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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第10話

 シルフィア達が談笑しているところを老婆は細めた眼で見つめつつ、膝上に置いたクヨーラの様子の変化に気付く。そして、その変化が何によってもたらされたのかも知っていた。


「これも運命なのかねぇ」


 クヨーラは老婆の顔を仰ぎ見た。視線はシルフィア達へ向けられたままだが、今の言葉は間違いなく自分に向けられたものだ。


「アニカ、気付いていたのか?」


「そりゃ勿論、孫を訪ねて来た男のことは隅々まで見定めるさ」


 朗らかに笑って見せるアニカの瞳の奥に、えも言われぬ魔物が潜んでいる気がしたクヨーラは、身を震わせながら剣の方へ視線を戻した。すると丁度ステインが剣を拾い上げる所だったので、アニカの膝上から降り立って話し掛ける。


「お前、その剣抜けないのに何で持ち歩いてんだ?」


 問い掛けを受けたステインは片膝を着き、二足歩行しているクヨーラと視線を合わせて答えた。


「この剣は聖剣と呼ばれながらも経歴や逸話が一切残っておらず、宝物庫で眠っていた物です。長きに渡りこの地に住まわりし空魔精霊獣ならば、何かご存じではないかと思い持って参りました」


「あー、やめろやめろ、長ったらしくて何言ってるか分かりづれぇ。もっと適当に話せよ」


 畏まった言葉を煙たそうに手で払う姿を見て、ステインは逡巡する。適当と言われてもタメ口で話す訳にはいかないし、軽い敬語で良いのかと思うが使い慣れていないので余計クヨーラを嫌がらせる事になるかもしれない。

 あれこれ考えているステインの額に肉球の手が当てられる。突然の出来事に驚くが、何かを発するより先に体内で鮮明な魔力の流れを感じた。


「取り敢えずこれで契約完了だ。おれっちの名はクィンテン・ヨー・ラウレンス・ブロウス=オンダースタリン。シルフィアにはクヨーラって呼ばれてるが、まぁ好きに呼んでくれ」


 呆気ない契約と名乗りにを受け、どう反応すべきか考えるステインを置き去りにして話しは続けられる。


「知ってると思うが、おれっちが自由に操れる魔気は風と土だ。風が苦手なお前とは少し相性が悪いが、男と相性が良くても気持ち悪いだけだから都合は良いし、土だけでも空魔精錬術を使うには問題ない」


 空魔精錬術師になるには適正属性が一つ以上必要なのだが、これは実際に空魔精錬術を使う時よりも空魔精霊獣との契約時に重要となるステータスだ。空魔精錬術において適正属性が違う場合、辿る過程が変わるだけで最終的に出来上がる物は同じであり、重要とされるのは当人の魔力量である。


「土ということは、わたしが普段使ってる方法を教えたら不味いのかな?」


 いつの間に話しを聞いていたのか、シルフィアが頬に右手の人差し指を当てながら悩んで見せる。


「うーん……属性云々よりもシルフィアのやり方は誰も真似できないから、変えた方が良いのは確かだな」


「あれ、そうなの?ばあちゃんから教えてもらったやり方なんだけど」


「おやぁ、もしかして今までわしが教えた通りにやってたつもりかい?」


 初耳だったのか、アニカは眼を丸くしており、どういうわけか聞かれたシルフィアも不思議そうに首を傾げながら頷いた。


「はっはっは!こりゃたまげた!まさか未だに基礎だけで精錬してると思ってたとは、我が孫ながら末恐ろしいよ!」


 豪快に笑い声を上げられて恥ずかしくなったのか、シルフィアは前のめりになって祖母へ言い寄る。


「もう!そんなに笑うことないでしょ!」


 怒られたアニカはどうにか笑いを堪えながら謝っているが、その態度が馬鹿にしているものだと感じたシルフィアは頬を膨らませて不服を訴えている。


「あー、なんだ……。シルフィアの場合、扱える魔力量が並外れてるから色々すっ飛ばして精錬しててな、普通の人間じゃ同じやり方は無理なんだよ」


 祖母と孫の微笑ましい喧嘩を眺めながらクヨーラが説明してくれる。ステインも魔力量ならば一般平均よりも遥かに多いのだが、目の前に居る、少し幼い怒り方をしている少女は更に多くの魔力を有しているというのだ。


「一応、本で得られる知識は得て来たから、実践の基礎だけでも教えてもらえれば嬉しいよ」


「勤勉で何よりだ。それよりお前、普通に喋れるじゃんか、最初からそれで良いっての」


 指摘されて、ステインは素で喋っていたことに気付き慌てて口元を押さえた。しかし、言葉はとっくにクヨーラの耳に入っていて言い直すのは遅すぎるし、クヨーラにとっては今の口調の方が好印象のようだ。


「じゃあ、これからは楽に話させてもらうよ、クヨーラ」


「おう。よろしくな……えーと……」


 頭を掻きながら言い淀む姿を見て、会話の流れから名前が思い出せないのだと判断したステインは名乗り直そうと口を開いたが、クヨーラの肉球が差し出される。


「や、お前じゃなくて後ろの娘は何て言うんだ?」


「後ろ……わっ!」


 テレシアの事を差しているのは分かっていたのだが、右肩辺りに気配を感じたので振り向いてみる。すると意外にも近くにテレシアの顔があったので声を出して驚く。ステインが驚いた事に驚いたテレシアは当然のように脇腹を抓って制裁を与えた。


「あたしはテレシアってんだ。よろしくな!」


 痛がるステインを脇に退けたテレシアは挨拶を済ませると、しゃがんでクヨーラの右手を取って肉球を触り出した。


「お!こりゃあ良い肉球だ」


 プニプニと好き勝手に触られているクヨーラだったが、嫌そうな顔は一切せず、寧ろ鼻の下が伸びている気がする。


「いやはや、テレシアの乳房も良い感じで」


 クヨーラの空いた左手は迷いなくテレシアの胸に向かって伸びていた。命知らずの末路を見届けるのが怖くなったステインは顔面蒼白にして体ごと反対の方を向く。


「なっ、何してんだ!このクソ猫!!」


「ぎにゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 霊山を震わせる怒号と共に放たれた蹴りは、クヨーラの体を小石の様に飛ばして樹木の壁を破り、山間に木霊する悲鳴と共に遥か彼方へ消えて行った。

 ステインはこれで聖剣についての情報が聞き出せなくなったとしても、今ある命の尊さに比べれば安い代償だと割り切ることにした。




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