表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
65/124

第58話

 穏やかな日の下で黙々と精錬を続けるステインと、それを見守るシルフィア。素材を地面に置き、地面に手を向けて素材へ魔気を流し込む。精錬を実行している側ならまだしも、視覚的に極めて地味な作業を飽きもしないで見守るのはそれなりの忍耐力が必要な筈だが、シルフィアは飽きるどころか微笑みを絶やすことすらしなかった。

 放牧されていたファイタンが搾乳の為に畜舎へ戻っていくと、テレシアも群れに紛れて畜舎に入って行く。精錬中は何もやることがないので、エルセに何か手伝う事はないかと尋ねたところ搾乳体験をさせてもらえることになったのだ。


 ゲネゼン草の精錬は時々魔気の量を間違えて粉微塵にしてしまった以外は概ね順調で、刻限が昼間から日中に変わる頃には必要量を揃える事が出来た。


「うんうん、やっぱりステインは凄いね。少しやり方を教えただけでこれだけ精錬を成功させるんだもん」


「褒めてくれるのは嬉しいけど、それほどのことでもないよ。予想以上に魔力と集中力を使ったから、少し休ませて」


 地面の上に座り込み、空を見上げる。青く澄んだ空から注がれる陽の光は温暖で、使用した魔力がたちどころに回復していく気がした。目を閉じて三度深呼吸をしてから、精錬を開始しようと目を開け立ち上がろうとしたところで額を押される。


「まだ休憩時間は終わってませーん。クラッツ草とオンスメ草の精錬はわたしがやるから、それまで休んでて」


 ゲネゼン草の精錬に予想以上の魔力を使ったのは事実だが、へばるにはまだ早い。ステインは自分にも精錬をやらせて欲しいと口に出そうとしたが、正面に立つシルフィアの悪戯っぽい笑顔を見て押し黙った。焦る必要は無い、クラッツ草やオンスメ草といった薬草ならばこれから何度でも精錬する機会がある。疲労を残しながら次々と精錬を行うより、万全の状態で一つずつ覚えていった方が効率は良いのだから。


「薬草系は種類が変わっても声の聞こえ方や使う魔気の量はそれ程変化しないから、さっき精錬した感覚を忘れないでね」


 精錬に必要な魔気の量に個体差はあるものの、素材の系統によってある程度の目安があるらしい。言われてから先の精錬を思い返すと、確かに毎回魔気の調整は行ったが極端に多い少ないといった要望は聞かなかった。更に気付いたことで、以前は交魔線を通じて魔気を流す工程に神経を集中させて疲弊していたが、今回はそれほど疲れを感じていない。それどころか交魔線を伝う魔気の流れもスムーズだった。地面を通した事で土属性の魔気が操り易くなったのだとしたら、地中に魔力を吸われぬよう気を付ければ、直接素材に交魔線を繋ぐよりも効率的かつ高品質に仕上げる事が可能だ。


 ステインがあれやこれやと考えている時、シルフィアはクラッツ草の精錬を開始する。今回の依頼分で使用する量がさほど多くないこともあり、一度にまとめて精錬する事にした。

 

 クラッツ草は黄緑色をした縦長の薬草で、厚みは無く横幅も小指の第一関節ぐらいしかなく先端は尖っている。よく雑草に間違われて刈られがちだが、煎じたり粉末状にして飲むと疲労回復や滋養強壮といった効果をもたらしてくれる、大変ありがたい薬草だ。なのに何故、人々に関心を得られず無残にも刈られてしまうのか、それはクラッツ草の生命力と成長力にあった。細かい無数の根は切れやすい割に少しでも地中に残っていると再び草を生やす事が可能で、どんなに綺麗に根ごと取り除いても草が生えてくることも間々あり、根が土から離れる時に分裂しているのではないかという意見もある。それに加えて、放っておくと大人の膝上まで伸びて通行の邪魔になったり、景観が損なわれたりするので定期的に草刈が必要なのだ。


 紐で纏められたクラッツ草の束を重ね、地中を通して交魔線を繋ぐと直ぐにざわざわといくつもの声が聞こえる。初めは交魔線が通っている一方向からしか声が聞こえてきたが、次第に魔力を増やして交魔線を広げていくと左右から、後ろから、頭上から、クラッツ草の声が立体的に聞こえてくる。


「薬効有。魔力適量」

「右同」

「右同」

「右同」


 ふわふわと周囲を舞うクラッツ草の声はゆるやかだが抑揚が無く、聞く者によっては無気力な声に聞こえるだろう。しかし、シルフィアには分かっていた。薬草は一株ずつ精錬した場合はきちんと魔力量を伝えてくれるのだが、今回のようにまとめて精錬をすると不思議なことに主体性を無くしてしまう。精錬に影響が出る事はないし、消耗品の素材となることが多いので基本的にまとめて精錬することになる。シルフィアに限ってはクラッツ草ののんびりとした声に癒されるという理由が追加される。


 クラッツ草の声を余す事なく聞いたシルフィアは魔気を集め、魔力を籠めて増幅させると交魔線へと流し込む。一本の太い線の上を流れていく魔気はその内に細い幾つかの線へと別れ、クラッツ草一束毎に魔気を供給する。魔気が満タンになったクラッツ草から交魔線を外し、流す魔気の量も減らす。一束が満タンになると立て続けに魔気が満ちていくので、テンポ良く交魔線を外しては魔気の量を減らし、最後の一束の精錬が感が終了すると同時に増幅させた魔気の残量が無くなる。

 良質の魔気を摂取したクラッツ草は根と切り離されているのに生き生きとしていて、陽の光を反射しているようにも見えた。


「うんうん、上出来」


 クラッツ草を撫でて精錬の成功を確認しつつ、ステインの方へ視線を向ける。顔は精錬されたクラッツ草に向けられているものの、胡座をかいて腕組みをし、少し眉間に皺が寄っているところを見るに、また色々と考え事をしているのだろう。

声をかけるか悩んだが、休憩中の思案を邪魔しては悪いと思い、先にオンスメ草の精錬を済ませることにした。

 

 オンスメ草は一つの根から等間隔に三枚の葉が地面と平行に伸びる草であり、ギザギザとした形状と上向きになった先端が特徴的な草である。色は薄くもなければ濃くもない緑色である。形状から勘違いされがちだが、葉は柔らかいので誤って皮膚を切ったり、かぶれたりはせず、寧ろギザギザが心地良い肌触りなのでつい余計に触ってしまう。

 草としては三枚の葉と根っこを合わせて一株であり、葉だけを先に採ってしまうと薬効が失われてしまうので、根っこを付けたままで精錬を行い、製薬直前に根っこを切り取る。オンスメ草は毒消しや殺菌といった薬効を持ち、塗り薬や飲み薬として使用されるが飲み過ぎたり体質によっては腹を下してしまうので、塗り薬の素材になるのが主である。

 

 用途や効能が別ではあるが、クラッツ草もオンスメ草も同じ薬草の枠組みにあるので精錬に大きな変化はない。強いて言うならば、オンスメ草は平原で採取した物より清浄の森で採取した物の方がより高品質に仕上げられた。清浄の森は空魔精霊獣であるクヨーラのお膝元だったので、どの土地よりも風と土の魔気が豊富なのが影響しているのだろう。そこでシルフィアは思う、空魔精霊獣の力を継いだ自分も周囲の魔気を豊かにし、植物や鉱物等を元気付けられるのではないかと。


「うむむ……」


 目を閉じ、周囲の大気へ意識を集中させる。土、風、火、水、魔気の流れは確かに感じられるが、これをどう操れば良いのか皆目見当も付かない。


「シルフィア、どうかした?」


 精錬が終わったかと思えば目を閉じて唸り出すので、ステインは心配して声をかける。するとシルフィアは直ぐに意識を現実に取り戻し、ステインに事情を話す。


「特定の魔気を任意で増やすか……僕が読んだ文献では、空魔精霊獣は特定の場所に留まる事で対応属性の魔気を新たに生み出すと書かれていた。フェドラス霊山なら土と風の魔気を増やすことは可能だと思うけれど、どこでも、どの魔気でも増やすのは少し難しい気がする」


「そう言われるとそうかも、クヨーラが時々思い出したように山頂に登ってたのは魔気を増やしてたのかなぁ。あれ、でもそれならわたしが霊山を長く離れるのっていけないことなんじゃ……?」


「それならあまり心配しなくて大丈夫だと思うよ。この世の魔気は全て界空魔精霊獣が生み出してるわけではなく、大地が続いていれば土が、水溜めがあれば水が、生を持ち活動するものがいれば火が、植物が生えていれば風が生まれる。ゲレゲン村周辺の魔気はいままでより薄くなるかもしれないけど、それで直ぐ何か起きることはないよ」


 勿論、今挙げたものだけが魔気を発生させているわけではなく、この世に自然的に生まれた物ならばほぼ全てが微弱ながら魔気を発生させている。

 説明を受けたシルフィアは安堵して口元を綻ばせ、ステインと共に精錬を開始することにした。しかし、彼女は気付いていなかった、先ほど魔気の流れに意識を集中させた時、四属性とは全く別の気が流れていたことに……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ