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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第4章〖一つの結末〗
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第98話

 マルリースとの談笑を楽しんだシルフィアとテレシアは名残惜しさを感じながらも、長時間居座って仕事の邪魔をしてはいけないと思い魔術師団の事務所を後にした。


「さってと、これからは街をぶらついてみるか」


「うん。商店街を見て回りたいな」


 一時的に港が閉鎖されていたが、陸路は活きていたので物資の流通が停止していたわけではない。グロート町は王都に次ぐ規模の都市なので、目新しい物も多く取り扱っている。空魔精錬術師として素材の精錬と調合を行っていたシルフィアにとって、商店を見て回るだけでも心が弾む。


「あたしもこの町に詳しいわけじゃないから、あんまり凝った店は知らないけどな」


「あ~う~……」


 話しながら一階まで下りてくると、捨てられた小動物が助けを求めるような声が聞こえて来て、テレシアは一瞬硬直したが、思考が決定を下すのには刹那の時があれば十分だった。


「よし!急いで商店街に行こう!」


「あ~!う~!」


 シルフィアの手を取って庁舎を出ようとするが、小動物が負けじと声を張って存在を主張する。


「テレシア、えっと……カルラさんが困ってるみたいだから少し話しを聞いてみない?」


 引っ張られる腕に抵抗する力を入れ、依頼斡旋所の受け付けで突っ伏しているカルラの方を見やる。


「いーんだよ、あいつにはあいつの仕事があるんだ。あたしらが気安く手伝うことじゃない」


 あくまでカルラを無視しようとするテレシアの腰回りに風の魔術、もとい高速で駆け寄ってきたカルラが纏わり付いた。


「うわっ!……なんだよ、もう」


 捕まってしまったなら仕方ないと観念したテレシアはシルフィアの腕から手を離し、カルラの話しを聞く事にした。


「お姉様!哀れなカルラに手を指し伸ばしてくださるなんて、感謝感激ですぅぅぅ!」


 足元で平伏しながら大袈裟に喚くカルラに庁舎中の視線が集まるのは当然であり、居心地を悪くしたテレシアは視線を振り払うように後頭部を掻いてからしゃがみ込んだ。


「ったく、どうしたんだよ」


「え~とですね~。依頼が多すぎてこのままじゃ生き埋めになってしまいそうなんです~」


 話しを聞いてくれると分かるや否や、カルラは途端に平静を取り戻した。

 地面に座り込んだままの彼女から状況を聞くと、テレシアは改めてシルフィアの手を取って庁舎を出ようとする。


「あ~ん!行かないでください~!」


「こら!抱き着くな!擦り寄るな!」


 つい先程まで恥ずかしがるマルリースを面白がって抱き着いていた者の言葉とは思えない。


「依頼ってどんな内容なんですか?」


 他人の目も憚らず騒ぐ二人の間にシルフィアが口を挟むと、カルラはテレシアに抱き着いたままであるが説明を始めた。


「主に素材の納品です~。水路が使えないことと~、月替わりに行われる豊漁際の準備で~、供給が間に合ってないんです~。工業ギルドと錬金術工房からの催促に追われる毎日はもう嫌です~!」


 テレシアは困り顔でシルフィアへ視線を向ける。今にも泣き喚きそうなカルラを宥める助けを求めてではなく、素材の納品と聞いて嫌な展開を予期したからである。シルフィアはテレシアの気持ちを知ってか知らずか、やる気に満ち溢れた瞳を見せて大きく頷いてから、項垂れているカルラに寄り添う。


「カルラさん、依頼書を見せてもらえますか?もしよければ、わたしが受けます」


 この言葉にカルラは希望に満ちた表情で顔を上げ、テレシアは自身の予想が的中してしまったことに頭を抱えた。


「め、女神様~!」


 勢い良く抱き着かれて少し驚くシルフィアであったが、快く受け止めてカルラの気持ちが落ち着くまで優しく背中を擦った。


「ごめんね、テレシア。街の観光はまた今度にしよ」


「いいよ。どうせ暇だったんだし、素材集めながらでも街は見て回れるだろ。ほら、カルラ、いつまでもそうしてないで依頼書を見せろって」


「はい~!少々お待ちください~!」


 催促に対し笑顔で返事をすると、斡旋所の受け付けへ駆けて行った。と思ったら直ぐに両手に依頼書を持って戻って来た。


「この辺りが貰い手のいない、もしくは人手が足りていない依頼たちです~」


「おい、流石に多すぎだろ。優先度が高いのはどれだ?」


 テレシアに文句を言われ、カルラは慣れた手つきで依頼書を別けて差し出した。


「えーと、錬金術工房から豊漁際の準備に必要な素材の納品だな……ってなんだよこの数」


 主に必要な素材は植物系、燃料系、金属系であったが、いずれも数十個単位で必要となっていた。依頼書に採取場所が記載されているとはいえ、二人では集めるのに何日掛かるか分からない。


「それなんですが~、他の冒険者にも同様の依頼を出しているので~、既に依頼書に書いてある半分くらいの数は集まってます~」


「なんだよそれ。無駄に採取して余ったらどうすんだよ」


「余った場合も錬金術工房が買い取ってくれるので、心配いりません~。納品した数に応じて報酬をお渡しするようになってます~」


 つまりは各々の容量に合わせて集められるだけ集めろということだ。依頼書の数を集める必要が無いと知ってある程度、気は楽になったが、それでも必要な素材の種類は多い。


「まぁ手伝うって言ったし、シルフィア、この依頼は受けて良いよな?」


「あ、うん。そうだね」


「なんか気になる依頼でもあったのか?」


 シルフィアが手にした依頼書を覗き込む。依頼は工業ギルドのコニング鍛冶屋というところからで、必要な数こそ少ないが聞いた事もない素材ばかりが記載されていた。


「どこで採れるかも分からない素材ばっかじゃん。やめといた方がよくないか?」


「う、ん。そうだね。豊漁際の採取と、その片手間にできそうな……これと、これを受けます」


 見たことのない素材への興味は拭い切れなかったが、テレシアの言った通り集められるか分からない依頼を受けるのは依頼人へも迷惑をかけてしまうし、もし未達になれば依頼を仲介したギルドへの評価にも関わる。素材の名前だけ頭の片隅に置いて、依頼書はカルラへ返して簡単な木材や鉱石の採取をいくつか受ける。


「わぁ~!ありがとうございます~!素材は少しずつでも報告可能なので、頑張ってください~!遠出するときは自警ギルドに護衛を頼むといいですよ~」


 満面の笑みで小さく跳ねるカルラに見送られながら、シルフィアとテレシアは庁舎を出た。ステインが目を覚ますまでどころか、暫くは採取で忙しく歩き回ることになりそうだが、シルフィアの足取りは弾んでいた。





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