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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第36話++

「これは……!?」


 お姫様が離れた数時間で何があったのでしょう。原因を確かめるべく地上に降りようとしましたが、城壁に弓兵が隠れており、一斉に矢を放ってきました。正確な狙いで飛来してくる矢でしたが、フライカイツの発した風の魔術により勢いを失って地上に落ちて行きました。


「私です!武器を下ろしなさい!」


 二撃目が来る前にお姫様は身を乗り出して兵士達に命令します。まさかお姫様がモンスターに乗って現れるとは思っていなかったので、兵士達はどよめきますが、大人しく命令に従い武器を下ろしました。

 地上に降り立ったお姫様は兵士から状況を聞きます。すると、何という事でしょう、ダブル・ガレイドが襲撃したと言うではありませんか。弓兵と魔術師が総出で何とか撃退したものの、町の被害は甚大な物でした。死傷者や倒壊した建物は数知れず、毒を撒かれた畑は二度と使い物にならないでしょうが、放っておいては毒の被害が広がってしまいます。戦闘直後だというのに魔術師たちが懸命に浄化作業をしています。


 城に戻ったお姫様は急に姿を消した事を咎められましたが、それ以上に無事でいたことを安堵されました。モンスターと会話が可能になったと伝えたかったのですが、誰も彼もが事後処理に追われていて、それどころではありませんでした。

 お姫様は城壁の外で待たせていたフライカイツとステークへ別れを告げに行きます。


「本当はもっとゆっくりお話しをしていたかったのだけれど、町がこの様子ではそうもいきませんね」


 フライカイツが危害を加えたわけではありませんが、ダブル・ガレイドと同じモンスターには変わりありません。人々の不安を煽ってしまう前に山へ帰った方がお互いの為というものです。フライカイツも事情を理解しており、ごねるステークを宥めて別れを告げます。


「子が世話になった借りもある。再びダブル・ガレイドに襲われた時は手を貸そう」


 フライカイツは頭部の翼を揺らすとお姫様の手に一枚の羽を落としました。


「我を呼ぶ時はその羽を風に乗せよ。さらばだ」


「お姫様、今までありがとう!幸せだったよ!」


 二頭はそれぞれ別れを告げると、静かに飛翔して住処のある山へと帰って行きました。

 それから暫く、お姫様は町の復興の為に尽力していき、本格的な冬を迎えるまでには、どうにか家屋の再建は一段落着ける事ができました。雪が積もることは少ない国でしたが、備え無しに越せるほど甘い冬ではありません。周辺国家へ資源の援助を要請することにしました。


 フライカイツが生息する山脈を越え、更に南へと進んだところにある国は資源、特に燃料に富んでいました。お姫様が直々に出向き、事情を話して支援を要請しますと、懐が深い王様は快諾してくれました。お姫様もここまで簡単に支援を取り付けられるとは思ってもいませんでしたから、深々と頭を下げて謝辞を述べようとします。しかし、一瞬早く王様の口が開かれたのです。


「実は最近、森の方でモンスターが異常に増えておってな。近々討伐隊を派遣するのじゃが、少しばかり戦力に不安があってのぉ……」


 戦力の当ても、その当てが断れないとも知っておきながら、王様は庶幾なる視線をお姫様へ向けました。お姫様は断るわけにいきませんので、モンスターの討伐に協力することを約束します。

 話しがまとまり、資源を貰うことが出来たわけですが、お姫様は他国のモンスター討伐に誰一人として出兵させる気はありませんでした。というのも、兵士達は皆、ダブル・ガレイドを撃退してからほぼ無休で町の復興に尽力していたからです。兵士達の努力のお陰で何とか冬を越せそうだというのに、労うどころかモンスター対峙に行かせるなど、お姫様には到底できない命令でした。だからといって王様との約束を反故にするわけにはいきません。お姫様は一つの決意をして自国へと帰っていきました。


 援助のお陰で幾分か安定した生活を取り戻し、静かに眠る城下町を眺めたお姫様は単身、城を抜け出して平原に出ました。護衛も付けなければ武器も持たず、月明かりが照らす冷気に身を貫かれる思いをしながら、当てもなく歩き続けます。

 やがて身が冷え切ろうとした時、目的としていたモノは現れました。お姫様の体はたちまち寒さを忘れ、太陽のような笑顔を咲かせました。


「こんばんは、今夜は一段と冷えますね」





 朝から晩まで町の復興に奔走し、深夜は一人平原に出て、朝日が昇る前に城へ戻る。そんな生活を続けていましたが、お姫様は体調を崩す事も弱音を吐くこともありませんでした。

 その内、城当てに南の国から一通の手紙が届きました。ついにモンスター討伐の日取りが決まったのです。お姫様は国の代表として討伐隊に志願し、モンスターと会話することが可能になったことを打ち明けました。そして、南の国には自分一人で行くとも伝えます。


「無茶を言うでない。仮にモンスターと会話ができたとしても、問題を解決できるとは限らん」


「大丈夫です。モンスターは人間ほど難しい生き物ではないと分かりましたから」


 お姫様はそう言いますが、誰一人として素直に聞き入れてはくれません。当然でしょう。なぜなら、モンスターの言葉を聞けるのはお姫様しかいないのですから。

 論より証拠ということで、実際にモンスターと会話するところを見せましたが、国王たちの反応はお姫様の予想よりもずっと薄い物でした。事象が事象だけに、現実味がないのでしょう。それでもお姫様は自分一人で南の国へ行くと言って譲りませんでした。




 モンスター討伐の前日、お姫様は四人の護衛と四匹のモンスターと共に南の国にやってきました。最初は小さな騒動が起きてしまいましたが、お姫様の説得と王様の寛容な配慮に事なきを得ました。


「モンスターと言葉を交わすとは、また不思議な能力だが……信じるしかあるまいな」


 鳥型、獣型、蛇型といったモンスターが良く飼いならされたペットの様にお姫様へ懐いているのですから、王様は信じられなくても納得する他ありません。


「モンスターが森に集まっているのも何か理由があってのことでしょうから、私がそれを聞いて解決して参ります」


 お姫様は勇ましく宣言しますが、だからといって全てを任せるわけにはいきません。王様は腕の立つ兵を四人、護衛として貸してくれました。あまり人が多いと逆にモンスターを刺激してしまうかもしれませんが、お姫様の仕事ぶりを証明してもらう必要が無いわけではないので、素直に付いて来てもらうことにしました。


 翌日、お姫様たちはモンスターが集中している森へと足を踏み入れました。兵士達はどこからモンスターが出て来ても良いよう、神経を集中させています。その様子を見てお姫様は軽く溜め息を吐きます。


「そんなに敵意を出していては話せることも話せないではありませんか」


 お姫様に注意されるも、長年の訓練で沁み付いた警戒は中々緩めることができません。お姫様は再度溜め息を吐いて、大きく息を吸い込みます。


「こんにちはー!!どなたかいませんかー!?」


 両手を口の端に当て、森中に響き渡るほどの大声を発します。これには兵士達も驚き、警戒が乱れます。それを狙って、茂みから一斉に獣型のモンスターが飛び出してきました。兵士達は一瞬で戦闘態勢に入り、武器を構えます。


「お待ちなさい!武器を下ろしなさい!」


 再びお姫様が声を張り上げます。これには兵士達だけでなくモンスターたちも面食らい、膠着状態が出来上がりました。お姫様はコホン、と軽く咳払いを一つしてから森のモンスター達と会話を始めました。

 モンスターを連れて歩く人間に警戒していた森のモンスター達も次第に心を開き、この森に集まってきた理由を話しました。

 本来は河川近くの平野や森林を住処としていましたが、人間達の資源採掘による影響で水質や土壌が汚染されてしまったので避難してきたのだと言います。森のモンスター達の声音には確かな憤りが含まれており、このままでは人里を襲うのも時間の問題です。

 お姫様は南の国の兵士達へ事の真偽を尋ねます。すると一度は否定した兵士達でしたが、お姫様が念を押すと不明瞭な言葉でしたが心当たりのある様子でした。お姫様はすぐさま問題となっている河川の浄化を行う事を約束します。普段なら人間の言葉など信用してはくれないでしょうが、モンスターと共にいるお姫様の言葉なら一度くらい信じても良いという結論に至り、森のモンスター達は暫くの間は堪えてくれると約束してくれました。


「モンスターが約束を守るのでしょうか?」


 兵士の一人が不安げに呟きます。これまで言葉を交わしたことのない生物の言う事ですから、不安になるのも仕方ありません。ですから、お姫様は努めて明るく言い放ちます。


「約束を違えるのはいつも人の方です。私達が彼らに対して真である限り、彼らは裏切りません」




 城に戻って森での出来事を報告すると、王様は些か不満げな表情を浮かべました。王様はてっきり、お姫様がモンスター達をどこか別の場所に分散させてくれると思っていたのでした。モンスターと会話できるからと言って、そんなに都合よくはいきませんが、そう素直に反論するわけにもいきません。お姫様は河川の浄化によって、再び資源が蓄えられるという利点を挙げて王様を説得しますが、中々納得してはくれません。というのも、南の国は採掘技術こそ発展しているのですが、土地を肥やす術には疎かったのです。

 お姫様は自国へ使いを出す事にしました。内容は魔術師の派遣を依頼するというものでした。農業を中心としてきたお姫様の国の魔術師は土や水の扱いに長けており、今回の問題を解決するには打って付けでした。


 使いを出してから返事を待つ間、お姫様は毎日森へ出向いてはモンスター達に進捗を伝えていました。

 たとえ魔術師が来たとしても痛んだ自然は直ぐには戻りません。森のモンスターとてそのことは理解しているので、いつも剣呑な空気は漂っていました。しかし、お姫様はそんな空気は気にせず常に理想を口にしておりました。



 数日後、南の国へ酷く慌てた伝令が届きます。一体何があったのでしょう。王様とお姫様が問うと、伝令に来た兵士は息を整える間も惜しいといった様子で用件を吐き出しました。


「ダブル・ガレイドの襲撃により城下町は壊滅状態、国王が崩御されました!!」


 思いもよらぬ事態に辺りは騒然としましたが、王様は直ぐにお姫様へ帰国するよう言い渡します。お姫様の頭の中は真っ白になっていましたが、一枚の羽が影を作ります。

 手際よく馬車を手配していた王様を制止し、お姫様は覚束ない足取りで城を出て行きます。


 蒼天の下、平和そのものが広がる城下町を目にし、先程の伝令が嘘であると願いながら、お姫様はフライカイツの羽を風に託します。

 程なくして、平和な城下町に二つの大きな影が訪れました。町民達は驚き、慌てふためいていますが、お姫様は一切動じずに影を迎えます。


「お姫様―!久しぶりー!」


 お姫様の不安と町民達の不安は別物でしたが、そのどちらも無視した明るい声音が響きます。声は幾分低くなっていましたが、ステークのものです。別れた頃より体も成長しており、成体になるまであと一、二歩といったところでしょう。


「ダブル・ガレイドが出たか」


「はい。一刻も早く城に戻らなくてはなりません。手を貸していただけますか?」


 お姫様が問うと、ステークはさらう様にして彼女を背中に乗せました。そこで、外の騒ぎを聞きつけた王様や兵士達が出て来ます。お姫様は騒ぎを起こしてしまったことと、森のモンスターとの問題を解決できないままこの国を離れることをお詫びし、フライカイツと共に飛び立って行きました。





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