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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
42/124

第36話+++

 自国に戻って来たお姫様は自分の眼を疑いました。建て直した住居も城壁も無残に破壊され、城すらも蹂躙されて黒煙が立ち込めておりました。

 お姫様は城壁前で地上に降り、今はもう残骸と化している門から城下町へと入りました。ダブル・ガレイドの襲撃が終わっても、火災や毒は住民達をしつこく追い回します。兵士や魔術師が被害を抑えようと駆け回っていますが、とても手が足りているとは思えません。お姫様も怪我人の救助に当たろうとしましたが、兵士に呼び止められ、国王の亡骸へと導かれます。

 布切れの上に寝かされた国王はとても王族に相応しい扱いだと思えませんでしたが、町の惨状を見てしまってはそんな不満を抱くことすら出来ません。ただ、国王であり肉親であった者が亡くなったことを悔やんで涙を流すだけです。しかし、辛い事に泣いているばかりではいけません。国王が亡くなった今、国をまとめるのはお姫様の役目です。

 涙を拭って立ち上がった先では、住民達が縋る様な、恐れる様な表情でお姫様を見つめていました。一度ならず二度までもダブル・ガレイドの襲撃を受け、精神的にも土地的にも住める状態ではありません。お姫様はフライカイツを呼び、住民達を近くの村へ移動させようとしました。


「モンスター……」


 住民達の中から小さな呟きが漏れます。そして、その呟きは人々に不安を伝染させ、数時間前の恐怖を掘り起こさせました。


「あ、あの……お姫様はモンスターと会話ができるんですよね?」


 気弱そうな男の問いにお姫様は迷うことなく頷きます。


「じゃあ、ダブル・ガレイドを説得してくれても良かったじゃないか!」


「他国の問題を解決する前に自国の問題を解決するべきだったんじゃないのか!?」


「そうだ!こっちは一度実害に遭ってるのに、何で対応してくれなかったんだ!」


 堰を切ったように次々と不満が爆発していきます。どのモンスターとも会話ができるか不安だったとか、ダブル・ガレイドの生息地が分からなかったとか、理由は色々とありますが、住民達は言い訳を聞きたくて糾弾しているわけではありません。お姫様は自分の対応の悪さを素直に認め、謝罪をしますが、住民達の不満は治まりません。それも当然です。住民達はお姫様の謝罪を聞きたいわけでもなく、ただやり場のない怒りや悲しみを吐き出しているだけなのですから。


「ひょっとして、ダブル・ガレイドはお姫様がけし掛けたんじゃないのかい!?」


 とうとうあり得ない疑惑を持たれてしまいます。これには流石に住民達もどよめきましたが、お姫様が二度の襲撃を奇跡的に回避した事実を思い出し、妬みが増幅していったのでしょう。住民達の視線は次々と鋭くなっていき、口々に身内の不幸をお姫様の前に突き立てていきました。お姫様も父親を亡くした被害者であることを忘れて。

 兵士が住民達の怒りを抑えようとしますが、多勢に無勢です。武装した兵士がいくら怒鳴ろうと、双頭のワイバーンから比べれば可愛い産声のようなものです。


「あたしゃ前に見たよ!姫さんが夜中に町の外でモンスターと話してるのを!えらく楽しそうだったけど、何を話してたんだい!?」


 モンスターとの会話の練習を見られていたのです。城の者に見つかったら、いらぬ護衛を付けられてしまうのを嫌ったのと、モンスターが活動的になるという理由で夜中に行動していたのですが、反って不審に思われてしまいました。住民達の心は既にお姫様を疑い切っており、どんなに真実を語ろうと信じてはくれないでしょう。

 国の為、人々の為、モンスターとの共存を夢見たお姫様が、自国の民にここまでの敵意を向けられるとは何と悲しい事でしょう。

 お姫様は蹲って泣きたくなりましたが、自分の直ぐ後ろに国王の亡骸があることを思い出し、ぐっと我慢します。漏れ出しそうな嗚咽を飲み込み、代わりに重い息を吐き出します。


「私はこれより脅威であるダブル・ガレイドの討伐に向かいます!兵達は生存者の救出が完了し次第、近隣の村へ避難してください!住民の皆さんは不安でしょうが、どうか兵達の指示に従って避難するようお願いします!」


「姫様!?お考え直しください!今は生き延びて国を再興させる方が重要です!」


「再興の途中で襲撃に遭っては同じ事の繰り返しになってしまいます。ダブル・ガレイドを討つ、これは私が王になる為の試練なのです!」


「そうは仰っても、今の我々にはダブル・ガレイドを討つだけの戦力がありません」


「問題ありません。兵達は全員、住民の救出に尽力してください。私には心強い仲間がいますから」


 兵士の説得を振り払い、お姫様はフライカイツへ手を差し伸べます。


「この国の為に、あなた方の力を貸してください」


「人間とは勝手なものだ……。しかし、あまりにもこの地を汚されては我々の棲み処も危うい」


 フライカイツは頭を低くし、お姫様に背中を見せます。協力してくれるのでしょう。


「ありがとうございます!」


「お姫様の為だもん、頑張るよ!」


 ステークはやる気に満ち溢れており、四対の翼を激しく羽搏かせて急上昇していきました。その様子を見たフライカイツは「やれやれ」と溜め息を吐く様に、少し気怠げに飛翔しました。




 一定の所に棲み処を作らないダブル・ガレイドを探すのは至難の技でした。モンスター達から情報を聞こうにも、ダブル・ガレイドを見かけたら本能的に逃げてしまうので、大雑把な方角ぐらいしか分かりません。


「あなた達は、ダブル・ガレイドを恐れないの?」


 数々のモンスター達が、名前を聞いただけで顔を青ざめさせるというのにフライカイツは至って平然としているのですから、不思議なものです。


「恐ろしい相手には違いないが、これ以上のさばらせておくわけにもいくまい」


 落ち着き払った語気からは恐怖など微塵も感じませんし、並行して飛んでいるステークに至っては血気盛んな様子で周囲を見渡しています。


「頼ってばかりになりますが、他にも仲間を呼ばないのですか?」


 暴君であるダブル・ガレイドに挑むのですから、戦力はいくらあっても良い筈です。しかし、フライカイツは仲間を呼び寄せる事はせず、お供として付いて来るのはステークだけです。


「彼奴に数で挑むのは賢い選択とは言えん。命を投げ捨てる覚悟があるならば話は別だが、臆病な性根である我らには難しいだろう」


「ダブル・ガレイドなんてボクがボコボコにしてやる!」


 尻尾を激しく振り回して勇んで見せるステークを横目に、フライカイツは「この子の性格は人間に育てられた影響なのだろうか」と溜め息混じりにお姫様に問うのでした。


 ダブル・ガレイドを追って国内を飛び回ること数日が経ちました。確かな足取りも掴めず王都付近に戻って来た時です。フライカイツの月草色の毛が一斉に逆立ったのです。お姫様が何かを口にするより早く、フライカイツとステークは左右に急旋回しました。すると、数瞬前の進行方向に赤と黒が混ざった毒々しい炎が落とされて来たのです。


「ギャシャァアアアアアッ!」


 大気を震わせる甲高い咆哮に、お姫様の心臓は早鐘を打ちました。探していたダブル・ガレイドが遥か上空に現れたのです。


「やっと出て来たなー!」


 闇を彷彿させる黒い鱗から覗く四つの金色の瞳が、こちらを見下していました。並の生物なら視線を交わしただけで本能的に逃げようとする筈ですが、ステークは勇敢に立ち向かっていきます。様子を見ようとしていたフライカイツでしたが、ステークを単身で突撃させるわけにはいきません。急上昇して後を追います。

 上空から火炎と毒を吐き出してステークを狙っていたダブル・ガレイドでしたが、長い体躯を巧みに翻して接近してくる様子に苛立ったのでしょうか、咆哮を挙げて急降下してきます。

 二体がぶつかり合うと思われましたが、ステークは寸での所で身を捻り、ダブル・ガレイドの脇を抜けて行きます。上下関係が逆転した瞬間に空中で前転し、尻尾を鞭の様にしならせて叩き付けます。急降下していたところに叩き付けの衝撃を受けたダブル・ガレイドは体勢を崩して落下していきます。


「姫よ、しっかり掴まっていろ」


 フライカイツは短く言い切ると、全身に風の魔力を纏わせて四対の翼の羽搏きを止め、四足で空を駆け出したのです。

 向かってくるフライカイツを迎撃しようとして火炎を撒き散らしますが、風の防壁に防がれて毛一本、焦がす事はできませんでした。二体が混じり合う直前にダブル・ガレイドは体勢を立て直していましたが、回避はとても間に合わないでしょう。フライカイツの鋭利な嘴がダブル・ガレイドの飛膜を貫かんと差し迫ります。飛膜を破いてしまえば、もう飛ぶ事はできません。そうなればフライカイツ側が一気に有利となります。けれど、ダブル・ガレイドもただで翼を失う気は無かったようです。


「自分の毒を!?」


 お姫様が驚愕の声を上げた通り、ダブル・ガレイドは自身の翼に毒を吐きかけたのです。そして、フライカイツは毒の染み着いた飛膜を貫いてしまいます。


「グアッ!目がっ……!」


 フライカイツは短い悲鳴を上げると、空中で暴れ回ります。飛膜が嘴と密着したことで毒が風の防壁を突破してしまったのです。


「下!」


 毒に苦しむフライカイツを見ていることしか出来なかったお姫様が、何かを察知して反射的に声を上げます。すると、片翼を破かれて落下するダブル・ガレイドがこちらに向き直り、双口にそれぞれ炎と毒の球を溜めているではありませんか。ステークが咄嗟に妨害へ向かいますが、とても間に合いません。毒の混ざった火球がフライカイツ目掛けて発射されました。


「避けて!」


 初めて真下からの攻撃を受けたお姫様は、適切な指示も出せないまま、ただ行動を促すしかできませんでした。フライカイツはがむしゃらに動き回って火球を躱したのですが、なんと火球は高空まで飛ぶと弾け、火と毒の雨となって降り注いできます。フライカイツは幅の広い竜巻を発生させて雨から身を守りますが、先程の毒が利いているのでしょう、重そうな翼を最小限に動かし、滑空していきます。

 地上に降りたダブル・ガレイドとステークは激しく組み合っていましたが、重厚な鎧に似た鱗と双頭を持つダブル・ガレイドの方が圧倒的に優勢でした。地上の相手に対して「飛べる」というのは圧倒的な優位性でしたが、嘴も爪も通らぬ相手を倒す手段がステークには無かったのです。


「くっそー、もっと魔術が上手ければ……」


 空中に避難して作戦を考えるステークでしたが、ダブル・ガレイドは絶えず炎と毒を吐き出して攻撃を仕掛けてきます。双頭による攻撃はわざと時間差を作ったり、行動を先読みしたりと、非常に躱し辛いもので、いつしかステークは回避に集中して作戦を考える暇もありませんでした。

 一方的な攻防が続く地上に、一つの影が落ちて来ます。滑空して来たフライカイツはそのままダブル・ガレイドに突っ込み、地面に押し倒します。


「姫を頼む」


 俯せの状態で暴れるダブル・ガレイドの双頭を押さえつけ、フライカイツはステークにお姫様を乗り移させます。しかし、その僅かな間がダブル・ガレイドの反撃を許してしまうのです。ダブル・ガレイドがステーク目掛けて毒の霧を吐き出したのです。


「うわわっ!」


 毒を浴びる瞬間、ステークの体をフライカイツが突き飛ばして身代わりになります。


「キュゥウウウウウン!!」


 毒を浴びたフライカイツでしたが、勇ましく天に向かって吠えると、押し倒したダブル・ガレイドへ猛攻を与え始めます。けれど、フライカイツの嘴も爪も、ステークと同じく鎧を貫く事は出来ません。首をへし折ろうにも激しく暴れ回り、自爆覚悟で炎や毒を撒き散らすものですから、中々上手くいきません。風と土の魔術も使いますが、撒き散らされた毒の影響でしょう、威力は半減してしまって決定打を与えられません。それでもフライカイツは攻撃の手を緩めません。持てる力全てを使ってダブル・ガレイドを倒そうとします。鬼気迫る攻防に、お姫様もステークも手出しできず、ただフライカイツの勝利を祈るだけでした。




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