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天然少女と平凡王子と素材の願い  作者: 一丸一
第1章〖風土の空魔精錬術師〗
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第1話

【清浄の森】


 深く生い茂った草木は寂然と佇立しており、緑の間からは遠慮がちな水の音が漏れ聞こえる。俗世から切り離された森は今日も静かに日の光りを浴びて時を数える……筈だった。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」


 静寂な場を荒らして走り回る三人の人影。その内の少年と少女は川が流れる音をぶち破り、草葉を震わせる叫び声を上げていた。水々しく育った草は踏み倒され、低く伸びた枝は不運にもただの障害物としてへし折られていく。


「モンスター、というより森全体に歓迎される羽目になるとはね」


 全力で走る二人の一歩後ろを着いて行く青年は、迫り来るモンスターや動植物の群れを見て感心を示した。


「モンスターと動物が一緒になって追い掛けて来るのがそんなに珍しいなら、ご主人様は一人でピクニックにでも行ってな!逃げるぞ、少年!」


 深い赤のエプロンドレスを着た少女は緋色のショートカットから伸びたアホ毛を激しく振って金色の瞳を光らせると、並走していた少年すらも置いて走り去る。


「ちょっ、ねーちゃん!一人で行ったら危険だって!」


 黒のタンクトップに、緑と茶のチェックのシャツを腰に巻いた少年は、灰色のズボンのポケットと軽く立てた茶色の短髪を揺らして、柳色の瞳に映る少女の後を追った。


「奥に追い込まれてる気がするけど……ん、あれは?」


 不本意ではあるが自分達が逃げる為には森の住民達と一戦交える必要があると判断。黄緑色のインナーの上に羽織った白い長袖のシャツを捲り、憲法色のズボンの腰に携えた鎖で雁字搦めにされた剣へ手を掛けたその時、青年の紫黒色の瞳は、自分の髪色と同じ深緑の葉の陰に小さな人影を捉えた。


「あれは、ヒフアー!まずい、二人共止まるんだ!」


 草葉を服として纏った子供の影のモンスター。青年は頭の中でそのモンスターの特徴を思い出し、先を行く二人の背に向かって声を張り上げた。


「ちっ、なんだよ?」


 主の声に舌を打ちながらも直ぐに急ブレーキをかけて止まる少女であったが……。


「え?ちょっと、そんなに直ぐ止まれないっ!」


 状況を把握し切れなかった少年は勢い余って少女に衝突し、少女がギリギリ踏み抜かなかった落とし穴に仲良くゴールイン。


「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」


 叫び声が再び森中に響き渡ることになったが、数分前と違い、今度はモンスターの愉快な笑い声も混じっていた。


「テレシア!エト!」


 遅れてやってきた青年が両膝を着いて穴を覗き込むと落ちた二人の姿はなく、底は斜面になっていた。滑り落ちて行ったと理解するや否や、青年は片腕を軸にして穴の中へ飛び込んだ。




【ゲレゲン平原】


 温かな日光を浴びて背伸びをする鮮やかな緑の絨毯と、輝く小川から奏でられるせせらぎは、風に乗って自然の慈しみを調べとして彼方まで届ける。

 本日は小川が飛沫を上げる強烈なアクセントをサービスだ。


「うわ、うわ!冷たい!」


「こら、少年!変な所を触ろうとするな!」


「ご、ごめん!」


 バシャバシャと自分勝手に水を弾きながら、二人は運良くずぶ濡れになるだけで怪我をすることなく小川から上がる。


「くっそぉ、あの森焼き払ってやろうか」


 少女、テレシアが物騒な事を言いながらエプロンドレスの裾を振って水を飛ばすものだから、少年、エトは顔を青くしたり赤くしたりと忙しい。尤も、エプロンドレスの裾は足首程まであるので、そう簡単に何かが見える事はない。


「あ、やばっ」


 言葉の割りに緊張感のない声色に続き、テレシアの足元には箒やフライパン、ハンガーなどの家事用品が音を立てて落ちた。彼女は裾を振るのを止め、手際よく落ちた物をエプロンドレスの中へ収納していく。


「……中はどうなっているんだろう」


 少年の純粋な疑問は宙に消え、答える者は居なかったが代わりに自分達が出て来た穴から妙な声が聞こえて来る。


「……ぉぉぉぉおおおっ!」


 叫びと共に現れた青年は穴から落ちる直前で跳躍。小川を軽々と跳び越えて平原に転がり込み、やがて止まった。


「目が……回る……」


「あー、あー、自分が仕えるご主人様の秀英さに言葉もありませぬ」


 地に伏す青年の背中を突きながら棒読みで述べるテレシアを見て、エトは苦笑するのが精一杯だった。


「そんで少年よ、ここはどこなの?」


 急に話しを振られ、慌てて辺りを見渡すエトであったが、彼の焦りは見知った景色により直ぐに安堵へ変わった。


「ゲレゲン平原だよ。そこに川が流れてるから東に……あっちの方に行けば村に戻れるよ」


「ん、モンスターも追ってこないみたいだし、村に戻って体勢を整えるとしますか」


「う~ん……」


 未だ大地に向かって唸り声を上げている青年を見てテレシアは唾でも吐いてやろうかと思うが、流石に良心が咎めたので爪先で小突くに止めた。


「ほら、いつまで国民に不甲斐ない姿を見せてんのステイン王子様」



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