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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第50話

【リビエ川】


 穏やかだった川は昨日の雨によって増水しており、流れも速まっている。荒れた川底を嫌ってか、普段あまり陸地で見かけないモンスターが高水敷や土手で長い体を這わせている。

 モンスターはスラングと呼ばれており、蒼い体表をしていて手足は無い。体長は人間の身長と同程度かそれ以上といったところだが、胴回りの直径は人間の腕より一回りも太い。突然変異で巨大化したものはクライペン・スラングと呼ばれており、大きな池や湖に潜んでいることが多い。

 スラングは水中では優れた視力を持つものの、陸地では空気に弱いのか眼は閉じ、嗅覚を頼りに獲物を探す性質を持つ。蒼い体から鮮やかな赤い舌を頻りに出して、高水敷や土手に獲物がいないか探っている。


「うへ~、スラングだらけじゃん」


 テレシアが鬱屈そうに肩を落としてステインに文句を言う。雨が降った翌日に川へ採取しに来るなんて非常識ではないかと。ステインとて雨の後で川が増水していることも、水辺のモンスターが活性化することも承知していた筈だが、それでも川へ採取に来るだけの理由があるというのか。


「結合砂は流れの速い川の方が採りやすいのだけれど……予想以上にモンスターがいるね」


 結合砂はその名の通り、物質同士を結び付ける特性があるのだが、その所為で普段は結合させた砂や小石などに埋もれていて見つけ難い。川の流れが速ければ表面に結合していた物質が剥がされるので幾分か見つけ易くなる。


「向こう岸ならモンスターが少ないと思うよ」


 シルフィアの提案に一瞬疑問符を浮かべたステインだったが、向こう岸から先に広がっている平原の名前を思い出して納得する。


「そうか、ゲレゲン平原側ならクヨーラの魔力の影響でモンスターが大人しいかもしれない」


 既に空魔精霊獣でなくなったクヨーラの影響がどれだけ残っているかは不明だが、二、三日で生態系が変化するとは考え難い。シルフィアとステインは直ぐに橋へと向かい、テレシアも土手を登ってきたスラングを蹴飛ばしてから後を追った。


 ゲレゲン平原側はシルフィアの予想通り、モンスターの数は少なかった。土手で休んでいたハフディスを風の魔術で吹き飛ばすと、高水敷を這っていた三体のスラングが魔術の臭いを感知して襲って来る。


「下拵えならお任せ!」


 勇ましく前に出たテレシアの両手には艶が出るほど磨かれたフライ返し。平行して接近する二体のフラングは、テレシアに狙いを定めると大口を開け伸びる様に加速した。自分の腕より太く、顔より大きく開かれた口に臆することなく、テレシアは両手のフライ返しをスラングの下顎に差し込むと、目にも止まらぬ速度で手首を返し、二体のスラングを宙に放った。手足の無いスラングは空中で口をパクパクとさせるのが精一杯だ。そんなスラングの普段は地に伏せている腹目掛け、テレシアは渾身の回し蹴りを喰らわせ、ステインが待つ後方の上空へと飛ばした。

 少し遅れて襲撃して来た最後のハフディスの横へ、回し蹴りの勢いそのまま回り込んで蹴り上げ、今度は両手のフライ返しで

ハフディスの体に回転を加える様に打ち上げた。


 高々と打ち上げられた二体のスラングを見上げながら、ステインは火の魔術を組みながら空を仰ぐ様に右手を振りかざした。スラングの落下に合わせて右手から火球を二つ出現させると、火球は一瞬停滞した後に槍状へ変形し、標的へ向けて射出された。

 火の槍は的確にスラングの腹部中央に突き刺さると激しく発火した。スラングが長い体をクネらせた様に見えたが、ただ火が揺らめいただけかもしれない。どちらにせよ、スラングは瞬く間に灰も残さず燃え尽きた。

 遅れて飛んで来た三体目のスラングにも同様に火の槍を飛ばす。今度も正確に腹部の中心を捉えたのだが、火の槍はスラングの体に触れた途端、音も無く消えてしまった。


「おや?」


 ステインは火の槍が消されたことに首を傾げながらも直ぐに別の火の魔術を発生させた。スラングの落下を読んで、火の壁を出現させるが、これもスラングの蒼い体表に焦げ目一つ付けることなく掻き消えてしまう。

 回転しながら地面に叩き付けられたスラングは少しの間体を振ってもがいていたが、程なくすると青い塊を吐き出して絶命した。


「ヘイヘイ、ご主人様がお残しとはどうしたんだい?」


 疑問半分、小馬鹿にした感じ半分。否、疑問三割、小馬鹿七割の感じでテレシアがステインの顔を覗き込んで来た。


「確かに命中したはずだけど」


 スラングの死骸に近付きながら、先の光景を思い出す。火の槍が外れただけならばステインの狙いが甘かったと片付けられたかもしれないが、火の壁はスラングの体を覆える程の物を出現させたのに、スラングは火の壁を掻き消して地面に落ちて来たのだ。


「これ、モンスターが吐き出した物だけど、綺麗だね。宝石でも飲み込んでたのかな?」


 シルフィアはスラングが吐き出した青い塊を拾い上げ、布で軽く磨いた後にステインへ差し出した。


「これはウォータークリスタル!?」


 青い塊を見たステインは驚愕するも、次第に合点がいき小さく頷いた。


「クリスタルって、前にテレシアも緑色のを見つけたよね」


 シルフィアがポーチを開けてウィンドクリスタルを取り出して見せる。宝石の様に輝いているが、実体は魔気の塊である。どうやって出来るのか、何に使えるのか、謎の多い物質ではあるが、ステインの頭の中では一つの仮説が立てられた。


「体内に水の魔気の塊を持っていたから火の魔術を打ち消した?」


 口に出してから自らの仮説が誤りであることに気付くが、先にテレシアが指摘する。


「でもクリスタルになった魔気って使いようがないんだろ?仮に魔気を取り出せたとしても、体の中に魔気を宿してたら毒にはなっても火に耐性が付くとは思えないな」


 つい先日教えた事を思い出させられる。そしてテレシアの言う通り、体内に直接魔気を宿すなど自殺行為に等しい。魔気は魔力と合わせ術式として発動することで、戦闘から日常生活までを補助してくれるが、魔気単体では生物の生命力を害する物でしかない。魔気から身を守るために生物は魔力を宿したとも言える。

 クリスタル化したことで魔気の性質が変わった可能性も無くはないが、現段階では判断する材料が足りない。


「ここで考えても仕方ないか。シルフィア、クリスタルはそのまま持っててくれる?」


「うん、わかった」


 シルフィアが左手首のポーチへウォータークリスタルを仕舞うのを待って、一行は土手を下りて本来の目的である結合砂の採取に取り掛かった。

 ステインが水の魔術を発動させて川の流れの一部を押しやると川底が顔を見せる。人ひとりが入れる分だけ川を押し込んで川底へ下りると、不自然に地面へ張り付いた木片を引っ張り上げた。流れの速い川を真横から見るのは中々に珍しい事だが、ステインは特に意に介せず木片を裏返す。すると茶色い土に混じって黄色い砂粒が無数に張り付いていた。


「見つけた、結合砂だ」


 川底から上がって報告するが、女性陣、特にシルフィアは結合砂よりステインの使った魔術に興味を惹かれていた。


「すごぉい、魔術で川の流れを変えちゃうなんて、わたし思いつかなかった」


 シルフィアとて川辺で採取を行うことは少なくない筈なので「いままではどうしていたのか」と尋ねると、水位の高い川には近付かないようにし、浅瀬などには靴を脱いで直接入っていたと言う。万一流れに足を取られた時は風の魔術で避難していたそうだ。


「いいねぇ、温室育ちのご主人様はなんでもかんでも魔術で都合よくするからなぁ」


 テレシアは採取ついでに水遊びする光景を思い浮かべながら侮蔑の眼差しをステインへ向ける。


「……余裕がある時は魔術に頼らないようにするよ」


 魔術で環境を整えた方が効率良く採取が出来るのは明白だが、一時的でも自然の形を人工的に変えてしまうことへ抵抗を感じていたのも事実だ。テレシアの言葉を素直に受け入れて反省する。


「地形を変える時は、先に声を聞いた方が良いかもね。自然を怒らせたら怖いもの」


 言いながらシルフィアは川へ魔力の線を伸ばした。川を形成している水の意思はステインの魔術の事など欠片も気に止めておらず、蝶を追いかける子供の様にはしゃぎ回っている。シルフィアが「楽しそうだね」と声をかけると、はしゃいだ声音は変わらなかったが、応えるようにシルフィアの周りを一周してから水の意思は自由気ままに流れていった。


「うん、元気いっぱい過ぎてステインの事は気付いてないみたい」


 薬草にしろ砂にしろ、自然の力を借りる訳なのだから、断りを入れるのは当然のことだ。自然や素材の声を聞く空魔精錬術師ならば尚更意識して取り組むべき事柄である。ステインはまだまだ自分が空魔精錬術師としての自覚が薄い事を悔いつつ、自分も川の声を聞くべく魔力の線を伸ばす。だが、魔力の調整を誤ったのか、声の代わりに大量の水飛沫が降り注いで三人ともずぶ濡れになってしまう。

 思わぬアクシデントに見舞われたシルフィアは明るく笑い飛ばし、テレシアは不機嫌さを隠そうともせず、謝罪を続けるステインを追い掛け回した。二人の追いかけっこに見つかった不運なモンスター達が、テレシアの八つ当たりキックの餌食になったことは言うまでもないだろう。





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