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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第4章〖一つの結末〗
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第96話

 強い日差しと熱を持った日差しに季節の変わり目を感じながらシルフィアは目を覚ました。閉められたカーテンの隙間から外を見ると、白い街並みが反射した日光に目が眩む。目を少しづつ慣らしながら景色を目に移すと、街並みの先には青い空と青い湖が当たり前のように広がっていた。

 昨日の今日で直ぐに街が元通りになる訳ではないが、平穏が戻って来たことは確かであった。


 シルフィアは隣りのベッドで寝ているテレシアを起こさぬよう身支度を済ませ、ステインの様子を見に行く。部屋の戸を叩いても返事が無かったので、一言断りを入れてから部屋に入る。

 静かな部屋の中でステインは未だ深い眠りに就いたままであり、シルフィアの手が頬に触れても反応はない。


「魔力の流れは落ち着いてるけど、回復するには暫くかかるかな」


 触れた頬から伝わる魔力は弱々しく、だが昨日よりは確かに伝わって来る。魔力の回復は生まれついた個人差や体調に影響する為、ステインが正確にどれくらいで回復するかシルフィアには計れない。しかし、差し迫った用事がある訳でもなく、大事を解決した直後ということもあるので、自然回復を待つ事にしている。


「ゆっくり休んでね」


 頬を軽く一撫でしてからシルフィアは部屋を後にして自室へと戻る。

 部屋に戻ると丁度テレシアも目を覚ましたところで、ベッドの上で上半身を起こしてぼーっと虚空を見つめていた。


「おはよう」


「あ、シルフィア、おはよー」


 寝起きで口が回り切らない様子であったが、挨拶を返してベッドから下りる。


「まだ眠っててもいいんだよ」


「んー……お腹空いたから起きる」


「そっか。じゃあ、支度し終えたら朝ごはんにしよ」


 眠気より食い気が勝ったテレシアはゆっくりとした動作で支度しながらステインの容態を聞くと、まだ意識は戻っていないが安静にしていればいずれ目を覚ますと回答を得て一安心する。


 支度を終える頃にはテレシアは完全に目を覚まし、シルフィアと共に宿屋のラウンジへ下りる。


「おはようございます」


 ラウンジに併設された受け付けには宿屋の娘が立っており、上階から下りて来たシルフィアとテレシアへ丁寧に挨拶をする。二人はそれぞれ挨拶を返し、朝食の注文をしてラウンジの席に座った。


「今日はどうしよう」


「うーん、湖が渡れるなら王都に向かうべきなんだろうけど、ご主人様があの調子じゃ無理だし……観光でもする?」


 折角大きな港町に来たのだからと提案すると、意外にもシルフィアは目を輝かせて反応を示した。


「うん、しよう!あ、でも先ににマリーのところに行きたいかも。昨日のこと、まだしっかりお礼言えてないし」


「そうだな。昨日はあたしらが帰った後も大変だったろうし、差し入れでも持って行くか」


 王都を目指すという目的は一時中断となったが、人や物資が集まる港町で、やる事を探すのはそう難しくない。街を見て回るだけでも一日では足りない程なのだ。


「マリーへの差し入れって何が良いのかな?」


「甘い物なら喜んで受け取るから、途中にある店で選んで行こ」


 クールな表情をしたマルリースが甘い物に喜んでいる姿を想像して、シルフィアは微笑ましく思う。

 二人が話していると、プレートに乗せられた朝食がやってくる。


「お待たせ致しました。ご注文の朝食プレートです」


 愛想の良い笑みと共に運んで来た二人分のプレートをテーブルに乗せ、注文に不備がないか確認してから丁寧にお辞儀をして受け付けの方に戻って行く。その姿を見送ってから、マルリースへの土産をどの甘味にするか話し合いながら、穏やかに朝食の時間を過ごした。




 湖の脅威を排除され活気の戻った街の空気と、晴れやかな朝日を窓越しに感じながら、マルリースは鬱屈そうに執務机に積まれた書類に目を通していた。

 積まれたと言っても、城壁に囲まれている様な息苦しい量ではなく、大人ならば片手で掴める程度の量であったが、細かい文字や数字を追い掛けるのが苦手なマルリースにとっては十分に苦心する量であった。いつもならば事務処理が得意な部下に任せるのだが、昨日の作戦で魔力を酷使してしまった為に数日は療養が必要な状態である。


「隊長ー。やっぱり今日は休暇にしましょうぜー」


「そうっすー。疲れてる時に仕事しても効率悪いっすー」


 事務室の長机に寝そべりながら、ギルドから来ている依頼を精査する部下二人が口を揃えて休暇を求める。この二人も昨日の作戦で多量の魔力を消費したのだが、回復が早い体質であった為、文句を言いながらも仕事には来ていた。


「うるさい、文句を言う為に仕事場に来たのなら帰りなさい。今日は業務を強制した覚えはないはずよ」


「いやぁ、隊長一人にしたら単独で湖の様子を見に行きかねませんからねぇ」


「おれたちを帰らせたいなら隊長も帰るっす」


「私たち魔術師団が湖の安全を確認するのは当然の義務よ。なのにこんな書類を持ち込んで……」


 書類に目を通し、少し躊躇いながらも決められた枠に魔術師団の判を押す。本来ならば今日は、クライペン・スラングが討伐された後の湖が問題なく運航できるか調査しに行く筈だったのだが、部下の隊長を思いやる気持ちが紙に姿を変えて立ちはだかった。

 湖の調査は自警ギルドを護衛に付けた船乗りギルドが出掛けており、魔術師団からも余力のある者が数名付き添っている。王都から派遣され、町の行政にも携わっている魔術師団の長としては、現状のように現場調査を部下に任せて自身は政に関する書類を整理するのが平常なのだが、そこまで役割が確立していないのが魔術師団第四部隊である。


 マルリースは慣れない事務仕事に、部下二人は魔力の過剰消費に気怠さを感じながらも書類の確認を進める。

 三人の集中力はそう長くは続かずに休憩の空気が流れ始めた頃、事務室の詰まった空気を解き放つ様にドアが開けられた。


「隊長、港の被害と……って、この空気……」


 入室した瞬間、魔術師は沈み切った部屋の空気に顔をしかめ、後ろを振り返って何かを告げるとドアを閉めた。


「隊長、王子のお連れの二人が来ているが、どうする?」


 親指で後方のドアを指しながら告げた途端、マルリースの顔に活力が戻った。


「お前たち起きなさい。そして邪魔にならないよう部屋の隅っこに行きなさい。そしてあなた、お茶の用意を」


「へーい」

「へーいっす」


 長椅子で寝転がっていた二人はのそのそと起き上がり、各自書類をまとめて部屋の隅の机に移動した。


「港の被害報告は?」


「後で確認するわ。それより二人を早く中へ案内しなさい」


 魔術師がペラペラと持っていた報告書をひったくって机の上に投げる。魔術師は報告書を取られて空になった手をプラプラとさせていたが、マルリースの命令に従ってドアを開けて客人を招き入れた。




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