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白い蜘蛛と赤目の鬼  作者: 木丘柊遠
序章~白髪美人は半人半蜘蛛~
6/12

第五章~異世界転移と黒き少女との出会い~

なんかまた遅くなりました。ギリギリです。

1

柊さんが帰ってきた次の日から、私たちは準備を急速に始めていた。

武器に関しては、陽さんは要望により「対物ライフル」という強力な銃になった。

……が、価格が非常に高かった。とてもじゃないが、買える値段じゃない。

なので、非常に申し訳ないが、模造品を作ることにした。

やり方は簡単だ。私が銃を持ち、内部構造を記憶する。人の目では見づらい糸も利用し、細部まで。

その後、誰も見ていない場所で、特殊な金属「魔導銀」で作成する。

「魔導銀」は魔導性――魔力を保有する能力がとても強い銀に多量の魔力を注入しその魔力にいろいろな属性の魔力に変換し、剛性や破壊力、弓矢や銃は弾速や弾に属性を含ませたりなどができる。

が、銀のみでは非常に耐久性が心配なので、本来の素材をほんの少しだけ削り、魔導銀をコーティングした。

風魔力を加えることで、軽量化、弾速高速化に加え、制度上昇が見込める、遠距離武器とはかなり相性がいい。

ただ、この国では、銃を持つことは法律に反するとかで、この世界を発つ直前に作ることにした。

また、弓術についても、私から教えられることは、柊さんに教えておいた。

やっぱり柊さんは弓術はうまかった。私も見習いたい、そう思うほどの腕を持っている。

二人の実力はこの時点ではまだまだだが、伸び代は未知数だ。私とて、まだまだ成長できる、と友人も言っていた。

彼らの友人達も魔力を持っていることは確かなので、会える時が来れば、私は誘ってみよう、そう考えた。

「陽、それ、重くないのか?」対物ライフルをさして、柊さんは問いかけた。

「バカ言え、もともとこいつは軽量タイプなんだよ。それに風の魔力とやらでもっと軽量化はしてある。体感1,2キロ程度だ。だが、重さがないと持っている感覚が薄れるからな。ある程度の重さはいるんだ。」

柊さんと陽さんの会話が聞こえる。それほど私の世界に行くことは、気に留めていないようだった。

    2

出発の時が来た。

「二人共、準備はいいですか?」私は問いかけた。

「勿論。そういえば、これって異世界転移だよな……。」

「まあ、まさか俺たちがこんな奇妙な出来事に巻き込まれるとは思ってなかったよ。」陽さんの言葉に、柊さんは笑いながら、反応をする。

「ふふっ、まあ、私も異世界転移をしてきた身ですし、私は帰ると言うほうが正しいですね。」

「……まあ、確かに、リリィは竜妖人界からこっちに転移してきたんだよな。奇妙なことだよな。」

「まあ、よく聞く異世界転移とは大きく異なるな。帰れるという可能性がほぼ確実にあるって少し……珍奇だな。」

「少しいいですか?」私は二人に問う。

「ああ。」

「これから行く世界は、魔物と戦い、命を失う人は少なくありません。簡潔に言えば、ここに帰って、今までどおりの日常ができる可能性はないです。断言できます。それでも、行きますね?」

「当たり前だろ?俺は、今なら、竜妖人界(あっち)に骨を埋める覚悟はある。さあ、行くぞ。」陽さんはあっさり答えてしまった。

「……そう、ですね。私が誘ったんですしね。……では、出発ですね。」

「「ああ!」」二人の声とともに、私たちは、出発した。

   ◆   ◆   ◆

陽さん達が住んでいたマンションを出たあとすぐのことだった。

一匹に蛇が、いきなりマンションの植木から、姿を表した。

「……なんだ、お前か。」蛇はちろりと舌を出した。まるで言葉が分かっているように。

「ごめんな、俺、ここを離れることになったんだ。いつまた戻ってくるか……わからないし、二度と戻ってこないかもしれない。だから、これで俺たちはさよならだ。」蛇は首をかしげた。

「あと、俺がここを離れたらすぐ、遠くの森や、山に行きな。ここの大家さんはかなりの蛇嫌いだからな。見つかって騒がれる前に、よろしくな。」

蛇は言葉を聞いたあと、すぐにどこかに行ってしまった。

「陽さん、今のは……?」

「ああ、俺、いや、『俺の声は蛇に通じる』んだよ。柊とは違って、俺自身は蛇の考えていることはわからないし、会話なんて出来やしない。一方的に言ってるだけなんだけどな。」

「へえ……そんな事が。私の聞いた話ですが、一方的に言葉が分かる場合、それは『夢』であるってことなんですけどね。」

「『夢』?なんだそれ。俺が、蛇の夢?冗談だろう?」

「あくまでも、聞いた話です。本当なのか嘘なのかはわかりませんね。」

「……そっか。まあいいよ。何があっても、俺は俺だから。何があっても、俺は『俺という存在』であるから。」少し、陽さんは暗い顔をしていた。

「『存在』ですか。まあ、陽さんは魔人という、いわば人間の亜種ですし、その言い方があっているかもしれませんね……。」

「……辛気臭い空気はやめよう。新しい場所に行くんだ、もう少し気楽に行こうぜ」柊さんの言葉で、我に返る。

「……そう、ですね!」

「じゃあ、気を取り直して、行くぞ!竜妖人界!」

葉酸の言葉とともに、私たちは私が転移してきた場所に言った。

3

とあるビルとビルの間。そこに武装した男ふたり女ひとりがいた。

男一人は俺、白石陽。背中に携えた対物ライフルと、腰に下げた10個の手榴弾。その全てが魔力による武装を施した、特殊手榴弾である。

もうひとりは橘井柊。弓を背中に、矢筒を腰に、胸当ても付け、袴ではなかったら弓道をやっているのでは、そう見えてもおかしくはなかった。

そして、女は、リリィ・メイナー。

俺たちと出会った。そして数奇な運命をともに巻き込まれていくのでは、そう思う。

彼女は一口の太刀『蜘蛛王(あかをしるおう)」を背中に携えている。

『蜘蛛王』は業物だ。素人、または何も知らない人でも、名刀、業物、剛剣、最良……この刀を作った二代目『白石陽』は、確かな鍛冶の腕を持っている。

「では、開きます。気をつけてくださいね。」

リリィは右手の人差し指、中指を合わせ、詠唱を始める。

「異次元より来りし力よ、我が末端に命ず。長きに渡り、我が世に繋がれし橋を築かん……はっ!」

リリィの合図とともに斜めに、何かを切るように指を振り抜く。そうすると、パカリ、と空間が割れた。

「行きましょう。ここを通り抜けた先、そこが竜妖人界です」

俺は、まっすぐ見ていた。ここから先の未来がわからない。そんな、どうでもいいことを考えていた。すると、

「おっ先!」柊が割れたところに飛び込んだ。

「あ、おい!柊!待て!」

「大丈夫ですよ。私が一回通ってきたんです。特に何も悪影響はないですよ。」

「……そうか、じゃあ」

「行きましょう!」

俺とリリィは同時に異空間へ飛び込んだ。

中は紫色のトンネルのようなものだった。一本道で、まっすぐなのだが、出口が見えない。柊も見えない。

「リリィ、大丈夫だよな?」俺はなんか心配になって聞く。

「私は、短く感じるんですが、なんででしょうか。私にも同じように見えますね。――あ、もうすぐですよ。」

それを聞いたあと、前を見ると、大きな光が俺たちの目の前にあって、包み込んだ。

4

目のくらみが収まったあと、そこは広大な森だった。

「ここは……。」

「蜘蛛の一族の里がある森ですね。ただ、少し遠いかもしれません。」陽さんの質問に、私は答える。

「人間が住む地域は?」

「ここからとなると、もしかすると近いかもしれません。ただ、森を抜ければ魔物が大量に蔓延る平原です。戦う力があったとしても、個人で行けば囲まれて終わりです。特に柊さんは弓しか持っていないでしょう?」柊さんは反論すらできない、そんな表情をしていた。

「とは言っても、里の位置特定はどうするんだ?森の中と言っていたが、そんな中にあるものを探して見つけるなんて言わないだろうな?」

「安心してください。里を中心に放射状に糸が貼られています。その糸を利用すれば、里を中心に直線距離で行けます。獣道なんてものはありませんので、そのまままっすぐ進みます。」私は言った後、両手から糸を出し、斜め上に伸ばした。その糸を動かし、方角を探る。

「確認できました、このまままっすぐ進めば大丈夫です。」

「分かった。行くぞ。柊」

「まじかよ。」柊さんの呆れ、驚いた声は、虚しく通り過ぎた。

歩き始めてから、どれほどたったのだろうか。体感では1時間ほどだが、こういう時はたいてい10分程度しか経っていないのがお約束だ。

そんな時、ガサガサと、右手の木が揺れた。

私はすぐに刀を抜き、構える。柊さんも気づき、弓を持つ。

揺れた木の近くから現れたのは、高さが人の3倍もあろうかという、大きく、黒い蟷螂だった。

「は?……え?何だよ!?こんなにでかいの聞いてねぇよ!?」柊さんはかなり慌てていた。

「黒蟷螂ですね。大して強くありません」

「こんな大きさのやつで大して強くないのかよ!?」

「とにかく、あいつの凶器は鎌です!封じ込んでしまえば、こちらのものです!」

「わかった、陽は……っていねぇ!あいつどこいった!」

陽さんは忽然と姿を消していた。

「あれ?本当ですね。逃げたのでしょうか?」

「おいリリィ!後ろだ!」柊さんが叫ぶ。

私は一瞬で振り向き、一刀で振り下ろされた1対の大鎌を防ぐ。

「舐められたものですね。この蜘蛛王(あかをしるおう)リリィ、貴様のような下位強種一体相手に遅れを取るとでも?遅れを取ったのは貴様の方ですよ。」

言葉と同時に体を支える中足、後ろ足は地面の下から這わせた蜘蛛糸により拘束される。黒蟷螂はもう動けない。

「飛ぼうとしたって無駄ですよ。この太さの蜘蛛糸なら鋼鉄ワイヤーよりも硬いですからね。」防いでいた鎌を流すように刀から地面へと下ろす。もちろんずれたと同時に力を入れ直しているのを確認しているので、鎌は地面に刺さる。

「今です!蔦で拘束してください!」

「分かった!」柊さんは答えると同時に、何かを念じる。

その瞬間、蔦が生え、鎌は地面と蔦に拘束される状態となった。

「これで、完封したか?」

「ええ、黒蟷螂は遠距離攻撃手段を持ちません。あとは――」頭を切り落とすだけ。そう言おうとした時だった。

(柊と共に、後ろへ下がれ!そして伏せろ!)陽さんの声が聞こえた。

「柊さん。下がりましょう。そして伏せましょう。」

「え?ああ、分かった。」柊さんはさっき遠距離攻撃手段を用いなかった、その言葉とは裏腹のことを言ったから、驚いているのだろう。

私と柊さんが伏せた直後、陽さんが行ったであろう行動に目を見張った。

    5

スコープで確認した。リリィと柊は伏せた。

「うっし。じゃあ、はじめるか。」

足に魔力を込める。そして思いっきり踏み込む。

「せりゃぁぁぁぁあああああ!」

安全ピンを引き抜いた手榴弾を全力で投げる。

あのまま行けば、あのデカイ蟷螂の頭上を通りすぎるだろう。

「だが、狙撃者舐めんな!」

狙ったのは手榴弾の中心から少し上、掠めるところである。

掠めた手榴弾は俺の魔力に反応して、爆発する仕組みだ。爆発までは3秒。ちょうど3秒後にあの蟷螂のちょうど中心。そして掠った銃弾は頭を撃ち抜くはずだ。

予想は的中した。掠った銃弾は頭を撃ち抜き、手榴弾は爆発し、蟷螂の東武、胸部は跡形もなく吹き飛んだ。

すぐにリリィ達がいるところまで戻った。

「うっし、成功したな。」

「陽さん!どうして逃げたんですか?」

「あー、逃げたっていい方はよしてくれ。まあ、蟷螂だから考えるわけでもないんだが、狙撃手ってものはスコープの反射で居場所がばれる場合もあるし、音で気づかれるかもしれない。それに加えて、あいつは反動はかなりでかい。後隙を狙われたらまずいだろう?だったら隠れるさ。」

「なるほど、考えているんですね。」

「まあ、いい、行くぞ……」俺は、見なかったことにしたかった。見たくなかった。目の前にいる、蟷螂の群れを

「まあ、赤蟷螂に黒蟷螂、それに『狂乱の蟷螂(マッドネス・マンティス)』まで。」

「まあ、でも、まで、でもねえよ!逃げるぞ!」柊は慌てる。

「リリィ、立ち向かえるか?」

「刀一本じゃダメです。先手必勝のためには、得物がもう一本必要です。」

その言葉を聞いたあと、少し長めの枝を見つけ、力を込める。

「神器創造!力を宿せ!デュランダル!!」

デュランダル――岩をも切り裂く剛剣。その力を木の棒に宿せば、砕けぬ木の棒になる。

「リリィ、使え!」

「はい!敵は全部で?」

「7匹。行けるか?」

「もちろんです!行きます!」その言葉と同時に、右手の刀を振り上げた。

「せいっ!」振り下ろせば、巨大な衝撃波が蟷螂共に襲いかかる。蟷螂は打ち上げられ、無防備な状態となった。

「はああああああ!」リリィは突撃し、左の棒で抜き胴を二度、正面に戻ってくるように行う。

「喰らいなさい!零の型『霊幻』!!」もう一度、右の刀で切り裂く。もちろん、衝撃波を伴って。7匹の蟷螂は全滅だ。

「……すげえ。」圧巻だった。普通に戦えば、時間もかかり、もしかしたら犠牲も出る可能性もあった戦いを一瞬で。

「リリィって、強かったんだな。」

「強かったんだってなんですか。強かったんだって。」柊のつぶやきはリリィにしっかり聞こえていたようだ。

「さて、里までもうすぐです。行きましょう。」

     6

私は、とてもイライラしていた。

蜘蛛族のみんなも、かなりビビってた。

……遅い。あのポンコツが遅い。

あのあと、聞いたら「口から黒い息を吐いてもおかしくないほど」と言われてしまった。別にいいのだが。

後ろから、ガサガサと音がする。振り返ると、純白が、そこにいた。後ろに軟弱そうな男ふたりを連れて。

「やっとつきました。」

「リーーリーーィーーー!!」私はなりふり構わず突進する

「遅いのよこのポンコツ!なんで一ヶ月もいなっかた!説明しろぉ!」半泣きだ。

「ああ、ごめんなさい。本当ならすぐ帰る予定だったんですが、」

「あんたのことだから、やらかして帰れなくなったんでしょう?それぐらいわかるのよ!――で、そこにいる貧弱そうな男ふたりは?

「……白石陽」

「橘井柊だ。よろしくな」

「あっそう、私の名前は峰ヶ丘咲奈。誇り高きディアボロ一族よ!」

二人は何か痛々しそうに見ている。

「咲奈ちゃんは本当にディアボロ一族ですよ。」

「いや、そもそもディアボロ一族ってなんだ?」

「ディアボロ一族は、ここから遠く離れた大陸西端、『静寂の砂漠』に居を構える誇り高き一族!天を穿つかのごとく生える角、筋骨隆々な男の体を飛翔させる強靭な翼、そして凶器にもなる先端が鎚のごとく発達した尻尾が特徴よ!」

「本来ディアボロは茶色、黄土色をしていますが、咲奈ちゃんのように黒くなる、『黒きディアボロ』も突然変異で存在します。」

「ふふん、その中でも、私は純粋な黒きディアボロ!ディアボロ一族の中で誰よりも強く、誇り高き者なのよ!」

「あ、ああ。で、どうして蜘蛛族の里に?」

「それはこのポンコツが呼んだのよ。けど予定より一ヶ月も遅かったから、私しんぱ……いや、怒ってたのよ。」陽、と名乗ったやつに答える。

「あ、リリィさん!お帰りなさい!こっちへ来てください!家が軋んで……」

「おいこら!こっちが先だぞ!あ、リリィさん!橋の修繕を手伝ってください!」

「あ、じゃあ私はこれで、咲奈ちゃん、二人を私の家に。空き部屋を寝室がわりに使わせてください。」

「わかったわ。そこの軟弱そうなの、来なさい」

「ああ。」「了承した。」物分りはいいらしい。

     7

「んじゃ、この部屋を柊が、そっちの部屋を陽が使って。」

咲奈は、先に右手の部屋を、後に左手の部屋を指していった。

「あと、陽、あんたに話がある。今から私が使ってる部屋に来なさい。」

「分かった。」俺と咲奈はすぐに、咲奈の部屋に向かった。

「……で、話ってなんだ?」

「あんた、他に白石陽って名前のやつ、知ってる?」

「いや、知らない。」

「そう。」質問の意図がよくわからない。

「なあ、話は終わりか?」

「何言ってるのよ。本題がまだなの。」

咲奈はなにか決心をしたような表情をし、俺に向かって、

「私の、兄になってくれる?」

「……は?」

……この世界に行っても、俺の受難は減りそうにない。

むしろ増えそうだ……

この回から、種族設定をあとがきに入れるようにします。

次回から一章開幕です。





蜘蛛の一族 族長 リリィ・メイナー

アラケニー、土蜘蛛、女郎蜘蛛の総称。総じて女が多い。

全員が共通して蜘蛛糸を出せる。強度が高く、扱い方によれば何でも貫く槍となる。

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