねぇ」


マルコ「私もその一人か……」orz


マルコ明「「次回、log2!」」


明「ね?タイトル不親切でしょう?」


マルコ「私に振られてもぉ!」泣


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