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どこかで誰もが関わっている

カリンの花言葉

作者: 宵宮

『よう、綺麗なお嬢さん」


きっとあの日から、あたしと奴の少しだけ不思議な関係は始まった。

でもあんまり後悔していない。大抵あいつのセリフなんて脅しだ。

夕焼けが輝く第二校舎で、あたしとあいつは出会ったのだ。









あたしは所謂クラスから除け者にされてる人間だ。

軽くウェーブした綺麗な黒髪、釣り目がちなこれまた黒い目に蠱惑的と称される真っ赤な唇。

168と女子にしては高めな身長に学生に見えないプロポーション。真っ白な肌。

男からはチヤホヤされてきた。でも女の子からは最も嫌われたあたし。

昔は少しショックだったけど最近は気にしない。

だってどれだけ自分を繕ったのだとしても、無駄だと気づいたから。


あたしみたいな子、世の中には結構いるだろう。

見た目で傍に居るのを拒否される人。見た目なんて自分の意思で左右できるわけないのに“釣り合わない”そんな勝手な一言で拒否される人。

あたしみたいに嫉妬の意味なのか、それとも侮蔑の意味なのか、理由は様々だけれども。

でも世の中には変人っていうものが存在する。例えばあたしの幼馴染のように。

平凡なのに思い切りぶっ飛んでいる、だからこそあの子はあたしを拒絶しない。


その子はあたしを信用しないけど、好いてくれるらしい。

だからあたしもあの子を信用しないけど、大好きではいる。

でもそんなあの子には好きな人が出来たらしい。好きとは自覚してないけど、きっとそう。

またあたしは1人かな、なんて思うことはないけれど、少し寂しく感じる。

あの子が傍に寄せるのはあたしだけだったのに、そんな優越感はついに終わりを遂げたのだ。

カツン、足音がしてあたしは背後に振り返った。


「・・・結城」

「おう、嬢さん」

「あたしもあんたも同い年よ。いい加減嬢さんはやめてくれないかしら」

「嬢さんは嬢さん。そうでしょー」


へらり、気が抜けるような笑みで近づいてくる結城カオリ。

名前は女の子みたいだけど正真正銘男で美形だ。こいつとは少しだけ長い付き合い。

勿論あの子には及ばないけど。あの子よりも頭が良くなかったあたしは、当然あの子とは違う学校。

中学の頃、あの子と会えなくてすこし落ち込んでいたあたしはその時こいつとあった。





**


『よう、綺麗なお嬢さん』

『・・・誰』

『今をときめく学校のアイドル結城カオリちゃん』

『ふーん・・・で?』

『あらら、冷たいねぇ・・・カオリちゃん泣いちゃうシクシク』

『・・・カオリ、じゃないでしょ』

『は?』

『さっきからカオリちゃん、とか言ってるけどあんたの名前、なんか違う』

『・・・なんでそう思う?』

『違和感が拭えないだけ』


なんとなく。なんとなくだけどこいつが自分をカオリ、っていう度こいつの顔が冷たくなってく気がした。

まるで、自分の名前を心の底から嫌ってるような。


『・・・へぇ』

『あら、違った?なら謝るわ。人の名前を侮辱することは私にとって罪深いから』


あの子は自分の名前を嫌ってた。

可愛い名前。素直じゃないくせにどこか可愛いところがあるあの子にぴったりの。

なんて言ったら怒られたけど。

あたしと違って立派な意味を付けられた名前。素敵だ、とても。


『いーや。嬢さん中々見る目あるねぇ』

『・・・嬢さんってさっきから何?あんた年上なの?』

『俺は一年生だよ。でもアンタには嬢さんが似合う』

『馬鹿にしてるわね。やめなさいよその呼び方・・・・・・結城』


そう言うとあいつは少し拍子抜けしたような顔でこっちを見る。

その表情があまりにも可笑しくて、なんだかこいつのペースを崩せたのが面白くて。

少しだけ、気分が浮上したあの日。


その日から、たまにあたしとこいつは会う。

初めて出会った時と同じように夕暮れどきの第二校舎の階段で。








**



「にしても嬢さんはホントに俺の名前を呼ばないねぇ。カオリちゃんって言ってみろよー」

「偽りの名前なんて呼んだところで何も変わんないわ。それよか本名の結城の方がまだマシよ」

「こりゃ手厳しいこって」


クスクス笑うそいつが憎たらしい。

カオリ、ね。名前がしっくりこない人間なんてこいつだけよ。

ホント、うざったいったらありゃしないわ。


あたしはこいつの本当の名前を聞かない。

理由なんて面倒、それに限る。どこかの携帯小説の広いんじゃあるまいし、聞き辛いとかないわよ。第一そんなのを気にする理由がないわ。あたしとこいつの仲は単純明快、知人だから。


「・・・香水の匂いがするなぁ嬢さん」

「そうね。どっかの発情期のカップルが一戦交わった後じゃない?」

「俺たちもするかい?」

「死ねばいいのに。この万年発情期糞野郎」

「口が悪い女はモテねぇよ?折角嬢さんは美人なのに」

「知らないわ。あたしそもそも元からモテてるし」

「それが解せないねぇ」


ここは滅多に人が来ない。

なのでこっそりラブホ替わりに使う学生は少なくない。こいつが使ってるのだって見たことあるし。

あたしの溜まり場を汚されたようで不快だが、あたしにそこまで口出す権利はない。

掃除と香りさえ消してってくれればどうでもいい。ま、この程度の香水ならいいかしら。

そういえば。


「あんたあの時の彼女とは別れたの?この女泣かせ」

「あー、嬢さんが見ていた時の子かぁ・・・束縛魔だったから切った」

「わー・・・さいってー」

「それ嬢さんが言うの?男殺しのくせにー」

「五月蝿いわ。往復ビンタでそのお綺麗な顔腫らすわよ」

「へーへー。ごめんごめん」

「分かればいいわ」


ったく、その異名を出すんじゃないわよ胸糞悪い。

化粧濃いパンダたちに言われた名前なんて、気持ち悪くて泣きたくなるわ。

しかもあいつら裏で文学少女をパシリにしてたのよ。ふざけんな。

次の瞬間、背中をポンッと叩かれた。


「じょーおーさん」

「わ、と・・・何」

「いい子紹介してくんねー?今度はマトモな子ー」

「ぶんが・・・あたしのクラスの皆川ルミなんていいんじゃない」

「今なんか言いかけたよねー。しかも顔思いっきり顰めてから名前言い直したよねー」

「るっさいわ!あんたが好きな快楽好きのバカ女よ。乗ってくれるでしょ?落としやすそうな尻軽だし」

「いやいやいや。俺マトモな子って言ったよなぁ?」

「おっと間違えたわ。おっとりしてる可愛い子よ。快楽好きの」

「それは変わんねぇのな」


呆れたような目線をの後、床を見てため息を吐かれる。

それにイラっとして文句を返そうとしたら妖艶な笑みを向けられ息が詰まった。

なに、その顔。


「別に俺は嬢さんでも構わないんだけどなぁ?」

「は、いやいやいや。あたしが嫌よ」

「嬢さんがその気ならいつでも新しい世界にいこうぜー?」

「拒否。断固拒否。拒絶。断固反対」

「つれないねぇ」


ジリジリと距離を詰められてる気がする。

あれ、おかしいわ。こんな予定じゃなかったのに、なんか危険信号が出てる。

これは早く逃げなくては。嫌な予感しかしないわ。


「あたしはチャラ男に興味ないわよ!この万年発情期の変態糞野郎!女の敵!テクなし!」

「・・・・・・・・・へぇ」


ダッシュで走り去ろうとしたあたし。

そんな時なんだか不吉な声が聞こえた気がして、ギギギと首を後ろに動かすと。

にっこり。氷の笑顔で美しく微笑むそいつの顔があった。


「そこまで言うなら実際に確かめてもらおうじゃねぇの。・・・なぁ、嬢さん?」


あたしは逃げ出した。全速力で。

あいつがなにか言ってる音が聞こえたが、全力で無視した。まだあたしは死にたくない。

だからあたしが去ったあとの階段であいつが何を言ってるのかも聞こえなかった。


「・・・鬼ごっこといこうじゃねぇか。大事なものをかけた、ね」









**



流石にここまでくれば大丈夫、よね・・・?

あたしは校内を出て、少し遠い隣町の公園まで来ていた。

あそこは不良校だから午前で帰る人も少なくない。目立ってないはずだ。


この公園は広い。その上たくさんの木が生えている。

ここにいると判られたのだとしても、あたしを見つけ出すのは簡単なことじゃないだろう。

なに、あいつにしばらく会わなければいい。あたしのお気に入りスポットはまだまだある。

そうすればあいつも頭が冷えて、謝罪をきちんと受け入れてもらえるだろう。今の結城は頭に血が上ってるだけだ。


「全く、色情魔には困ったものだわ」

「だーれが色情魔だってー?」

「んなの結城に決まってるじゃな、っ!?」


くるり振り返るとそこにいるのは、限りなく黒に近い紺色のうねった髪を揺らす男。

目の色は生まれつきだという綺麗な青だ。

イケメン、というより美形。そう形容するのに正しい美貌。見慣れたものだわ。


「ゆっ、うき・・・?」

「嬢さんには他の奴にみえるのか。それは現実逃避というものですねぇ」


ニヤリと笑うやつはそっとあたしの体を木の幹に押し付ける。

トン、と背中が硬い幹に触れ、両側は奴の手で囲い込まれる。

捕まった、そう考えた時全てはもう遅かったのだ。漸くあたしは気づいた。


「・・・原因はこれかしら?」

「ご名答。嬢さんとしたことが爪が甘いんじゃねぇの?背中に発信機付けられても気づけねぇなんてどんだけ動揺してたんかねぇ?」

「最初っから仕組んでたわね。ねちっこい男だこと」

「お褒めに預かり光栄だ」


背中にある異物感。

とってみるとそこにあるのはセロハンテープで留められているコイン。

そういえばこいつはどっかのセキュリティ会社の次男だったっけ。


「離しなさい」

「やなこった。自分で捕まえた獲物には何をしてもいい、ってのが俺的ルールだからなぁ」

「ふざけないでちょうだい。それは立派な犯罪よ?今やられたとしてあたしは泣き寝入りしないわ。訴えてやる」

「そんなの権力でいくらでも握りつぶせるんだがな」

「はっ!あんたとしたことが私の美貌をなめてんの?仕返しをするためなら権力のありそうなヤツくらい落としてやるわよ!あたしにそれが出来ないとでも?」

「・・・なんだって?」


掴む力がさらに強くなる。

元から笑っていない目がさらに冷たく凍った。

やばいとは思う。でもあたしは虚勢を張ってあいつを睨み返した。

顔が更に近づく。


「結城、離しなさい」

「なぁ嬢さん」

「・・・・・・なに」

「あんたが自分の身を投げ出すようなことをしたら、俺は絶対に許さねぇ」

「・・・許しなんていらないわよ」

「少しでも自分の身を汚してみろ・・・一生後悔するぞ」

「なにそれ。あんたにそんなこと言われる義理はないわ。この色情魔」

「・・・それでいいんだよ」


少し寂しそうに笑うやつに違和感を覚えた。

そう、これはあの時もみた。


『今をときめく学校のアイドル、結城カオリちゃん』


ふざけた口調、凍りつくような瞳。

けれども口元だけはなんだか寂しそうだったあいつと出会った日。

これは既視感。今を逃したらなんだかもう一生聞けないような気がした。


「・・・結城!」

「おっと、いきなりなんだよ嬢さん。驚かせるんじゃねぇよ」


少し離れたあいつの背に向けて叫ぶ。

叫ぶのなんていつ以来だったか。もう覚えてないけれど。

振り返るあいつの目を真っ直ぐに見ると、あの日と同じようにその目が見開いて。


「いい加減、教えなさいよ!あんたの本当!」


面倒なんてもう言ってられない。

踏み込める最後のチャンス。聞かなきゃ損よね?


「・・・だから嬢さんはいい女だ」


へらり、笑ったそいつの顔にはもう寂しさも冷たさもなかった。











**



俺はな、親が嫌いなんだよ。

親父は利益と自分の欲しか見えてない、母さんはそんな親父をいいことに散財しまくり、浮気しまくりだ。

そんなんだから俺は兄貴や使用人に育ててもらったようなもん。

兄貴は優しい人だ。身内の贔屓目なしに文句なしのいい男だと思う。

俺が他の男を手放しに褒めるのは兄貴だけだと思うねー。


カオリ、ってのは親が勝手に付けた名前。

もう少ししたら改名する予定。だってあんな奴らが付けた名前なんて糞くらえだからな。

ついでに嬢さんも解明するか?苗字を結城に・・・って叩くなよ。いてぇじゃねぇか。


で、そんな家庭環境だからか俺も結構歪んじゃったわけね。

まぁ元から俺の人間性ってあんまあるもんじゃなかったしねー。こればっかりは兄貴にゴメンだ。

俺にもあいつらの血って繋がってる訳。まぁ兄貴にも。

兄貴はそのせいかいい人だけど、少しだけ軽いし。でも俺には結構強く引き継がれちゃってるみたいで、浮気症なんだよなぁ。

自分の問題ってのも勿論あるがな。


俺の本当の名前は桔梗だよ。

気品あるような、それこそ両親たちとは違うような人間になれるようにって。

ま、どうだかは知らねぇがな。




「ふーん」

「って嬢さんから聞いてきたんだろうが。もうちょいなんかなぁ」

「だって興味は少ししかなかったしね」


相変わらずつめてぇな、なんて笑うやつを見る。

真っ直ぐに見返される青い目に少し心臓が跳ねた。


「で?」

「なに?まだなんかあるの?」

「嬢さんの名前そういや聞いてなかったなーって思っただけさ」

「聞きたいの?高いわよ」

「いくらでも払ってやるよ」


ニヤリと笑う奴。

簡単に調べられるはずだ。なのに調べない。

やはりこいつは馬鹿なのか、なんて含み笑いをしてあたしも奴の目をまっすぐ見返す。


「特別に無料でいいわ。・・・牡丹よ。神崎牡丹」

「・・・牡丹の花言葉は高貴、壮麗・・・嬢さんらしいな」

「まさかアンタの本名も花だなんて思わなかったけど」

「誠実、従順、優しい愛情・・・俺にぴったりだねぇ」

「どの口が。アンタはハイドランジアよ」

「嬢さんから見たら俺はその花かい。全く」

「・・・じゃああんたからみたあたしはなんなのよ」


途端に静かになる結城。

少し考えたあと、優しい声で笑った。


「花梨」

「・・・・・・なんていう花言葉?」

「秘密だよ」


いつもにはないような優しい笑みで笑うから。

何故か言葉が詰まって、頬を赤らめてしまったのは一生の秘密だ。















**



「でさぁー、美少年くんがねぇ」

「飲みすぎよ、美優」


あれから5年後、あたしは社会人になった。

あの日以来結城とは会ってない。学校も転校したらしい。

心に穴が空いたようになって、漸くあたしは気づいた。

あたしはあいつに惚れ込んでたらしい。

まぁでもその初恋は伝えることもなく散った。例え心の中に確執が残っていようとも。


「すいません。美優ちゃんはいますか?」

「都筑、久しぶり。連れ帰ってねその子」

「・・・・・・はい」


ほの暗い笑みを浮かべた綺麗な男の子。

誰にも気づかれなくても、あたしだけはわかった。

あれは彼女に依存している笑み。昔のあたしと同じ、執着の笑み。

でもいいのだ。あの子もあの子で彼に執着し、彼を焦がれているのだから。


「ごめんなさいいつも。神崎さんも迷惑ですよね」

「いいのよ、貴方が謝る必要はないわ。それにあたしにとってこの子は唯一の友達だし」

「・・・そうですか」

「・・・そんなに心配しなくても取らないわよ。あたしは同性愛者じゃない」


そう言うときょとんとして、直ぐに笑顔になる。

一瞬の瞳の闇は見なかったことにする。


「やだなぁ!ご冗談を」

「・・・あんまり傷つけないでね」

「・・・・・・彼女次第です」


いつもみたいにほの暗い闇とともに彼等は去った。

友人なら止めるべきかもしれない。でも彼女も望んだことならどうしようもない。

あれこそ狂気ね。


そしてあたしも店を出る。

夜の帳が落ちた空はどこまでも真っ暗で、あたしにはピッタシだ。

視線を感じる、いつものように。

だからこそあたしは前をしっかり向いて、帰路を歩くのだ。


・・・足音がする。

あたしが止まると同時に止まり、歩き出すと同時に進む足音。

振り向かずひたすら歩く。そうするとどんどん足音は近づいて。

肩に何かが触れる。


「・・・っ!?」

「じょーおーさん」


懐かしい言葉、あいつとよく似た声。

振り返るとそこには少しだけ大人びたあいつの姿があった。


「一人であぶねぇなー。この辺は変質者が出るらしいぜ」

「・・・それって、あんたのことでしょ」

「相変わらず失敬な嬢さんだねぇ・・・今は姉さんのほうがいいかなー」

「どっちでもいいわよ!ってか、なんで・・・ここに?」


青い目は相変わらずニヤリと細められてて。

口の端をあげて、男とは思えないほど白い肌。

間違いなく結城。あたしの知ってる結城だったのだ。


「結城カオリ・・・あんた勝手にいなくなって勝手に現れて!今更なんのよう?」

「手厳しいなぁ相変わらず。それと、」


俺はもうカオリではないよって笑う大人びた姿。

身長だってかなり引き離されて、ヒールを履いてても遠い。


「っ!・・・桔梗?」

「そー、なぁもっと呼べ?」

「は?・・・嫌よ。面倒だわ」

「呼ばないと大変なことするがいいのかねぇ?」


急に妖艶な笑みに変わって顔を近づける。

自覚してしまったあたしはあたふただ。あの頃のように平然と立っていられない。

せめてものの仕返しに睨み返すが、全くダメージにならないようだ。


「・・・き、きょう」

「まーだ」

「桔梗、桔梗、桔梗・・・まだ?」

「・・・もう一回」

「・・・・・・桔梗」


なんの羞恥プレイだろうか。

何回も何回も名前を呼ばされって、しまいには耳のそばで掠れた声に囁かれ。

最期に心から嬉しそうに微笑まれる。耐えられるわけがないわ。

しかも一応初恋の男だし。


「なぁ、牡丹?」

「!勝手に名前呼ばないでよ・・・!」

「生憎天邪鬼だからなぁ俺」

「・・・なに」


仏頂面で見つめると笑って嬢さんだ、なんて笑う男。

妙に気恥ずかしくてほんとに頂けない。


「俺はいま社長やってんだぜ」

「生憎あたしは唯のOLよ」

「へぇ・・・で、あんま女取っ替え引っ替えすんのもやめた」

「あんたにしちゃあ殊勝な心がけね」

「だろう?顔も悪くないし身長も高いほうだ」

「悪くないってレベルじゃなくて良い、ってレベルでしょ・・・。さっきから何?」

「アプローチ」

「は!?」


あたしの大声にくすりと笑って手を取る。

頭の中で奴の言葉がぐるぐると回って意味がわからなくなる。

手にキスを落とされて、懐から細長い箱を出した。


「神崎牡丹さん、僕と結婚を前提に付き合ってもらえませんか?」

「ゆう、き・・・何言ってんのよ」

「幸せにする。俺の全てをもってしてもなぁ?生活に苦労はさせないつもりだ。子供の相手も喜んで引き受ける」

「ちょ、ちょっと?」

「嬢さん、俺のこと好きだろ?」


頭がパンクした。

抑えられない情報量。急すぎる展開。

でもどこかで嬉しいと思ってる自分に腹が立つ。自信過剰なこの男にも。


「・・・結城」

「なーに?」

「あたしは我儘でよく女王とか言われるし、財力もあんまないし、勉強は少ししかできないし、あんまいいとこないのよ」

「知ってる」

「っ!・・・・・・あんたに好かれるような女でもないのよ」

「だったら俺もあんたに似合わない男だ。嬢さんという大輪の花に寄ってく悪い虫だ」

「・・・ほんとにいいの?」

「ここで言わなかったほうが後悔するからなぁ」


抱き寄せられて触れるだけのキスを。

いい大人になって、高校生みたいな青くさい青春。

それでもこの心を満たしていく何かがある。幸せってこういうことなのかしら。

味わったことがないから、わからない。


「ん」

「・・・これ」

「ネックレス。婚約指輪みたいなもんだなぁ」

「このお花は?」

「花梨」


5年前と一緒だ。

あの時は聞けなかった意味を、いまここで聞きたい。


「・・・桔梗」

「なぁに?牡丹ちゃん」

「花梨の花の意味ってなんなのよ」


そう言うと軽く微笑んでやつはあたしに耳打ちをする。

その言葉に顔が真っ赤になったのは、生涯あたしとやつだけの秘密だ。










花梨の花言葉は、

『唯一の恋』




『恋?恋なんてしたことないわよ』

『えー?嬢さんそんなにモテるのにもったいねぇぜ』

『そういうあんたはどうなのよ』

『・・・してるよ』

『へぇ?あんたが惚れるならよっぽどいい女なのね』

『だなぁ、世界で一番いい女だ』

『惚気も大概にしなさいね』

『まぁまぁ、ちょいと聞いてくれや。・・・彼女はね、花の似合う美人なんだ』


『花梨っていう花が一番似合うと俺は思うんだ』


その花は、長いあいだ想い合ってきた二人をつなぎ止めた花。

彼等が生涯大事にしていくであろう、彼が彼女に向けて選んだ何よりも特別な花。

すいませんでした。

前から少しずつ書き溜めてた小説が完成したのであげてみました。

ちょっぴり毒舌ちゃんたちとリンクしちゃってます。

知らない人は見てくれると嬉しいです。


連載の方は誰も見てくれないとしても頑張ります。

ここまで見てくださった方、ありがとうございました!


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