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天才だった男

GD-97レントのイメージは

クー○ーⅠ型+(凸)÷2です。

まさかのBOR○ER BRE○K……

 戦争が起きていないこの現状、軍縮の影響もあってパイロットの母数は決して多くはない。

 SDが配備されていない艦艇も存在するほどだ。

 ガードナー第七部隊所属哨戒艦アガノ級巡洋艦ヤハギの艦内にSDパイロットはナトカを除くと三人所属している。


 一人目はSD部隊隊長を務めているドラザ・サバイブ大尉

 大きな戦争の無い時代とはいえこの道二十年のベテランSD乗りである。

 戦闘時にはよく怒鳴るような言い方をしているがこれは戦場で死ぬなという部下を思っての行為である。


 二人目はこの艦の副官も務めているバウシャ・ナット少佐

 とある理由から前線に出ず、副官として艦長であるリュウホ・リリ大佐の補佐にあたっておりその実力を知る者は少ない。

 自分の感情的な性格と若い年齢を考え自分は適任ではないとドラザにSD部隊隊長を任せている。


 三人目はまだ実戦経験の無いガイ・ケイコウ軍曹

 先の戦闘より二日前に行われた部隊の再編成時にこの艦の所属になったばかりである。


 以上の三名がナトカの上官及びに部下となっている。



 コクツと別れたナトカは艦長であるリュウホへMR-01が稼働できるようになった事を報告するために艦長室を訪ねた。

 しかしノックをしても返事が無い。

「不在……か」

 急を要する事では無いのだがナトカとしてはすぐに片付けてしまいたかったので艦内を回ってリュウホを探す事にした。


「お疲れ様でした」

 二時間ほど掛けてブリッジにてリュウホを発見したナトカは報告を済ませた。

「では私はこれで失礼します」

 ナトカは一番初めにブリッジに行けばよかったと多少後悔しながらブリッジを後にした。

(疲れたな……食堂に行って何か食べるとするか)

 後悔した気分を変えるため、ナトカは食堂へと向かった。


 食堂の扉を開けて中に入ると数人のクルー達が談笑していた。

 その中心には机の上に足を乗せて座りくつろいでいるくすんだ長い金髪の男、ガイ・ケイコウの姿があった。

 上官である私が話の中に入れるはずがないとそこから離れて食堂のメニューを見る。

「知ってるか?前にこのヤハギにきたSDのこと」

 ガイの態度の悪さに対して特に気にも留めなかったナトカだったが今の発言に一瞬動きが止まった。

「この前の戦闘の時に整備士のせいで俺出そびれたろ?その時に見たんだよこの目で、いや~ださかった」

 周りのクルー達は何ですかそれはと気になっている。

 どうやらガイは自分より階級が下のクルーばかりを集めているらしい。

「一言で言い表すならデブってとこだな、全体的に丸みがあってマッシブに見えなくもないがデブって印象が先にきて実に格好悪い、特に顔なんて潰れたカエルの頭みたいだ」

 彼らの笑いが食堂に響き渡った。

「それに比べてやっぱいいよなあ俺の機体は、青いY字のゴーグルに包まれた頭部のメインカメラに全体的に角ばっていながらもスマートなフォルム、訓練で乗り慣れたから言えるがレントっていうのは本当に格好いいな」

 同意を求めるように周りを見ながら続ける

「ま、あの新型は天才である俺じゃないかぎり使えそうもない棺桶だなありゃ、誰に当てられるかどうかは分からないが俺以外なら御愁傷様だ」

「ケイコウ軍曹、貴様ならばMR-01を使いこなせるのか?」

 近づいてきたナトカの言葉にガイを除いたクルーの顔色が悪くなる。

「これはこれはナルサ少尉殿、少尉殿はあの機体について何か知っておられるのですか?」

 ガイは臆する事なく上官であるナトカに向かって体勢を変える事なく聞く。

「私はあの機体のパイロットだ」

 ナトカの返しにガイは思わず吹き出した。

「失敬失敬、まさかあんな機体を女性である少尉殿が任されるとは」

 ひーひー笑いながら表面上すら悪びれるする様子もなく形だけの謝罪をするガイ。

「まずいですよ軍曹!挑発なんてしたら……」

「まあ見てろよ……少尉殿は何故あの機体に乗る事を決めたのですか?」

 クルーの一人が小声でガイに言った事を軽く受け流しガイはナトカに質問した。

「艦長から任せられた……これ以上何かあるか?」

「つまり自分の意思ではないと?」

 呆れたような口調をするガイにナトカの眉がピクリと動く。

「私達は軍人だ、個人の考えや感情で動ける範囲は限られている」

「おや?少しその感情が出ているようですが?そしてその個人の考えで機体を壊してしまった少尉殿の言葉に重みがあるとは思えませんねえ」

 ガイは勝ち誇ったように言った。

「成る程、確かにその通りだ」

 ナトカの言葉ににやりとするガイ。

「ケイコウ軍曹、つまり貴様ならば私のような失態は冒さないというわけだな?」

「ええ、それはもう」

 ナトカからの質問にガイは当然とばかりに答えた。

「ならば後でシミュレーション室に来い、望み通り相手をしてやる」

 そう言ってナトカはパンを一つ摘まみ食堂を後にした。


「いいんですか軍曹!?相手は……」

「上官だって言いたいんだろ?だったら尚更良い」

 クルー達の静止も聞かずにガイはシミュレーション室へと向かった。


 ガイ・ケイコウは自分を本物の天才だと信じている。

 実際に幼い頃から現在に至るまで何をやらせても優秀な成績を収めてきた。

 軍学校を主席で卒業し、SDの実戦訓練でも彼は無敗であった。

 今の彼の狙いはただ一つ、上官であるナトカ達よりも部下である自分の方が優秀なのだと分からせるためである。

 そうすればより最前線で戦い戦果を上げる事につながる。

 彼はSDのパイロットとなり、あえて将校にならずのしあがる快感を得るために自らの才能を使おうとしている。

(まずはナトカ少尉、あんたからだ……!)



「三十分間で二百発以上の被弾か」

「……」

「そしてその内コックピットへの被弾が八十二%、貴様は本当にSDのパイロットか?」

 シミュレーション結果を見ながら言ってくるナトカからの質問にガイは拳を握り締め俯くしかなかった。

 結果はナトカの圧勝であり、ガイは攻撃を当てる事すらできなかった。

「お互いの機体はGD-97レント、貴様の望み通り訓練時代乗り慣れていると豪語していた機体だが、何か言いたい事はあるか」

「……」

 何か言えるはずもなかった。

「これで満足しただろう、私は自室に戻るとする、MR-01の運用方法を考えなければならないのでな」

 ガイは今のナトカの発言を見逃さなかった。

「少尉殿!」

 自室に向かおうとしたナトカをガイは呼び止めた。

「シミュレーションは所詮シミュレーション、ここはやはり」

「実際のSDを使え、と?ならば許可を取りに行くか」


「新兵訓練のため、SDの使用許可及びSDを使用した模擬戦の許可を願います」

「何を言っているんだ少尉」

 ブリッジにてリュウホに頭を下げるナトカに副官のバウシャが当然とも言える反応をする。

 新兵訓練が建前であることはガイの表情を見ればバレバレだ。

「どうす……どうします艦長」

 呆れたようなバウシャの言葉にリュウホは少し考えた後

「許可します」

 と言ってオペレーターに整備班へ訓練を行う事を伝えるように言った。


 乗機の手持ち武器として90mmブルパップマシンガンを選び、ペイント弾へと換装中に格納庫にてMR-01のコックピット内でナトカは外のコクツと話していた。

「まさか通るとは思っていなかったがな」

「艦長ならば少尉殿の考えを汲み取ってくださるはず、だから通ったと思うであります」

 どうやらコクツにはナトカの考えが分かったらしい。

「お前にもお見通しか」

 開いたコックピットから見えるコクツに向かって笑い掛ける。

「少尉殿の考えそうな事ならば何でも!」

 先程のガイとは全く違ったように胸を張るコクツ。

「なら……」

「当然、泥だって被るでありますよ」



 訓練場所として選ばれたデブリ帯に出撃したレントのコックピット内でガイはヘルメットの中で響くほど歯軋りしていた。

 出撃の前にどちらが勝つか整備士達が賭けをしていたのだが全員がナトカの方へ賭けてしまい、ナトカがどうやって勝つかという賭けに変わっていた。

(何だよ、俺に賭ける奴がいないなんて……バカにしているのか!)

 シミュレーションの結果を知る者は極僅か、その事を教えていた人間はいなかった。

「ルールは簡単、どちらかが参ったと言うまで、でいいな?」

 同じく出撃したナトカのMR-01、通称ムアルから無線が聞こえてくる。

「了解、カウントどうぞ」

 イライラしている事を隠そうともせずガイは返答した。

 シミュレーションでは三十分間の間だったが今回は時間制限が無い。

 ナトカの機体の事を知っていれば彼女にとって大きなハンデなのだがガイは知るよしもなかった。


 カウントが0になった瞬間にペダルを踏んでバーニアを吹かし、機体を突撃させるガイ。

 武器はペイント弾の入った80mm対SDライフルと近接武器として訓練用の伸縮式ロングロッド、そして二つ秘密兵器があった。

(さっきのは言ってしまえばシミュレーターが俺の才能に追い付いていなかっただけだ、それにな!)

 自信を取り戻させるように自らにそう思い込ませようとする。

 ナトカの機体の射程距離内に入った瞬間にガイはデブリに機体を隠した。

(シミュレーションであんたの戦法は分かってんだよ!相手が撃つ前に狙いをつけて撃つ、戦闘にすら参加させないような戦法だ……だがな!)

 デブリを盾にしながら少しずつ機体を近づいていく。

(こっちのほうが機動力は明らかに上、慣れない機体に苦しみな)

 ナトカの機体は先程から全く動いていないがガイは気にも留めない。

(そしてこれだ!)

 ガイの機体に取り付けられ秘密兵器の一つ、それはレーダーに自分の機体がそこにいると誤認させる機能の付いた機雷だ。

 デブリに隠れる度にその機雷を置き、まだそこにいるかもしれないと思わせておく。

 そしてもう一つは数十秒だけレーダーから消える事ができるステルス機能。

 これらを駆使してムアルの背後にあるデブリまで回り込んだ。

(チェックメイトだ、さっきの鬱憤晴らさせてもらう……!)

 にやりとしながら最後の機雷を設置してステルス機能を起動させながら呟き、デブリから飛び出してライフルを向ける。


「よし!勝っ……」


 ガイの声は撃墜された際のアラートに掻き消された。

「……え?」

「勝ったと確信した瞬間が一番危険、パイロットの基本だ」

 ナトカの声も聞かずに彼女の機体を見ると手だけを動かして自分に銃口を向けていた。

「どう……やって……?」

 どうにか声を絞り出す。

「私の機体は全方位モニターだ、真後ろすらモニターを展開すればメインカメラを動かさなくても見える、それにそっちがどんな装備を載せているかどうかはデータさえあればこちらのモニターに表示される、これも基本だ」

 聞いていくうちにガイは頭が真っ白になっていく感覚に陥っていった。

「そもそも機雷を必ず置いていくならそこにいるのだと示しているようなもの、あとは最後に留まった場所に銃口を向けるだけでいい」

 ナトカはガイが聞いているかどうか確認せずに続ける。

「私の戦法は一つではない、貴様が三十分間ワンパターンに撃とされていただけだ、相手に対して対策を練る時はその自分の対策に対策されていないか考えろ」

 まだ三十分経っていないが勝敗は決した。



「所属不明機がこちらに接近中、ナルサ少尉及びケイコウ軍曹は直ちに帰還し、武装を換装後再度出撃を」

 リュウホの声が無線で割り込むように入ってきた。

次回はほとんど戦闘です、頑張るぞ!

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