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白い蜘蛛と赤目の鬼  作者: 木丘柊遠
一章~漆黒の誇りと幻影の霧~
11/12

断章~真夏の星~

「オイゴラァ!また数ヵ月空いてんじゃねーか!!」

「ひいいい!!!」

死の砂漠の縁を一周する、エルメリア街道。

その街道を少し外れた先に、何気なく小さな家がある。

豪邸とは言えず、しかし普通の家より広い。

その家の庭に、笹が立っていた。

「なぁリリィ。この世界にも笹ってあったんだな。」

「笹?普通にありますよ?何でですか?」

「七夕っていう出来事があるんだよ」

リリィはへー、と関心を向けている。

「七夕ってのは昔昔、彦星様と織姫様っていうそりゃあもうイチャイチャしていたリア充がいたのよ。けどイチャイチャしすぎて神様?かどっちかの両親がキレて、引き離したのよ。」

「何て非道な!私が織姫ならその神様なのか両親なのかわかりませんが叩き斬りに行きますよ!」

「織姫そんな物騒じゃねーよ。悲しんだ二人を見て、憐れんだのか、一年に一回だけ会える。その日にちゃんと会えるよう願うのが七夕だ。たぶん。」

「で、会えるよう願うついでに自分の願いを笹にかけて、叶えてくれって。図々しいなぁ、人間」

「陽さん!その言葉はロマンチックな雰囲気を滅茶苦茶にする言葉ですよ!」

乙女の言うことはわからねえ……。



短冊を渡し、願い事を書く時間にし、自由行動にした。

俺はすぐに書き終え、ぽーっとしていたら、リリィが入ってきた。

「陽さん陽さん、願い事、考えましたか?」

「考え終わってもう書き終えたからボケーっとしてるんだよ。」

「このお願い事って、私利私欲でもいいんですか?」

「ああ、5000兆円欲しいでもいいんだよ」

リリィはそんな大金は要りませんよ、と笑った。

「……陽さんは、私と会えて嬉しかったですか?……離れるのは……嫌ですか……?」

「……なんでそんな暗い顔してんだ」

「……一年に一度なんて、嫌です。たとえ1日に一時間でも、嫌です。ずっと一緒がいいです。……ダメですか?」上目遣いでリリィが問いかけてくる。

「……リリィ、そんな軽い誘惑で堕ちると思うな。お前はサキュバスか。」

「え……ええ!?そんな、そんな気で言ってるんじゃないですよ!?」

「ああそうかい。俺は飾りに行く。決めたら飾りに来な。」

たまにあいつの顔を見てると疼くときがある。

平常心のフリをしているが、多分耳まで赤くなっているんだろう。





笹に短冊をかけ、食事の後、庭で空を見ていた。

「兄さん、生きてる?」

「死んでねえよ。なんで空を見てるだけで殺されるんだよ。」

咲奈はとなりに座って、ぽつぽつと話し出す。

「兄さんは、短冊に何て書いたの?」

「……見てこい。」

「えー、なんでさ。言ってよ。」

「仕方ねーな。……あいつらとここでまたいろんな事やりてえって書いたんだよ。言わせんな恥い。」

咲奈はかなりニヤニヤしている。

「……」

「ああはいはい。睨まない睨まない。私は死んでもこの誇りが潰えないよう、って書いた。」

「お前らしいな。」

「でしょう?でしょう?」

うわうっざ……

「まあそれはそれよ。リリィがすっごい落ち込んでたけどなんかあったの?兄さんの部屋に行った後からなんだよね?ね?」

やっぱりうざい。

「知るか。もう俺は寝る。」

「あんたの織姫様と会えるといいね。」

「ほんと咲奈お前は……そんなやついねーよ。」

「はいはい、お休みなさいな!」




部屋に帰ると、そこにはリリィがいた。

「どうした?」

「わ……………の…………ぼ…………は……なのに……」

「リリィ?」

「ひゃい!?」

変な声が出てきた。

「……リリィ?」

「何でも、何でも無いですよ?ええ!」

「……隠し事か……まあいい。基本的に隠し事は誰だってあるさ」そう呟くとリリィは安堵した表情をする。

「……もう夜も更けてきましたね。私もそろそろ寝ます。」

「おう、お休み。」

「はい、おやすみなさい。私のひ……」

「ひ?」

「な、何でもないですよ!!」

リリィはあわてて部屋を出ていった。

……リリィはちょっとおかしなところもある。それはそれで一興、なのだが。

夢の中で純白の織姫を見た、そんな気がした。

本編……かなり悩んでいるんですよね……

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