タブラ・スマラグディーナ・Ⅱ
──〝世界の主〟がひとつの銘碑に刻んだ文は、錬金術師に対するモノ。
生まれた瞬間に錬金術師に刻まれるソレは、世界の主が錬金術師に与えた戒め。
銘碑の名は──「タブラ・スマラグディーナ」。
世界の主は銘碑に二つの生命を与えた。
ひとつの生命の名は──アーヴィガイヌ・リーティノア。
もうひとつの生命の名は──サルサディア・フィリアーラ。
世界で最初に造り出された人工生命だ。
その人工生命が纏う色は──緑。
彼らは三度、姿を変えている。
最初は世界の主によって、緑色の髪と瞳を与えられ、姿は大人。
二度目は最初の錬金術師によって、黒髪に緑の瞳で大人の姿。
三度目は緑色の髪と瞳で子供の姿。──別々に造り出されることはなかった。
すべての主である世界の主は、ヘルメス・トリスメギストス──テトラグラマトンの創造主である……。
森の中にある道を馬車に乗って移動しているのはサルサディアだ。彼は御者に「あと、どれくらいで着く?」と聞くと30分もあれば着くと御者は答え、その答えにサルサディアは「ありがとう」と返事する。アーヴィガイヌは眠っている。
(クロウリー・アレイスター……オレの左眼を奪った男、か)
左眼に触れるサルサディア。左眼はアーヴィガイヌの左眼でもある。──九百年前のあの日から、二人は左眼を共有していた。
目的地までにはまだ時間がかかる。一眠りしようとサルサディアは双眸を閉じ、そして思い出す。──九百年前のことを……。