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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第36話+

忌み姫と神獣

今回も長々としているので飛ばして頂いても構いません

最初はぼんやりとした声でした。言葉にならぬ呻き声を耳にしたお姫様は、城の裏庭へと駆け出します。


「どなたかいらっしゃるのですか?」


 裏庭に着いたお姫様。けれど誰もいません。不思議に思ったお姫様は裏庭を見回ることにしました。そして、隅にあった小さな噴水に近付いた時でした。小さな声が聞こえたのです。


「助けて……助けて……」


 お姫様が声のする方へ行くと、そこには綺麗な月草色をした小さな獣が傷を負って倒れていました。お姫様は直ぐに医者を呼び、獣の手当てをさせようとしました。けれど、医者はどうにも気が進まないようでした。どうしてかとお姫様が聞くと、医者は


「作物を荒らすモンスターを治療しても人間側に得が無いのです」


 と言いました。

 この国は領土も小さく、目だった工芸品もありませんが、唯一、特産品と呼べる物が有りました。ページカンと呼ばれる桃花色の果物です。水々しく甘味の強い果実は人間だけでなく動物やモンスターからも人気があり、果樹園を荒らされることも少なくありません。なので、この国の人達は特にモンスターを嫌っていました。もちろん、お姫様もそのことは知っていましたが、だからと言って見捨てはしません。


「このモンスターはまだ子供です。小さな命を人間の損得で見殺しにしては罰が当たりますよ」


 お姫様にそこまで言われては医者は何も言い返せません。手際よく治療を済ませ、モンスターの子供は一命を取り留めました。

 医者は兵士を呼び、モンスターの子供を町の外へ連れて行かせようとすると、またもやお姫様が口を挟みます。


「その子を少しの間、城に置いておけはしませんか?」


 この言葉には流石に、医者も兵士もお姫様の前だということを忘れ、口を開けて驚いてしまいます。国の悩みの種となっているモンスターを、お姫様が飼うと言ったようなものですから当然です。

 どうにかお姫様を説得しようと試みる医者と兵士でしたが、お姫様は頑なに自分の提案を下げません。なぜなら、お姫様は知りたかったのです。自分が本当にモンスターの声を聞く事ができるのかを。

 困り果てた医者と兵士は王様に事情を説明する事にしました。

 

 モンスターの声を聞いたという、俄には信じがたい現象を王様が認める筈がない。そう思っていた医者と兵士でしたが、蓋を開けてみれば意外にも簡単に、王様はモンスターを飼う事を許可してしまいました。一体どうしてでしょう。畏れ多くも理由を聞くと、王様は答えます。


「フライカイツは季節によって住む地域を変えるモンスターだ。夏が近付いたこの時期に子供が一匹、人里に紛れたということは、群れでの移動中に何らかの異常があって逸れたのだろう。このまま野に放てばたちまち他のモンスターの獲物になってしまう」


 王様の許しが出てホッとするお姫様でしたが、話しはまだ終わっていませんでした。


「ただし、フライカイツの子を飼うのは最長で一年だ。群れがこの地に戻って来ている間には必ず自然に返すのだぞ」


 期限付きとなれば少しの時間も無駄には出来ません。お姫様はフライカイツの子をステークと名付け、心を通わせる努力をしました。始めは警戒していたステークもお姫様の素直な優しさに触れ、懐いていきました。しかし、モンスターを飼うという未知の行動に、城の人間だけでなく町民達も不安を抱いていました。


「モンスターの言葉を聞くことが出来れば……話すことが出来たなら、果樹園への被害を減らせるかも……ううん、それだけじゃない、この国をもっと暮らし易くすることだって出来る」


 お姫様の願いも虚しく季節は移り過ぎ、半年が経った頃です。フライカイツの群れが、この地域に帰ってきたと報告がありました。

 ステークの全長は既にお姫様の身長を越えている程度に成長していましたが、フライカイツとしてはまだまだ子供です。月草色の毛を摺り寄せてじゃれて来ることも頻繁にあります。


 ある日、お姫様はステークに囃されてバルコニーに出ました。残暑もすっかり落ち着き、涼しげな風がそよいでいます。お姫様はステークに何の用があるのかと尋ねました。すると、聞き慣れた鳴き声が返ってきたものの、頭の中では人間の言葉が響いていました。半ば諦めかけていた現象が思いもよらぬタイミングで起きたのですから、お姫様はステークがなんと言ったか忘れてしまう程に慌ててしまいます。

 もう一度声を聞こうと思い、顔を近付けた瞬間でした。ステークは器用に自分の背中へお姫様を乗せると、バルコニーから飛び立ちました。

 四対の翼を羽搏かせて空を翔る様には、もう半年前の弱々しさは感じられません。けれど、このまま城を離れては騒ぎになりかねません。お姫様は何度も引き返すように言いますが、ステークは聞く耳を持ってくれません。障害物のない空をぐんぐん進んで行きます。


 やがて南にそびえる山脈に辿り着くと、ステークは紅葉を散らしながら着地しました。背中から降りたお姫様は、自国でありながら見知らぬ土地に連れて来られた不安で、頻りに辺りを見渡しています。

 少しすると突風が吹き、落ち葉が乾いた音を立てながら巻き上がりました。何事かと思ったお姫様は思わずしゃがみ込んでステークに抱き着きます。その時です。再び頭の中に声が聞こえて来たではありませんか。


「珍しい組み合わせの来訪者だな」


 落ち着いた、けれどもどこか圧の感じる女性の声でした。目の前に誰かが居る、という事態に、お姫様は気を持ち直します。一国の姫が誰かの前で情けなくしゃがんでいられるものか、と。

 静かに立ち上がり、真っ直ぐな視線を正面に向けると、持ち直したお姫様の気は枯葉の様にふらふらと舞い散ってしまいました。それも仕方ありません。成体のフライカイツが数歩も無い距離でお姫様を見据えていたのですから。


「あ、あの……私は……」


「名乗りは結構。この国の姫だろう。我らの子が世話になったな、一族を代表として礼を言う」


 フライカイツが嘴でステークの体を撫でているのを見て安心したのでしょう、お姫様はフライカイツの声が人の言葉と同じように聞こえている事に気付きます。けれど、フライカイツは気にする様子もなく話しを続けました。


「半年前、我らが北の大陸へ渡る時だ。ダブル・ガレイドの襲撃を受け、仲間の何体が被害に遭った。この子もその内の一体なのだ」


 ダブル・ガレイド、人間だけでなくモンスターからも危険視されている双頭のワイバーンです。体長だけならばフライカイツも負けてはいませんが、ダブル・ガレイドは気性が荒く、炎や毒を容赦なく吐き散らします。群れを成すことは稀ですが、それ故に生息域や活動時間を絞り込むことが困難とされているモンスターです。


「住まいまで送ろう、乗れ」


 フライカイツは身を伏せてお姫様に背中を見せましたが、いきなり訪れたステークとの別れに少しまごついてしまいます。


「よいしょ」


「きゃっ!ステーク!?」


 またもやステークは器用に身を捩ってお姫様を背中に乗せると、そのままフライカイツの背中に飛び乗りました。広い背中に生えた長い月草の毛が頬をくすぐります。


「姫様、聞こえる?」


 飛翔するフライカイツの上でステークが嘴を摺り寄せる様にして語り掛けてきます。群れに帰って来られたことが嬉しいのでしょう、声音は無邪気に弾んでいます。


「聞こえます」


「姫様はどうしてボクらの声が聞こえるの?」


 どうしてモンスターの声が聞こえるのか、それはお姫様の方が知りたい現象でした。しかも、この場に来るまではステークの言葉すらさっぱり聞こえなかったのですから、不思議に思う気持ちは強くなるばかりです。フライカイツ側に人語を理解する能力があるのかと問いましたが、心当たりはなさそうでした。

 お姫様は記憶を辿って原因を考えようとしましたが、ステークが矢継ぎ早に話しかけて来るので、とても考えに集中することは出来ませんでした。


 空から遠目に城下町が見えた時です。お姫様は、どこか剣呑な空気が立ち込めていると感じました。城下町の上空まで来ると、お姫様の不安は現実の物となって襲い掛かってきました。嵐が通ったと見紛う程に家屋は倒壊し、石造りの城壁は焼け崩れ、畑からは異臭が立ち込めていました。



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