月下の闇(ウェスペルス)・Ⅱ
メイザースはゆっくりと目を覚まし、顔を横に向けた。そこにはレヴィが椅子に腰掛け、本を読んでいる姿がある。──だが、支配しているのはレヴィ本人ではない。
「……「破壊者」……」
掠れた声でそう呟けば、レヴィこと「破壊者」は顔をあげる。
「──回復のためとはいえ、寝過ぎだな、メイザース」
本を閉じ、「破壊者」は言う。
〝魔力〟を使って傷を癒すため、メイザースはほとんど眠っていた。起きていた時間の方が少ない。
「まあ、瀕死状態だったから、仕方ないとは思うがな」
カップに水を注ぎ、それをメイザースに渡す。水を受け取ったメイザースはひとくちだけ水を飲み、「レイは……」と彼だけが呼ぶ愛称でメイザースはレヴィの状態を訊く。
「強制的に眠らせた。まだ、精神崩壊してもらうわけにはいかなかったからな」
数ヵ月前のあの日──メイザースの姿を見たレヴィの精神は崩壊寸前だった。彼の肉体を借りているだけの「破壊者」にとって、レヴィの精神が狂うのだけは避けたかった。だから、無理矢理、レヴィの精神を奥底へと眠らせた。
「そうか……」
「なぜ、こちらに来た? 距離的にはアクワ・ペルマネンスでもよかったろうに」
転移の術があるとはいえ、アクワ・ペルマネンスがある大陸とシヴァートマがある大陸では距離が遠いすぎる。瀕死の状態で術を使うなら、近い場所のアクワ・ペルマネンスにするはずなのだ。