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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第59話

 薬草の精錬を済ませた後は結合砂の精錬に取り掛かる。結合砂の精錬さえ終えれば依頼品の薬は調合可能になる。結合砂は流石に一粒一粒精錬する訳にはいかないので、小瓶に必要な量だけ入れて精錬を行う。しかしこれが中々難しく、ステインは結合砂一瓶にゲネゼン草の精錬よりも長い時間をかけていた。

 瓶に入れて纏められているが、実際には一粒一粒に交魔線を繋いで魔気を流し込む必要がある。もっとも、砂粒の数だけ交魔線を分岐させていては魔力の消耗は計り知れないので、広げた交魔線で瓶ごと包み込んで一気に魔気を流す。ステインにとっては交魔線を広げるという挙動がどうにも想像出来ないらしく、シルフィアにコツを教わってみるが中々上手くいかず瓶を何度も割っている。


「どうしても交魔線を動かそうとすると力が入るなぁ」


 ガラス瓶の破片を片付けながら溜め息がちに漏らす。瓶の下には紙が敷いてあるので結合砂が地面と紛れてしまうことはないが、ガラス片とくっ付いてしまい、何度も瓶に入れ替えている内に結合砂の量が減ってきている。依頼品に必要な結合砂の量は少なく、多めに採取してきたこともあるので採取し直しになることはないのだが、失敗が重なると精神が下向きになってしまう。


「空魔精錬術で失敗を気にしたらダメだよ!ステインはまだ数えるくらいしか精錬してないんだから尚更!」


 紙の上に乗った結合砂を眺めて考え込むステインを鼓舞するように両手を強く握り締めて見せるが、直ぐに手を解いて「でも魔力の使い過ぎには気を付けてね」と加えた。

 失敗を気にするな。いくつもの術を学んできたステインにとっては幾度となく耳にしてきた言葉だが、頭で理解出来ていても自分の失敗を許せない性分は直らない。

 交魔線を伸ばしてから瓶を包む様に広げるのではなく、最初から瓶を包める幅の交魔線を伸ばしたり、結合砂を瓶詰めにせず紙の上に乗せた状態で精錬を行ったりもしたが、結合砂の声は砂という名の通り細かく、いくつも重なって聞こえるのでどの程度の魔気を送れば良いのか判断がつかない。予想で魔気を送った時には結合砂が勢い良く飛び散り、シルフィアが咄嗟に風の魔術で拾ってくれなければ頭や口の中が砂まみれになっていただろう。ちなみに、結合砂が髪の根元に付着すると普通に洗っても五日は取れない。


 ステインは結合砂を瓶に入れ直し、基礎に立ち直って精錬を試すことにした。空魔精錬術は素材の声を聞こうとする姿勢が重要なのはゲネゼン草の精錬で分かったので、交魔線の操作は無視して結合砂の声を聞く事だけに集中する。すると、すんなりと交魔線は瓶ごと結合砂を包み込んだ。しかし、肝心の声が聞こえてこない。先程までは交魔線さえ繋がれば細かくだが確かに声が聞こえたのに、何故。精錬を中断してシルフィアに尋ねると、ステインの精錬しようとする気持ちが強すぎて素材が怖がっているのだそうだ。


「脅えちゃうとしばらくは同じ人が交魔線を繋いでも答えてくれないから……悪いけど、わたしが精錬しちゃうね」


「面目ない……」


 当人は何も失敗していないのにバツの悪そうに告げるシルフィアに、ステインはただ頭を下げるしかなかった。

 ガラスの破片を取り除き、少し減った結合砂を補充して精錬を始める。交魔線が地中を通って素材の下まで伸びたら地表に方向転換しつつ幅を広げる。地表に出て来た交魔線は合わせた両手を広げた様な形をしていて、結合砂を一粒残さず包み込んだ。結合砂は怯えているのか、ただでさえ細い声が掠れて聞こえる。だが、それでもシルフィアには聞こえていた。

 これまでの空魔精錬術の経験も確かに影響しているが、それよりももっと根本的なことが理由である。シルフィアは素材が自分達と同じ目線にある存在だと真に思っているのだ。人と会話する時は便宜上、素材と呼んでいるが決して道具の元になる物だとも、ましてや人の為にある物だとも思っていない。この世に存在する生あるものであり、それ以上でもなければそれ以下でもないという認識なのだ。


 シルフィアは結合砂の声を聞くと同時に、ステインの失敗を謝罪する。反応が返って来ないので伝わったのかは分からないが、快く精錬を受け入れ、出来上がりの質も良いことから察するに許してくれたのだろう。


「これで薬に必要な精錬はおしまい」


 結合砂と薬草をまとめて素材を入れて来た布袋に入れる。後は鉱石や動物の角等、農具に必要な素材の精錬が残っており、シルフィアが精錬するならば日暮までに全て終わらせられるが、ステインに教えながらだと日が暮れ切るまでに終わるか怪しいところだ。

 シルフィアは少し悩んでからステインを一瞥すると、「次はどれを精錬するのか」と言いたげに素材の前でしゃがみ込んで、色の違う鉱石を両手で持って観察していた。彼に時間の事を相談しても十中八九、日が暮れるまで精錬を続けるという答えが返って来るだろう。そこでシルフィアは素材毎にかかる大凡の時間を計算し、これからの予定を決める。


「はい、じゃあ次はボーデン石の精錬を始めます!魔力に余裕はありますか?」


「うん、大丈夫」


 両手に持った鉱石の内、薄茶色の鉱石だけを持って立ち上がる。結合砂の失敗で魔力の消耗や気落ちしていないか心配だったが、顔色を見る限り調子は良さそうだ。シルフィアはボーデン石を受け取り、素材の山から少し離れた地面に置いてから説明を始める。

 ボーデン石は土属性と特に相性の良い鉱石で、地面を経由した交魔線で繋いだ際は声がよく聞こえます。それと土の魔気を良く吸収するので初めは過剰に魔気を与えがちになりますが、要求以上の魔気を供給すると砕けて使い物にならなくなるので注意してください。交魔線の繋ぎ方や魔気の流し方は薬草と同じなので、早速やってみましょう。


 ステインはボーデン石に向けて交魔線を伸ばすと、ボーデン石の声は明確どころか煩いぐらい聞こえ、驚いて交魔線を切ってしまう。その様子を見たシルフィアは予想通りの反応をしてくれて嬉しいのか、明るく笑っていた。情けない失敗を見られた上に笑われてしまい、若干の気恥ずかしさを覚えつつも気を取り直して再度交魔線を繋ぐ。来ると分かっていればボーデン石の大声に調子を乱されることはなく魔気を流し込む。シルフィアの教え通り魔気の吸収は早かったが、こちらは思っていたほど他の精錬と違いは無く、一定のペースで流し終える事が出来た。


「ふぅ……ボーデン石はどうにか精錬できそうかな」


 魔力の消耗がやや多いものの、技術的に難しい事はない。ステインは精錬したボーデン石を脇に避けると、次の精錬に取り掛かる。


「うんうん、大丈夫そうだね。それじゃ、魔力の使い過ぎに気を付けて精錬お願いね」


 精錬されたボーデン石を拾い上げ満足そうに頷いたシルフィアは、エンコエとファイタンの角を持ち上げる。長さも重さも違う二種類の角に少しバランスを崩すが、しっかりと両脇に抱えた。


「角の精錬はわたしがやっちゃうね」

 

 動物性の素材なので鉱石や薬草とはまた別の声の聞こえ方をするが精錬のやり方自体は同じなのと、一種類ずつ丁寧に精錬の感覚を覚えて欲しいという思いを理由として説明すると、ステインは異論無くボーデン石の精錬を続けた。


「時間とか、魔力のこと言うと気負いしちゃうもんね……多分」


 角の精錬の為に少し離れたところに移動しながらステインを横目に見る。魔力量は多くとも、慣れない精錬を連続して行っているのだから自覚しているよりも消耗は激しい。次にエンコエやファイタンの角を精錬する機会がいつになるかは分からないが、新しいことを詰め込まなければならない状況でもないし、鉱石の精錬を覚えた方が間違いなく今後役に立つ機会は多い。シルフィアが角の精錬を行うと決めた理由はいくつもあり、ステインに伝えた事が偽りではないのだが、それでも隠し事をしている気分に耐え切れず心の中で謝罪の言葉を述べた。


 二種類の角をまとめて地面に下ろし、交魔線を繋ぐ。エンコエやファイタンの声と共に、動物達が産まれ育った環境が脳裏に浮かび上がる。今まさにシルフィアが立っている牧場の風景とよく似た風景だが、時の流れの所為か地面の色や柵の立て方等、細かい所に差異が見受けられる。だが、動物達は皆のんびりと太陽の恵みを受け、仲間や家族と寄り添い、平和を謳歌していた。エンコエとファイタンからそれぞれ違う声と景色を受け取るが、シルフィアは等しく笑顔を返して脳裏に移る動物達を優しく撫でるように魔気を流し込む。エンコエの角の方が必要とする魔気は多く、途中でファイタンの角との交魔線を切るが、魔気の供給に一切の乱れはない。

 危なげなく二種類の角の精錬を一度に終わらせたシルフィアがステインの方を見やると、ボーデン石の精錬はそろそろ折り返しといったところだ。順調なところを喜びつつ魔力の消耗に無理がないか顔色を窺うと、平静を保ってはいるものの頬に一筋の汗が流れていた。直ぐに魔力が欠乏する事はないだろうが、ボーデン石の精錬が終わったら休ませた方が良いだろう。


 シルフィアは少なくなってきた未精錬の素材の中からオニアーの嘴を運び出して精錬を開始する。モンスター系素材の精錬は動物系素材と似ており、交魔線を繋ぐとモンスターが生息してきた環境が脳裏に浮かぶ。群れを成して大空を飛んでいる情景にシルフィア自身も空を飛んでいる気分になるが、あまり惹かれ過ぎてはいけない。モンスターは生物を見境なく襲う存在であり、命を奪って手に入れた素材でも何ものかを襲う性質は完全に消え去らない。気を抜けば繋いだ交魔線から魔力が逆流してきて、一時的に魔力が扱えなくなる事もある。

 綺麗な大空に隠された敵意に注意しながらシルフィアは嘴の声を聞く。


「飛翔。高、遠」


 モンスター系素材から聞こえる声は鉱石や薬草のように分かりやすく魔力量を教えてはくれない。死して尚残る本能に似た願いから、素材としての適性があるか、どのくらいの魔力量で精錬すれば良いか見極める必要がある。今回、嘴は呼び笛に使用されるので、高く、遠く飛びたいという願いは笛の音を届ける目的に適していた。精錬に必要な魔力量は声として聞こえなかったが、願いの強さや鮮明に映る情景から平均より多めの魔力を供給する必要がある。

 慣れた精錬を感覚的に行いながら、シルフィアは「この感覚をどう教えようかな」と頭を捻るが、答えが出るより先に精錬が完了してしまう。精錬とは別の事を考えていてもオニアーの嘴は最高の出来栄えであり、濃い黄色をした嘴は光沢を放っている。

 精錬を終えた嘴を角と一緒に布袋へ収納すると、丁度ステインが最後のボーデン石を精錬するところだった。


「あ、ステイン、ボーデン石の精錬が終わったらテレシアを呼びに行ってくれる?残りの精錬はわたしがやっちゃうから」


 シルフィアの指示にステインは無言で頷きを返す。表情に不満の色は無く、単純に精錬に集中しているのか魔力の消耗が多くなってきたので上手く声を発せなかったのだろう。

 鉱石の精錬は量の少ないブランツ石を任せるべきだったかな、とシルフィアは心の中で反省しつつ残った素材を種類ごとに別けて精錬を開始した。




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