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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第51話

【ミッセン村】


 薬草と砂の採取を終え、三人が村に戻ったのは深夜近い時間だった。平原から村が見えた時は疎らに点いていた家屋の灯りも、村の中に入る頃には殆どが消灯していた。

 村民の寝息が聞こえて来そうな村の中に溶け込む様にして三人は宿へと辿り着くと、温かな光りと共にトルディが出迎えてくれた。


「おかえり。ずいぶん遅かったけど大丈夫かい?」


 予想以上にモンスターが多かったり、採取のつもりが水浴びをしてしまったり、小さなアクシデントはあったが特別大きな問題は無く、目的の素材も十分に集められたことを三人が口々に告げるとトルディは楽しそうに笑った。


「トルディさん、よかったらこれをどうぞ。オニアーの肉です」


「あら、これは大量だね。悪いけど、厨房まで持って来てくれる?アタシの細腕じゃ、ちと辛いと思うんだ」


 袋詰めされた肉を嬉しそうに受け取ろうとしたトルディだったが、思い出したかの様に踵を返してステインをカウンターの奥へと招いた。確かにトルディは細身であるが、普段山盛りの洗濯物や食器を逞しく運んでいるぐらいなので、肉の塊を厨房まで持って行くことも問題ない筈だ。しかし、ステインは疑問を抱くことすらせず、素直に肉を持ってトルディと一緒に厨房へと歩いて行った。

 残されたシルフィアとテレシアはラウンジの適当な椅子に座ってステインの帰りを待つ事にした。


「あーあ、朝早くから採取で疲れたなぁ。シルフィアは脚とか痛くないか?」


「うん、大丈夫だよ。前までは山道で採取してたから、足腰にはちょっと自信があるんだ」


 頬杖を付いているテレシアに向けて両手を元気良く握って見せる。小さい頃から空魔精錬術師として霊山や森へ採取に出掛けていたのならば、平原を歩いて川辺で採取するくらい訳無いということだろう。シルフィアの握り拳が虚勢でないと悟ったテレシアは話しを続ける。


「明日は荒野で石ころ探しだってんだから、ご主人様も人使い荒いよな」


 グロート平原を南下した先に広がるウィルデル荒野。人里は無く、モンスターが多く生息する地帯なので今回の採取より危険度が跳ね上がる。テレシアとしては戦闘になることに不安がある訳では無い。問題はステイン含め荒野の地形を詳しく把握していないことにある。あちらこちらへと振り回された挙げ句、目的の素材が集まりませんでした、ではテレシアとしては不満を言わずにはいられない。


「目的の素材が集まらないのは確かに残念だけど、わたしは色んなところを探索するのが楽しみだよ」


 穏やかな見た目と口調ではあるが、シルフィアは基本的に行動派なのである。草や土に囲まれての採取やオニアーの解体等、同年代の娘が嫌がりそうな事も平然と熟すどころか進んで挑戦している。テレシアとて今でこそ採取に慣れてきたが、初めは自分の腰程に伸びた草木を別けて薬草を探したり、岩の隙間から鉱石を取り出したりといった事は泣くほど嫌だった。モンスターの解体については魔術を殆ど使えない事もあって今でも苦手である。

 探索も採取も嫌いだったテレシアがステインと二人旅に出たのは、王子という地位による強制では勿論無い。寧ろステインはテレシアを連れて来る気は無かったのだが、メイド長の強い要請により半ば強制的に同行させられた。今となって思えば、王都に残ってメイド長のお説教三昧の日々を送るより、肉体的に疲れはするが自由に過ごせる旅の方が何倍も良い。


「人って生活する環境で面白いくらい変わるんだな」


 テレシアが昔話を交えながらシルフィアと話していると、カウンターの奥から香ばしい匂いが漂って来た。少しして、肉の串焼きが盛られた皿を持ったステインが現れ、その後ろからトルディが人数分の飲み物を持って来る。


「お、美味そう!」


 テーブルの上で湯気を立てる串焼きを見るテレシアの瞳は輝いている。使用された肉は勿論、昼間に獲ったオニアーの肉である。モンスターという分類ではあるが、それ以前に鳥類なので肉も他の鳥肉と同じ様に調理すれば問題なく食べられる。一般的な食用鳥と比べて固めで臭みもあるが、火加減や調味料で十分に調整可能である。

 翌朝に胃もたれを起こす可能性など微塵も考えず、テレシアが肉にかぶり付く。


「シルフィアちゃんもほら、若いんだから食べて食べて」


 トルディに圧され、シルフィアも控えめに肉を口にする。あっさりとした塩加減が程よく口の中に広がり、思わず二口、三口と食が進む。


「本当ならアタシ特製のタレをたっぷり付けて食べて欲しかったんだけど、王子様の許可が下りなかったから質素な味付けで我慢しとくれ」


「ご主人様、何で許可しなかったんだ?」


「あまりに美味しいと調子に乗って食べ過ぎそうな気がしたから」


 誰とは言わなかったし、タレが無くても焼きたてなだけあって十分美味しく食べられるので、テレシアは軽く相槌を打って肉を食べ進めていく。


「明日も採取に行くのかい?」


 誰にともなく尋ねられた問いに答えたのはシルフィアだった。先ほどテレシアと話した通り、荒野へ鉱石探しに出掛けると伝える。すると、村の南門でパーツを借りることができるので活用するようにとトルディから言われる。

 パーツとは長い四肢と筆の様な尾が特徴的で走るのが得意な動物であり、特別な調教も無しに人語を理解する程に知能も高い。昔から旅人や兵隊の移動に重宝されており、多くの村や町で見かけることが出来る。


「パーツか……」


 荒野までは徒歩で行けなくはない距離なので、ステインは借りるかどうか少し悩もうとしたが、二人分の期待の眼差しを受けてしまっては無下にも出来ない。


「分かったよ。荒野まではパーツで行こう」


 王子の許可が下り、少女達は「やった」とハイタッチを交わす。喜びの声は片や楽が出来る事に対して、片や初めての体験が出来る喜びに対してだったが、そんな些細な事を気にする者はこの場に存在しなかった。


「荒野はモンスターの巣がそこらじゅうにあるから用心するんだよ。特に荒野の奥にある遺跡は何が潜んでるか分からないから近付かないように」


 トルディの注意にステインが小首を傾げる。少し前になるが、ウィルデル遺跡は王都の調査隊が既に調査を済ませており、モンスターの巣にもなっていなければ目新しい発見も無かったと報告を受けている。遺跡としてはかなり古く、魔術の痕跡すらない純粋な石造りの建造物であり、今現在も風化せず残っているのが不思議なくらいとも聞いていた。なので、トルディが念を押して注意してきた事が少しだけ不可解に思えた。


「調査隊の報告では特に危険性はないと聞いていますが、最近何かあったのですか?」


「ん……いや、何かあった訳じゃないけど、何か起こってから注意しても意味ないでしょう」


 ごもっともな意見である。ステインは自分の不要な勘繰りを反省し、明日の採取では元々遺跡まで入り込む予定はないことを伝えた。


「うんうん、変な所には近寄らないのが吉だよ。可愛い娘二人は当然ながら、王子様だって怪我したら大事だからね」


 遺跡に入らない事を確認するとトルディは大きく頷きを返し、自分用に用意した白い泡と黄金色の飲料物を一気に喉へ流し込んだ。


「あぁ~、久しぶりの酒はやっぱり美味しいねぇ。王子様、朝まで飲み明かす気はないかい?」


「厨房でも断りましたし、今、明日も採取に行くと話しましたよ」


「承知してるよ。酒飲みのくだらない絡みだからって、そう邪険にしなさんな」


 早くも酒が回っているのか、トルディはステインの頭を軽く叩きながら楽しそうに笑っている。


「メイドのお嬢ちゃんは?お酒好きそうだけど?」


 素早い身のこなしでテレシアの隣りに座るや否や肩を抱き寄せて酒を勧める。


「い、いや。あたし酒は苦手なんだ」


 酒が苦手というより酔っ払いが苦手なのだが、細かいことは伏せた方が話しが進みやすいと判断する。テレシアの判断は正しく、トルディは眉を八の字にして落ち込んだと思うと立ち上がってシルフィアへ視線を向ける。


「シルフィアちゃんにはまだ早いし、大人らしく一人静かに飲むとしますよ」


 言葉とは裏腹に酷く寂しそうな表情だが、変に情けを掛けて翌日の採取に支障をきたす訳にはいかない。というより、トルディとて明日も宿の仕事があるのだから朝まで飲んでいる場合ではないのだ。


「お互い明日もあるのですから、そろそろお開きにしましょう。シルフィアとテレシアは先に休むと良いよ」


 ステインは空いたコップや皿を重ねてさっさと片付けに取り掛かり、シルフィアとテレシアは「ごちそうさま」と挨拶をして部屋へと戻って行った。


「年長者を置いて行くなんて、最近の若者は……あぁ、こういうこと言うとまた皺が増える……」


 ラウンジに一人残されたトルディは、広々とした空間に惜しみなく哀愁を漂わせてからカウンターの奥へと引っ込んだ。



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