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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第53話

【グロート平原】


 すっかり高く昇った太陽に急かされて、ミッセン村から三頭の青毛のパーツが飛び出して来た。四肢の付け根の周りと尾から伸びた白銀の毛をたなびかせながら、平原を風の如く駆け抜けて行く。


「わっ!わっ!そんな慌てて追い掛けなくていいから!静かに走れ!」


 パーツの背に乗って手綱にしがみ付いているテレシアが声を上げるが、パーツは気にせず先行する二頭から離されぬよう懸命に走る。パーツの扱いが得意ではないテレシアはステインと一緒に乗る気でいた。しかし、早朝の散歩に夢中になってしまい、予定していた出発時刻を大きく過ぎてしまった結果、二人乗りでゆっくり走る余裕が無くなったのだ。

 テレシアとて好きで散歩を長引かせた訳ではない、土地勘のない場所を出歩いてしまったので帰り道が分からなくなってしまっただけなのだ。

 言い訳にならない言い訳を心の中で何度も叫ぶが、失われた時間が戻る訳でもなく、パーツが言う事を聞くようになるわけでもない。最初の休憩時間に入るまでの小一時間、テレシアは涙目のまま必死に手綱にしがみ付いていた。

 先頭を走っていたステインが合図を出して休憩に入ると、テレシアはパーツの背中から転がり落ちる様に降りてそのまま草むらに寝転んだ。乗り手を心配したのか、パーツが顔を摺り寄せてきたので気力を振り絞って頬を撫でてやる。


「お前に悪気がないのは分かってるよ。うちのご主人様が飛ばしすぎなんだよな。お前もゆっくり休め」


 パーツの顔を軽く上に押し上げると、テレシアの言葉に従ってパーツは他の二頭に混ざり、ステインの用意した水を飲み始めた。


「テレシア、大丈夫?」


 パーツに変わって今度はシルフィアが顔を覗かせて来る。初めてパーツに乗ったというのに平然としているので、早くも乗り熟すコツを掴んだのだろう。どこか抜けてそうな顔をしながら、その実なんでも熟す少女を密かに羨みながらテレシアは上半身を起こす


「あんまり大丈夫じゃないけど……鬼畜ご主人を恨む気持ちでなんとかなってる」


 パーツ達の世話をしているご主人様へ、半眼で呪いの眼差しを向けるテレシア。その様子を見てシルフィアは乾いた笑い声を漏らす。


「シルフィアはパーツに乗ってても大丈夫なのか?お尻とか痛くなってない?」


「うん。大丈夫みたい」


「ふ~ん……」


 無理をしている素振りもなく答えたシルフィアを見て、テレシアはシルフィアの下半身に抱き着く様にして尻を掴んだ。


「ちょ、ちょっと!?どうしたの?」


 同性であるが、急に抱き着かれたことに同様を隠せないシルフィアであったが、テレシアはそんなことお構いなしに尻を揉む。


「あ~柔らけ~、落ち着く~」


「落ち着かないで、放してよー!」


 心身共に消耗していたテレシアが、シルフィアの恥じらいを犠牲に活力を取りもどす。二人の声が聞こえたので、ステインは世話をしていたパーツから少女達へ視線を向ける。


「何をしているのだ……?」


 独り言で疑問を口にしたが、不穏な雰囲気ではなかったし、パーツが餌を求めて来たのでステインは引き続き世話係に従事することにした。




【ウィルデル荒野】


 限りなく続くと思われた緑の絨毯の色素が次第に奪われ、乾いた土の面積が増えてくる。走るパーツの蹄から砂埃が上り始めたところでステインはパーツを止め、辺りを見渡す。陽はすっかり落ち、家屋のない大地では月明かり以外に視覚を助けてくれる物はない。そろそろ目的地が見えて来ても良い頃合いなのだが、辺りにはモンスターの気配すら感じられない。

 ステインは月の位置を確認してある程度の方角を見定めると、地平線に向けて指を差し、風の魔術を発動した。指先から放たれた魔術は扇状に大気を震わせて行き、やがて空気の振動がステインの元に戻って来た。遮蔽物があれば簡単に跳ね返されてくるような微弱な魔術を放ち、それが返って来たということはステインの指し示した方角に何か在るということだ。何か、が分からない以上モンスターの可能性も捨てきれないが、パーツに乗った人間と同程度の高さのモンスターが荒野付近に生息しているとは聞いたことがない。

 再度月の位置を確認し、頭の中の地図と方角を照らし合わせてから、ステインはパーツを走らせた。

 荒野と平原の境い目を進んで行くと、薄っすらとした灯りが見えてくる。休憩を挟みつつではあるが、半日以上走り続けたパーツはかなり疲弊している筈だった。しかし、もう直ぐで目的地に着けるという安心感からか、パーツは乗り手の指示より気持ち速く大地を駆ける。


 『道標の宿場』広い大地に灯る明かりの正体はそう呼ばれていた。旅人が道に迷わぬよう、人里が無い所でも安心して休めるよう建てられた宿泊施設である。王都の騎士団が管理を任されており、暗がりで見え難いが尖塔の先には国旗が掲げ揚げられている。木造二階建てで背の低い尖塔はやや不恰好に見えるが、それが反って目印になっているらしく、今のところ改装の予定は無い。建物の周囲は石造りの頑丈な塀が建てられ、地を走るモンスターの侵入を固く拒んでおり、入り口には銀の鎧を装着し、槍を持った若い騎士が一人、退屈そうに塀にもたれ掛かりながら門番に務めていた。

 パーツの蹄の音が聞こえると、騎士は塀から背を離して槍を持ち直し、地面に転がしていた兜を被って来訪者を迎える。「旅人か?どこから来た?」定められた問いを投げ掛けたところで、騎士は先頭のパーツに乗る男の顔を視認し絶句した。


「ステイン王子!?失礼しました!まさか、このような所でお会いするとは想定しておりませんでした!」


 背を伸ばし、左手に持った槍を地面に立て、右腕を胸の高さまで上げ、拳を胸に当てる。騎士団の敬礼で以って自国の王子を迎える。騎士は「先程の怠けた態度を見られてはいまいか、夜中だし見つかってないよな、いやでも建物の灯りでみえてたか?」など、思考を巡らせるが、ステインは気にせずパーツから降りると騎士に敬礼を返す。


「お勤めご苦労様。休ませてほしいのだけれど、部屋は空いているかな?」


「はっ!直ぐにご用意します!こちらへどうぞ」


 騎士は敬礼を解くと、ステインが乗っていたパーツの手綱を預かって一行を敷地内に案内した。ステインは疲弊しているテレシアに肩を貸そうとしたが、シルフィアに「堂々と歩いてて良いよ、王子様」とウインクされたのでテレシアの世話は彼女に任せる事にした。


「ステイン王子がお越しなりました!」


 パーツを小屋に入れてから、勢い良く宿の両開きの扉を開ける。中は暖色の光りが灯された広間であり、二階に続く階段を除けば、簡素な受け付け机と管理者の就寝スペースを隔てる仕切りがあるだけで無駄な物は一切ない。

 机の向こうでは椅子に座った二人の騎士が、片手に握った数枚の札と相手の顔とを交互に睨めっこしていた。片や騎士らしく鍛え上げた筋肉の男。片や長身で良く締まった体格の男。見た目は全く違うが、どちらも王子より札に夢中だ。


「あの、先輩方?ステイン王子が……」


「ええい、待て!今、決着をつけるところ……王子!?」


 英断を下した騎士が手札を切ろうとしたが、聞き捨ててはいけない単語を辛うじて拾い上げた。二人一緒に出入り口の方へ視線を向けると、これまた一緒に持っていた札を投げ捨てて起立、敬礼。


「「失礼いたしました!」」


「いきなり押し掛けてすまない。一晩世話になるよ」


 ただでさえ人の出入りが少ない辺鄙の宿場に、自国の王子が来ると誰が予想出来たであろう。札で遊んでいた二人の騎士は部屋の具合を確かめるべく、大急ぎで二階へと駆け上がって行った。若い騎士も続いて二階に上がろうとしたが、部屋の準備が整うまで王子の相手をしろと先輩命令が下されたので一階に残った。

 二人の騎士による入念なチェックが終了するまでの数分間、若い騎士は当たり障りのない世間話をしてやり過ごそうと思ったが、逆にステインによる状況聴取が始まった。道標の宿場の管理に人員は足りているか。利用者はどれくらいか。モンスター襲撃の周期はどの程度か。物資は不足していないか。

 王都にいた時に報告書の数字で状況を把握していたが、直に声を聞く機会を見逃すステインでは無い。騎士が緊張していることなど気付かず次々と質問を投げ掛けていると、不意に肩を叩かれる。


「ステイン、部屋の準備が整ったって」


「む、そうか。色々聞いてすまなかった。何か不満があればいつでも報告してほしい」


 ステインは話し相手になった若い騎士と、全速で部屋の準備をしてきたのだろう、息を切らしている二人の騎士に挨拶をしてから二階へと上がって行く。


「ふー、びっくりしたぜ……」


「明日のサボりは無しだな」


「ああ、さっきの勝負は無しだ」


 筋肉質の騎士は肩の力を抜き、長身の騎士は肩を竦め、若い騎士はそんな先輩二人の姿を見て、それぞれ深く溜め息を吐いた。




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