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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第20話

 昨日の戦闘が嘘だったかの如き清爽な朝を迎えたゲレゲン村。タチアナやフレークを始めとした数人は事後処理に追われており、エトもそのうちの一人として村中を駆け回っている。


 各々が朝の営みを終えて一段落した頃、村の北側で地震が発生して森の木々から多くの鳥達が空へ避難していった。


「す、すまない」


 苦い顔をして謝罪するのはステインだ。空魔精錬術について事前知識とシルフィアから手順を教えてもらったが、魔力の操作がまるで上手くいかずに暴走させてしまったのだ。


「大丈夫だよ。溢れた魔力はクヨーラが受け流してくれるから気にしないで」


 優しく笑って励ますシルフィアの傍らでは、立て肘を着いて横向きに寝転がるクヨーラがおり、テレシアも対になるように寝転がって退屈そうにしている。

 現在行っている精錬はクラッツ草という、傷薬に使われる薬草の効果を高めるものだ。


「薬草の精錬はシルフィアなら十歳の時に出来てたぞー」


「クヨーラ、余計なこと言わないの!」


 咎めの言葉など、どこ吹く風といった様子で腹を掻いている。だが、既に魔力を集中させていたステインの耳と目はクヨーラの言動を捉えてなどいなかった。


 自分の魔力を伸ばして一本の線を作り、素材と繋ぐ。この線の事は交魔線と呼ぶそうだ。

 素材が宿す魔力を妨害しない魔力量で、且つ素材の魔力の流れを感じられる深さまで。初めはこの交魔線すら繋げられなかったステインだが、左手を突き出して素材と自分を繋げるイメージをすることでどうにか解決できた。

 

 交魔線を繋いだら、素材に注ぐ魔気を集める。ステインの場合は土属性だ。右の手の平の上で魔気を球体状に集め、魔力を注いで増幅させる。この工程が実はステインの知っていた知識と違っていた。魔気を増幅させるのは空魔精霊獣の役目だと認識しており、更に言うと増幅という表現も正しいとは言えなかった。

 魔力を加えると魔気は確かに増幅されるのだが、それをそのまま素材に与えては魔術を内部で流し込んでいることと同じだ。なので、魔気を増幅させると共に素材に対して無害な魔力へ中和させる必要があり、この時の中和剤として必要になるのが空魔精霊獣の力である。この中和の力は空魔精霊獣と契約することで得られるということは、つい先程知った。


 中和した魔気を交魔線に乗せて素材に流し込むのだが、これが難問である。素材の質を上げるには多くの魔気が必要なのだが、勿論素材の方にも容量というものは存在する。過多な魔気を流し込めば素材から溢れ出て、先程のように地震が発生してしまう。逆に過少な魔気では素材の質を十分に上げられない。一応、シルフィアに目安となる魔気の量は教えてもらったのだが、魔気を数値として見れるわけではないので感覚勝負ということになる。


「なぁ、あれってどんくらい難しいんだ?」


 苦戦するステインと応援するシルフィアを見つめながら呟かれた言葉に、クヨーラは僅かな間を置いてから答えた。


「おれっちもレーンデルス家の人間以外と契約したのは久しぶりだからなぁ。薬草に関しては取りあえず三日で安定させられれば上出来だろ」


「それって結構難しくねぇか?」


 聞き返しながらもテレシアは納得していた。何事もそつなく熟してきたステインの顔が難色で染め上げられていたからだ。


「まぁな……。でも正直、こんなに早く交魔線を繋ぎながら魔気の中和が出来るとは思ってなかったな」


「ふーん」


「ふーんって、おれっちが褒めてんだぞ。もちっと喜べ」


「あたしが褒められてるわけでもないのに、どうして喜ばなきゃいけないんだ?」


 自分の仕える主人が褒められたら嬉しいものなのだろうが、残念なことにテレシアはそこまで従順なメイドではない。クヨーラもそのことは知っているので特に驚きはしなかった。


「お前さんはどうしてメイドやってるんだ?あいつの趣味か?」


「……そうかもな」


「えぇ……」


 テレシアはどこか遠くを見つめる目をしながら同意したが、クヨーラの視線は変わらず精錬している二人に向けられていたので素直な反応が返された。


「んだよその反応は?あたしみたいな美少女を放っておく方がおかしいだろうが」


「ん?んん、確かにな」


「もしかして、あたしからあんなヘタレご主人に仕えたいって懇願したと思ってんのか?」


「いや、それは……」


 テレシアが誰かに頭を下げる姿が想像できず、即座に否定しようとしたクヨーラだったが、とある仮説が脳裏を過ぎった。


「金目当てか?」


 お世辞にも向いているとは言えない職に就いているということは、やはり何か見返りがあるのだろう。金銭は人の世で最も分かりやすい見返りの一つであり、テレシアの性格ならばそれが目的でもおかしくはないと判断したのだ。


「…………」


 沈黙を返されて怒らせてしまったかと危惧し、風の魔気を集めて避難の準備をしたが、いつまで経ってもテレシアが襲い掛かって来る気配はない。


「本当にあの面食いご主人があたしにぞっこんなだけなんだけど、敢えてあたし側の理由を言うなら……金、地位、名誉。全部持ってるから、かなぁ」


 なんと自意識過剰な強欲女だろうか。流石のクヨーラもここまでの人間は見たことがなく、引いてしまいそうになるが、テレシアの声質が感慨深いものであったため、真意は言葉の裏に隠されたままだと察した。


「色々と事情があるんだな」


「そ、精霊には面倒なしがらみってないのか?」


「精霊にも色んな性格の奴がいるが一様に言うと、世界を維持させるって大役を除けば随分と自由だぞ。少なくとも人間よりずっとな」


「へぇ、そりゃ良いな」


 昨日、壮絶な追いかけっこをしていた二人とは思えない、穏やかな空気が漂い、晴天を浴びた風が長閑に過ぎ去っていった。






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