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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第18話

 柵の上で寝そべりながらステインの奮闘を観ていたクヨーラの耳に、荒れた息遣いと足音が二人分聞こえて来る。


「はぁ、はぁ、ご主人様……」


「おーい、今平原に出ると危険だぞー」


 柵を越えて平原に出ようとするテレシアを呼び止めると、「信じられない」といった面持ちを向けられる。


「おいクソ猫!呑気に寝てる場合じゃねぇだろ!」


 足元に落ちていた小石を投げ付けるが疲労で狙いが定まらず、対象の横を通り過ぎていく。クヨーラはテレシアの慌てっぷりを嘲笑うかのように腹を掻いて見せる。


「てめっ!この!降りて来やがれ!」


「うわっ、やめろ!」


 怠け者の眼前で布はたきを激しく振って威嚇すると、布を手で払いながら立ち上がる。


「はぁ……はぁ……クヨーラ、どうなっているの?」


 シルフィアが深い呼吸をしながらも足りない酸素を使って聞くと、クヨーラは漸く説明する気になったのか口を開く。


「心配しなくても大丈夫だ。あいつなら多分一人でも楽勝だ」


 楽観的な見解を証明するように、平原では巨獣が倒れ、その背中に剣を突き刺すステインの姿があった。


「どうなってんだよ。空魔魄霊獣って相当やばい奴なんじゃないのか!?」


 主の無事に安堵するよりも現状に対する理解が追い付かないのだろう。クヨーラに対して抱いていた不満は消え失せ、詳細を求める。


「本物ならな。アレは偽物って呼ぶにも不完全すぎる。魔力や魔気を吸い取る力だけはあるようだが、それも極狭い範囲だし、おれっちが直々に相手する必要はない」


「偽物以下……」


 テレシアの脳裏で巨獣が現れた時のステインの様子が再現される。額に脂汗を滲ませながら怒鳴る姿など今まで見たことがなかったし、自分から王族であることを名乗って村人に避難を命じた。ステインがあそこまで動揺した相手が偽物以下ならば、本物はどれほど凶悪な存在なのだろうか。


「でも、あれだけ大きいモンスターが現れるなんて普通じゃないよね?」


「ああ、あれぐらいの出来損ないなら死骸と魔気の流れで偶然生まれる可能性も無くは無いんだが、おれっちのこんな近くでそんな偶然が起こる筈がない」


「じゃあ、誰かが意図的に作ったって言うのか?」


 クヨーラは訝しげに唸りながら嘴を撫でる。


「おれっちもその線を睨んでたんだが、どうにも魔気を操作した痕跡が見当たらん」


「つまり、原因不明ってことか?」


 無言の肯定に空気が重くなりかけたところでステインが巨獣の身体を粉砕した。


「お!やりやがったぞ!」


「すごーい!ステインってあんなに強かったんだね」


 二人が沈みかけた空気を明るくしようと努めてくれているのは理解していたが、テレシアは一目散にステインの元へ走り出していた。




「う~ん…………よし、行こう」


 未だ足の痛みは消えないが、いつまでもこの場にいるわけにはいかない。村人達に安全を伝えに行く必要がある。

 息を整えて立ち上がり、硬質化した巨獣の身体の陰から出ると何者かにぶつかってしまう。足に耐えがたい痛みが走り情けなく尻餅をつくと、聞き慣れた罵倒が耳に飛び込んだ。


「な、なに急に現れて倒されてんだよ……ホントにグズなご主人様だ」


 命懸けで敵を倒したというのに何故グズ呼ばわりされなくてはいけないのか、村人達と逃げるように言ったテレシアがどうしてここにいるのか、他にも言いたいことはあったがステインはそれら全ての言葉を飲み込んだ。

テレシアが引き起こそうと手を差し伸べてくれること事態が珍しいのだが、見下ろす彼女の顔にはいつもの小馬鹿にした笑みと共に喜笑が浮かんでいたからだ。


「ごめんごめん、油断してた」


 おどけた笑みを浮かべながらテレシアの手を掴んで引き起こしてもらう。足の痛みがなくても差し出された手を無視することはないのだが、この時のステインにとってテレシアの手助けは何よりも嬉しかった。積もる話しはあるだろうが一先ず村に戻ろうと、二人は言葉無しに理解し合って歩き出す。

 

 村の入り口では明るい笑顔のシルフィアと、無駄に偉そうにしているクヨーラがステインを迎えてくれた。




 村の広場では村人が集まっており、ステインの無事を確認するや否や大歓声が沸き上がった。王子という立場が邪魔して、親しげに喜びの言葉をかけてくれる者は少なかったが、エトを始めとする子供達は人懐っこく群がって来てくれた。


「にーっちゃん、スゲーや!あんなデカイのを倒しちまうなんて!」


「けがはなーい?」


「たすけてくれてありがとー!」


「これあげるー!」


 身長が低いので足の回りに群がってしまうのは仕方のないことなのだが、ステインはしつこく残る痛みが刺激される度に引きつった笑みを浮かべていた。


「あれ?」


 ふと視線を上げると、一歩退いたところに赤茶色の髪を低めのポニーテールにした少女が立っている。歳はエトより少し下といった感じで、何か言いたげに顔を上げては俯いてを繰り返している。


「あ、こいつはオイラの妹でリサって言うんだ」


「へぇ、エトに妹がいたんだ」


 言われてみれば顔立ちが似ている気がするけれど、話の中心になるのが恥ずかしいのか深く俯いてしまって顔が良く見えない。


「リサもお礼言いたかったんだろ?」


 俯いたまま頷くと、怯えた様子でゆっくりと顔を上げる。人懐っこいエトとは正反対だとステインは思ったが、少女の口から言葉が出てくるのを静かに待った。


「お……お兄ちゃんが、お世話に、なりました」


 小さな呟きとも言える声だったがステインは聞き漏らすことなく耳に入れ、頷きを返す。するとリサは赤面して両親の元へ走り去って行ってしまう。


「ふられてやんの」


 テレシアの軽口を無視するステインだったが、迂闊にも足元の伏兵に気付けずにズボンの裾を引っ張られる。


「おにーさん、かのじょぼしゅうちゅう?」


「テクラがなってあげようかー?」


 幼いと思って無警戒だったが、既にこの手の話題に興味を持っていたとは大きな誤算だった。ステインは当たり障りなく断るが、小さな体に秘めた大きな好奇心からは逃れられない。恋愛事情について根掘り葉掘り聞いてこられ、答えに窮しているとクヨーラが助け船を出してくれた。


「おーう、色々と話しておかなくちゃなんねぇんだ。さっさと行くぞ」


「クヨーラじゃましないでー!」


「ヒリス、石なげちゃえ!」


「うーん」


 流石は幼子、空魔精霊獣が相手だというのに恐れ知らずである。女子の会話からは締め出しをくらっていたヒリスだったが、特に嫌な顔もせずに指示通り小石を投げる。


「むっ、クソガキめ!おれっちとやろうってのか!?」


 眉毛の奥で眼光が輝き、クヨーラの周囲にあった小石が巻き上がる。子供相手に何をしているんだと、ステインが注意しようとするがヒリスの投げた小石が一瞬早く、クヨーラの巻き上げた小石にぶつかる。それが引き金となったのか、小石は円を描くように回転してクヨーラの両手で代わる代わる宙に投げられる。所謂ジャグリングだ。


「わー!」


「そんなにいっぱい回せるんだー!」


「すごーい!」


 突然始まった曲芸に子供達の興味は瞬く間に引き付けられた。


「はっは!いつもより多く回してるが、おれっちに掛かればこんなの朝飯前だっての!ほっ!」


 褒められて調子に乗ったのか、クヨーラは足も使ってジャグリングし始める。


「っていうか、いつもこんなことしてるのか」


 空魔精霊獣と人が仲良くしているのは喜ばしいことなのだが、どうにも互いの距離が近すぎる。

 質問攻めから解放されたステインだったが、話し合いを始めるのはもう少し後になりそうだ。






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