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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第23話

【清浄の森】


 生物は確かに存在している筈なのに草葉の揺れる音一つせず、聞こえるのは小川のせせらぎのみ。だがこの静けさに不気味さは皆無で、時が流れていることも忘れていつまでも静寂を聞いていたいと思わせる。


 いつもと変わらぬ静謐を破るのはいつも人間だ。しかも今回は特別騒がしい者が来訪している。


「おっ!こっちにもフラミン芝生えてんじゃん」


 緑の中で一際目立つ緋色の髪をしながら元気な声音を上げ、森の中で完全な異端者となっているのは言うまでもなくテレシアだ。腰の高さまで伸びた草を掻き分けて目的の芝を見つけると、迷いなく、だが慎重に根元からむしり取った。粗暴さが目立つ彼女でも、痺れるのは遠慮したいようだ。


「待て待て、必要以上に採るんじゃない」


 群生していた芝を次々に手提げの籠へ入れて行く様を見て窘めの言葉をかけるのはステインだ。


「えー、まだそんなに取って……たかも」


 不満を漏らしつつ籠の中を確認すると、採取を始める際に目標とした数を大きく上回っていた。後頭部を撫でながら笑い、自分の注意不足を誤魔化そうとするテレシアに、ステインは僅かに肩を落とした。


「その籠は精錬してるから見た目以上に容量があるんだ。気を付けてくれよ」


「わかったって!じゃあ次の採取場所に連れてってくれよ、シルフィア」


「うん、こっちに付いて来て」


 二人のやり取りを微笑ましく見ていたシルフィアだったが、テレシアに案内を促されて次の目的地へと足を向けた。現在この森に来ているのは三人だけであり、クヨーラには霊山の方で素材を集めてもらっている。


 森を進んで行くと小川の横に木の根が絡まって出来た洞窟が見えてくる。少女二人なら少し頭を低くすれば入れるが、ステインは腰を折らないと難しそうだ。


「それじゃあ、わたしとテレシアで行ってくるからステインは少し待っててね」


「暇だからって勝手にうろうろすんなよ」


「分かった、大人しく待っているよ。テレシアこそ足元に気を付けて」


 ステインも洞窟に入る気でいたが、シルフィアから待機を命じられたので大人しく従うことにした。清浄の森はシルフィアにとって庭同然であるし、モンスターも危害を加えようとしてこない。狭い所で素材を探すのに人手が多いと、かえって邪魔になる。


「あたしは木の根っこで躓くようなドジじゃ……」


「いたっ!」


 テレシアが言い終えるより先にシルフィアが足を躓かせて木の根に頭をぶつけた。彼女は額を抑えながら振り返り、照れくさそうに小さく舌を出した。


「えへへ、ぶつけると痛いから注意しようね」


「あ、ああ……そうするよ」


 わざと実践して見せてくれた訳では勿論ないのだろうが、あまりにもタイミングの良かったのでどう反応するか困ったテレシアは素直に頷くだけにし、シルフィアに続いて洞窟内に入って行った。


 木の洞窟は雨が降った後でもないのに湿気が多く、出来る事ならば長居は遠慮したい環境だった。テレシアが文句を言おうか悩んでいると、シルフィアが足を止めた。


「ここに落ちているのがボーデン石だよ」


 指し示された地面には小振りな石がいくつも点在していた。暗がりではっきりとは分からないが、茶色をしている。


「こいつが防具の素材になるんだっけか。いくつぐらい採っていけば良いんだ?」


 足元に転がっていたボーデン石を拾い上げる。感触としては石というより固まった土で、指に力を入れると僅かに押し込めるが割ることは叶わない。


「うーん、十五個ずつくらい拾おうかな」


「了解!」


 合計三十個ならば足元に転がっているだけで十分に確保できる。早く湿気から逃れたかったテレシアはせっせと石を拾い上げた。



 木の根にもたれ掛かりながら、二人が洞窟から帰って来るのを待つステインだったが、ふと頭部に冷たい感触が当たる。


「ん、水?」


 髪の中へ手を入れると、無色の液体が付着した。雨でも降るのかと思い、空を見上げると青空から、正しくは木の上から液体が流れ落ちてきた。


「うわ!なんだ!?」


 顔面に謎の液体を浴びせられ、堪らずその場から避難してから改めて木の上へ視線を投げる。するとそこには草葉で編んだ服を着た小さな人影が、大きな葉っぱを扇ぎながらケタケタと笑っていた。


「ヒフアーか、やってくれたな」


 暴力的な危害を加えてくる事は滅多にないが、今回のように悪戯をしてくるモンスターだ。戦いに来たわけではないので無視しても良いが、そうすると調子に乗ってさらに悪戯を仕掛けられることとなる。少し脅かせてやれば逃げるので、ステインは腰の聖剣に手をかけるが、そこで口の中に異変を感じた。


「甘酸っぱい?」


 口当たりは悪く無かったが、ヒフアーに掛けられた液体の正体が分からない以上、安易に飲み込むわけにはいかない。

 気付いた時には既にヒフアーは姿を消していたので水筒を取り出して口の中を濯いでいると、洞窟の中から二人が戻って来た。


「お待たせ」


「うん?どうした、何か濡れてっけど?」


「ヒフアーに甘酸っぱい水を掛けられたんだけど、シルフィアは何か心当たりない?」


 明らかに有害となる液体ではないだろうが、得体の知れない物を浴びたままというわけにもいかない。正体を知る事に若干の恐れを抱きつつシルフィアの言葉を待った。


「それなら甘酸の水だと思うよ。飲んでも平気だから安心して」


「そうか、良かった」


 どうやって味が付いたかは知らないが、自然が生み出した無害の水だったので一安心する。これが変な生物の体液であったならば、ステインの気力は暫く地に落ちていたことだろう。


「それ美味しいのか?あたしも飲んでみたいな」


「そんなに遠くじゃないし、行ってみる?」


 二人が許可を求めてステインに視線を送る。目的の採取物は確保できたので、村に戻って直ぐに精錬と錬金を行っても良いのだが、森の地形を覚える為にも少しくらい寄り道した方が良いかもしれない。ステインは二人の要望に応え、シルフィアを先頭にして甘酸の水の源を目指して森の中を進んで行った。





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