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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第73話

 テレシアの中に生まれた小さな蟠りが解けた後、二人はいつも通りの距離感で言葉を交わす。


「シェルトの母親を助けて、その後は村の柵でも建て直すのか?」


「まだ助けられるか分からないのだけど……。一応、村の守りを整えてから次の町に行くつもりだよ」


「てことはグロート町か。そこでも依頼を受けて、頃合いを見て王都に帰るって感じか?」


「そこはどうするか、実は少し悩んでいる」


 ステインの答えが予想に反した物であった為、テレシアは無言で視線を向けて考えを口にするよう促した。


「僕が思っているより、空魔魄霊獣の出現は近いのかもしれない。いつどこに現れるか分からない以上、早く王都に戻って対策を考えた方が良いかもしれない」


「そっか。今回はご主人様がいたから良いけど、この村みたいに自衛力の低いとこじゃ化け物の相手は無理だもんな」


 昨日の戦闘を思い出しながらステインは服の上から自身の胸を掴んだ。ズィンベルに切り裂かれた胸はシルフィアの回復魔術によって綺麗に治っているが、時折、思い出した様に痛みが走る場合がある。

 最後の戦闘は頭に血が上っていた事と、直後に意識を失った事もあり、あまり鮮明には覚えていない。ズィンベルの爪に切り裂かれた時、異常な量の魔力を奪われたのに、回復魔術と水の攻撃魔術を同時に発動するという高位な事をやってのけたのは夢か現実か定かではない。しかし、自分が今ここで生きている事実が、現実に起こった事だと証明している。


「ご主人様?傷が痛むのか?」


 胸を掴んだまま眉間に皺を寄せていると、テレシアに顔を覗き込まれた。


「あ、ごめん。傷は大丈夫、昨日の敵の事について少し考えてた」


 意識が思考から離れると同時に痛みもどこかに消え去っていた。いつもの元気な表情に戻っているテレシアに礼を言ってから空を見上げた。


「もうすっかり夜になっているから、そろそろ宿に戻ったらどうだい?シルフィアの様子も気になるし」


「あ……うん、そうするよ。シルフィアもあれで結構無茶するタイプだからな」


 名残惜しそうに頷くテレシアは「ご主人様も無茶すんなよ」と言い残して宿に帰って行った。




 シルフィアが目を覚ましたのは日暮に差し掛かった頃だった。

 テレシアに半ば無理矢理に寝かし付けられたのだが、ベッドに入って目を閉じると、思っていたよりも早く意識は睡魔に攫われた。それからは心身の疲れが癒えるまで熟睡し、今に至る。

 跳ねるようにベッドから飛び起き、壁掛けの時計と窓の外の景色を交互に見た。素材を採取した後、錬成が終わるまでシルフィアにやることはないので、時間を気にする必要もないのだが、何もしないでいると妙な焦燥に駆られた。

 寝起きのまま身なりも確認せず宿の外に出ると、丁度入れ替わるように宿に入ろうとしたエトとフレークに遭遇する。


「おや、シルフィア、そんなに慌ててどうしたんだい?」


 フレークに聞かれて漸くシルフィアは落ち着きを取り戻した。シェルトの家に行ってもアマリアの容体を見守ることしかできず、ステインの錬成を手伝えるわけでもない。自分に出来ることは無いのだと自覚すると、妙な脱力感に襲われて俯いた。


「あのさ、何があったかは知らないけど、外に出るなら少しは恰好整えた方が良いぞ」


 知人の気の抜けた姿を恥ずかしく思い、エトは視線を外しながら溜め息混じりに告げた。


「え……あ!」


 寝巻姿にまとまりのない長髪を視認すると、たちまち羞恥が高まって頬を赤く染めた。


「着替えてきまーす!」


 避難していた村人達はとっくに自宅へ帰ってはいるものの、宿泊客は変わらず宿に泊まっているというのに、シルフィアは騒がしく部屋に戻って行った。エトとフレークは顔を見合わせた後、互いに肩を竦めて見せた。


 幾らかしていつもの格好に戻ったシルフィアが階段から下りて来たところを、同郷の二人はラウンジで迎えた。


「ごめんね、恥ずかしいところ見られちゃった」


 照れ隠しの笑みに対して二人も頬を緩めて応える。


「それで、シルフィアはこれからどこかに行くのか?」


「うーん、正直手持ち無沙汰なんだよね。助けたい人がいるんだけど、わたしに出来ることなくなっちゃった」


「それならあんなに慌てなくても良かったじゃん……」


 落胆するエトに改めて謝罪の言葉を告げると、フレークが話題を変える。


「ステイン王子は一緒じゃないのかい?」


「ステインは錬金術の最中なの。用があるなら伝えるよ?」


「ああ、ならお願いしようかな。頼まれていた木材は宿の裏庭にまとめておいたから、好きにお使いくださいと伝えておいてくれるかな」


 フレークの言葉を聞いてシルフィアは二人がゲレゲン村から来た理由を今更ながら思い出した。村を囲う柵に必要な木材を輸送して来てくれたのだ。


「それと、明日の早朝に僕達はゲレゲン村に戻るから、体に気を付けて、王子にあまり迷惑をかけないように、あとそれから……」


「あー!フレークさん、小言はそのくらいにしとこう!」


 エトの張った声にフレークは少々不満気に口を閉じた。


「心配してくれてありがとう。二人もゲレゲン村で元気でね」


 災難に巻き込まれた二人だったが、普段通りのやり取りが目の前で行われることにシルフィアは軽く笑ってから扉へと向かう。


「あれ?やること無いんじゃなかったのか?」


「そうだったけど、やることが今できたから、ちょっと行ってくるね」


 アマリアを救う為に出来ることはないが、村を守る為に出来ることはある。シルフィアは木材の精錬をすべく、裏庭へと向かった。

 裏庭には木板が山のように積まれており、エトとフレークの二人で積み上げるとなると、かなりの重労働だったに違いない。

 木材の耐久力を向上させようと精錬を始めるシルフィアであったが、直前で思い止まる。このまま耐久力を向上させても悪くはないが、どうせならばもう一工夫付け加えることにした。

 ポーチから木の根、ウォークウォーテルを有るだけ取り出す。シルフィアの腕よりも細く短いが、精錬すれば何倍にも伸びる。ウォークウォーテルは足で踏むなどして衝撃を加えると不規則に動く木の根で、足に縛って踏み付けると根の動きで足を動かさずとも前進できるのだが、他にも使い道はある。伸びたウォークウォーテルを木材に絡めておけば、モンスターが衝突してきた時に根が不規則に動きながら対象を縛り付ける事がある。その際の射程はさほど長くはないが、不規則に動く根を気味悪く思って撤退する場合もあるので、モンスター除けとしてはある程度の効果が期待できる。


 シルフィアは早速ウォークウォーテルの精錬を始めると、瞬く間に長さを増していきシルフィアの身長を超えた。ウォークウォーテルが許容するだけの魔気を流し終える頃には、裏庭全体がウォークウォーテルの縄張りと化していた。


「少しやり過ぎちゃったかな……」


 想像以上に伸びてしまった為にどこから手を付けてよいか分からなくなってしまい、思わず苦笑いを浮かべた。根は宿屋の壁にも這っており、何気なく窓から裏庭を見た宿泊客は自分の眼を疑う事になるだろう。

 見た目では何が何やらといった状態で伸びているが、根の中に流れる魔力を辿れば、どの根がどのように伸びているかを調べるのは容易であった。


 木材の大きさに合う長さに根を切り終え、そこら中に転がる根を拾い集めていると聞き覚えた声に呼び掛けられる。


「シルフィアー、何してんだー?」


「テレシア!柵に使う木材の精錬をしているところなの。ステインの方は順調?」


 根を積み上げながら答えると、テレシアは納得したような呆れたような表情をして歩み寄る。


「ご主人様といいシルフィアといい、もう少し自分の為に休もうって気にはならないのか?」


「わたしなら大丈夫だよ!熟睡し過ぎて今夜は寝られなさそうなくらい!」


 嘘ではないと証明するべく、散乱している根を小走りで回収して見せた。テレシアは溜め息を吐いた後「ご主人様の方は順調だけど、時間が掛かるから今日は帰って来ない」と告げて、ウォークウォーテルの回収を手伝い始めた。




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