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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第71話

 シェルト家のリビングに場所を移し、そこでステインはアマリアの容体とその治療法をトルディから聞いた。

 黒い霧を纏ったズィンベルに魔力を吸い上げられて自力で魔力を作り出すことが出来なくなっているため、魔力を生み出す為の器械、オート・ファミリア―が必要になっている。素材は揃っているため、錬金術で錬成しアマリアの体に取り付ければ回復が見込める。錬金術師ではないトルディがオート・ファミリアーの錬成方法を知っているのは謎だが、今は悠長に質問している場合ではない


「状況は分かりました。けど錬成する前に、テレシア、シルフィアの事を宿まで送ってもらえるかな?」


 思いもよらぬ指名にシルフィアは少し驚いた様子でステインを見るが、彼女の疑問に答えたのは手を繋いできたテレシアだった。


「寝ないで採取から帰って来たんだろ。こっからはご主人様に任せて少し休んだ方が良い」


「わたしならまだ大丈夫だよ。アマリアさんが回復するまでここに居させて」


 シルフィアの申し出にステインは首を横に振った。


「オート・ファミリア―の錬成には時間が掛かるし、錬成した後に精錬が必要になるかもしれない。その時の為にも、今は休んでおいた方が良いよ」


「王子様の言う通りにしときな。大丈夫、アマリアの事はちゃんとアタシが看とくからさ」


 トルディにも言葉を被せられてしまい、シルフィアの反論する気持ちは萎れてしまう。


「シルフィア、行くよ」


「うん、ごめんね。少し休んだら直ぐ戻るから」


 テレシアに手を引かれ、シルフィアはシェルト宅から出て行った。

 二人分の人気が無くなって幾分か落ち着いた空気の中、ステインは寝室の方へ気を向け、シェルトは静かにアマリアを看ている事を確認する。


「トルディさんが上位の魔術を使えることや、オート・ファミリア―の事を知っていることは驚きでしたが、今は詳しく聞きません。ですが、一つ確認させてください。オート・ファミリア―は僕の知る限り、人を治すような物ではありません。錬成物の中でも忌むべき存在です、特にこの国に於いては。トルディさんの言うオート・ファミリア―はどのような物なのですか?」


 ステインの厳しい視線にトルディは片手を額に当てると「そりゃそうだよね」と呟いてから、額から手を離してステインの視線を真っ直ぐに見返した。


「王子様の疑問は尤もだし、これ以上の反感を買うのを承知で答えるよ。オート・ファミリア―は人殺しの道具で作られたんじゃない。万人が平等に魔術を使えるように、そんな願いの結晶になる筈だったんだ」




——————————


 オート・ファミリア―が発明されたのは今から約百年前、レイセヘル王国を含む三国で起きた戦争の末期だった。


 レイセヘル王国の北東部に位置する帝国が、物的資源を求めて勃発した戦争である。資源はあれど兵力では圧倒的に不利なレイセヘル王国は東部から徐々に侵攻を許し、当時王国領土の東部寄りに在った王都も陥落寸前となったが、王国南方に位置する国家の助力を受けて王都防衛に成功した。

 

 戦況が好転すると思うのも束の間、二国の戦力を以ってしても帝国とは五分の状況を作り出すのが限界であった。暫くの均衡が続いた後、動きを見せたのは帝国側だった。魔術よりも重火器を重視していた大国が、突然魔術による広範囲爆撃を開始したのだ。

 オート・ファミリア―により生成された魔力を暴走させての爆撃は、高位の魔術師の障壁ですら防ぎ切れず、今度こそ王都は陥落した。しかし、南国が参戦する前に王都は手酷くやられていた為、王都としての機能の殆どは西部に移転されており、陥落したのは形だけの王都であった。だが、急に増した帝国の戦力が新王都へ侵攻してくるのも時間の問題であった。


 開戦から約三年が経ち、とうとうレイセヘル王国は領土の半分以上を占領され、新王都の近くには巨大な穴が開く程の爆撃を受けた。敗戦の気配が濃厚になり、多くの人間の頭には「降伏」の文字が浮かび上がっていた。そんな時だった。突然に大国の軍が撤退して行く。帝国の首都が何者かに墜とされ、主要将官や国王が全員戦死したと情報が入った時には、既にレイセヘル王国内から帝国の軍が撤退し終わった後だった。


——————————




 自国の歴史を知るステインにとって、トルディの言葉は信じがたい物であったが、他にアマリアを助ける手掛かりが無いのも事実だった。


「自国を侵攻してきた物で自国の民を救うとは……どんな因果なのか」


 ステインは不服を表情に出し、下を向いて呟く。だが、次に顔を上げた時に表情に陰りは無く。アマリアを救う事を第一に考えた真っ直ぐな瞳を宿していた。


「オート・ファミリア―を錬成します。アマリアさんをよろしくお願いします」


「……はっ、ははは……!王子様、あんた人が良過ぎるだろ。オート・ファミリア―がどんな物なのか知ってるのに、さっきの質問とアタシの真実味のない答えで満足したってのかい?」


 テレシアとシルフィアに席を外させたものだから、てっきり詰問されると思っていたトルディは、自分の予想を裏切ったステインへ、わざと馬鹿にした様な口調で問い掛けた。錬成の為に外へ出ようとしていたステインは、振り返る事なく答える。


「満足はしていません。聞きたいこともまだあります。けれど、今はアマリアさんを救うのが先決です。それに……過去があったからこそ今の世界が成り立っていますが、だからと言って今の人間が過去に囚われる必要はありません」


 言い切ってから返答を待たずに玄関から外へ出る。トルディは一人になったリビングでバツが悪そうに、けれど嬉しそうな表情を浮かべて後ろ髪を無造作に掻き上げると、アマリアの容体を確認すべく寝室へと向かった。





 ステインは村の外まで歩くと、シルフィアから渡された素材と錬金溶液を腰のポーチから取り出した。


「薬品の依頼をシルフィアが調合してくれて助かった。錬金溶液が無かったら錬成できないところだった」


 宿で休んでいるであろう少女に感謝しながら、錬成の準備を進める。自らの魔力を火の魔気と融合させて火種を作ると、その中に錬金溶液を投げ入れて混ぜる。少し経つと火種が九つに弾け飛んだので、火の魔気で編んだ線で火種を円状の等間隔に繋ぎ合わせる。火種はゆっくりと時計回りに回転し、中央には向こう側が見えない程の蒸気が立ち込めている。


「えっと……ヘルファイア石、ウィンドクリスタル、ウォータークリスタル、ボーデン石の順番だったよな」


 トルディに教わった投入順で素材を並べ、ヘルファイア石を包んでいた火の風呂敷を消す。業火の如き赤々とした石にも関わらず、熱は感じない。不思議に思いながらもステインはヘルファイア石を両手で蒸気の中に放る。すると、蒸気は忽ち火炎となって広がり、周囲を回っていた火種の輪も拡大した。


「想像以上の魔力量だ。炉が持つかな……」


 火種の輪が苦しそうに回転するのを心配そうに眺めながら、ヘルファイア石の魔力が飽和錬金溶液の中に混ざるのを待った。

 トルディの話しでは、オート・ファミリアーが完成するまで丸一日かかるらしく、その三分二以上が今行っている、ヘルファイア石の魔力を混ぜる作業に必要なのだそうだ。平時ならば問題ないが、脱魔力症から立ち直ったばかりの状態では魔力量や体力に不安が残る。それでも自分にしか出来ない事ならばやらねばならない、そうステインが意気込むと背後から自身を呼ぶ声が聞こえる。


「おーい!ご主人様!」


 振り返ると、紙袋を両手で抱えたテレシアが走って来ていた。無事にシルフィアを送り届けたようだ。


「村の外に行くなら言ってくれよな。探したぞ」


「その割には早かったと思うけど」


「あったりまえだろ!あたしに掛かればご主人様を探すのなんて訳ないって!」


 明るく笑うテレシアを見て、ステインは幾らか肩が軽くなった気がした。表情を綻ばせながらテレシアの持つ紙袋に興味を示す。


「ところで、その袋はなに?」


「ああ、これか。シルフィアとトルディから差し入れ」


 渡された紙袋の中身を覗くと、中小の瓶が八つほど入っており、中身は飲料物やら錠剤やら保存食やらと様々であった。


「シルフィアからは……フディン薬だっけ?体力とか魔力が回復する薬で、その他の薬やらはトルディが村の医者から貰ったのを分けて貰って来た」


「ありがとう、助かるよ」


「気にすんなって。それより、錬成にどれくらいかかるんだ?」


 ステインの後ろで轟々と燃え盛る飽和錬金溶液を見ながら尋ねる。トルディから錬成方法の説明を受けた時、テレシアも間違いなく居た筈なのだが、不必要な情報として忘れてしまったようだ。


「丸一日以上は掛かるかな」


「うげっ、病み上がりなのに無茶すんなぁ」


 一日中魔力を使う感覚をテレシアは知らないが、それでも相当な負担であることは予測できる。しかし、だからといってステインの錬成を止める気はない。ステインが他人の心配よりも自分のやるべき事を優先する人間であることは、とっくの昔に知っているからだ。ならばテレシアがやることは一つ。


「やること無いし、あたしも一緒にいるよ。何か必要な物があればあたしが取ってくるし、話し相手がいた方がご主人様も退屈しないだろ」


「うん。ありがとう」


「あ、でも徹夜は勘弁なので夜になったら宿に帰るから」


 感謝の言葉を遮るようにテレシアが冗談っぽく言うと、ステインは苦笑したが元より徹夜で付き合わせる気は無かったので快く了承した。




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