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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第56話

【ミッセン村】


 無事に村へ戻って来た三人だったが、彼らの表情の暗さは夜闇の中でも目立っていた。中でも一際暗いのはステインだ。いつもは先頭を歩いている彼が、今は少女二人から微妙な距離を置いた後方を歩いている。

 シルフィアのパーツに相乗りして帰ってきたテレシアはしっかりとした足取りで歩き、ステインが一定の距離より近付いて来た時は鋭く睨み返していた。

 今朝、道標の宿場で会った時から目も合わせてくれなかったので昨晩の出来事が原因だと推察するステインだったが、弁解の機会すら与えられずミッセン村の宿まで帰ってきてしまう。明日から協力して精錬を行わねばならないというのに気が重い事この上ない。

 宿に入ってからも少女達のステインに対する機嫌は直らず、トルディとは愛想よく挨拶を交わしたが、ステインとはついに一言も話さず部屋に戻ってしまう。


「ふー……」


 二階に上がって行く足音が聞こえなくなってからステインは無意識に大きく息を吐いた。


「どうしたんだい、王子様。まるで荒野から息継ぎ無しで来たみたいな溜め息だね」


 冗談めいた例えを口にするトルディだったが、息の詰まる思いをして一日を過ごしたステインにとってあながち間違いではない。


「二人を少し怒らせてしまいまして……」


「ほぉ……人当りの良い王子様でも他人を怒らせることがあるんだね。よかったら相談しておくれよ」


 相談を持ち掛けた者とは思えぬ目の輝きに、ステインは自らの発言を悔いた。だが今更、前言撤回は通用しない。ステインは観念して昨夜の出来事をトルディに話した。

 始めは面白そうに聞いていたトルディだったが、次第に表情は無になり、最終的には額に手を当てて宿の天上を仰いだ。


「あ~、こりゃ無害過ぎて毒になる奴だ……」


 上を向いたまま目だけを動かしてステインを一瞥する。自分の過失は認めているものの何が悪かったのか理解できていない、そんな惚けた表情をしている。気付けに平手を見舞いたくなるトルディだったが、互いの立場を考えてどうにか抑え、真っ直ぐにステインを見据えた。


「王子様は心配や迷惑を掛けたくなかったのかもしれないけど、相手にとってはそんな気遣いが何より迷惑なのさ。それにシルフィアちゃんの性格なら、怒っているというより悲しんでるって言った方が正しい。シルフィアちゃんの気持ちが無下にされたんならメイドちゃんが起こるのも当然だろうね……仲間なんだから」


「面目次第もありません……」


「アタシは王子様と付き合いが長い訳じゃないけど職業柄、色んな人を見てきた経験則から言わせてもらうよ。王子様は人の前に立って進むことばかり考えて、一度だって誰とも向き合っていないんじゃないかい」


 子供の様に小さくなるステインを見てトルディは「言い過ぎた」と呟いてバツの悪そうな顔をするが、大人に戻ったステインが首を横に振った。


「いいえ、僕の未熟な考えが招いたことです。二人と素直に話してみます、ありがとうございました」


 丁寧に頭を下げ、僅かに軽くなった足取りで階段を上がって行く様を見て、トルディはステインの聞き分けの良さに一抹の不安を覚えずにはいられなかった。


 二階に上がったステインは真っ直ぐシルフィアとテレシアの部屋へ足を運んでドアを叩く。


「二人共、少し良いかな?」


「ダメでーす」


 ドアの向こうからテレシアの素っ気ない声が返ってくるが、直後に慌ただしい物音がする。


「あ、おい、開けるなって!」


 些か遅すぎた制止の声はドアを挟まずステインの耳に届く。


「ステイン……」


 恐る恐るといった様子で見上げるシルフィアであったが、ステインと眼が合うや否や顔を真っ赤にして部屋の奥に逃げてしまう。


「二人共、本当にすまない。僕は二人の事を大切に思っている。大切に思っているからこそ、危険な目に遭わせたことを本当に後悔しているし、後悔して悩んでいたところを見せたくなかった。けれど、僕の勝手な強がりが今回、シルフィアの想いを傷付けた。テレシアのことも、きっと何度も……っ!」


 ステインの本音を遮り、静穏な村の夜に相応しくない少し籠った金属音が響き渡り、宿泊客は何事かとドアを開けて遠巻きに様子を見る。


「なな、何言いだすんだ。この変態ご主人はっ!」


 身を震わせるテレシアの両手には金属音の正体、フライパンが握られており、暴走気味に語り始めたステインは廊下で仰向けに倒れて気絶している。


「夜もまだ更けてねぇのにはしゃぎすんなよ」


「村に宿がここしかないとはいえ、若者は元気だねぇ」


 宿泊客達は勝手に事情を察し、勝手な事を言って呆れた様にドアを閉める。名も知らぬ彼らの言葉にテレシアは頬を紅潮させ、やり場のない思いをフライパンに乗せてステインに叩き付けんと振り上げる。


「テレシア、待って待って!流石に危険だよ!」 


「放せシルフィア!もう一発ぶっ叩かないとあたしの気持ちが静まらないんだ!」


 後ろから羽交い絞めにしてくるシルフィアを引き剥がそうと体を振っていると、階段から只ならぬ気配が湧き上がってくるのを感じる。体を硬直させ、振り上げていたフライパンを衣擦れの音も立てずにゆっくりと下ろす。


「あんたたちぃぃぃ、あんまり暴れると容赦しないよっ!」


 無理矢理に張り付けた笑顔と、隠し切れない怒りで周囲の魔気を揺らしながらトルディが現れた。


「ご、ごめんなさいっ!直ぐに片付けます!」


 顔を青ざめさせたテレシアはフライパンをエプロンドレスの中に仕舞い、廊下で早くも就寝している主人を担いで部屋へと運ぶ。


「はぁ……あの王子様、変な言わなかったかい?」


 溜め息と共に怒りを吐き捨て、手持ち無沙汰でオロオロとしているシルフィアに問う。


「え、えっと……急に謝ったと思ったら、わたしとテレシアのことが大切だとか言い出して、でも傷付けてしまったとか後悔したとか悩んだとか強がったとか言ってたらテレシアがパーンって、ごめんなさい!」


「もう怒ってないから落ち着きなって……」


 矢継ぎ早に一連の流れを説明され、トルディは状況より先にシルフィアの精神状態を確認するべきだったと後悔した。深く頭を下げるシルフィアに気遣いの言葉を告げていると、ステインを部屋に放り込んで来たテレシアが戻って来て、度を過ぎた深さで頭を下げられた。

 怯えて謝罪を繰り返す少女二人を相手にしている内にトルディの心は罪悪感が色濃くなっていき、シルフィア達に何があったか詳しく聞き出す前に半ば強制的に話しを打ち切るのだった。


 翌朝、記憶喪失気味のステインがカウンターの奥へ引っ張り込まれ、厳しい事情聴取を受けたことは言うまでもなく、昨晩のトルディの剣幕を目の当たりに少女達は、ステインが五体満足で帰ってくるのをただ祈るばかりであった。

 

 


あらすじを修正してみました。

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