1話、召喚
「なんでーー」
雲ひとつ無い晴天の下、詩音を覗き込む少女がいた。歳は詩音とあまり変わらない。服装は、黒のマントに白のブラウス、そして黒のスカートに黒のニーソだ。うひょ、ニーソだ。
顔はーー。可愛いと思うし、美しいとも思う。気品というかオーラというか、俺みたいな一般人とは違う感じがする。
透き通るような白い肌に、サラサラそうな銀髪、奥で輝く青い瞳、まるで人形のようなガイジンさんだ。いやガイジンさんであろう。髪も染めたような色ではなく、地毛っぽい。ハーフの可能性もあるか?
彼女の着ているのは制服だろうか。周りにも同じ服を着ている人が沢山いる。その人たちも様々な髪の色をしている。なんだか見られている。映画の撮影か? 考えてもキリが無い。
と、そこでやっと周囲に気を向けることが出来た。顔を上げるとそこには、石造りの城のようなものや、何処までも広がる草原が見えた。
……日本にこんな場所あったか? これじゃあまるで異世界ファンタジーだ。
「あんた誰?」
「誰って……。俺は鈴木詩音だけど」
「何処の街の平民?」
平民? なんだそれは。昔でいうところの百姓みたいなもんか。とりあえず身分が高い訳ではなさそうだな。
お、なんか制服を着た人たちに囲まれている。周りを囲んだ少年少女たちは、例外なく目の前の少女と同じような棒を握っていた。
「ルイズ、召喚の儀で平民なんて呼び出してどうするのよ」
取り囲む誰かが言った。どっと、周囲に笑いが広がる。どこか嘲笑を含んでいるように見える。
「ちょっと失敗しただけよ!」
透き通るような声で怒鳴った。
「いつもと同じ結果じゃ失敗とは言えないだろ。それはいつも通りって言うんだ」
「さすがはガキのアイリスだ」
これたま誰かが言った。爆笑の波が広がった。少女はアイリスというらしい。
海外か? いや、でも日本語話してるしな。やはり映画の撮影だろうか? 詩音はそれくらいしか頭に浮かばなかった。
しかしこんな広い所は知らない。新しく作ったのか? それにしてはニュースで聞かないな。いや、ニュース見ないんだけどさ。ただ東京ではないだろう。なんで俺はこんな所で寝ていたんだ?
「アンジェルジェさん、後が詰まっているので早く召喚の儀を終わらせてください」
これまた黒いローブを着た中年男性が話しかけてきた。
そして、杖か? 身長の半分程もある太い棒を持っていた。ゲームとかで魔法使いが持ってそうだ。ん? 魔法使い…….。いや、頭いかれてんのか。コスプレイヤーの集まりだったりしてな。はは、笑えねぇ。急激に怖くなってきたぞ。目がマジだ。心のそこから成り切ってやがる。まさか宗教か? そうに違いない。いきなり俺が倒れたのはこいつらに薬を使われたとかそんなところだろう。
アイリスは、もう一回やらせてください、とかお願いしますとか必死になって抗議している。
可愛いのに勿体無いと思う。
「平民を使い魔にするなんて聞いたことありません!」
使い魔? 何を言っているんだ。
「例外はありません。そこの平民には悪いですが諦めて早く召喚の儀を終わらせてください。優先すべきは君の感情ではなく神聖な儀式である召喚の儀のルールだ」
そもそも召喚の儀ってのはなんだ。召喚つてまさかあの召喚か?
「えっと、彼とですか……」
アイリスは戸惑いを隠せないようだ。召喚の儀を終わらせるってなんだ? 現に今こうしてここにいるのにーー。
「そうだ、だいたい君のために何時間使ったと思っている?
やっと召喚に成功したんだから彼が消えてしまう前にさっさと済ませてくれ」
消えてしまうとローブを着た中年男性が言うと、またもや周囲が笑う。
「ねぇ」
っと!? 俺に話し掛けているのか。
「は、はい」
「あんた、貴族にこんな事されるなんて普通は絶対に無いんだからね」
はぁ!? 貴族ぅ? ラリってんのか?
アイリスは諦めたように目を瞑り、手に持った杖を詩音の額に押し付けた。
「我が名はアイリス・アンジェルジェ。我に従う使い魔となり忠誠を誓え」
なにやら呪文のようなものを唱える。そしてアイリスはゆっくりと顔を近づけてくる。
「え、ちょちょちょ!」
「じっとしてなさい」
不思議と何も感じなくなった。何をされて抵抗出来ない。
詩音は動くつもりはないのだが、アイリスの両手でがっちり固定される。
「え?」
「ぅん……」
アイリスの唇が詩音の唇と重なる。
え、キスを召喚の儀でやんの!? 俺の宝物のファーストキスが!
詩音は体の力が抜けて地面に倒れこむ。
「い゛っ」
熱い。熱い熱い熱い。左手の甲が焼けるように熱を帯びる。
詩音がそこへ目をやると見た事もない模様が浮かび上がっていた。古代エジプト文字とかそんなイメージだ。
「ふむ、これはーー」
中年男性が何か言っているようだが頭に入ってこない。
「先生、終わりました」
やっと痛みがひいてくるとアイリスの声が聞こえた。
つうか、なんで顔を赤くしてんだよ。普通俺だろ?
「おい! こんな事してただじゃ」
「よし、良いだろう。先に部屋に戻っていなさい。ほら、君たちも終わった者から部屋に戻りなさい」
詩音の事を無視して話が進んでいる。
ちくしょう、最悪な気分だ。美少女にキスされるなんて一生無いと思っていたが……。そこだけは役得か。
「フライ」
すると多くの人が浮いた。こんなに多くの人数を浮かすには手品では無理だろう。
ワイヤーなんかを探すが見当たらない。
「お、おい! 飛んでるぞ!?」
アイリスは何ともないように返す。
「当たり前でしょ。魔法使いが魔法を使わないでどうするのよ」
魔法使い? おいおい、こっちは真面目にーー
ここで俺はある事に気が付いた。周りは皆飛んでいるのに何故こいつは飛んでない?
「おいアイリス、なんでおまえは飛ばないんだ?」
眉間に皺が寄ったように見えた。
アイリスは実際に寄っていた。
「それは部屋に戻ってから教えてあげる。たっぷりとね……」
顔が怖いです。
これが俺の今日一番の失敗だったと思う。いや、本当に。
○
「この! バカ犬がっ!」
そうやって怒鳴っているのは俺のご主人様であるアイリス様である。部屋に向かってすぐに鞭で叩かれた。おかげさまで痣になりそうだ。
「そもそも平民が貴族にあんな言葉遣いして良いと思ってるの!?」
そんな事は知らない。マジでトチ狂ってる。
またもや詩音は鞭で叩かれる。かれこれ三十分は経っただろうか。叩いているのが小柄な少女で幸いした。大きな傷は出来てなさそうだ。
だが痛い。
「痛いっつってんだろうがっ!」
パチーン。すぐに鞭が飛んでくる。容赦ない。
そろそろ馬鹿な詩音でも状況を察し始めた。おそらく貴族と平民は格差が大きい。
要求通りに従った。そうしなきゃ一生終わらないと思ったからだ。
「はぁ、もういいわ。
着替えるから脱がせて」
ホゥワット!? え、それ誘ってんの? そうでしょ。いや、そうに違いない!
「は、はい」
「鼻の下伸びてるわよ。気持ち悪い」
ナチュラルに罵倒してくんな。そもそもそれは無いんじゃないか?
「おい、いくらなんでも恥ずかしくないのか?」
「は? 恥ずかしい? なんで平民に対して恥じらわなければならないの?」
なるほど、平民は人間じゃないと。それにしても、これはーー。こんな体型の少女にニーソ履かせるとか、背徳的な気分になるな。
「それよりここは何処だ」
「言葉遣い。まぁいいわ……説明してあげる」
「ここはフラシア! そして此処はかの高名なフラシア魔法学院!」
「魔法学院だって?」
「そして私が二年生のアイリス・アンジェルジェ。あんたのご主人様よ。覚えておきなさい!」
窓の外を見ると夕日に混じり、月が詩音を見下ろしていた。ただの月ではない。詩音の知っている月の十倍はあるだろう大きさに見える。やっぱりか、と詩音は確信した。
ここは異世界だ。
どうも!新作でございます。
私はゼロ魔が好きなので、ゼロ魔の書き方を真似てみました。うまい人のを参考にするって勉強になるなぁ