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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第2章〖魔狩りの爪〗
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第41話

【ゲレゲン村】


 澄んだ青空の下、風車は今日も呑気に回転して世界を駆けていく風を見送っている。風車の羽と同じく人々もいつも通りの日常を送るかと思われたが、今日は少し違った一日の始まりを見せていた。普段と違うと言っても不穏な気配は微塵も無く、上空に広がっている青が地上に落ちたかの様な晴々しさだった。

 ゲレゲン村の南門には村人の殆どが集まり、平原を背にした三人を取り囲んでいた。

 タチアナ村長の所へ挨拶に行った時、朝の配達で村中を走り回っていたエトと遭遇した為、シルフィアが旅に出る事を告げたのだ。突然の出来事であったが、小さな村の中ではたちまち情報は伝達され、いざ出発という時には村中の人間が各々の仕事を後回しにして見送りに来てくれたのだ。

 押し寄せる人の波をシルフィアが丁寧に対応し、その様子をステインとテレシアは少し後ろから眺めていた。すると、エトが集団を迂回し、ステインに話し掛けてきた。


「にーちゃん、シルフィアが旅に出るのって、やっぱりこの前のでかいモンスターと関係あるのか?」


「……うん。あのモンスターを倒すには優秀な空魔精錬術師の力を借りる必要があって、今後の対策を考える為にも、一度王都に連れて行くよ」


 余計な心配を掛けたくはなかったが、エトの真っ直ぐな瞳を前に曖昧な返事をすることはできなかった。


「ゲレゲン村は今まで通りクヨーラが守ってくれるから安心して」


 空魔精霊獣ではなくなったが、神獣と謳われた存在に間違いがないことはステインが身を以って知っている。空魔魄霊獣もどきなら撃退する事は可能だろう。


「ああ、うん。村のことは気にしなくて良いんだけどさ、シルフィアのことは頼んだからな!にーちゃんなら薄々気付いてると思うけど、シルフィアってぽーっとしてる時があるから、大きい街だと直ぐ迷子になるタイプだと思うんだ」


「もちろん。僕が連れ出したのだから、その辺りは責任を持って同行するよ」


 戦闘、特に空魔魄霊獣と遭遇した時の安全は保障しかねるが、国内の案内ならばステインでも十分に務まる。


「大人の、せきにん」


「女の人がこきょうからはなれる時はおよめさんに行く時だって、本でよんだ!」


「シルフィアお姉ちゃん、およめさんのドレス着たらぜったいにキレ―だよね」


 いつの間に現れたのか、ヒリス、テクラ、ドーラの仲良し三人組がステインの足元で妙なことを話しているではないか。


「お、チビッ子共、面白い話してるな。けど残念、この平凡ご主人様じゃシルフィアを嫁にするのは太陽を掴むより難しいな」


 しゃがんで子供達の話に混ざったテレシアであったが、他人を馬鹿にする目線は真っ直ぐにステインへと向けられていた。


「子供達の前でそんな目付きをするのはよしなよ」


「ちぇ、相変わらずつまんねー反応だな」


 軽いからかいを無視されただけではなく、窘められた事に不満を感じたテレシアは口を尖らせてそっぽを向いた。目線だけでなく態度も子供達に合わせているのかと思われたが、テレシアはそこまで器用な性格ではない。


「ステイン、きげんわるくさせた」


「大人なのに女の子のあつかいがヘタ!」


「キレ―なメイドさんをこまらせたらダメなんだよ」


 ステインとテレシアの間では普段通りのやり取りが行われたのだが、純真な子供達にはステインが意地悪く見えたのだ。腰の周りに掴み掛かる様にして抗議する子供達の勢いに、ステインは思わずたじろいだ。


「ご、ごめん。困らせるとかそういうつもりは……」


 小さな反発を必死に対処しようとするステインだったが、視界の端で酷く意地の悪い笑みが見えた。


「うぇぇ……ご主人様はいつもあたしに冷たいんだ。子供達と一緒にいれば少しは優しく話してくれると思ったけど、冷酷無残で冷淡無情なご主人様に期待したあたしが悪かったよぉ」


 テレシアから聞いた事の無い弱々しい声が出たものだから、ステインは絶句し視線でエトへ助けを求めた。笑い声を押し殺して成り行きを見ていたエトであったが、困り顔のステインを助けようと一歩踏み出した時だった。気まぐれな風がエトの心に入り込む。


「にーちゃんがそんな酷い奴だったなんてなぁ、見損なったぜ」


「エトまで何を言っているんだ!?」


 日常的に親しくしているエトの言葉を受けて子供達の勢いは更に増し、ステインはいよいよ撤退を余儀なくされた。


「ふふっ、仲良しなのはいいけど、怪我しないようにね」


 子供達の加減を知らないパワーに揉みくちゃにされかけた時、ステインにとって最後の希望となる者の声が届いた。


「シルフィア、挨拶はもう済んだのって、やめて、結構本気でお腹叩いてくるのやめて!」


 王子たるもの、身に危険が迫っていようと助けを求めて誰かに縋り付く様な真似はできない。余裕のある笑みでシルフィアを迎えようとしたステインだったが、小さな猛攻の前に彼の余裕は瞬く間に破壊された。


「はいはい、遊ぶのは良いけど、ぶつのはダメだよー」


 軽く手を叩きながらマイペースな口調で話しかけると、子供達の興味は一瞬にしてステインからシルフィアへ移った。


「シルフィアお姉ちゃん、ほんとうにいなくなっちゃうの?」


「テクラもいっしょに行きたい!」


「キレ―なけしき、いっぱい見て来てね!」


 一斉に話しかけてくる子供達をシルフィアは抱き寄せる様にして迎え、一人ずつ挨拶を交わしていく。


「助かった……」


「へへ……ご主人様もチビッ子の攻撃は避け切れないんだな」


「別れ際なのだから、誤解を生む発現は控えて欲しいな」


「それはご主人様の対応次第だな」


 悪びれる様子なく笑みを浮かべるテレシアと対照的にステインは肩を落として溜め息を吐いた。


「それじゃあエト、皆のことよろしくね」


「ああ、村のことはオイラに任せてシルフィアは好きなとこに行ってきなよ!」


 エトの言葉にシルフィアは笑顔で頷き、柔らかな足取りでステイン達の隣りへ歩いて行ったところで村の方へ振り返った。


「勝手で急な旅立ちになったけど、皆が見送りに来てくれてわたしはとっても幸せです。この幸せをもっと広めるために、空魔精錬術でもっと多くの人を助けるために……いってきます!」


 シルフィアが深く頭を下げると、村中が大気を震わせ、少女の旅立ちを祝福した。

 半ば後ろ歩きになりつつ手を振って別れを告げるシルフィアの姿が見えなくなって漸く、村人達はそれぞれの生活に戻り始めた。しかし、エトだけはいつまでもシルフィア達が歩いて行った道の先を見つめていた。


「……お兄ちゃん、一緒に行かなくてよかったの?」


「リサ!?まだいたのか……先に帰っててよ。オイラはまだフレークさんとこの手伝いが残ってるからさ」


 自分以外に残っている者がいるとは思わなかったため、エトは体をビクつかせたが、声を掛けてきたのが自分の妹だと知ると直ぐに平静を取り戻した。しかし、リサの横を通り過ぎて村の中へ入ろうとしたところで再度エトの体は反応を示すことになる。


「お兄ちゃん!」


 家族として共に過ごしてきたエトでもほとんど聞いたことのない、リサの張った声。リサが何を伝えたいか、エトには分かっていたし、嘘を吐いても直ぐにバレてしまうのも分かっていた。だからエトは正直に答える。


「オイラだって色んな所を旅したいさ。けど、それは今じゃない。オイラはこの村でまだまだやる事があるからさ」


「お兄ちゃん……」


「ほら、分かったら早く帰れって、母ちゃんが心配するぞ」


「うん……」


 兄妹が村の中へ戻ったことで周囲の平原に人影はなくなり、ゲレゲン村では日常が動き始めた。




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