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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第48話

 湿気った服のまま眠りに就いたテレシアを起こし、明日からの予定を決める。

 依頼品に必要な素材の数から手持ちの素材を引いた数を計算してみたが、どうしようも無く色々と足りない。作れるとしたら精々、消毒液と抗アレルギー剤だけであった。この二品に必要な素材クラッツ草、オンスメ草、ゲネゼン草は薬草であるが広域で自生しており、平原ならば探さなくても見つかる。ゲレゲン村からミッセン村までの道中にも群生している所はいくつもあったが、シルフィアが既に精錬した物をいくつか持って来ているということで採取は行わなかった。

 整腸剤はゲネゼン草で作成可能であったが、依頼数が多いので手持ちの物では足りなく、薬草とは別に結合砂と呼ばれる少し特殊な砂が必要であった。川沿いであれば比較的に見つけやすい素材ではあるので、リビエ川でも採取可能だ。


 薬品に関してはある程度の目処が立っているが、問題は工具と柵に必要な木材である。テレシアが寝ている間に話した通り、採取可能と予測される鉱山までは少々距離があり、牧畜がメインの村で鉱石が店売されていることはあまり期待しない方がよいだろう。シルフィアは鉱山での採取に乗り気であり、テレシアも特に不満はなさそうだったことが幸いか。

 話していて気付いた一番の問題、柵の材料。材料自体は木材と金具があれば良いのだが、肝心の木材を採取出来そうな場所がミッセン村の近くには無かった。川に流れる流木を精錬と錬金で賄うか、木材を扱う行商人が来てくれることを期待するか、グロート町まで出向いて入手するか、諦めて清浄の森まで戻るか。あれこれと策は出てくるが、いまいち明確な答えが見つけられない。


「ご主人様の錬金術でパパッと作れないのか?」


「木の枝とかを合わせて柵用の木材に加工することはできるけど、木材を生み出すことは難しいかな」


 苗木や種子を木材や果実に錬成する術もあるが、ステインの実力では不可能であった。ステインの言った通り、木の枝を合わせて木材に加工するのは問題無いのだが、肝心なのは必要な量である。村一つを囲う木材を木の枝で代用しようと思ったら村が木の枝で埋まってしまう、というのは少し大げさであるが、現実的ではない数の木の枝が必要なのは同じだ。


「あっ!」


 シルフィアが手を叩きながら声を上げた。何か良い方法でも思い付いたのか、ステインは言葉を待つつもりだったが、テレシアが回答を急かした。


「わたしたちもトルディさんに言って依頼を出してもらうのはどう?ゲレゲン村に木材を分けて下さいって」


 ステインとテレシアは納得の声を上げた。依頼を受けられるのだから、依頼を出すことも当然可能な筈だ。


「早速トルディさんに言ってくるね」


 元気よく椅子から立ち上がると、そのままの勢いで部屋を出て行く。気持ち早めの歩調で廊下を進み、トルディの居る一階へと階段を下りて行く。依頼をすることに気が向いていた為、窓から覗く景色には目もくれなかったが、雨足は幾分弱まっていた。


 一階に降りてトルディを呼ぶが、カウンターにその姿はない。奥で作業でもしてるのかと思い、カウンター奥の開け放たれた扉に向かって少し大きめの声でもう一度名前を呼ぶが、姿は疎か返事もない。辺りを見渡しながら待っていると、円形状に一段高くなっているラウンジの奥で、頭から足元までクロークを纏った人物が掲示板に貼られた依頼書を眺めており、その横に羽ペンと重ねられた紙が置いてあった。その紙が未記入の依頼書であることは直ぐに分かった。シルフィアはラウンジに上がり、依頼書と羽ペンを手に取る。


「お嬢さん、困りごとかな?」


 依頼書の項目を読んでいると、横から声を掛けられる。柔らかくもどこか軽薄さが窺える、若い男の声だった。フードの部分を深く被っており、はっきりと顔は見えないが人当たりの良さそうな笑みを浮かべている。


「はい。少し困ったことがあって、村の皆に助けてもらいなと思っています」


「そうかい、そうかい。困った時は誰かを頼る。人によっては中々できないことだ」


「お兄さんは困っている人を助けに来たんですか?」


 掲示板に貼られた依頼書を興味深そうに眺めていたことを思い出して問うと、満足そうに頷いていた首が僅かに横へ傾けられた。


「ん?いやいや、オレは面白い事がないか見てただけ。人助けは苦手分野なのさ」


「そうですか、これから外出する様子だったので、てっきり依頼を解決しに行くものだと思っちゃいました」


「残念。このクローク、主にフードはクセ毛を隠す為に着てるだけで、雨の日に外出なんてまっぴらだね。お嬢さんは雨降りでも平気で出歩ける?」


「雨の日だと普段と違う景色とか匂いを感じられるので、私は好きです」


「それは素敵な感性をお持ちで……あぁ、そうだな、そろそろ雨も止みそうだし、お嬢さんを見習ってオレも少し外に出ようかな」


 男が視線を掲示板の上、時計へ向けたのでシルフィアも釣られて時計を見る。時刻は日暮時を過ぎており、宿に戻って来てから意外と話し込んでいたことに気付く。昼食が早かったので、テレシアは今頃ステインに空腹を訴えているかもしれない。


「邪魔したな」


 軽い挨拶を残して出入り口のドアを開けるかと思いきや、男は顔だけシルフィアの方へ向き直った。


「誰かに頼ることが苦手な奴を見つけたら、気付いた時だけで良い、お嬢さんが助けてやりな」


 言い切るや否や、男はドアを開けてすっかり静かになった外へ出て行った。

 男と入れ違いに、トルディがカウンターの奥からエプロン姿で現れる。厨房で夕食の準備をしていたのならば、シルフィアの呼び掛けに応えられなくても納得がいく。シルフィアは依頼書と羽ペンを持ったままカウンターへ移動し、依頼を出す旨を伝える。


「もちろん誰の依頼でも受け付けるけど、折角村に来たのに面倒ばかりかけて悪いねぇ」


「いいえ、面倒なんて思ってませんよ。むしろ、今までと違う環境で精錬や採取に行けるので楽しいです」


 明日から薬草や鉱石を採取しに出掛けることを楽しげに話しながら、依頼書に必要事項を記入していく。

 夕食が出来上がったのを見計らって下りて来た宿泊客が落ち着いてから、シルフィアはトルディに依頼書とゲレゲン村の皆に宛てた手紙を渡す。


「待たせたね。確かに依頼を受けたよ。手紙も一緒に明日の朝の配達に捻じ込んでおくから、明日中にはゲレゲン村に到着するよ」


 捻じ込むという言葉がやや気になったが素直にお礼を言った後、部屋の二人に夕食が出来たことを知らせる為、階段を上って行った。


 部屋に戻ると、予想通り腹の虫を鳴らしたテレシアがベッドで情けなく横たわっており、ステインは椅子に座って判型が大きめの本を読んでいた。シルフィアは依頼を出せた事を先に伝えるか一瞬迷ったが、テレシアの不憫な姿を見て夕飯が出来た事を真っ先に伝えた。テレシアは飛び起き、ステインも直ぐに本を閉じて椅子から立ち上がった。三人仲良く一階へ降りると、丁度良くトルディが三人分の夕飯を横長の浅い容器に乗せて持って来た所だった。

 

 食事は基本的にカウンターで受け取ったら各々の部屋で食べる形式なのだが、空いていればラウンジで食べても良いことになっていたので、三人はラウンジの適当なテーブルに着いて夕飯を囲む。

 夕飯はオフマイン豆をふんだんに使ったエルテンスープ、フスプティング麦のパン、アンプラと野菜のクロケット。

 エステンスープは元々汁気の少ないスープではあるが、どちらかと言うと固形に近く仕上げられているのはトルディ流なのだろう。

 パンは一般的に見られる楕円形のパンだったが、表面が固めに作られている。これもトルディのこだわりか。

 細長い樽型のクロケットは出来立て特有のサクサクした食感の中から香辛料が強い主張をしてくるが、多めに加えられた野菜の甘さが中和してくれる。


「それにしても良かったな、依頼出せて」


 テレシアはエルテンスープのおかわりを貰って席に着くと、漸く会話に入って来た。ステインとシルフィアからすれば最初に話したところに戻った気分なのだが、指摘するほどのことでもないので大人しく会話を撒き戻した。


「うん、明日中には向こうに依頼書が着くって」


「けれど、ゲレゲン村に頼り切るわけにもいかないから、僕たちも他の採取をしながら木材を集めよう」


「集めるのは分かったけど、ご主人様、それならあたしにも何か入れ物作ってよ」


 様々な家事道具が収納されているエプロンドレスだが、残念ながら何でも無限に収納できる訳ではない。素材を採取するなら別に入れ物を用意するべきなのだが、ステインは直ぐに答えられなかった。


「作りたいけれど……錬金溶液の数が心許ない」


「えーっ、それって王都まで行かないと買えないんだろ?今回の依頼の分はあんの?」


「依頼を熟すだけなら間に合うから、そこは安心して」


 錬金溶液を錬成する方法はないか探していたが、記憶にもレシピにも見当たらなかった。いや、レシピ自体はあったが、ミッセン村の周りでは手に入らない素材ばかりを使用するのだ。村の周りで採れる素材を完全に把握している訳ではないので、絶対とは言えないが新たに錬金溶液を手に入れるのは不可能と思った方がよい。


「素材を沢山入れるだけで良いなら、精錬でどうにかできるよ」


 肩身が狭くなってきたステインにシルフィアが助け船を出す。左手のポーチを開けたり閉めたりして見せると、ステインとテレシアは一緒に「あっ!」と声を上げた。


「そういえばそのポーチはシルフィアが精錬した物だったね」


「てっきりもっと特殊な物だと思ってた」


 テレシアの入れ物問題はどうにか解決したが、錬金術に限りがあることは変わらない。ステインはゲレゲン村で調子に乗ってフラミンサシェットを大量に作ったことをこっそりと後悔した。




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