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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第54話

【ウィルデル荒野】


 色素が抜けた茶色の大地は平坦ではなく、所々が段差になっていたり、人間の子供が入れそうな程の穴が開いていたりして、お世辞にも生物にとって住みやすい環境とは言えない。だが、荒んだ環境に適応し、巣を作る生物も確かに存在する。油断していると穴の奥に潜む住民から手痛い歓迎を受けることになる。

 見晴らしよく開かれた土地では風雨などの自然現象を直接受けることになるが、幸いにも天候は穏やかで、薄い雲から時々除く陽の日差しが体に熱を帯びさせる程度だった。


 道標の宿場で一夜を明かした一行は荒野の南東へと進路を決めて出発した。

 荒野に点在する大岩を、シルフィアとステインは火と風の複合魔術で爆破しながら、魔術の仕えないテレシアは道標の宿場で借りたつるはしで削りながら黙々と鉱石を探す。つるはしを借りる際、若い騎士が手伝いを申し出てきたが、道標の宿場の仕事に専念してほしいとステインが断った。


「あ~、飽きてきたなぁ」


 テレシアはつるはしを置き、掘るべき岩の上に座り込む。細かい砂が岩の表面を覆っており、座ると服が汚れるが、怠惰に支配された状態では砂を払うのも煩わしい。

 始めは岩を掘るのが楽しくて、威勢の良かったテレシアであったが、慣れない者に掘っては運んでの肉体労働を長時間続けるのは難しい。ステインは元からテレシアに採掘を手伝わせる気がなかったので、彼女がサボっていることに気付いても咎めず岩を砕く。


「ステイン、あっちの岩にも鉱石が含まれてるよ」


「ああ、ありがとう」


 魔力の線、交魔線を周囲に張り巡らし、鉱石の声を聞いたシルフィアはステインに次の対象を知らせると、自分も別の方向から聞こえた鉱石の声の下へと駆けて行った。


「あれ、離れすぎじゃないのか!?」


 いつ地面に開いた穴からモンスターが出て来るか分からないので、一定の距離を保って採掘する予定だった。しかし、順調に採掘出来て油断したのか、シルフィアとステインは魔術で援護するにしても少し遠めの距離に移動する。

 魔術の有効距離は個々の魔力量や魔術の技量によって事なるので、桁外れの魔力量を持つシルフィアと魔術の扱いに長けたステインなら援護し合える距離かもしれないが、魔術を扱えないテレシアにとっては不安を感じる距離だった。岩から立ち上がり、つるはしを持ってシルフィアの下へ早歩きで向かう。


 岩を爆破して鉱石を回収したシルフィアは、目的の数に達したことを確認したところで漸くステインと距離が空いてしまっていることに気付く。テレシアが手を振りながら注意しに来ていたので、謝罪の声と共に駆け出す。その瞬間だった、シルフィアが立っていた地面が亀裂と共に盛り上がったと思うと、六本の刃が地中から突き出て来た。


「シルフィア!走れ!」


 反射に近い叫び声をテレシアが上げるが、背後で襲撃を受けた事に気付いていないテレシアは逆に困惑して足を止めてしまう。そうこうしている内に地中から現れた刃は地表を吹き飛ばし、刃の持ち主の体は乾いた土を連れて荒野の空へと舞い上がった。

 真っ直ぐに伸びた体長は成人男性以上であり、陽に照らされていても鈍く光る尾は体調の半分程の長さがある。短い赤茶色の体毛は体が宙を舞ってもなびくことはなく、四足歩行の両前足には毛が生えていない代わりに石の鎧が着けられたように重々しく肥大している。前足からはそれぞれ三本ずつナイフの様な爪が生えていて、こちらは鋭く磨かれており陽の光りを反射していた。真っ直ぐ空に向けられていた顔が、獲物を探して地表に向けられる。威嚇の為に剥きだされた犬歯に特徴はないが、動物の肉を抉るには十分に発達している。膨らむように突き出た鼻は前足の様に硬質しており、頬からは白い髭が数本生えている。両目は大きく開かれているが、白濁していて焦点が合っているのか不明だ。頭頂部に生えた一対の耳は目と逆で顔の割りに小さく、痙攣しているのかと思う程しきりに動かしていた。

 舞い上がった土が足に掛かり、漸く背後の異常に気付いたシルフィアが呑気に振り返る頃には既に、モンスターは伸びていた体を空中で翻し、獲物を切り刻まんと前足を振り被っていた。


「シルフィアーッ!」


 名前を叫び全力で走り出したテレシアの手につるはしの姿はなかった。地中から飛び出たモンスターが頂点に達した時、テレシアのサイドスローから緊急発進済みである。多少狙いはずれていたが、横に回転して飛ぶつるはしを脅威に感じたモンスターはシルフィアを狙っていた前足を自衛に使う。鋭い金属音を響かせてつるはしを弾き、シルフィアの眼前へ着地する。


「きゃあっ!」


 手が届く所にモンスターの顔が現れ、悲鳴を上げたシルフィアは無意識で風の魔術を発動させていた。シルフィアとモンスターの間で空気の破裂音がしたと思うと、両者は弾かれた様に吹き飛ばされる。目的も強さも定められていない、暴走に近い魔術であったが、結果的にシルフィアは無傷でモンスターと距離を開けてテレシアと合流できた。


「わっとと……無事か!?」


 自分の魔術で転びそうになっているシルフィアを抱き留め、怪我がないか触診を開始すると、昨日平原で触った柔肌に傷がないことを確認して安堵を息を漏らした。


「なんとか大丈夫。それよりごめんね、採取に夢中になって離れ過ぎちゃった」


「気にすんなって、早くご主人様と合流……」


 視界の端にモンスターを置きながらステインの方を見るテレシアだったが、頼りとなる者が既に二体のモンスターと交戦しているのが見え、思わず顔を顰めた。


「シルフィア、あいつ魔術でちゃちゃっと倒せない?」


 モンスターの名前は覚えていないが、外見の特徴からどんな性質を持ったモンスターかは判断することができた。硬質化した前足と尻尾は振り回されるだけで凶器となり、前足から生えた爪は鋭いだけでなく強い毒を持っており、掠り傷でも負おうものなら忽ち身動きが取れなくなってしまう。単純な膂力の差だけでも人間が接近戦を挑むのは危険な相手だというのに、毒まで持たれてはテレシアも簡単に前へは出られない。シルフィアを抱きかかえていた筈の両手は、いつの間にか縋り付くような頼りないものに変わっていた。


「うん、どうにかしてみるね」


 つい先程まで死の直前に立っていたにも関わらず、シルフィアは臆することなく両手を握りしめて戦意を示した。その戦意に触発されてか、一定の距離を保ち二人の周りを回っていたモンスターが一直線に駆け出して来た。通常の魔術師ならば魔術を発動する前にモンスターの爪に切り裂かれるところだが、シルフィアは一瞬にして魔術を組み上げた。横に孤を描いた不可視の風の刃は広範囲に伸び、恵まれた脚力を持つモンスターでも横に飛んで回避するのは困難だった。ただ、横の範囲に優れている分、縦方向への範囲は薄いので跳躍すれば簡単に躱されてしまうだろう。そうなった時の為にシルフィアは既に土の魔術を準備しており、いつでも土の壁を出せる状態であった。しかし、忘れてはいけない、モンスターは地上を駆けるだけでなく地中をも移動可能な存在だということを。


 風の刃に体を寸断される直前、モンスターはいつから開いていたのか分からぬ穴に潜り込んで魔術を回避した。人間達の目には一瞬で姿を消した様に見えるだろが、直ぐに地中に潜ったと察知される。だが、僅かな間で良い。隙を見せた所に一撃、掠り傷でも付けられれば勝ちなのだ。他の生物がどうかは知らないが、彼らの狩りとはそういうものだった。

 堅い岩盤すらも掘り進めるモンスターの爪にとって一度開けられた穴を掘り進めるのは造作もないことで、瞬く間にシルフィアの足元へ到達する。先ほどはギリギリの所で避けられたが、今度は外すまいと狙いを澄ませる。モンスターの体が上を向いた時、不自然な揺れが頭上から急速で迫って来る。非力そうな獲物を見た油断からか、簡単に地中を掘り進められた余裕からか、これまで数多くの獲物を仕留めてきた慢心からか、原因は定かでないがモンスターは己の心の隙を悔いるより先に頭上から掛けられた大地の圧力に呑まれ、地中深くで眠りに就いた。




「……やったか?」


「多分。地中の動きはなくなったよ」


 おっかなびっくりといった様子でテレシアは爪先で地面を小突く。振動の違いで地中を観測する芸当など持ち合わせていないが、地中に何も反応がないと確かめずにはいられなかった。


「大丈夫そうだな。それじゃ、か弱い乙女も守れないへなちょこご主人を迎えに行くか」


 足元の安全を確認した途端に普段の調子を取り戻したテレシアは、今まさに二体のモンスターを炎の魔術で葬ったステインの下へ大手を振って向かって行く。


「テレシア、つるはし忘れてるよー!」


「あら、そうだった、ごめん」


 背後から声を掛けられて足が縺れそうになるが、どうにか転ばずに振り返り、つるはしを両手で引き摺るようにして持つシルフィアの下へ駆け寄った。



ひっそりと2章のタイトルを変えました

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