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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第60話

 精錬を終えた翌日、宿屋のラウンジで朝食を摂り終えた後、いよいよ依頼品の作製を始める。ステインは全て錬金術で作るつもりだったので、素材が入った布袋を担いで外に出ようとしたがシルフィアに呼び止められる。


「薬品ならわたしも作れるから、ステインは農具を錬金術で作ってくれる?」


「それは助かる。正直、何日かに分けて錬成しないと時間的にも魔力的にも厳しいと思っていたよ」


 シルフィアの申し出に安堵の笑みを浮かべた後、どこで薬を作るのかと尋ねる。


「お部屋で魔術を使ってのんびり作るよ」


「分かった。それなら薬草はシルフィアに持って行くとしよう」


 出入り口に向かおうとしていた踵を返してシルフィアとテレシアの部屋に入り、備え付けられたテーブルの上に薬草を積み重ねる。


「一応、種類ごとにまとめて重ねたけど、本当にこれで大丈夫?」


 置く場所が無くなったので結合砂の入った瓶を手渡しながら、ステインは妙に心配そうな表情で問う。


「うん、大丈夫。ありがとう」


 布袋からは種類ごとに取り出すことが出来るので、紐で縛るなど纏めていない。バラけた状態では別の薬草に混入する可能性が高いので、ステインが別の袋を用意すると提案するもシルフィアはまったく気にしていない。


「ご主人様は細かいんだよ。使う側が分かればそれで良いんだって」


「それなら良いけど……。それじゃあ、僕は外で錬成してくるよ」


「いってらっしゃいませ、ご主人様!」


 メイド長に言えば間違いなく頬を抓られるような言い分でもステインは納得してくれる。主人の懐の広さに気分を良くしたテレシアは機嫌良く見送ると、シルフィアに向き直った。


「さて、シルフィア、あたしになんか手伝えることあるか?」


 シルフィアは人差し指を顎に当てて考える。製薬は殆ど魔術で行えるものなのでテレシアの手を借りずとも問題無いのだが、折角のやる気を無下にもできない。


「それなら、結合砂をすり潰してもらおうかな」


 結合砂の瓶を渡し、左手のポーチからすり鉢とすりこ木を取り出してそれも渡す。


「任せな。で、どうやるんだ?」


「すり方は特に決まってないんだけど、その瓶の中身全部が粉になるまで頑張って!」


 テレシアは手の平大ほどの瓶に入った結合砂を見る。結合砂は砂としは一粒一粒が大きいものの、瓶の七割ほどまで詰められた砂を粉にするにはそれなりの持久戦になりそうだ。テレシアは一瞬だけ表情を曇らせたが手伝うと申し出た以上、内容だけ聞いて放り出すことは出来ない。椅子に座って膝の間にすり鉢を挟み、結合砂との戦いを始めた。


「すった物は漉してこっちの器に入れてね」


「りょーかーい」


 テーブルの上は薬草に占領されているので、空いている椅子をテレシアの横に動かし、その上に木の器と網目の細かい漉し器を置き、ついでにテレシアの太ももに挟まれた瓶も椅子の上に移動させた。それからシルフィアは左手のポーチから取り出した、白い生地に橙色で模様が描かれた布を窓際の床に敷いてその上に土鍋を置いた。土鍋はホームパーティーを行うにしても大き過ぎる程で、子供ならば足を曲げて横になればすっかり隠れてしまう程だ。

 ゲネゼン草を鍋に入れ、魔術で出した水を土鍋の三分の一程度まで入れる。丸い葉がひしめき合いながらプカプカと浮かんでいるところに愛らしさを感じながら、土鍋に蓋をする。加熱する前に窓を全開にすると、丁度、宿屋の裏の空き地で錬成を行っているステインが見えたので、声をかけて手を振る。これから素材を投入するところだったのか、ステインは鉱石を持ったまま手を振り返してくれた。

 テレシアが結合砂をする音を聞きながら、シルフィアは薬草の入った水を沸騰させることにする。火の魔術で加熱するが調理場でもない室内なので当然火を焚く訳ではなく、精錬のように鍋と体を魔力で繋いで加熱用に編んだ魔術を土鍋に流す。土鍋は触れば熱いが、下に敷いた布が床への熱を遮断しているので焦げる心配はない。


 シルフィアは加熱をしながらテレシアのすり様を微笑ましく見守る。話しかけようか悩むが、集中力を途切れさせてはいけないと思い我慢する。窓からステインの様子を伺うと、あちらも錬成中で魔力こそ消費しているものの、特に行う作業はないのか聖剣を見つめて考え事をしていた。

 その内、水が沸騰し始めたので魔術を弱めて煎じる。土鍋とは魔力で繋がっているお陰で蓋を開けなくても中の様子を知ることが出来るのだ。

 ゲネゼン草を煎じている間に薬液を移す準備をする。左手のポーチから大きさの違う計量容器を二つと漉し器を一つ取り出し、床に敷いた布の上に置く。


「作業台も持ってくればよかったかな」


 器具を火と風の混合魔術で殺菌しながら呟く。その小さいポーチにどれだけの量が入るのか、と突っ込む者は残念ながらいない。

 薬草の中でもゲネゼン草は煎じる時間が短いので、器具の殺菌が終わって少ししてから魔術を止めて蓋を開ける。一斉に湧き上がってきた蒸気を風の魔術で窓から逃がしてやると、深緑色の薬液の中にゲネゼン草が浸されていた。火傷しないように注意しながら、計量容器から計量容器へと漉し器を通して移し替える。

 薬液を移し替えた計量容器は足で蹴らぬよう壁際に置いて熱を冷ます。鍋の底に残されたゲネゼン草を回収し、ゴミ袋にまとめて入れてから水と風の魔術で鍋を洗う。洗い終えたら火の魔術で水気を飛ばし、オンスメ草を煎じる。

 鋏で根っこを切ったオンスメ草の量はゲネゼン草より大分少ないが、水の量は鍋の四分の一程度と割合的には多く、鍋の中でギザギザの葉が揺れ動いている。煎じ方は同じだが、沸騰してから弱火でいる時間が少々長い。煎じている間にテレシアのすり速度が落ちて来たことに気付いて休憩を促す。テレシアは少しすまなそうな表情を浮かべたが、すり鉢を椅子の上に置くと思い切り体を伸ばした。


「んー!それじゃあ、休憩がてらご主人様がサボってないか見に行ってくるわ。直ぐ戻る」


「ふふっ、いってらっしゃい」


 ステインがサボらないことはテレシアとてよく分かっている筈だが、素直に話してくると言わないところにシルフィアは可愛げを感じて微笑みを漏らした。部屋で一人になったシルフィアはオンスメ草の薬液が完成するまで、まだ時間が掛かるので窓からステインの様子を見ることにした。錬成に時間が掛かっているのか、まだ依頼品は見当たらないがステインの前では相変わらず多量の蒸気が沸き上がっていた。その内、忍び足のテレシアが現れてステインの背中を突く。気配に気付いていたのか、ただ鈍感なのか、ステインは特に驚きもせず振り返ってテレシアはつまらさそうに唇を尖らせた。

 二人が何を話しているのか、風の魔術を使えば聞く事は容易いが、盗み聞きに等しい行為なので当然実行はしない。声を聞かずとも二人が他愛のない雑談に興じていることは表情から見て取れたし、話しの内容を聞いていないからこそ細かい表情の変化に気付くこともできた。


「ふふ……二人共、呆れたり怒ったりしてるけど穏やかでとても温かい眼をしてる」


 頂点に昇った陽の光り照らされながら平和な時が流れる。シルフィアは今、目の前にある平穏に幸福を感じながらまどろんでいた。




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