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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第4章〖一つの結末〗
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第105話

 円満に資材の納品と花の調達を終えたシルフィア達は名残惜しさを感じながらもローサに別れを告げてグロート町への帰路に着いた。


「そういえば、アレッタやイナは普段錬金術を使う時ってどうやってるの?」


 行きと違って花の薫りが漂う荷車の中でシルフィアはふとした疑問を聞いた。ステインは器具の類いを使用せず、魔力と錬金溶液だけで行っていたが、工房でならば大釜ではないにしろ他の設備があると思ったのだ。


「簡単に言えば、錬金溶液で満たした釜に素材を入れて、魔力を加えながら混ぜる、かな。釜の大きさや人数は違うけど、大釜でやってたことと基本的には同じだよ」


「釜を使うとやりやすいの?ステインは使ってなかったけど」


 追加で出て来た質問に答えようとするアレッタだが、言葉を喉で止めてイナの方を見ると丁度視線が合う。イナはよくない事を察して小さく声を漏らした。視線を逸らして押し黙ろうとしたが、たった今記憶に残ったアレッタの笑顔に背中を押され、おずおずといった様子で答え始めた。


「釜という入れ物を使うことで錬金溶液と魔力の分離を防ぐことができるので、錬成に集中することができ、使用する魔力量も比較的少なく済みます」


「それじゃあ、やっぱり釜を使った方が良いよね」


 イナの説明を受けたシルフィアはテレシアへ視線を移す。釜を使った方が効率的ならば、なぜ持ち歩いていないのか疑問に思ったからである。


「あたしは錬金術師じゃないから詳しく分からないけど、釜は持ち歩けないんだとさ」


「そうそう。錬金術に使う釜は、その場の魔気の流れに合わせて組んだ術式の上に設置する必要があるんだ。錬金術を使う度に術式を組むくらいなら釜を使わない方が楽かもね」


 アレッタの補足にシルフィアとテレシアの二人は「へぇー」と声を合わせた。


「そうだ!興味があるなら錬金術見てく?大釜じゃなくて普段私たちがやってるやつ」


「え?良いの?」


「もちろん!怪しい物作ってるわけじゃないし、工房自体も基本的にはオープンだから」


「それなら、是非お願い。テレシアもいいよね?」


「あー……悪いけど、あたしはご主人様の様子を見に帰るよ。錬金術見せて貰ったらシルフィアも帰ってくるだろ?」


 宿の店員にステインの事は言ってあるものの、やはり心配なのだ。


「ごめん、わたし夢中になり過ぎてたね」


「いいって、そんなの。あたしは王都にいた時に錬金術は見てるから、シルフィアは気にせず見せてもらえよ。ご主人様も、自分のせいでシルフィアに我慢させてるって知ったら気にするだろうし」


「うん。ありがとう」


 控え目にお礼を告げるシルフィアに、テレシアはもう一度「気にすんな」と声を掛けた。イナは少しだけ居心地悪そうに俯いており、それを知ってか知らずか、アレッタは新たな話題を投下した。


「そういえば二人は恋人とかいないの?」


「急に話題が変わったな……」


「いいじゃん!まだ町まで距離はあるし、聞かせてよ!」


 突然降りかかった話題にテレシアは苦笑いを返すしかなく。シルフィアは突然過ぎたのか、何の事やらと茫然としている。


「あたしはそういうの、もういいんだよ」


「もういいって……私と歳変わんないでしょ。諦めるの早いよ」


「諦めとは違うんだけど……まぁいいや。とにかくあたしはいいの。手間の掛かるご主人様もいるし」


 テレシアにとってあまり話したくない話題なので、多少の誤解があってもそれを訂正する気力はなかった。一人が閉鎖的になれば、自然と標的はもう一人になるわけで、アレッタは好奇の眼差しをシルフィアに向けた。


「ええと……わたしも、恋人とか考えたことなくて……」


 村外れで祖母のアニカと空魔精霊獣のクヨーラと素材回収に明け暮れる日々に満足していた為、環境の変化を考えることがなかった。ゲレゲン村の住民は多くなく、皆親切にしてくれるので、家族のように感じていた節がある。


「なぁんだ……つまんないの……」


 がっくりと項垂れるアレッタを不憫に思ったシルフィアは話題を返して場を繋ごうと考える。


「二人はどうなの?工房とか、錬金術の学校とかで気になる人とかは?」


「いたら苦労しないわよー。あ、イナにはまだ早いからね!」


「まだって……アレッタと二つしか違わない……」


「歳の問題じゃないの。イナ、強く迫られたら断れないでしょ?」


「それは……そう」


 反論できないが、誰かと交際する予定もなかったので、イナは大人しくしていることにした。


「あーあ……年頃の女の子が集まってるのに浮いた話しの一つもないなんて、悲しいと思わない?ハルムさん」


「え?何の話しだい?」


 御者台でのんびりイノウリを走らせていたハルムに同意を求めるが、残念ながら彼は話しを聞いておらず、唐変木な答えが返ってくる。


「はぁ……もういいわ。こんな話しをし出した私のバカ……」


 自暴自棄になるアレッタと微妙な空気になった荷車を、イノウリは変わらぬ速度で引いて行く。





【グロート町】


 シルフィア達が町に戻ったのは夕焼けが広がってから少し経った頃だった。門を抜けたところで錬金術工房に向かう三人は、ハルムに礼を言って荷車から降りた。

 役所に向かうハルムは、同じ方面に宿屋があるテレシアを乗せて通りを進んで行った。

 

 調達した花束を持って錬金術工房内に入ると、見知った顔があったのか、アレッタが「あ!」と声を上げた。同時に相手もアレッタ達の存在に気付いて近付いて来る。

 細身で長身な男は錬金術工房の職員の証である上着を着ており、白いシャツとしっかり結んだネクタイから誠実さを感じさせる。黒髪は前髪こそ長く伸びているが、きちんと分けられており、切れ長の目とそれに合わせた細い眼鏡が真っ直ぐにアレッタへと向けられていた。


「随分と遅かったな。またイナを連れて寄り道でもしていたか?」


 初対面のシルフィアは男の物言いに圧を感じたが、アレッタとイナは慣れているのだろう、平然としている。


「してませ~ん。ハルムさんに乗せてもらって、ローサさんのとこにのんびり行って来ただけで~す!」


「ふん、そんなことより、錬成してもらう物がある。工房に行くぞ」


 同意を得るでもなく一方的に言うと、男は踵を返して工房へ向かう。アレッタはシルフィアを紹介しようと思い呼び掛けたが、振り返ることなく「早くしろ」と急かす言葉のみが返ってきた。


「あちゃ~、ごめんね。彼、ランベルトって言って私の同期なんだ。錬金術のことしか頭になくて高圧的で仏頂面だけど、悪く思わないであげて」


「う、うん。わかった。けど、わたしも一緒に行っていいの?錬金術ならまた今度でもいいよ」


「へーき、へーき。シルフィアは私とイナの友達なんだから、ランベルトに文句言わせないよ」


「付いて来た方が、多分、面白そう」


 珍しく悪戯っぽく笑うイナを見てアレッタも釣られて笑みを浮かべた。二人が笑う理由に検討もつかないシルフィアは小首を傾げるばかりだったが、アレッタに先導されて工房へ向かうことにした。


 受付の右に伸びた通路を進んで工房棟に入る前の扉で、意外にもランベルトは三人を待っていた。不機嫌そうな表情を隠そうともしなかったが、悪態を吐く訳でもなく扉を開けて先に進む。

 扉の先は左右に通路と部屋が伸びており、正面には折り返し階段が続いていた。


「アレッタの工房はどっちだ?」


「ええ!?覚えてないの?」


「行く用事がないからな。案内しろ」


「はぁ、今回で覚えてよね」


「記憶に残っている内は覚えておく」


「それ、覚える気ないでしょ」


 わざとらしく溜め息を吐きながらアレッタは先頭を代わって通路を右に進む。等間隔に部屋が並んでおり、戸の上部には正方形の窓が付いていて中の様子が窺えた。内装は建物の無機質な外観とは異なり、加工された木材でできており、基本的な設備としては錬金釜、素材棚と机といった簡素な物である。どの部屋も間取り含めて全て同じではあるが、家具が追加されていたり、素材が乱雑していて物置になっていたり、持ち主の個性が垣間見えた。

 途中、爆発音と共に短い悲鳴が聞こえたが、シルフィア意外は何事もなく歩いていく。


「あの、今、爆発が……」


「気にしなくていいよ。日常だから」


 アレッタが軽く笑って済ます。錬金術の失敗による爆発と思われるので、錬金術師の三人が平然としているならば気にしなく良いのだろうと自分に言い聞かせる。

 通路を更に進み、奥から二番目の部屋の前でアレッタが足を止める。


「はい到着。どうランベルト、通路を右に曲がって奥から二番目、覚えられそう?」


「今この瞬間に限っては覚えられたと言える」


「はいはい、じゃあ今度からは迷子のお知らせにランベルトの名前が載ってないかよーく聞いておくわ」


「いいから早く開けろ」


 挑発に乗らないランベルトに不満の視線を向けてから、アレッタは部屋の鍵を開けた。

 アレッタの工房は整頓されているものの、錬金術に必要なのか疑問を抱く可愛らしいぬいぐるみや風景画が多数置かれていた。素材棚とは別に衣装棚やぬいぐるみ用の机も設置してあり、工房としては少し狭く感じる。

 錬金術師として無駄の多い工房を見たランベルトは「理解できない」と書かれた顔で、ぬいぐるみをモフモフしているイナを一瞥した。


「それで?錬成してもらいたい物ってなに?自分でやらないってことは、どうせ面倒な物なんだろうけど」


 錬金釜の隣りに花束を置いたアレッタが早速本題に入ると、ランベルトも隠す気はなく、素直に口を開いた。


「湖底まで潜り、自由に行動できる道具が必要だ」


「……は?」


 何を言っているか分からない。と言いたげな表情で聞き返すも、ランベルトは視線を外すことなく真面目に言い放つ。


「湖底に古代の錬金術で作られた遺跡がある」




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